1256.料理開始です!
「漫画とかで、挑発してくる動物とケンカする話を見たことあるけど、実際に直面するとは思わなかったわね」
「カートゥーンを思わせる表情が、楽しかったです」
煽り顔の見事な生意気さを思い出して、笑うレンとツバメ。
シーフモンキーたちとの、【アリピアの実】争奪戦を制したメイたちは、クク・ルル村に戻ってきた。
「【アリピアの実】を持ってきましたー!」
「おおっ! 助かった!」
するとクエスト主の男は実を半分に割り、片方だけ持って駆け出していく。
「残り半分は自由に使ってくれ! キッチンを空けとくから、料理はそこで作ってくれていいぞ! それじゃ!」
そう言い残してクエスト主は、親戚の子のもとへ駆けて行ってしまった。
「え? 何を作るかの選択は自力になるの……?」
見れば魔法石仕様の冷蔵庫には、様々な食材がある。
今回の【アリピアの実】を使って料理を作り、食べれば育つということなのだろう。
「初めて見る食材で、とりあえず料理をしてみるってリスキーよね……」
レシピはない。
どうやら手探りで料理を作ることになるらしい、このクエスト。
入手に苦労した食材を、ムダにはしたくない。
イチかバチかで『何かを作ってみる』という事態は、避けたいところだ。
「そ、そういう事でしたら……丼はいかがでしょうか?」
「丼?」
「ご飯ですか?」
「なんだか意外だねぇ」
見た目は少し、フルーツっぽい【アリピアの実】
メイたちは、いまいちピンとこないようだ。
「れ、冷蔵庫の中の食材は、わざと『ハズレ』を作らせるための食材もあると思うんですけど、エビ、マグロ、小麦粉、卵、あとは野菜類と、いくつかのフルーツが入っていて……な、何となく、【アリピアの実】の味は『アボカド』に似ているんじゃないかなって思ったんです」
「サラダなら無難。フルーツだと思ってパフェとかにすると、ちょっと失敗って感じ?」
「は、はいっ、エビ、マグロと一緒だとおいしくできるって感じだと思います。小麦粉とエビを使ってトルティーヤ。マグロとアボカドだと、丼が一番かなと思います」
説明しながら目を輝かせ出すまもりに、思わずメイたちはうなずき合う。
「それでは、まもりちゃんのお勧めでいきましょうっ!」
「は、はひっ! 題してマグロとアボカドのユッケ丼です……!」
「おいしそうです」
さっそく始まる料理クエスト。
「おそらく料理の完成度は経験値だけでなく、そもそもモンスターが食べてくれるのかにも関わってくるんじゃないかしら」
レンの予想は正解だ。
場合によっては食べ切らない、そもそも口にしないというパターンもある。
「まずはカットからね……って、このマグロ『本体』じゃない……」
なんとマグロは、解体するところから始まるようだ。
「じゅ、順番だけなら分かります!」
「それなら、まもりの指示に合わせてメイに切ってもらいましょう。この感じだと【腕力】【技量】でしょうし」
「りょうかいですっ!」
メイはさっそく、通常よりもだいぶ長い包丁を棚から取り出す。
「まずは頭と、ヒレを落とします」
まもりの言う通り、頭を切ってヒレを取る。
ここではレンの予想通り、【技量】と【腕力】がなければ刃がブレるのだが、もちろんメイに問題なし。
「身体上部の『背』を切り出します。その後そのまま『腹部』ですね」
マグロの長い身体を、背骨を中心に十字に切り分けるイメージでカット。
「あとは外皮を切り分けて、ブロック状に切ります」
「はいっ」
こうして見事な赤身ブロックが完成。
「最後に1センチのサイコロ状に切れば、マグロの準備は完成です」
「いいわね、もうおいしそう」
「今回は中トロに当たる位置を使ってみましょう」
「おおーっ!」
