1271.モンスターコンビネーション
競争を制したメイたちは、転移の魔法陣を使用。
いよいよ目的の、グランダリア地下三階へとたどり着いた。
【光魔石】探し競争は、ここが佳境になるだろう。
「そろそろ、該当の場所にたどり着きそうですが……」
地下三階の端に当たる区画は、いくつかのルートで向かうことができる。
メイたちが選んだ道は、難易度高めだが距離は短い。
左右を高い岩壁に囲まれたこの道には、ゴロゴロした岩が無数に転がっている。
少ないが草木もあり、道そのものは割と見通しがいい。
「そこ、魔物がいるよ」
いち早く気づいたメイが告げると、レンがその目を見開いた。
「あの魔物……っ!」
レンは慌てて、メイを引き止める。
敵が何者か気づいたまもりも、思わずツバメと共に岩陰に。
「どうしたのー?」
メイがたずねると、レンは渋い顔をした。
「あの人型のスライム、短時間だけどプレイヤーに化けるのよ。しかも次々に狙いを変えて変身しまくって戦うの」
「ステータスは半減ですが、スキルはそのままなので、とても厄介なのだそうです」
「そうなんだぁ」
それはラプラタで見た、『銀色の雫』の下位互換といったところか。
とはいえ、メイに化けられてしまえば大変だ。
「こういうことでしたら、【隠密】を残しておけばよかったです」
競争という状況下である以上、道を戻るわけにもいかない。
どうしたものかと悩んでいると――。
「おや、数十分ぶりであります」
やって来たのは、クエスト開始時に出会ったパンダのような装備をした少女だった。
どうやら別ルートからやって来て、ここで合流する形になったようだ。
「やはり、とても可愛い装備をしています」
「うぇひひ、パンダちゃんは可愛ゆし」
白黒少女は、うれしそうに一回転。
すると少女の背後から、二メートルには届かないほどのパンダが遅れてやって来た。
「この子はモノクロ。そして私は大熊猫と申す者。以後お見知りおき頂けると幸いであります」
「こちらこそですっ」
「うぇひひ、メイちゃんの召喚クマも可愛ゆくて良き」
「えへへ」
とても可愛らしい大熊猫、やはりクセは強めのようだ。
「ところで、いかがなされたのでありますか?」
「あの魔物、プレイヤーをコピーしながら戦う敵なのよ」
「理解したであります。そちらの四人をコピーして戦われると面倒ということで良き?」
「そうなるわね」
「それなら大熊猫がコピーされたところを……モンスターの連携で倒すのがお勧めであります」
まず大熊猫と名乗る少女が前に出て、コピーされる。
その後は彼女のパンダと共に、背後からメイがリザードに声をかけつつ共闘すればいいという提案のようだ。
「モノクロちゃん、いくであります」
大熊猫が前に出ると、敵のコピースライムがこちらに気づき変身を始める。
するとモノクロも、それに応えるように片足を上げてカンフーを思わせる構えを取る。
「りーちゃん! 一緒に仲良くね!」
メイの言葉に、大きくうなずくリザード。
そして、戦いが始まった。
コピースライムは、その姿を完全に大熊猫へ変化。
こちらも足を上げ、カンフーを思わせるポーズを取った。
「【震脚】」
I字バランス状態から、振り下ろす脚。
ドン! という音と共に、地面が揺れ動く。
「わわわっ!?」
これにはリザードも、バランスを立て直すのに精いっぱいだ。
「【跳躍】!」
一方大熊猫は『自分のスキル』を知っているため、パンダを前方へ跳躍させてこれを回避。
「【疾空脚】でよき!」
そこから一気に加速して接近し、放つ飛び蹴り。
これをコピー大熊猫が横移動でかわすと、この時にはリザードも動けるようになっている。
「【猛ダッシュ】!」
メイの言葉に応えて急加速。
一気にコピー大熊猫の前に迫ると、そのまま拳を突き出す。
「【鉄拳】!」
「っ!!」
砂煙をあげながら放たれる、拳の一撃。
見事な追撃に、コピー大熊猫はわずかに腰を落とした。
「【当て身払い】」
そしてリザードの拳をひじの辺りで受けると、そのまま腕を払う。
すると自らの勢いを利用されたリザードは、派手に転がった。
「【水刃かかと落とし】」
再び、コピー大熊猫が垂直に上げる足。
同時に飛び散った飛沫は、思わず目を奪われるほどに華麗。
生まれる水の刃は、ここからリザードを斬り裂きに迫る。
「パンダちゃん、【大回転】!」
しかしパンダは三歩のダッシュから跳躍し、そのまま丸まって突撃。
コピー大熊猫を弾き飛ばし、水刃の軌道をずらすことでリザードを助け出した。
「ありがとーっ!」
岩の陰から顔だけ出してのぞいているメイの声に、ドヤ顔で親指を上げる大熊猫とパンダ。
ここでモンスターコンビが、反撃に入る。
「【ウィンドクロー】!」
二連発の空刃に対し、コピー大熊猫は【回転跳躍】の連続で回避。
見事な着地を見せるが、そこにパンダが迫り来る。
「パンダちゃん! 【掌破】!」
突き出す掌底から、放たれる衝撃。
コピー大熊猫は、防御を選ぶも二歩ほど後退。
「続いて【閃肘】!」
そこから放つ高速の肘打ちで防御を崩し、さらに大きく後退させたところで――。
「【猛ダッシュ】からの【鉄拳】だああああーっ!」
斜めに入ってきたリザードの一撃が、コピー大熊猫を弾き飛ばした。
地面を跳ね転がるほどの威力に、思わず「ふえ?」となる大熊猫。
