表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1271/1376

1271.モンスターコンビネーション

 競争を制したメイたちは、転移の魔法陣を使用。

 いよいよ目的の、グランダリア地下三階へとたどり着いた。

【光魔石】探し競争は、ここが佳境になるだろう。


「そろそろ、該当の場所にたどり着きそうですが……」


 地下三階の端に当たる区画は、いくつかのルートで向かうことができる。

 メイたちが選んだ道は、難易度高めだが距離は短い。

 左右を高い岩壁に囲まれたこの道には、ゴロゴロした岩が無数に転がっている。

 少ないが草木もあり、道そのものは割と見通しがいい。


「そこ、魔物がいるよ」


 いち早く気づいたメイが告げると、レンがその目を見開いた。


「あの魔物……っ!」


 レンは慌てて、メイを引き止める。

 敵が何者か気づいたまもりも、思わずツバメと共に岩陰に。


「どうしたのー?」


 メイがたずねると、レンは渋い顔をした。


「あの人型のスライム、短時間だけどプレイヤーに化けるのよ。しかも次々に狙いを変えて変身しまくって戦うの」

「ステータスは半減ですが、スキルはそのままなので、とても厄介なのだそうです」

「そうなんだぁ」


 それはラプラタで見た、『銀色の雫』の下位互換といったところか。

 とはいえ、メイに化けられてしまえば大変だ。


「こういうことでしたら、【隠密】を残しておけばよかったです」


 競争という状況下である以上、道を戻るわけにもいかない。

 どうしたものかと悩んでいると――。


「おや、数十分ぶりであります」


 やって来たのは、クエスト開始時に出会ったパンダのような装備をした少女だった。

 どうやら別ルートからやって来て、ここで合流する形になったようだ。


「やはり、とても可愛い装備をしています」

「うぇひひ、パンダちゃんは可愛ゆし」


 白黒少女は、うれしそうに一回転。

 すると少女の背後から、二メートルには届かないほどのパンダが遅れてやって来た。


「この子はモノクロ。そして私は大熊猫おおくまねこと申す者。以後お見知りおき頂けると幸いであります」

「こちらこそですっ」

「うぇひひ、メイちゃんの召喚クマも可愛ゆくて良き」

「えへへ」


 とても可愛らしい大熊猫、やはりクセは強めのようだ。


「ところで、いかがなされたのでありますか?」

「あの魔物、プレイヤーをコピーしながら戦う敵なのよ」

「理解したであります。そちらの四人をコピーして戦われると面倒ということで良き?」

「そうなるわね」

「それなら大熊猫がコピーされたところを……モンスターの連携で倒すのがお勧めであります」


 まず大熊猫と名乗る少女が前に出て、コピーされる。

 その後は彼女のパンダと共に、背後からメイがリザードに声をかけつつ共闘すればいいという提案のようだ。


「モノクロちゃん、いくであります」


 大熊猫が前に出ると、敵のコピースライムがこちらに気づき変身を始める。

 するとモノクロも、それに応えるように片足を上げてカンフーを思わせる構えを取る。


「りーちゃん! 一緒に仲良くね!」


 メイの言葉に、大きくうなずくリザード。

 そして、戦いが始まった。

 コピースライムは、その姿を完全に大熊猫へ変化。

 こちらも足を上げ、カンフーを思わせるポーズを取った。


「【震脚】」


 I字バランス状態から、振り下ろす脚。

 ドン! という音と共に、地面が揺れ動く。


「わわわっ!?」


 これにはリザードも、バランスを立て直すのに精いっぱいだ。


「【跳躍】!」


 一方大熊猫は『自分のスキル』を知っているため、パンダを前方へ跳躍させてこれを回避。


「【疾空脚】でよき!」


 そこから一気に加速して接近し、放つ飛び蹴り。

 これをコピー大熊猫が横移動でかわすと、この時にはリザードも動けるようになっている。


「【猛ダッシュ】!」


 メイの言葉に応えて急加速。

