1257.見学のリザード
「【耐久】もしっかり伸びたわね」
シーフモンキーたちを追いかけ回して、火で脅す。
そんな原住民もビックリのクエストを繰り返し、アボカドのような味のする【アリピアの実】を採取。
料理にして食べる。
リザードの【耐久】は480に至り、見事な成長を見せた。
「【アリピアの実】料理もおいしかったよー!」
「サラダで良し、トルティーヤでも良しと、隙がありませんでしたね」
「はひっ」
やっていたことは野性味の強いクエストだったが、鮮やかな色味の料理は、カフェご飯の雰囲気。
メイはもう大喜びで、「この姿を見てください!」と胸を張っていた。
「気難しいリザードの雰囲気は、もう全然感じないわね」
「本当ですね」
その横を歩くリザードも、ご機嫌。
動きも少しずつメイに似てきていて、もはや愛嬌を感じるほどだ。
「あ、あとは進化しなければ、完璧ですねっ」
「まもり、それ以上はダメよ」
可愛いモンスターが成長して「これじゃない」感を出し始めるのは、稀にあること。
レンは色々思い返しながら、しみじみとうなずく。
「あれ?」
四人がリザートと共にクク・ルル村を歩き回っていると、メイが首を傾げた。
「どうしたのですか?」
「あんな建物、初めて見た」
村の端から続く細道。
その先にあったのは、剣道場を思わせる板張りのログハウス。
「なんだろう、これ」
「ジャングルで戦えるようになるための修練場だ」
メイが不思議そうにつぶやくと、現れた壮年の男が答えた。
「北部はもちろんだが、恐ろしい獣の多いクク・ルル村。最近ではトカゲの帝国による攻撃もあった。そこでこれまでバラバラに教えられていた戦闘の基礎を、一つの修練場で学べるようにしたいと考えたのだ」
「なるほど、それはいいですね」
「ところが少し村から離れていることもあってな、人が集まらないんだ」
そう言って男は、悩ましそうにする。
「そうだ、君たちは冒険者だろう? 村の一角でデモンストレーションをしてくれないか? とにかくレベルの高い動きを見せて皆を驚かせてほしい! そこに並んでいる様々な装備品を、華麗に扱う姿を見せると効果的だと思うんだ!」
そう言って男は、道場内に集められたさまざな装備品を披露する。
どれも密林の村らしい、鮮やかな鞘などに納められた装備品の数々。
この中から選んで、戦闘のデモンストレーションを行えという事だろう。
「デモンストレーションに成功したら、その後はモンスター修行なんかにも使ってくれていい。良い演武を見学した後に武器などを使う練習をすれば、大きく【技量】があがるのではないか?」
「なるほどね。この中で一番、装備品で魅せられるっていうのなら……」
「そうですね」
「うんうんっ」
集まる視線に、瞬きをするまもり。
「わ、私ですかっ!?」
「メイは剣のエキスパートというより、自然のプロのイメージだし、ツバメも速さを活かした近距離戦の感じでしょう? 杖は魔法を放つための触媒みたいなものだし」
「まもりさんの盾さばきなら、間違いなく上手くいくと思います」
言われるまま、盾を手に取ってみるまもり。
すると男は、大きくうなずいた。
「ではさっそく、デモンストレーションと行こう。盾なら攻撃役が必要だが……それも君たちに任せる」
「なるほど、そういう展開になるのね」
「これは面白そうです」
この男でも、魔物でもなくパーティメンバー。
予想外のことに驚きながら、メイたちは村の一角へ。
「お、なんだなんだ?」
「何が始まるんだ?」
するとさっそく、村人たちが集まり出した。
「今より、我がクク・ルル訓練場のデモンストレーションを始める。ジャングルで活きる力をつけたい者は、ぜひとも一度見に来て欲しい」
そう言って男は、手にした鐘を高く掲げた。
「これより見せるのは盾の極意。連続する激しい攻撃を、見事全て受け止めて見せよう!」
男の視線に、メイたちが武器を構える。
するとメイの姿に注目していたプレイヤーが、思わず声をあげた。
「盾子ちゃんに、メイちゃんたちが攻撃するのか!?」
「マジで!?」
「それは面白そうだ!」
あっという間に、集まってきたプレイヤーたち。
NPCと観客で、あっという間にいっぱいになる。
「あとは戦闘デモンストレーションの成功だけ、盾での華麗な防御を見せてくれ……それでは、スタート!」
「下手に加減してもしょうがないし、いつもの感じでいきましょう」
「「はいっ!」」
リザードがワクワクしながら見守る中、動き出すメイたち。
クエストの成否は、どれだけのダメージを受け流したかで決まってくる。
「【フレアバースト】!」
初撃は容赦のない爆炎。
「【天雲の盾】!」
これをまもりが盾で受けると、大きな炎が上がった。
「っ!」
その隙に左右に分かれた、メイとツバメ。
高速移動から、息の合った攻撃を左右同時に叩き込む。
