1254.敏捷を磨きますっ!
ハニーフルーツの回収のため、始めた新たなクエスト。
噴水のような形の低木に実った果実を、取って回るのがリザード。
そこに攻撃を仕掛けてくるギャングビーの攻撃を、かわして叩くのがオトリ役であるメイの役割だ。
このクエストのポイントは、敵がどうであれ『回収した果実の個数』でステータスがあがるという事。
「きたっ!」
さっそく四匹のギャングビーが、その針を向けて特攻してくる。
その攻撃は速く、なかなかに鋭い。
「はいっ!」
しかし直線的な攻撃は、広く視界を取っていれば早々当たらない。
針以外は怖くないことを知っているメイは、肩に羽が当たるほどの小さな動きで刺突を回避。
動きが小さければ、それだけ隙も小さくなる。
二匹目、三匹目の攻撃も余裕の回避。
ターンして続ける攻撃には、足を動かすことすらなく避け切ってみせた。
しかしその中の一匹は、攻撃をせず滞空。
メイの前に三匹、後方に一匹という有利な陣形を取ってみせた。
三匹が動くことでメイの意識を引きつけ、その隙に背後の個体が攻撃体勢へ。
一直線に刺突を狙いに行くが――。
「はいっ!」
これが、当たらない。
「メ、メイさん凄いですね……っ。後ろにも目があるみたい」
「蜂だったのが良くなかったわね」
「はい。あの大きさですし、飛ぶたびに羽音が鳴ってしまうのが致命的です」
蜂型の魔物が切っても切れないのが、その羽音。
聞こえの良いメイにとっては、「今近づいて行ってます」という合図も同然だ。
「はいっ!」
そのため、背後からの攻撃もまるで当たらない。
そして見事な回避は、メイに攻撃の余裕を生む。
「【投石】!」
メイへの攻撃を取り止め、リザードを狙いに行こうとした個体を弾き飛ばした。
「はい【キャットパンチ】!」
システムが分かってしまえば、後は数を減らすだけ。
次々に補充されていくギャングビーを、メイは攻撃をかわしながらの拳打で減らしていく。
「お見事ですね」
「はひっ」
この隙にリザードは、次々にハニーフルーツを背中のカゴに入れていく。
「……ん?」
そんな中で、突然聞こえ出した盛大な羽音。
「一定以上の数をひろったら、そこからは難易度がグッと上がってステータスアップを制限してくる感じなのね」
現れたのは、もはや一つの『個体』に見えるほどの蜂の群れ。
これにはさすがに、息を飲むレン。
パーティで参加してもいいように、敵のパターンを調整してある状況。
魔法で加勢してもいいのだが――。
「がおおおおおお――――っ!」
メイの【雄叫び】一つで、ギャングビーたちがまとめて地面に落ちる。
「これですね!」
「気持ちいわね、これ……!」
獣のポーズと共に放った空気を震わす咆哮は、喰らえば飛行型の『羽ばたき』を止めるため、恐ろしいほどに有利。
そしてこうなってしまえば、あとは簡単だ。
「いーちゃん、お願いしますっ!」
現れたのは、腕を組んだ状態で出て来た白いイタチ。
巻き起こす風が、地に落ちたギャングビーたちを一掃する。
「いーちゃんさんは兄弟子に当たるのですね、ちょっと心配です」
「ふふっ。兄弟子って大抵、優秀な弟弟子の前にふてくされて暴れるのよね」
「そ、その展開、見たことあるような気がしますっ」
レンたちがそんなことを話していると、次は茂みの一つが震え出した。
注意深く見守るメイ。
するとその直後。
「っ!?」
弾丸のような速度で、一匹のギャングビーが飛び出してきた。
「うわっと! 【アクロバット】!」
これをメイがバク転でかわすと、ギャングビーはそのまま近くの木の幹に突き刺さった。
どうやらさらに、クエストはレベルを上げてくるようだ。
ギャングビーたちは四方八方にある茂みから、次々に高速の刺突を仕掛けてくる。
さらにその針に『痺れ』の状態異常を乗せた戦闘モードでの攻撃は、このクエストの最難関要素。
「右っ! 次は左っ! その次は後ろっ!」
すでに一定以上の成果を出しているからこその、高難易度化。
それは蜂包囲網を乗り越えたプレイヤーを、ここで止めるための攻勢だ。しかし。
「【投石】!」
今回の攻撃がリザードの方も狙うのであれば、少し気合を入れる必要あり。
メイは最速での【投石】連射を開始。
「右右左! 次は前!後ろ! また左二番目っ!」
そして、レンとツバメが自分の目を疑う。
「……蜂、出てきてる?」
「これは出てくる前に、倒されているのではないでしょうか」
「は、蜂の発生が茂みや木の葉の後ろで、その時点でメイさんが音で判断して石を投げているのかも……っ」
まもりの予想は正解だ。
メイは茂みなどの中にギャングビーが発生し、羽音を鳴らした時点で【投石】を発射。
そのため姿を見せる前に倒されるという、とんでもない状況が生み出されているのだった。
「一見すると、メイがあさっての方向に石を投げまくってて、リザードが収穫の喜びを感じながらいい汗をかいてるように見えるわね」
これといった危機もないリザードは、一生懸命ハニーフルーツを取ってはカゴに入れている。
時々見せる、額を汗を脱ぐような仕草にはもう、爽やかさすら感じる。
「右に避けてー」
メイが言うと、言われるままリザードは右に一歩動く。
するとさっきまでいた場所に、ギャングビーが突き刺さった。
突然出てくるモンスターが、高速で狙ってくるという最後の難所。
そんな最後の試練も、「そこぬかるんでるから気をつけてね」くらいの注意一つで、難なく回避。
「よし、それくらい取れれば十分だ!」
ここで青年が、果実取りにストップをかけた。
時間が終わるまでは、いくら取ってもまた生える仕様のハニーフルーツ。
受け取った青年は、うれしそうにカゴを抱える。
「鉱石の時もそうでしたが、あれだけの果実の山を抱えてこぼさないクエスト主さんのバランス感覚は、異常ですね」
田舎で見るような収穫用のカゴに、どこまで『かき氷を高く盛れるか』を競ったかのような量のハニーフルーツ。
そんな光景を見て、ツバメが楽しそうにほほ笑む。
こうしてステータス上げの新クエストも、最高の結果で終えたのだった。
「助かったよ! これで無駄を出すことなく収穫できた! これも勇猛果敢な冒険者のおかげだな!」
青年は電信柱くらい盛られたハニーフルーツのカゴを背負って、歓喜のまま帰って行く。
「なんかあっさり終わったし、このクエストも少し続けてみる?」
「はいっ!」
仲良く一緒に手を上げる、メイとリザード。
「【筋力】に続いて【敏捷】のジャンプアップ間違いなしですね。早くもメイさんの、トカゲ一族の脅威が引き継がれそうな気配です」
「た、楽しみですっ」
やがてまた、肩を落としながら帰ってくるクエスト主を確認。
クエストが終わる度に一足飛びで強くなっていくリザードの姿に、ワクワクし始めるツバメたちだった。
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