1255.伸び盛りですっ!
「よーし、それだけ取れれば十分だ! ご苦労様!」
青年は今回も、電信柱並みの高さに盛られたハニーフルーツを抱えて、一つも落とすことなく去っていく。
「これでステータスはどうなった?」
「5だった【敏捷】が……495になってる!」
「す、すごいですね……っ」
これには感嘆の声をあげるまもり。
今回もリザードは、恐ろしいほどの伸びを見せている。
「本当にステータスの伸びがいいわね。懐かない上に初期が弱いっていう弱点は、この伸び率を見越してたで間違いなさそう」
早くも数回のハニーフルーツ回収を終えた、メイたち。
リザードは、良い感じに育っている。
「ハ、ハニーフルーツ、どんな味がするのでしょうか」
そんな中、去っていく青年のカゴを見つめながらつぶやくまもりに、メイたちが笑う。
「でも、いい感じのクエストが見つかって良かったわね」
「本当ですね。内容によってはすごく楽ですが、経験値が少なかったり、時間が長くかかるものもあると聞きます」
プレイヤーの能力によっては効率が悪くなるものもあるため、当たり外れはあるクエスト。
そういう意味では、良い流れと言えるだろう。
「せっかくだし、村にも行ってみたいな」
「メイなら、新しいクエストにも気づきやすいかもしれないわね」
「それではクク・ルル村に向かいましょう」
こうして四人は、メイの故郷であるクク・ルル村へ。
すっかり慣れたリザードも、軽快なメイの動きをマネして進む。
たどり着いた村は変わらず鮮やかな花々で飾られ、以前の騒動などなかったかのように活気を取り戻していた。
「……あっ」
メイは『村を守るためにゴールデンリザードを打倒する』クエストの担当NPCを見つけて、わずかに頬を引きつらせる。
ちなみに高い経験値を誇るモンスターと戦うこのクエストは、今やすっかり人気になっている。
そんな中でメイは、以前とは違う場所に立っているNPCに気づいた。
「何をしてるんですかー?」
すっかり見慣れたNPCということで、メイは近所の住人に声をかけるような感じで近寄っていく。
「実は親戚の子が来るから、そのために料理を作りたいんだが……肝心の食材が手に入らなくてなぁ」
そこまで言ったところで、メイたちをあらためて見返す。
「おや、君たちは冒険者だったか。それならどうだろう。メインの食材を取って来てくれないか? その際は君たちもキッチンを使って構わないからさ! 美味いのに栄養価も高いから、食べれば君のモンスターも【耐久】が上がるんじゃないか」
「ここの【耐久】上げクエストは、食べて育って強くなるみたいな感じかしら」
「と、とてもいいですねっ」
これにはまもりも、大きくうなずく。
「ただ【アリピアの実】は、なかなか見つからない上に魔物の好物でもあるからなぁ」
ため息をつくクエスト主を前に、うなずき合うメイたち。
「わたしたちに、おまかせくださいっ!」
「本当か!? 【アリピアの実】は目立つ黄色味のあるオレンジ色なんだ。頼むぞ!」
「りょうかいですっ!」
こうしてメイたちは、再びジャングルに出る。
「【アリピアの実】は、どこにあるのか知っていますかっ?」
再び西部に向かって進む、四人とリザード。
メイがたずねると、木でブラブラしていた蛇が「あっち」とその顔を向ける。
「ありがとーっ!」
メイは当然のように、挨拶をかわして進む。
するとその先には期待通り、鮮やかなオレンジ色の実が一つ生っていた。
「早かったわね」
メイは軽々と木に登り、【アリピアの実】を手に取った。
しかし、その瞬間。
「えっ!?」
突然現れた明るい紫色の猿が、【アリピアの実】を奪って逃げていく。
「メイ! これは果実の奪い合いクエストよ!」
「りょうかいですっ! 【バンビステップ】!」
メイはすぐさま追いかける。
実はなかなか難易度の高い、このクエスト。
木の上というルートもあるジャングルで魔物を追いかけるのは、簡単ではない。しかし。
「【モンキークライム】!」
メイは逃げる『シーフモンキー』と同じルートを通って後を追い、木の枝のしなりを利用して跳躍。
うんていの要領で枝を使って進んでいく速度は、もう猿より速い。
「【ラビットジャンプ】!」
そして狙いをつけたところで跳躍し、そのまま猿を捕まえる。
「さすがメイさんです。一瞬の迷いもないですね」
【加速】で追ってきたツバメや、まもりの目印になるよう飛ぶレンでも『ルート』選びに迷う中、メイは見事に最短を選んで捕獲に成功。しかし。
「ああっ!?」
シーフモンキーが投げた実を、キャッチしたのは二匹のコンビ猿。
「あざっす!」みたいな、挑発的な笑みを一つ残して逃げ出していく。
