1268.次の行き先は
「わあーっ! やっぱり空から見るとすごいねぇ!」
雪山の国ウェーデンでのクエストを終えたメイたちは、一度ラフテリアへ帰還。
セフィロト丸で駆けるのは、陽光に照らされた一面の砂漠。
ピラミッドが見えてくれば、その先にあるのはルナイルだ。
「低い位置で飛んでも、砂漠ならむしろ光景を楽しめると思いまして」
ツバメの提案通り、遮蔽物のない砂漠は低空を駆けるのが楽しい。
「うおっ! 飛行艇だ!」
「すげーっ!」
まるで砂の海を進む船。
ルナイルのプレイヤーたちが、セフィロト丸を見て驚きの声をあげる。
見慣れた砂漠の街も、飛行艇があるだけでいつもと違って新鮮だ。
「このまぶしい感じも、久しぶりですね」
「そうねぇ」
白い石壁の建物が並ぶ街は、煌々と輝く太陽と青い空が心地よい。
派手な柄の絨毯に座った商人たちを横目に、四人は砂漠の街を進む。
今回も狙いは街外れ。
しかし何も見つからず、街の枠から一歩出たところで見つけた水辺。
その木の下に、神妙な面持ちで座り込む冒険者たちの姿が見えた。
「どうしたんですかーっ?」
「メイちゃん!?」
「メイですっ!」
メイがたずねると、女子プレイヤーたちは悩まし気な顔をした。
「ここのクエストが、すごく難しくて……」
見れば強そうな二つ首の魔獣、オルトロスもしょんぼりしている。
どうやらこの魔犬が、彼女たちの育成しているモンスターのようだ。
「もう5組ほど、諦めて帰って行っちゃったの」
「それはまたずいぶんねぇ」
レンが、感心の声をあげた。
すると、メイたちを見つけた白いフードのNPCたちがやって来る。
「冒険者殿、少しいいだろうか。我らはルナイルの歴史や文化を研究している者なのだが、古き悪王の残した宝の中に【魂の宝珠】というものがあってな」
「移送中、それを野盗に奪われてしまったんです」
「取り戻す感じのクエストでしょうか」
「ツバメ、まだ『盗む』の『ぬ』も出てきていないわよ」
すでに白目になっているツバメに、笑うレン。
「問題はこの【魂の宝珠】が、近づくだけで人間を呪うアイテムという事なんだ。だからこれは、モンスターを連れている者にしかできない」
すると「ここにいます!」とばかりに、リザードが手を上げる。
その動きはいよいよ、メイのようだ。
「やってくれるのか……?」
四人はもちろん、うなずいて応える。
「砂漠を放浪する野盗のキャラバンから【魂の宝珠】を取り戻して欲しい。盗み出しても、奪ってもいい。ただし野盗たちはすでに意思を乗っ取られ、何度倒しても立ち上がるアンデッドのような状態だ。決して楽なものではないだろう……きたっ!」
こちらにわずかに姿が見えるほどの距離を過ぎて行く、五台ほどの荷馬車の列。
その前後左右を、呪われた野盗たちが固めて進む形だ。
怪しい紫色のオーラが、中央にある一台の荷馬車からもれ出している。
「まずは静かに近づいて、一気に奪って逃げる感じで行ったんですけど……無理でした」
「言う事聞かないモンスターだと、静かにって言っても無理なの……」
「なるほど……りーちゃん、お願いしますっ!」
メイの言葉に、リザードは手を上げて応えると、トコトコと敵の視線に入らないよう気を付けて歩き出す。
「特攻して、荷馬車の中に置かれた宝珠を取るところまではできたんですけど……その後逃がしてもらえませんでした」
「陣形と連携が意外といいの。ドラゴンで力勝負した前のパーティも、総攻撃に逃げ帰る形になったし……」
「なるほどぉ……りーちゃん! 【カメレオン】で!」
メイが指示すると、リザードの姿が蜃気楼のようにスーッと消えていく。
砂地に、ぽつぽつとできる足跡。
見送ってしばらくすると、スッと紫色のオーラが消えた。
「あっ」
「えっ、マジですか?」
少しすると、その手に【魂の宝珠】を持ったリザードが、キャラバンから数メートル離れたところに現れた。
「やったー!」
盗賊団からの、見事な窃盗。
波風なしで【魂の宝珠】を手にしたリザードに、オルトロスパーティが唖然とする。しかし。
荷車の屋根に座っていた見張りの盗賊が、リザードの姿に気づいた。
すると最後尾の荷車にいた盗賊たち五人が、こちらに駆けてくる。
「【魂の宝珠】をこちらに!」