しかしすぐに思い直して、リザードと並ぶ形でパンダを走らせる。
コピー大熊猫は起き上がると、即座に拳を引いた。
「【波紋水撃】」
そしてそのまま、拳を正面に突き出す。
「パンダちゃん! 飛沫に対応を【覇気開放】!」
大熊猫の言葉は、メイにも端的に対応方法を伝える形だ。
「りーちゃん! 【マグマ・スプラッシュ】!」
パンダが拳と掌をぶつけて『気』を発生し、リザードが溶岩を噴出。
迫るショットガンのような水しぶきを、弾いて消散させる。
「パンダちゃん!」
「りーちゃん!」
駆け出す二体。
大熊猫の中で、すでに流れはできているようだ。
先行して拳打を三発叩き込み、そのまま足裏を突き出すような蹴りで距離を作れば、そこに続くのはリザード。
「【鉄拳】!」
再び叩き込まれた拳が、コピー大熊猫を弾き飛ばした。
「りーちゃん! ないすーっ!」
思わず飛び出して拳を突き上げるメイ。しかし。
「メイさんっ!」
ツバメの慌てた声は、コピースライムのHPがごくごく少数だけ残ったため。
いつの間にか、解けていた変身。
そのことに皆が気づいた瞬間、二人目のメイが誕生する。
「【連続投擲】!」
「いーちゃん!」
メイになられてしまった以上、残り極わずかなHPを減らすことを優先。
ツバメの投げた二つの【氷ブレイド】に、イタチの起こす暴風が反応して大きな吹雪を生み出す。
「【装備変更】」
しかしコピーメイは、【王者のマント】でこれを無効化。
あっさり払われた吹雪と、掲げた剣にまもりが息を飲む中。
ツバメはレンの動きに、即座に反応する。
「神話に語られし冥府より、来れ眩き紅蓮の灼光――!」
「【インフェルノ】!」
杖から放たれたのは、拳ほどの大きさの溶岩弾。
そのまばゆさは、異常な温度の高さを物語る。
煌々と輝きを増しながらコピーメイに向かって飛ぶと、一度大きく光を放って弾け、凄まじい量の溶岩の飛沫を放った。
「【ラビットジャンプ】!」
しかし敵は、ステータス半減とはいえメイ。
これを直上への高い跳躍で、かわしてみせた。
「よ、避けられました……っ」
「でも、これで終わりじゃないわ!」
レンがそう告げた次の瞬間、続けてあがる猛火が天井を黒く焼く。
空中のコピーメイはまさかの事態に対応できず、炎に包まれた。
だが、それでも【王者のマント】でダメージなし。
メイという存在の凄まじさに、あらためて誰もが驚くが――。
「……それでも、足元に残った溶岩の海への着地は免れない」
ついた足が溶岩を跳ね上げ、今度こそHPゲージを消滅させる。
こうして見事、コピースライムを打倒することに成功した。
「レンちゃん! すごーいっ!」
「さすがに冷や冷やしたわね。コピーメイが見えた瞬間、RPGで全体即死魔法を使われた時の感覚になったもの」
「同感です」
「あと、無理に詠唱しなくていいのよ?」
「せっかくの新魔法だったので」
そんなことを話していると、モンスターたちが駆け戻ってきた。
大熊猫は、さっそく勝利を喜ぶ。
「それにしても、リザードでこの強さとは……良き」
うなずく大熊猫に、リザードが冷たい態度を取らない辺り、どうやらなかなかの動物値を誇るようだ。
一方メイたちも、フワフワパンダに興味津々。
触り放題しながら、歩を進めていくと――。
「あれが、目的の【光魔石】ね」
クエスト主の青年が落としてきてしまった【光魔石】が、いまだ手つかずで散らばっていた。
「それでは一つ、いただきますよ」
「いただきますっ!」
メイと大熊猫は一つずつ【光魔石】を手に取って、クエスト達成一番乗りにリーチをかけたのだった。
◆
「早かったね」
クエストの青年は、のんびりとメイ像の横に腰を下ろして待っていた。
「ありがとう。君たちには……こんな報酬を差し上げよう」
【覚醒の種】:秘めている力を短時間だけ発動する。進化を残している、または進化を選ばなかったモンスターは、一時的に進化後の姿を見せる。
「なるほど、一時的な強化はメイのステータス上げのような形かしら」
「競争クエストで一番になっての報酬ですし、期待できそうですね」
「その種は、植えて実を付けさせれば何度でも使えるよ」
一番乗りだからこその良さそうなアイテムに、ワクワクするメイたち。
「ほほう、これはなかなか……」
一方の大熊猫は別の報酬をもらったらしく、こちらも手応えありといった顔をしている。
「そうだ。君たちは特に早かったからね、特別にもう一つプレゼントしよう」
そう言って青年は、リザードとパンダにもう一冊ずつスキル書をくれた。
「楽しいクエストだったね!」
「ライバルと競争したり、共闘したり。これをモンスターでするのは新鮮だったわ」
「うぇひひ、メイちゃんたちと一緒に戦えて楽しかったであります」
大熊猫はそう言って笑うと、踵を返す。そして。
「次は……決勝で再会できると良き」
そう言ってパンダと共に親指を上げ、去っていった。
「当たり前のようにパンダが二足歩行なの、ちょっと面白いわね」
「あれも何かのスキルだったりするのでしょうか」
まるでパンダが二頭並んで歩いているかのような光景。
メイはリザードと共にブンブン手を振って、大熊猫たちを笑顔で見送ったのだった。
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