1251.トレーニング、スタートです!
星屑運営の次なる企画は、育成したモンスターで頂点を目指すというもの。
ステータス上げやスキル取得は、予選開始まで。
参加者たちはさっそく、各々のモンスター目当てに散っていった。
「大会の開始時間までに、どれだけ鍛えられるかっていう勝負になるのね」
「その中でなら、上限はないという感じですね」
デモンストレーションでメイが引き当てたのは、まさかのリザード。
リザードマンの幼少期みたいな姿のモンスターは、白と砂漠のようなベージュの身体。
長めの尾で、二足と四足の歩行を使い分ける。
「め、目が可愛いです……っ」
そして何より、まん丸の黒目だろう。
「聞いた話だと、満遍なく総じてステータスが低いのに、動物値が高くてもあまり命令を聞かないから、従魔としては全然選ばれてないって話だけど……」
「全力で懐いていますね」
すでにメイの肩に抱き着いている姿には、まるで警戒心はなし。
これが野生児の持つ、圧倒的動物値の力だろう。
「この後は、スキルの発見かステータスの向上を目指す形になるんだけど、どうする?」
「場所は自由なんだよね?」
それこそ育成に関わる要素は、町や村だけでなく、山にも海にもある。
「サマラの近くだと、山、川、海もあるけど……リザードとメイだし、クク・ルルはどうかしら」
「た、楽しそうですねっ」
ジャングルでの修行を、今度はトカゲにさせる。
その光景は面白そうだ。
「確かに、修行にはもってこいかも……っ」
これにはメイも「なるほど」と、うなずく。
鮮やかな緑に、降り注ぐ陽光。
美しい川の流れに、青く輝く海。
そしてたくさんの魔物と、要素は充分だ。
「とにかく一度行ってみましょう」
「りょうかいですっ!」
こうして四人は、サマラからセフィロト丸でラフテリアへ。
そこからは低空飛行で、海の輝きを見ながらクク・ルル島を目指す。
「動物値が高いのなら、初期ステータスが高いモンスターを狙ってテイム。スキルの発見に時間を使う方が確実そうなんだけどね」
リザードはとにかく平均的に低性能。
何か一つの特技で突破みたいな形は、できそうにない。
「育て方も本体の特性に合うステータスにするか、使いたいスキルに合うステータスにしていくか。色々ありそう」
特性のないステータスはなかなか上がらないし、一定のところまで来ると成長が終わる。
よって、トーナメント開始までに何を伸ばすかが大事になるようだ。
「……飛行艇特有の、島には着陸しにくい現象」
そして木々に包まれた島には、飛行関係の乗り物から降りにくいという2DRPG時代から続く展開をしっかり挟んで、無事船着き場近くにあった草原に駐機。
四人はクク・ルル島に降り立った。
するとさっそく、美しい緑のフィールドに駆け出していくメイとリザード。
「ふふ、散歩に来た犬のようなはしゃぎようね」
「と、とっても可愛いです!」
「まったくです……!」
それこそ飼い犬とドッグランに来たかのように、走るメイを追いかけるリザード。
「人間と動物の立ち位置が逆ですね」
ちょっとメイが速すぎて、リザードの方が置いて行かれがちという状況だが、どっちも楽しそうだ。
「それじゃあ、とにかく何かクエストを探してみましょうか」
「りょうかいですっ!」
そう言ってメイが手をあげると、ようやく追いついたリザードも真似して手を上げた。
四人とリザードは、クク・ルルの密林を進む。
「……あれ?」
メイが木から木へと飛び移りながら付近の様子を見ていると、以前のクク・ルルでは見かけなかったNPCの姿を発見。
「どうしたんですかー?」
声をかけると、中年男性NPCは「ぜえぜえ」言いながら押していた荷車を置いて振り返った。
「あっ」
まもりが声をあげる。
見ればメイが声をかけた瞬間に、ヒヒの魔物も、メイに狙いをつけたようだ。
メイと荷車男との会話は始まっているが、ヒヒもゆっくりと近づいていく。
「実は鉱石を掘って発送する仕事をしてるんだけど、今日に限って仲間たちがそろって食中毒になっちまって! 一人で何とかしようとしてるんだけど……普段外商とかをメインにしてる俺じゃ、必要最低限も持って帰ってこられそうにないんだ……」
見れば荷車には、両手で持ち運べるくらいの鉱石しか載っていない。
「完全な、筋力不足だな」
「筋力……モンスターの場合は腕の有無もあって、ステータスが【腕力】ではなく【筋力】なのよね」
「このクエストは、【筋力】のステータスを上げるものになる可能性が高いですね」
走り出した橙ヒヒは、そのままメイに接近。
「やあっ!」
まもりは【魔神の大剣】を振り払うが、橙ヒヒは大きな跳躍で飛び越えていく。
「こういう時は、モンスターにけん引を任せたりもしていたんだけど……出払ってるんだ」
「そういうことなら、わたしたちにおまかせくださいっ」
見つけた、最初のステータス上げクエスト。
メイがこれを受けたところで、凄まじい勢いで駆け込んでくる橙ヒヒ。
「「っ!?」」
思わずレンとツバメが驚きに目を見開いた、次の瞬間。
橙ヒヒは、容赦なくメイに飛び掛かる。そして。
「よいしょっ!」
メイに腕をつかまれると、そのままブンブンと回転。
「せーのっ! それーっ!」
そのまま木々の向こうに、放り投げられた。
少しして、遠くの方から木々の折れる音が聞こえてきた。
「……こういう予期せぬ流れ、結構好き」
「分かります」
「ク、クエストが始まったり終わったりした後の会話中に見られるやつですね。別の魔物は普通に動いていて、判定も残っているけど、HPは減らないし、NPCも魔物の存在をいないかのように扱うという……っ」
会話の間に投げ飛ばされた橙ヒヒと、目の前で体高2メートルに届こうかという魔物がぶん投げられてもまるで反応せずに喜ぶNPCの落差に、笑う三人。
「よろしく頼むよ! 今はまさしく、猫の手も借りたい状況なんだ!」
こうして荷車男は、ヒヒを素手で投げ飛ばす化け猫少女に、力を借りることになったのだった。
「聞いた話では、モンスターは主人の動きや癖なんかを学ぶらしいわ」
「それはリザードの成長が気になりますね」
「はひっ」
そんなレンの情報に、思わずワクワクするツバメとまもり。
こうして、リザードのステータス上げ特訓が始まった。
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