 一気にコピー大熊猫の前に迫ると、そのまま拳を突き出す。


「【鉄拳】!」

「っ!!」


 砂煙をあげながら放たれる、拳の一撃。

 見事な追撃に、コピー大熊猫はわずかに腰を落とした。


「【当て身払い】」


 そしてリザードの拳をひじの辺りで受けると、そのまま腕を払う。

 すると自らの勢いを利用されたリザードは、派手に転がった。


「【水刃かかと落とし】」


 再び、コピー大熊猫が垂直に上げる足。

 同時に飛び散った飛沫は、思わず目を奪われるほどに華麗。

 生まれる水の刃は、ここからリザードを斬り裂きに迫る。


「パンダちゃん、【大回転】!」


 しかしパンダは三歩のダッシュから跳躍し、そのまま丸まって突撃。

 コピー大熊猫を弾き飛ばし、水刃の軌道をずらすことでリザードを助け出した。


「ありがとーっ!」


 岩の陰から顔だけ出してのぞいているメイの声に、ドヤ顔で親指を上げる大熊猫とパンダ。

 ここでモンスターコンビが、反撃に入る。


「【ウィンドクロー】!」


 二連発の空刃に対し、コピー大熊猫は【回転跳躍】の連続で回避。

 見事な着地を見せるが、そこにパンダが迫り来る。


「パンダちゃん! 【掌破】!」


 突き出す掌底から、放たれる衝撃。

 コピー大熊猫は、防御を選ぶも二歩ほど後退。


「続いて【閃肘】!」


 そこから放つ高速の肘打ちで防御を崩し、さらに大きく後退させたところで――。


「【猛ダッシュ】からの【鉄拳】だああああーっ!」


 斜めに入ってきたリザードの一撃が、コピー大熊猫を弾き飛ばした。

 地面を跳ね転がるほどの威力に、思わず「ふえ?」となる大熊猫。

 しかしすぐに思い直して、リザードと並ぶ形でパンダを走らせる。

 コピー大熊猫は起き上がると、即座に拳を引いた。


「【波紋水撃】」


 そしてそのまま、拳を正面に突き出す。


「パンダちゃん! 飛沫に対応を【覇気開放】!」


 大熊猫の言葉は、メイにも端的に対応方法を伝える形だ。


「りーちゃん! 【マグマ・スプラッシュ】!」


 パンダが拳と掌をぶつけて『気』を発生し、リザードが溶岩を噴出。

 迫るショットガンのような水しぶきを、弾いて消散させる。


「パンダちゃん!」

「りーちゃん!」


 駆け出す二体。

 大熊猫の中で、すでに流れはできているようだ。

 先行して拳打を三発叩き込み、そのまま足裏を突き出すような蹴りで距離を作れば、そこに続くのはリザード。


「【鉄拳】!」


 再び叩き込まれた拳が、コピー大熊猫を弾き飛ばした。


「りーちゃん! ないすーっ!」


 思わず飛び出して拳を突き上げるメイ。しかし。


「メイさんっ!」


 ツバメの慌てた声は、コピースライムのHPがごくごく少数だけ残ったため。

 いつの間にか、解けていた変身。

 そのことに皆が気づいた瞬間、二人目のメイが誕生する。


「【連続投擲】!」

「いーちゃん!」


 メイになられてしまった以上、残り極わずかなHPを減らすことを優先。

 ツバメの投げた二つの【氷ブレイド】に、イタチの起こす暴風が反応して大きな吹雪を生み出す。


「【装備変更】」


 しかしコピーメイは、【王者のマント】でこれを無効化。

 あっさり払われた吹雪と、掲げた剣にまもりが息を飲む中。

 ツバメはレンの動きに、即座に反応する。


「神話に語られし冥府より、来れ眩き紅蓮の灼光――!」

「【インフェルノ】!」


 杖から放たれたのは、拳ほどの大きさの溶岩弾。

 そのまばゆさは、異常な温度の高さを物語る。

 煌々と輝きを増しながらコピーメイに向かって飛ぶと、一度大きく光を放って弾け、凄まじい量の溶岩の飛沫を放った。


「【ラビットジャンプ】!」


 しかし敵は、ステータス半減とはいえメイ。

 これを直上への高い跳躍で、かわしてみせた。


「よ、避けられました……っ」

「でも、これで終わりじゃないわ!」


 レンがそう告げた次の瞬間、続けてあがる猛火が天井を黒く焼く。

 空中のコピーメイはまさかの事態に対応できず、炎に包まれた。

