1278.お披露目のリザード!
「へっへっへ。どうやらマジの初心者のようだなぁ」
始まったトーナメント。
厳ついモヒカンの男が、グリフォンをチラつかせながら対戦相手を煽る。
「オレの名はビギナ。初心者狩りのビギナだ!」
「ロクでもねえな!」
「うるせえ! やっちまえ俺のグリフォン!」
初心者狩りで名をはせているらしい男が、繰り出すグリフォン。
豪快な飛び掛かりで、初心者のサラマンダーを攻撃。
「サ、サラマンダー! 【炎弾】だ!」
「ぐわあああああっ! グリフォ――ン!!」
「「「あははははははっ!」」」
始まったトーナメント。
初心者階級は、楽しそうに大会を進めている。
一方、無差別級では早くも熱い勝負が繰り広げられようとしていた。
「Cブロック一回戦第五試合! メイちゃん対タケヨシ!」
「よろしくおねがいしますっ!」
「ひゃっほー! メイちゃんと戦えるとか、もう大会に出た意味を全てここで……いや。勝負だメイちゃん!」
うっかり「この一試合だけで満足」気分だった対戦者。
メイのモンスターがリザードだったことを思い出して、勝利をつかみにくる。
「いよいよメイちゃんの試合だな!」
「いつもは圧倒的なパワーを見せるメイちゃんだけど、今回は弱モンスターの王者リザードでの戦い。さあどうなる!」
観客たちは立ち上がって観戦を始め、参加者たちも自然と集まってくる。
「りーちゃん!」
メイが右手を突き上げ【トレーナーグローブ】を起動すると、小柄なリザードが魔法陣から元気よく登場。
対するタケヨシのモンスターは、ミノタウロスだ。
「さすが無差別級だな、ミノタウロスを捕まえてきたか!」
「もともと強い上に、そこまで動物値が求められない良い選択だぞ!」
対格差のある両者。
集まる注目の中で、始まる対決。
「それでは始めます! ……レディー、ゴー!」
スターダスト団の審判が発する合図で、メイの初戦が始まった。
「ミノタウロス! 【グラウンド・クラッカー】!」
先手はミノタウロス。
強烈な踏み込みと共に、手にした石斧を全力で振り下ろしてくる。
「りーちゃん! 右に一歩!」
リザードはメイの言葉通り、右側へ少し大きめのステップ一つ。
すると地面に、縦方向の地割れが起きた。
「わっ、すごい威力!」
後方への回避を選んでいたら、巻き込まれていたであろう一撃。
メイは思わず、感嘆の息をつく。
「ミノタウロス! 【蹴り上げ】だ!」
タケヨシは続けざまに、蹴りを選択。
大きく砂煙を巻き起こす、豪快な蹴り上げが放たれる。
「次は左に!」
リザードはこの攻撃を、サイドステップで回避した。
「そのまま【踏みつけ】だああああ――っ!!」
ミノタウロスは、高く振り上げた足を力いっぱい振り下ろす。
すると地面にめり込んだ足が、足元の芝生を波打たせるほどの振動を巻き起こした。
「ジャンプ!」
しかしこれもリザードは、メイの【ラビットジャンプ】のモーションを思わせる跳躍で、難なく片付ける。
「メイちゃんの指示に、完璧に従ってる!」
「ここはさすがの動物値だな!」
メイが思うタイミングをまるで外さない行動は、高い信頼があってこそ。
「まだまだあっ! もう一回【蹴り上げ】だ!」
「両足で行けるのか!」
左右の足での連続使用は、予想外。
誰もが一瞬虚を突かれ、ここからミノタウロスが優位を取る流れを予想するが――。
「【猛ダッシュ】で前へ!」
メイは即座に反応。
リザードも言われるまま、ミノタウロスの足元に入り込んだ。
「速っ!?」
その速度に、思わず声を上げてしまうタケヨシ。
「そのまま【鉄拳】だ――っ!」
「ミノタウロス! ぼう――」
防御と言おうとしたその時、すでにリザードはその拳を引いていた。
放たれた拳打は、残っていた右足の正面をしっかりと捉える。
