1272.トレードします!
グランダリアを使った早いもの勝ちクエストを、パンダ娘の大熊猫と共に達成したメイたち。
「追加でもらったモンスタースキルは何かしら」
競争を制したメイたちは、大熊猫と共にオマケをもらうことができた。
さっそく、内容を確認する。
【噴炎舞】:全身から燃え上がる炎は、攻撃にも防御にも使用が可能。
「これは【マグマ・スプラッシュ】と、かぶってるわね」
「そうですね」
「それならここは、トレードにでも使いましょうか」
「い、いいですね」
「いいと思いますっ!」
こうしてメイたちはグランダリアを離れて、商業都市バイセルへ。
飛行艇を街の後方に置いて踏み込むと、そこにはいつもと少し違うコーナーができていた。
「スキル書あるよー! 【ファイアパンチ】求む!」
「氷結スキルを探してるなら、【アイスブレス】がお勧めだよ!」
「跳躍スキル持ちの人! 【ロケット頭突き】とトレードしませんかー!」
露店はもちろん、たくさんのプレイヤーがトレードなどを盛んに行っている。
やはり、試合開始直前。
どうやら皆、最後の調整に余念がないようだ。
賑わうイベント用マーケットは、誰もがモンスター連れで楽しそうにしている。
「【痺れブレス】【死んだふり】【超静電気】【毛針】……色々あるんだねぇ」
「げ、現状の手札を考えると、また癖のあるスキル等が良さそうですね」
「そうですね」
人ごみの中を四人とリザードで歩いていると、わずかに人だかりのようなものが見えた。
「お、おいあれ……!」
「レギアーラじゃないか!? 初めて見た!」
そこには一目で別格と分かる、特殊なモンスターの姿。
体高は1メートル半を超えるくらいの、角を持つ二足の小型竜といった感じか。
白銀の身体の背中から出ているのは、『翼腕』と呼ばれる大きな翼。
それは開けば翼になり、握れば大きな拳になるという異色のモンスターだ。
「さすが伝説級モンスター……神々しい……」
翼の先と二本の角は淡い紫色で、思わず目を引く風貌。
「しかも連れてるのは、クローナか」
「従魔士として戦いながら召喚も使うっていう、徹底的なトレーナー型プレイヤーだよな」
「伝説級のモンスターと、最高のトレーナー。やっぱり優勝を狙ってるのか?」
「もちろんトップを目指すよ」
通りがかりに、向けられた問い。
爽やかな笑みと共に答えたクローナは、青いショートボブの髪に、スラリとした体形。
グレーのロングコートを着て、月の形の大きなイヤリングが目に付く、美麗な女性プレイヤーだ。
「ダントツの優勝候補だな」
周りからの評価が非常に高い彼女が、連れて来たのは伝説級モンスター。
それは発見されたことすらあれど、今まで一度も従魔や召喚になったことのない個体だ。
「最終調整のために、状態異常スキルを探していてね。こちらから出せるのは【リーフストーム】なんだけど」
「またレベルの高いスキルを余らせてるんだなぁ……」
不要になっているスキルのレベルが高くて、驚くプレイヤー陣。
そんな中、クローナは猫耳の少女に目をつけた。
「メイちゃん……?」
「メイですっ!」
優勝候補のクローナと、イメージキャラクターのメイ。
まさかの邂逅に、マーケットがにわかにどよめく。
「その子は、メイちゃんの?」
「はいっ」
「……リザードか」
メイがリザードを連れているのを見て、誰もが『チャンスがある』と目を輝かせた。
もちろん今回、レギアーラとリザードが並ぶとなれば、皆がレギアーラの勝利を予想する。
そんな中、クローナは――。
「いいモンスターを選んだね。メイちゃんと相性も良さそうだ」
「そうなんですっ」
駆け寄ってきたリザードの頭を、撫でるメイ。
その姿を見たクローナは笑い、それから表情にわずかな緊張を走らせた。
「止まれ! 止まれーっ!」
「……ん?」
そんな中、聞こえてきたのは慌ただしい声。