 だが、それでも【王者のマント】でダメージなし。

 メイという存在の凄まじさに、あらためて誰もが驚くが――。


「……それでも、足元に残った溶岩の海への着地は免れない」


 ついた足が溶岩を跳ね上げ、今度こそHPゲージを消滅させる。

 こうして見事、コピースライムを打倒することに成功した。


「レンちゃん! すごーいっ!」

「さすがに冷や冷やしたわね。コピーメイが見えた瞬間、RPGで全体即死魔法を使われた時の感覚になったもの」

「同感です」

「あと、無理に詠唱しなくていいのよ?」

「せっかくの新魔法だったので」


 そんなことを話していると、モンスターたちが駆け戻ってきた。

 大熊猫は、さっそく勝利を喜ぶ。


「それにしても、リザードでこの強さとは……良き」


 うなずく大熊猫に、リザードが冷たい態度を取らない辺り、どうやらなかなかの動物値を誇るようだ。

 一方メイたちも、フワフワパンダに興味津々。

 触り放題しながら、歩を進めていくと――。


「あれが、目的の【光魔石】ね」


 クエスト主の青年が落としてきてしまった【光魔石】が、いまだ手つかずで散らばっていた。


「それでは一つ、いただきますよ」

「いただきますっ!」


 メイと大熊猫は一つずつ【光魔石】を手に取って、クエスト達成一番乗りにリーチをかけたのだった。



   ◆



「早かったね」


 クエストの青年は、のんびりとメイ像の横に腰を下ろして待っていた。


「ありがとう。君たちには……こんな報酬を差し上げよう」



【覚醒の種】:秘めている力を短時間だけ発動する。進化を残している、または進化を選ばなかったモンスターは、一時的に進化後の姿を見せる。



「なるほど、一時的な強化はメイのステータス上げのような形かしら」

「競争クエストで一番になっての報酬ですし、期待できそうですね」

「その種は、植えて実を付けさせれば何度でも使えるよ」


 一番乗りだからこその良さそうなアイテムに、ワクワクするメイたち。


「ほほう、これはなかなか……」


 一方の大熊猫は別の報酬をもらったらしく、こちらも手応えありといった顔をしている。


「そうだ。君たちは特に早かったからね、特別にもう一つプレゼントしよう」


 そう言って青年は、リザードとパンダにもう一冊ずつスキル書をくれた。


「楽しいクエストだったね!」

「ライバルと競争したり、共闘したり。これをモンスターでするのは新鮮だったわ」

「うぇひひ、メイちゃんたちと一緒に戦えて楽しかったであります」


 大熊猫はそう言って笑うと、踵を返す。そして。


「次は……決勝で再会できると良き」


 そう言ってパンダと共に親指を上げ、去っていった。


「当たり前のようにパンダが二足歩行なの、ちょっと面白いわね」

「あれも何かのスキルだったりするのでしょうか」


 まるでパンダが二頭並んで歩いているかのような光景。

 メイはリザードと共にブンブン手を振って、大熊猫たちを笑顔で見送ったのだった。

ご感想いただきました! ありがとうございます!

返信はご感想欄にてっ!


お読みいただきありがとうございました!

少しでも「いいね」と思っていただけましたら。

【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
クイズ行きますね 目の前に3冊の本があります。この本を読んだ人たちは、みんなその内のひとつの本が特に面白いと言っています。ですが、それを聞いても全員がその本ではない別の本から読み始めます。それはなぜ…
最後は共闘でほのぼの終わりましたね、まあ確かに銀色のメイはもはや古代エリアの裏ボス位置ですし、メイが呼び出せば勝ち確扱いの強キャラになってますしね
パンダと言えばカンフー このイメージ、始まりはやっぱり「ランマ2/1」ですかね? 他にもカンフーするパンダっていた気がするけど。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