1277.大会が始まりますっ!
「こっちだよーっ!」
サマラの天候は、見事な快晴。
気持ちの良い青空の下、芝生に白線で描かれた専用コートが気持ちいい。
各所で行われる、最後の模擬戦。
メイはリザードと、建物の屋根すら足場にした、アクロバティックな鬼ごっこで遊んでいた。
「ごめんなさい、遅くなったわね」
そんな中、レンは少し遅れてメイたちと合流。
「すでに賑わっていますね」
「ひ、人がたくさんいます……っ」
サマラの町は、モンスターバトルを見るために集まってきたプレイヤーで盛り上がっていた。
「モンスター増えてるなぁ」
「伝説級も見かけたぞ!」
たくさんのモンスターが一緒に歩いている町というのは、やはり独特で楽しい。
そのため観客も、好みのモンスター目当てに、そこかしこを駆け回っている。
「新しい300種も、120種ほどしか見つかってないらしいわね」
「そうなんだぁ」
メイは興味深そうに、辺りのモンスターを見回している。すると。
「メイ、見に来てやったぞ」
すると声をかけてきたのは、トッププレイヤーでも屈指の戦闘力を誇る神槍のグラム。
「グラムちゃん!」
「今日はのんびりと、モンスターの戦いを観戦するつもりだ。しっかりと楽しませるんだぞ」
「おまかせくださいっ!」
その手に五段に重ねたアイスを持ったグラムは、ご満悦の様子だ。
「クエストが終わって、急いで見に来たんだよ。一緒に参加したかったなぁ」
「まったくだよな」
隣りのローランと金糸雀も、席に着いて開会を待っている。
サマラには観客席もしっかりと用意されており、いよいよスポーツ観戦のような光景が広がっている。
「ごめん、ちょっといい?」
そんな中、レンは席後方にある木の下で腕組みをしている二人組の元へ。
「目立ってるんだけど。普通に観戦しなさいよ」
黒づくめ装備のスキアとクルデリスは、まるで監視対象を追う組織のようだ。
しかし完璧に浮いてしまっているので、まったく隠れられていない。
「陽の当たる世界を生きる者たちの、邪魔はできないからな」
「んっふふ、そういうことだね」
「意外とこういう催しものに、出てくるタイプだったのね」
「共に闇に生きる者が、表の大きな舞台に出てくると分かれば見逃す手はあるまい」
相変わらずの二人には、レンも苦笑い。
一方コートを囲むように作られた観客席でも、各所で会話が盛り上がっている。
「なんでこんなところに、デカい鳩が……?」
その一角、トレーナーの姿が見られないモンスターの姿が一体。
周りのプレイヤーたちが不思議そうにしていると、そこにやって来たのはまたも、瓜二つのモンスター。
スライム二匹に鳩のモンスターという状況を見て、スターダスト団員がバグか何かかと首を傾げる。
「何とか見つけてきたぽよ!」
「すみません、別の鳩を追っていました!」
どうやらスライムが、迷子を連れてやって来たようだ。
不思議そうに、声をかける団員。
「もしかして……参加者の方ですか?」
「そっちはスライムぽよ」
「こっちもスライムだろ」
笑い出す掲示板組に、団員はいよいよ首をひねり出す。
迫る開始時間。
徐々に参加者がコート内に集まり、見学者たちは観客席に移動し始めた。
「ツバメさん、お久しぶりでございますな」
「なーにゃさん」
ツバメの姿を見つけてやって来たのは、小柄な桃色の髪をした小柄なドール使い。
「青銅製の自動人形で、タロースという魔物がいたのでございますよ。これは放っておけないと、遅ればせながら参加したのです」
「カッコいいモンスターですね」
そのモンスターは青銅製の天使といった雰囲気で、ドール好きのなーにゃにもってこいだ。
興奮気味に語るなーにゃに、観客席のシオールとローチェが手を振っている。
「――階級が分かれてるのは良い」
「本当だねっ」
さらにマリーカと、バニー・ラビッツもメイを見つけてやって来た。