「待ってーっ!」
メイはすぐさま、二匹の猿を追う。
【アリピアの実】をパスし合いながら木々を駆けることで、狙いを定めさせないやり方は見事。しかし。
「避けてくださーいっ!」
メイが【密林の巫女】で頼むと、猿の乗ろうとした枝がすっと避けてみせた。
「ッ!?」
猿は「えっ!?」みたいな顔をしながら落下。
地面を転がった猿の手から、【アリピアの実】がこぼれ落ちた。
「【アリピアの実】は、返してもらいま――――ああっ!?」
それをメイが拾おうとしたところで、先んじたのは八匹のシーフモンキーチーム。
逃げる八匹を追いかけると、今度は陣形を組んで振り返り、攻勢を仕掛けてくる。
どうやら今度は、実力で排除するつもりのようだ。
飛び掛かってくる、四体の猿。
メイはその【引っかき】をかわしつつ、尻尾で反撃。
「【尾撃】! はい、はい、はいっ!」
尾による突きと払いで、猿たちの攻撃を払いのける。
すると五匹目は魔法を使用し、木の上から火炎放射を放った。
「【装備変更】っ!」
これを【王者のマント】で受け止めながら、火炎放射猿を置き去りに突き進む。
「【ターザンロープ】!」
この隙に大きな跳躍で逃げようとする【アリピアの実】を抱えた猿を、空中で捕まえる。
落下した六匹目は、パスしようと両手で持った実を投じようとするが――。
「ないすーっ!」
ついにここで【敏捷】も上がっているリザードが参戦し、タックルで六匹目を転がした。
すると今度は、七匹目がフォロー。
手にした実をプロペラ回転させるような形で投じ、八匹目に託す。
「もうアメフトじゃない!」
その見事なロングパスに、言わずにはいられないレン。
「【装備変更】【バンビステップ】!」
しかしメイは頭装備を【鹿角】にして、距離を詰める。
やはり単純な移動ではメイが速く、猿をしっかり追い詰めていくが――。
「ええええええ――っ!?」
なんとそこに現れた紫猿の合計は、32匹。
全員がメイの方に振り返ると、その手には石。
「一斉投擲っ!?」
全ての猿が、同時に投じる石での攻撃。
「【グリーンハンド】【バンブーシード】!」
対してメイも、竹を生やして壁に変える。
こうして見事に、猿の攻撃を防いでみせた。
「あぶなかったぁ」
喰らえばその隙に逃げられていたのだろうと、安堵の息をつくメイ。
「……あれ?」
しかし全ての攻撃を防がれた猿たちは逃げず、なぜかこちらに背を向けたまま、その場で入り乱れる。
そして振り返った時、猿たちの手には何もなかった。
「ああっ、もしかして隠したのーっ!?」
付近には茂みや木のうろ、足元にも草や柔らかい土。
わざとらしく両手を開いて、得意げな顔をしてみせるシーフモンキーたち。
「うわ、腹立つ顔するわねぇ」
そのナメた表情に、追いついてきたレンが嘆息する。
「とても自信ありげです」
「こ、これは大変ですね……」
猿は動物ではなく、魔物だ。
打倒してから探してもいいのだが、できればここで見つけて勝ち誇りたい。
そうプレイヤーに考えさせたいという狙いがあるのだろう、このクエスト。
先頭に立った猿が片手を突き出し、開いてみせた。
「五回で当てられなかったら、こっちの負けってこと?」
問いかけると、猿は大きくうなずく。
「一応、私がやってみてもいい?」
メイがうなずいたのを見て、レンは猿たちを見回していく。
そして目が合った瞬間、そらした個体の足元を掘り返してみると――。
「……何もない」
その瞬間「引っかかった」とばかりに、猿たちが手を叩いて笑い出す。
爆笑だ。
「腹立つ笑い方するわね……っ!」
軍団で馬鹿にするような仕草に、頬を引きつらせるレン。
「まあいいわ。そういう事ならメイ、お願い」
「りょうかいですっ!」
メイは猿たちの周りをゆっくりと歩き、やがて一匹の猿の前で足を止めた。
そして、その背後にあった草の間を調べると――。
「あったー!」
見事に【アリピアの実】を掲げてみせた。
「フルーツっぽい匂いがしてたからね。すぐに分かったよ!」
その瞬間、「やられた!?」みたいな顔をした猿たち。
今度は一斉に、実を力づくで取り戻すためにメイのもとに駆けつけようとして――。
「はい、【フレアバースト】」
レンの爆炎に、吹き飛ばれた。
「挑発するには、ちょっと相手が悪かったわね」
気づけば鹿の角に毛皮を羽織り、ロープを握った野生児モードのメイ。
こうしてクク・ルルの王に敗けたシーフモンキーたちは、尻尾についた火に大慌てしながら、逃げ去っていったのだった。
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