すると打たれた勢いで後方へ流れた左足が地を離れ、そのまま天を向く。
まるで足元にレースカーでも突っ込んだかのように、ミノタウロスは頭から重たい音を立てて落下。
そのまま跳ねるように前転して、倒れ伏す。
高い【耐久】を持つはずのモンスターだが、残りはHPは早くも残りわずか。
「「「なっ!?」」」
見事な高速フットワークから放たれた強烈な一撃に、目を見開く観客と参加者たち。
「……メイちゃんだ」
「この強さは、やっぱりメイちゃんだああああ――――っ!!」
「この小ささなのに、速さもパワーもケタ違いじゃねえか!」
「リザードって、こんなに戦えたのかよっ!」
思わぬリザードの強さに、ざわめきが走る会場。しかも。
「りーちゃん、ないすーっ!」
メイが手を振ると、なんとリザードも手を振って返す。
「……マジ?」
モンスターが手を振って応えるなんていう行動は、見かけたことがない。
リザードの難しさを知らない者たちは「あのリザード可愛いな!」とわき立ち、知っている者は仰天する。
「ミノタウロス! とにかく攻撃だ! 勢いのまま叩き込め――っ!」
追い詰められたタケヨシはここで、何が何でも攻撃を当てて流れを奪おうと画策。
ミノタウロスは言われるまま石斧を振り払い、力のまま斬り返しへとつなぐ。
「しゃがみからのジャンプ!」
リザードはその身をさらに低くして振り払いをかわし、返しの一撃を後方への跳躍でかわす。
着地すると、今度はミノタウロスが大きく跳躍。
「いけ! 【クエイク・インパクト】!」
生まれる、荒々しいエフェクト。
大きな石斧を後方へ大きく引き、全力の振り降ろしを仕掛けてきた。
炸裂すれば足元が崩れ落ちるか、それとも地面が突き上がるか。
どちらであっても、大きな範囲を巻き込む攻撃。
シンプルな回避でどうにかできる状況ではないだろう。
「さあどうなる!? リザードでこの危機を越えられるのか……っ!?」
「ここは勝負所だぞ!」
観客たちが思わず身を乗り出した、その時。
「りーちゃん! 【猛ダッシュ】だ――っ!」
なんとメイは前進を指示。
リザードは砂煙を上げる駆け足で、あえて前へ突き進む。
「「「メイちゃんのやつだああああ――――っ!!」」」
あがる歓声。
それはメイが最初に参加した大型イベントから、大きな敵が跳躍からの【圧し掛かり】できた際に使ってきた妙技。
あえて前方に駆けて、敵の下を潜り抜けるという戦法だ。
ミノタウロスの斧はもちろん、身体の下も駆け抜けたリザードは、【クエイク・インパクト】の大隆起を回避。
足を滑らせながら制動して、振り返る。
「もう一回! 【鉄拳】だああああ――――っ!」
そして隙だらけのミノタウロスのふくらはぎに、背後から拳を叩き込んだ。
その威力で前方に倒れ込み、転がる巨体。
今度は真後ろから。
高く打ち上げられた足によってバランスを崩したミノタウロスは、背中から倒れ込みズズンと重たい音を鳴らす。
「勝負あり! 勝者、メイちゃんリザード組!」
「やったー!」
HPが全損し、魔法陣へと戻って行くミノタウロス。
駆けつけてきたリザードと抱き合うメイに、会場がわき立つ。
「な、なんて強さだ……っ!」
「やっぱり、メイちゃんはメイちゃんだ!」
「リザードでこの強さ! こいつは楽しくなってきたぞ!」
早くも最高の盛り上がりを見せる、トーナメント戦。
「これでメイちゃんが本命か、それとも盛り上げ役かという疑問の答えも明らかになったな」
「ああ、これは熱い戦いが見られるぞ……!」
参加者たちは、そう言って楽しそうにうなずき合う。
鳴りやまないざわめきの中、メイは見事に一回戦を突破した。
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