見れば観客席には、彼女たちの仲間であるアルトリッテや、アーリィの姿もある。
「ほ、本当にお祭り状態ですね……っ」
トップたちの共演に盛り上がる観客席と、ビビってしまうまもり。
さらにそこへ、見覚えのあるプレイヤーがやって来た。
「うぇひひ、グランダリア以来でありますな」
「大熊猫ちゃん!」
通りかかったのは、白黒のモコモコした耳付きパーカに、黒のタイツと白ブーツというパンダ装備の少女。
連れのカンフーパンダ、モノクロもすっかり注目の的だ。
「トカゲちゃんは、もっと強くなったでありますか?」
「もちろんですっ!」
「うぇひひ、それは良き。ぜひとも手合わせ願いたいでありますな」
ちょっとテンションの上がっている大熊猫は、相棒のモノクロと共に片足上げのカンフーっぽいポーズ。
すると見様見真似で、メイとリザードも謎のポーズで返す。
「「「かわいいーっ!」」」
どうやら大熊猫も知られたプレイヤーらしく、付近の女性陣から歓声が上がる。さらに。
「おいあれ見ろよ! レギアーラだ!」
「クローナだ! クローナが来たぞ!」
巻き起こる、大きな歓声。
神々しさすら感じる竜種のモンスターを連れたクローナは早くも人気で、人だかりができている。
それでも彼女はクールに、伝説級のモンスターを連れて進む。
「……あれが噂のクローナとレギアーラか。どうだ? 止められそうか?」
「さあ、どうかな」
「止めてもらわなくちゃ困る」
クローナを見ながら、観客席で怪しい雰囲気を出す男たち。
「スポーツ漫画の強豪校ごっこやめろ」
「あはは、偵察に来てるやつな」
冷静なツッコミを入れられる男たち。
さらに彼らの前を、通り過ぎる妖しいマントの男。
「くっくっく、さあ行こうか。あまり暴れすぎるなよ? モンスターたちを壊してしまってはいけないからな」
長いマントを揺らし、銀の髪をたなびかせるそのプレイヤー。
「初心者階級は向こうでーす! 無差別級はこちらになっていまーす!」
只者のとは思えない余裕の笑みを浮かべながら、言われた通り初心者階級の方へ向かう。
「ふふっ、本当にお祭りみたいな感じね」
「本当だねっ」
そんな雰囲気あり過ぎな初心者を見て、笑うレンとメイ。
「あっ、実はバイセルで、こんなものを見つけまして……」
そう言ってまもりが取り出したのは、一枚の【赤いスカーフ】
「おおっ!」
すでに高騰している、モンスター用のアクセサリー。
その中から、シンプルなものを見つけてきたようだ。
さっそくリザードに装備させると、首に巻いたスカーフがよく映える。
「いいじゃない!」
「これは良いアイコンになりましたね」
「良かったね! りーちゃん!」
気に入ったのか、あれこれポーズを取ってみせるリザード。
早くも会場は、楽しい笑い声にあふれている。
すっかりご機嫌になったリザードを連れたメイたちは、そのまま会場を進み、スターダスト団の面々と合流。
バトルフィールドの中心に作られた、舞台に上がった。
すると自然に、視線がメイたちに向けられる。
「さあ、お待たせいたしました! いよいよ開催時刻となりました!」
スターダスト団のリーダーであるキャインが、アナウンスを開始する。
団員たちは姿勢を正し、開会宣言を待つ。
「皆様の育てたモンスターを、ここで思う存分活躍させてくださいっ! それでは――――!」
ここでキャインが、メイにパス。
「モンスター・ワールドグランプリ! スタートですっ!」
「「「「おおおおおおおおおお――――っ!」」」」
一斉に打ち上がる花火。
大きな歓声と共に、モンスター・ワールドグランプリが始まった。
脱字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!
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