研究者が取り出したのは、紋様の刻み込まれた石造りの箱。
そこにしまえば、このクエストは達成となるのだろう。
「気づかれたのが、最後尾の五人だけなのは不幸中の幸いですけど……」
「五対一でも、十分厳しいね」
しかも盗賊の足は常時高速移動スキルで速く、逃げ切るのは難しそうだ。
やはり甘くはないクエストに、オルトロスパーティの二人が息を飲む。
先行してきた三人の盗賊は、なんと連携で攻撃を仕掛けてきた。
「【疾駆】!」
速い直線移動からの、片手剣の振り降ろし。
「りーちゃん! バックステップ!」
リザードは、言われるまま下がって回避。
「【疾駆】【振り払い】!」
すると二人目の盗賊が、一人目の横から抜けてくる形での攻撃。
「もう一回下がって!」
これもバックステップで、続けざまの回避に成功。
「【回転跳躍】!」
すると手前の二人を跳び越える形で、三人目が曲刀を振り下ろしに来る。
「今度は早めのバックステップを、一歩だけ!」
跳んだ時点で、着地点は確定する。
そのためメイは引きつけてからではなく、早めの回避を指示。
そして振り下ろされた曲刀が、虚しく砂を叩いたところで――。
「最速の【鉄拳】でゴーッ!」
着地した瞬間を狙って放った一撃は、三人目の盗賊を吹き飛ばす。
ここでメイの、早い指示が活きる。
一人目と二人目の位置がそのままだったため、吹き飛んだ三人目が巻き込みを起こしてもつれ合う。
早くも三人の打倒に成功したリザード。
しかし残り二人は、左右から挟み込むようにして接近してきた。
「「【スピード・スラッシュ】」」
そして斬り抜け攻撃を同時に使用。
「これが、本当にやっかいなんです!」
「そうなの! これが嫌なの!」
高速かつ、斬り抜けて行くことで生まれる距離。
どうやらこの攻撃が、オルトロスを苦しめたようだ。しかし。
「【マグマ・スプラッシュ】!」
リザードが地面に拳を突けば、円形に吹き上がる溶岩飛沫。
「「ぐああっ!?」」
盗賊二人が、ダメージと共に強制停止を受けた。
「ここで左右に【ウィンドクロー】!」
まずは右の盗賊に一撃、続けて左の盗賊に一撃。
駆け抜ける斬撃は、砂を巻き上げ直撃。
盗賊二人を斬り飛ばし、これで五人全員を砂の上に転がした。
「……ええー」
「マジですか?」
ドラゴンはもちろん、オルトロスよりもかなり低いステータスで始まるリザードが、五人組の野盗を相手に圧倒。そして。
「でも、メイの指示もいい感じね。ぷはっ」
「はい、そうですね」
「お、お見事でしたっ」
レンとツバメは、まもりと一緒によく冷えたフルーツティーを飲んでいた。
砂の上でも、もちろんツバメは正座を崩さない。
「……おいしそう」
思わずつぶやくと、まもりが盾に隠れたまま問う。
「あ、あの……よろしければ……」
そっと出された【アイスフルーツティー】を、言われるまま取り一口。
「おいしい……あっ! 他の盗賊たちも気づきましたよ!」
どうやら派手な溶岩飛沫は、キャラバンの盗賊たちに見つかってしまうようだ。
「「「「オオオオオオ――――ッ!!」」」」
呪われた盗賊たちは奇声をあげながら、自慢の足で駆けてくる。
その数は二十人ほどで、さすがに戦うには厳しい数だ。
「そのままこっちに来てくださーい!」
選んだのは逃走。
メイが叫ぶと、リザードが走り出す。
「【猛ダッシュ】!」
確かに速い、盗賊たちの脚。
しかしリザードも最後のスパートをかけ、箱に【魂の宝珠】を押し込んだ。
「「「…………」」」
その瞬間、呪いが溶けた盗賊たちはメイたちの目前で急停止。
無言のまま、砂漠へと戻っていく。
「ふふ、どんなに全力で追ってきても、クエストが終わった瞬間みんな全てを忘れて持ち場に帰って行く感じ、本当好き」
「わ、分かります。悔しさなどもなく淡々と帰って行くんですよね。真顔で」
「今一人だけ腕をつかんで動きを止めたら、どうなるのでしょうか」
そんなことを、楽しそうに話すレンたち。
多くのパーティが諦めたクエストを、あっさり達成した『弱いはず』のリザードと、おいしいドリンク。
「「…………」」
オルトロスパーティの二人は、いよいよ呆然とするのだった。
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