「【フルスイング】!」
「【電光閃火】!」
「【不動】【クイックガード】【地壁の盾】盾!」
二つの一撃を二枚の盾で受け止めると、豪快な衝突音と共に火花が散った。
「「「うおおおおおっ!?」」」
その迫力に、あがる歓声。
「【ローリングシールド】!」
すぐさまの反撃で、ツバメとメイを下がらせる。
しかしメイは最低限の回避のため、再び踏み込み剣を払う。
「【フルスイング】!」
「【地壁の盾】!」
これを【不動】なしで受けたことで、大きく下がる。
すると、ついさっきまでまもりがいた場所にツバメの【電光石火】が通り抜けて行った。
これはメイの火力による後退を、回避に利用した見事な作戦だ。
「【低空高速飛行】!」
そこに飛び込んできたのは、【魔剣の御柄】を手にしたレン。
「はあっ!」
「【クイックガード】【天雲の盾】!」
「開放!」
「盾っ!」
ワンテンポ遅らせての開放にも、しっかり対応。
巻き上がる【氷嵐】を、綺麗に受けてみせた。
「【空襲】」
「っ!?」
先ほどの炎の後は、左右に分かれて。
今度はなんと、白煙を跳び越えてくる形の攻撃だ。
「【地壁の盾】!」
空中から刺しに来る一撃を、まもりは盾を掲げて受け止めた。
「ここも盾っ!」
その直後に出てきた【隠し腕】にも、見事に対応。
「【スライディング】【反転】」
「っ!?」
するとここで、ツバメはまもりの足元を通って後方へ。
「【八連剣舞】!」
「【クイックガード】【地壁の盾】盾盾盾盾盾盾盾!」
最大の8連発を受け止めたところで聞こえる、レンの声。
「【フレアストライク】!」
「【吸収】【フレアストライク】!」
ここでレンの魔法を吸収して即発射。
メイの足元に炸裂させることで、【魔断の棍棒】での撃ち返しをさせずに出足を遅らせる。
まもりの二枚の盾での防御は堅牢だが、三人にバラバラの角度から攻撃されるのは、さすがに厳しい。
「三人目の攻撃は、けん制することで防ぐんだな……!」
「なるほど、これは最善の受け方だ!」
これには普段盾を使っている片手剣士が、思わず感嘆する。
ただ上手に受けるだけでなく、攻撃をさせないという防御方法に、いよいよメモを取り始める。
「……でも、気づくかな」
そしてそんな声を、続けた瞬間。
まもりが左の盾を、真っ直ぐ天に掲げた。
「【天雲の盾】!」
メイとツバメに集中している瞬間を狙って、空に向けて放っておいた【誘導弾】【フレアストライク】を受けとめながら、まもりは右の盾を真正面に突き出す。
「【分身】!」
「【シールドバッシュ】!」
ツバメの分身攻撃を、最速でけん制して分身体を吹き飛ばした。
二つの盾で防御と攻撃を続ける動きにレンも感心する中、迫るのはメイ。
「【裸足の女神】!」
一瞬で、踏み込んできた。
「【カンガルーキック】! ……あっ」
メイ、あまりにテンポが良く硬い防御にうっかり『防御崩し』を使用。
ついに流れが途切れるかと、誰もが息を飲む。
しかし一瞬で目の前に来たメイが、剣の振りに入っていないことに気づいていたまもりは――。
「あぶないっ」
防御にこだわらず、転がる形での回避を選択した。
防御が崩れて、減点する可能性もあった。
二人は振り返り、ドキドキしながら互いを見合うと――。
「いきますっ!」
メイが剣を引く。
「どうぞっ!」
まもりがそれに応えるように、腰を落とす。
「【ソードバッシュ】だああああ――っ!」
「いきます! ――――【錬金の盾】!」
取り出したのはクエスト報酬でもらった真鍮製の盾。
まばゆい黄金の輝きと共に巨大化する。そして。
「【不動】【コンティニューガード】【地壁の盾】っ!」
迫る猛烈な衝撃波は、大きな黄金の盾にぶつかると、まるで荒波が埠頭にぶつかったかのように弾けて散らばる。
割れた衝撃波はそのままジャングルへと突き進み、木々を大きく揺らしていく。
まもりは長い髪をめちゃくちゃにしながらも、どうにかメイの一撃を受け切り、そのままその場に座り込んだ。そして。
「「「「うおおおおおおおお――――っ!!」」」」
「えっ、ええっ?」
いつの間にか集まっていた観客たちの、歓声と拍手に驚く。
「すげえええ――っ! この距離で盾子ちゃんの防御を見られるとか最高かよ!」
「不利なら牽制を挟み、無理なら避ける! この柔軟性だ、大事なのは!」
見学していたプレイヤーたちは、大きくわき立つ。
「……大したもんだ! これは忙しくなるぞ!」
その賑わいには、クエスト主も大歓喜。
もちろんデモンストレーションは、一発成功となった。
ご感想いただきました! ありがとうございます!
返信はご感想欄にてっ!
お読みいただきありがとうございました!
少しでも「いいね」と思っていただけましたら。
【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!