豪華な気配に、早くもメイとリザードが目を輝かせる。
「【アリピアの実】のカットは簡単ですね。こっちも1センチでお願いします」
「調味料のブレンドは私がやっておきます」
「それなら、お米を炊くのは私がやるわ」
混ぜるだけの調味料造りは、ツバメが進行。
火加減ありの炊飯を、レンが担当する。
どちらも滞りなく、見事に成功させた。
カットしたマグロと【アリピアの実】を混ぜて、そこに醤油風味のダシとごま油をかけて混ぜる。
そして炊き立ての米を入れた丼に乗せれば、残る工程はあと一つだけ。
「……卵に、種類があります」
見たところ、冷蔵庫にある卵は色が違っていたり汚れがあったりと、状態がまちまち。
「これ、最後のポイントっぽいわね」
どの卵を選ぶのかで、料理の出来が変わってくるのだろう。
だがこれといった判別の要素は見つからず、難しい状況だ。
悩んでいると、まもりはいつくかの卵を手に取り、水を張った陶器の入れ物に入れた。
「ま、間違いなさそうです。沈んだ卵を使いましょう」
浮く卵と沈む卵。
くっきりと分かれた状態に、手ごたえを覚える。
「し、新鮮なものは沈んで、古いものは浮かびがちなんです」
卵を割ってみると、黄身の色が赤みが強いオレンジ色で、輪郭がしっかりしている。
「間違いありませんね」
まもりが大きくうなずく。
最後に卵の黄身を乗せれば、『マグロと【アリピアの実】のユッケ丼』のできあがりだ。
「おおーっ!」
「見た目からおいしそうです」
できあがったユッケ丼は、新鮮なマグロの赤身と【アリピアの実】の淡い緑、そして卵の黄身が鮮やか。
四人は、さっそく一口。
「おいしいーっ!」
「マグロの漬け丼に、柔らかな食感の【アリピアの実】が混じった感じで良いですね」
「【アリピアの実】は少しバターっぽい風味もあるけど、味自体はあっさりしててよく合ってるわ」
「おいひいですっ!」
醤油風味のダシと、ごま油のかかったマグロという時点で間違いなし。
そこになめらかでクリーミーだが、マグロの味を損なわない【アリピアの実】は、やはりアボカドを思い出させる。
乗せられた卵黄の風味と濃厚さは、もはや贅沢の極みだ。
これにはリザードもガツガツと、しかし何気にスプーンを使って完食。
「塩分過多が気になります」
「ふふ、猫を飼ってるだけあるわね」
こうしてマグロと【アリピアの実】のユッケ丼は、すぐになくなった。
「「「「ごちそうさまでした」」」」
リザードも満足そうに、空にした丼を掲げてよろこんでいる。
「メイもそうだけど、真似してリザードも正座なの、本当におかしいわね」
いよいよ似た者同士感が出てきたメイとリザードに、笑うレン。
「耐久が一回で115も上がったよ!」
なんと数値の上がり方も、驚くほどの大きさだ。
見ればリザードも、両腕に力こぶを作るようなポーズで得意げにしている。
「続きもので手間がかかる分、上り方も大きいのですね」
【アリピアの実】は、猿に奪われてから取り返すまでにかかる時間で、新鮮さが減少。
選んだ料理とその調理の上手さでも、大きく経験値が変わる。
結果としてメイたちは、最高の流れを選んでいたようだ。
「このクエストもいいですね。他の料理も食べてみたいです」
「そ、そういうことでしたら、トルティーヤやサラダもお勧めですっ」
早くもこぼれそうになる涎を、拭うまもり。
「このクエストも、連続で狙ってみますか?」
「「いきましょうっ」」
まもりとメイの声が重なる。
「あの生意気猿たちには、もう一度爆炎を叩き込んであげるわ」
続くレンも、杖を手に気合を入れる。
どうやら、なかなか熱いクエストになりそうだ。
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