見れば『マッドモンキー』が暴走し、こちらに猛然と駆けてきている。
攻撃力が高く、暴れ出したらなかなか止められない強モンスターに、慌てて身を引くプレイヤーたち。
「止まってくれーっ!」
その後ろから、トレーナーらしき青年が駆けてくるが、暴れ猿は止まらない。
「ダメだ! 全然言うこと聞かねえっ!」
一直線にこちらに向けて駆けてくるマッドモンキー。
メイが動こうとした、その瞬間。
「ストップ」
クローナがそう言って手を出すと、マッドモンキーがピタリと動きを止めた。
「……と、止まった」
「すげえ、あのマッドモンキーを一言で……動物値どうなってんだよ」
その光景に、再びどよめきが起こる。
「あっ、ありがとうございます!」
「構わないよ。もっと……仲良くなれるといいね」
「おおーっ!」
動物値が少し足りていないと、稀に起きる事態。
暴れ者のモンスターだと、面倒なことになりがちだ。
そんな事件をあっさりと片付けたクローナに、メイがパチパチと拍手する。
「今日はバイセルに来てよかった。メイちゃんとモンスターバトルができるのを、楽しみにしてる」
「はいっ」
「でも、優勝は譲らないよ」
「こっちも、負けませんっ!」
「……あの可愛い狼に、よろしくね」
「どうやら、白狼さん派のようです」
「あとクジラと象と、鳥と大蛇とクマにも」
「どれでも大好きでした」
「あはは」
どうやらメイの召喚獣の、どれもお気に入りのようだ。
そんなクローナは、爽やかな笑みを残して去っていく。
「あれ、状態異常スキルはいいの?」
「やめておくよ。今回は別のスキルにした方が良さそうだ」
そんなやりとりを残して。
実はクク・ルル村でも一度すれ違っていた、従魔の有名プレイヤーと、運命的な再会を果たしたメイ。
もちろん彼女が去れば、その視線は残ったメイに向けられる。
「メイちゃんも、バイセルにはスキルを探しに?」
「はいっ。実はトレードに来たんですっ!」
「「「…………」」」
途端に、静かになるマーケット。
メイが首を傾げた、次の瞬間。
「ぜぜぜぜぜひ!」
「私としましょうっ!」
「こっちはスキル書二つ出します! 一対二の交換トレードでどうでしょうか!」
「それならこっちは金銭だ! 言われた額を出そう!」
「身体で払います」
一斉に始まった、大量のトレード依頼。
マーケットが、さらに大きく盛り上がる。
「【マッスルパンチ】出します!」
「それならこっちは【マーキング】だ!」
「ああっ、違います! 野性味が強いスキルを探しに来たのではありませーんっ!」
「では【ダーククロウ】で!」
「それならこっちは【シャドウファイア】だ!」
「だからって闇属性のものを探しに来たわけでもないのよ」
「【お好み焼き】食べますか?」
「そ、それは私が個人的に頂きたいです……っ」
「身体で払います」
次々に提案されるスキルやアイテムに、混じる楽しそうな笑い。
メイたちは、色々と話しを聞きながら選択。
無事スキルのトレードを、成功させた。
【キノコ!】:大きなキノコを、地面から突然生やす。その育ち具合には【技量】が影響する。
「とても良い、変わり種スキルです」
「あははっ、面白そうだねっ!」
「見た時ツバメがすごく目を輝かせてたものね。実際、効果も面白そう」
「い、いいトレードになりました。そろそろ時間ですし、一度ここで上がっておきませんか……?」
「そうだねっ! 皆さん、ありがとうございましたーっ!」
トレードを終えたメイは、バイセルのプレイヤーたちに手を振る。
「……そう言えば、結局見つからなかったわね。幸運上げのクエスト」
「た、確かにそうですね」
そんな事実に苦笑いしながらも、新しいスキルの入手と厳選は終了。
ひとまず今日のプレイは、一段落となった。
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