1270.連携バトルですっ!
地下水でできた大きな池を、リザードの手を取り進むメイ。
【ドルフィンスイム】による泳ぎは華麗で、一階の奥地へ向かってスイスイと進んでいく。
「来たっ!」
しかしショートカットになるこのルートには、当然魔物が配置されている。
近づいてくる魚影は、強力な喰らいつきでプレイヤーを引きずり込み、『酸欠』を狙う魚竜イクティオ。
魚雷のような勢いで突き進み、メイとリザードに襲い掛かる。
「【海皇の槍】!」
しかし投じられた捕鯨砲のような一撃が、魚竜を貫き勝負あり。
帰ってきた槍を手にしたメイは、そのまま池を挟んだ一階西部へたどり着いた。
「これでもう、二階に降りられるわね」
水場を超えた先にある岩場を下れば、地下二階。
メイとリザードが身体をブルブルさせながら水を飛ばす光景に、ツバメは笑いながら岩場を降っていく。
続く岩場には下草が生え、木々も多い。
ここを越えれば、地下三階へと降りる魔法陣がある。
次の目的は、その魔法陣だ。
「転移の魔法陣は、一度使うと五分程度のリチャージタイムが必要のようですね」
ツバメが地図を見ると、そんなメモが残されていた。
「そういうわけだから、先に行かせてもらうぜーっ!」
現れたのは、先行していたのであろう二人の青年。
猩々という猿のモンスターを連れて駆ける二人は、メイたちの前に陣取った。
「このまま普通に駆けっこしてたんじゃ厳しいが、リザードならチャンスはある! 先手、打たせてもらうぜ!」
「メイちゃん相手だと、なぜか嫌な予感しかしないけど勝負っ!」
そう言って目前の植物を指差すと、猩々が多くの花が咲く低木につかまり揺らし始めた。
すると花から一斉に淡い桃色の粉末が舞い、視界を奪い去る。
「これで先に行かせてもらうっ!」
「おおーっ!」
メイはこんな自然ならではの手を使うプレイヤーに、「上手!」と笑みがこぼれる。しかし。
「【マグマ・スプラッシュ】!」
噴き上げる溶岩の飛沫が、粉末を燃え上がらせて抹消。
足止め作戦は、早々に打ち消された。
「さすがメイちゃん、連れてるのがリザードでもあなどれないか!」
「だがっ!」
青年が即座に指示を出す。
「【投擲】!」
目の前にあった一メートル超えの岩を掲げた猩々は、そのまま放り投げてきた。
元々グランダリアに常駐しているこの二人は、自然を上手に使って競争を盛り上げてくる。
「おおーっ!」
これにはまたも、メイが声をあげるが――。
「りーちゃん! 【鉄拳】!」
放つ拳の一撃が、岩石を粉砕した。
「マジか!?」
これには驚く青年。
だがもう一人は、この瞬間を狙っていた。
「今だ! 【投擲】――っ!!」
なんとこちらの猩々も、同じスキル持ち。
【鉄拳】を使った直後のリザードに、別角度からさらに大きな岩石を投じてきた。
「さすがにこの大きさの岩なら、リザードじゃどうしようもない! 火力の高いスキルも、回避も間に合わないはずだ!」
状況は、これ以上ないほどに確定的。
青年は競争の勝利を、確信する。
「「えっ?」」
しかしリザード、岩をガッチリとキャッチ。
選んだ選択は、まさかの『受け止め』だった。
「りーちゃん! そのままお返ししちゃって!」
「さ、させるかああああ―――っ! 【フレアバスター】!」
すぐさま追撃に入る、もう一人の青年。
魔法での早いフォローは見事で、炎砲弾は真っすぐにリザードのもとへ飛来。しかし。
「【切り捨て】……御免っ!!」
「なにっ!?」
これをさらに、ツバメが【村雨】の一撃で一閃。
斬られた豪炎弾は、ツバメの後方で大火を巻き上げた。
「カ、カッコいいです……っ!」
これにはまもりが、思わず感嘆。
一方ツバメに守られたリザードは岩石を投げ返し、猩々たちが慌てて避ける。
「やはりプレイヤーが絡むと、五月晴れは格が違うな……!」
「リザードも、相当【筋力】を上げてるみたいだぞ!」
「スキルは基本的なものが多そうなのが、せめてもの救いか!」
二人の青年は、意外なパワーを持つリザードに思わず目を向ける。すると。
「――――それはどうかな?」
「「しゃべったああああ――っ!?」」
まさかの事態に、二度目の驚愕。
【隠密】を使ったツバメの遊びに、混乱するプレイヤーたち。
姿を隠されてしまったら、もう完璧にリザードが話しているようにしか見えない。
そしてこの隙を、もちろんメイは逃さない。
「今だよ! りーちゃん【ウィンドクロー】!」
指示の通り、リザードはメイの指さす方に攻撃を放つ。
「避けろ! 猩々!」
「回避だ!」
二人の青年は、迫る斬撃を回避させる。
そして再び攻勢に入ろうとしたところで、異変に気付いた。
「……あれ?」
なぜかメイたちは、横道にそれるかのように、この場から離れて行ってしまった。
それでは明らかに遠回りだ。
道を諦めて譲ったかのような行動に、思わず二人首を傾げるが――。
「「ああああ――っ!!」」
そこにやって来たのは、この木々の空間をテリトリーにする中ボス級の大蛇、クイーンコブラ。
「やられた!」
「こいつ、まあまあ強いんだよなぁ……!」
【ウィンドクロー】の狙いは猩々ではなく、その先にいたクイーンコブラだった。
そしてメイたちが早々に離脱してしまえば、ここに残っているのは青年たちと猩々のみ。
そうなれば、クイーンコブラが二人を逃すはずがない。
「ツバメちゃんのおかげで、上手くいったよーっ!」
「二人とも思いっきり、声を出したリザードに意識を取られてたものね」
「思った以上に、効果がありました」
「わ、私たちは、このまま先に進みましょう」
「りょうかいですっ!」
面倒な中ボスは青年たちに任せ、メイたちは魔法陣へ。
いよいよ目標の、地下三階へと下っていく。
うまく二人のプレイヤーを驚かせることに成功したツバメは、うれしさに思わずスキップをしていた。
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