1248.イベントの始まりです!
イベント会場となるサマラには、多くのプレイヤーが集まっていた。
港から近く、ポータルもあるため賑やかなこの街。
普段から天候もよく、緑も多い普通の街といった風情だ。
RPGなら、最初の街でもおかしくない。
「いやー、楽しみだな!」
「今回のポスターとか宣伝もすごかったよな!」
集まってきたプレイヤーは、現実で見かけた映像やビルの一面を覆う形で貼られた広告を思い出して、足取りが勢いづく。
そしてここサマラにも同様に、各所にポスターが貼られている。
街はいつもの何倍も混み、雰囲気は早くもお祭りの様相だ。
「ここですよ」
「ちゃんと無事だったぽよっ」
迷子がサマラの一角で正座待機を始め、掲示板組が飲食品を持ち込み監視する姿は、さながらお花見だった。
ようやく始まるイベントを前に、スライムに引っ張られてたどり着いたのは特別会場。
サマラの街の南部に作られた空間は、一面の芝生にラインが引かれていて、一見するとテニスコートのようだ。
そこにはすでに、たくさんのプレイヤーが集まってイベントの始まりを今や遅しと待っている。
「おい見ろ! 魔法陣が!」
芝生に描かれていく魔法陣に、自然と視線が集まる。
陣から昇る輝きに視線を奪われていると、そこに現れたのは見たことのない制服を身にまとった、運営の面々。
「我々は今回のイベントを企画した、スターダスト団です!」
全員がそろいの白色のレザージャケットに、細身の灰色パンツ、そして目の覚めるようなオレンジのキャップをかぶった十人ほどのチーム。
「それでは皆さんに、リーダーである私キャインが、今回のイベントの内容を説明させていただきます!」
キャインという中年の男が、陣の中央でイベントの内容を語り出す。
「我々はこの世界に住む無数のモンスターたちの、新たな可能性を模索したいと考えました! 様々なスキルを用いて戦い、成長するモンスターたち。それは冒険者たちの仲間であり戦友。全てのモンスターと絆を深めることができるわけではありませんが、一体その中でどのモンスターが最も強いのか。誰が一番モンスターを成長させられるのか。私は知りたい!」
「「「おおーっ」」」
リーダーの語りに、あがる感嘆。
「それってもしかして……」
同時にこのイベントの方向性に、気づき出すプレイヤーたち。
「そこで我々スターダスト団は、正式にモンスターバトルの大会を開催することを宣言いたします!」
「「「「おおおおおおおお――――っ!!」」」」
一斉に、あがるどよめき。
「プレイヤーはあくまでモンスターを成長させ、バトル時には指示を出すトレーナーかつ監督役。本人ではなく、育てたモンスターでの頂上決定戦。その名も――――モンスター・ワールドグランプリ!」
「「「「おおおおおおおおおお――――っ!!」」」」
ついに来たかと、盛り上がるプレイヤーたち。
「従魔や使い魔、召喚獣は現在全国で300種類のモンスターの中から選択可能ですが、さらに今回のために追加された300種を足して、600種類の中から選んで戦うことができます! ただし今回、バトルの相棒として育てられるのは一体のみ!」
「もともと結構いたけど、さらに倍か……!」
「これはモンスターの選択から悩みそうだなぁ」
リーダーの説明に、早くも興奮が広がっていくプレイヤーたち。
「動物値の高さは有利に働きますが、ステータスの成長やスキルの入手が上手くいくかは別問題! またモンスターの特性や使用スキルの相性も大きく関わってきます! そして順位だけではなく、様々な角度から表彰モンスターを選出。その成長度や勝利数などに合わせた報酬も用意しておりますので、皆さん奮ってご参加ください!」
そう言ってリーダーは頭を下げると、自分に注目を集めるかのように手を上げた。
「それではここで、お集りの皆さまにデモンストレーションをお見せしようと思います!」
新たに生まれる魔法陣。
そこから現れたのは、今イベントの広告で主役を演じるメイだ。
「「「「おおおおおおおおおお――――っ」」」」
またも大きな歓声が上がる。
「メイさんと言えば、たくさんの動物たちと共に戦うプレイヤーとしても有名です。イベントの始まりを飾る戦いの相手に不足はありません!」
「負けないよーっ!」
「出でよ! ドラゴンソルジャー!」
リーダーの右手に付けた薄い宝珠付きグローブが光ると、足元に生まれる魔法陣。
そこから現れたのは、2メートルほどの黒色竜。
二足で立ち、鋭い爪を持つ腕を持つその身体は、ずっしりとした重量感のある個体。
その登場のカッコ良さに、歓声が上がる。
「来てっ! いーちゃん!」
対してメイもグローブを掲げると、足元に描かれていく魔法陣。
そこから現れたのは、仁王立ちの白イタチ。
愛らしいイタチが短い腕を組んで現れたことに、今度は『動物好き勢』が胸を撃ち抜かれる。
「モンスターバトル、スタート!」
始まる戦いは、誰がどう見てもドラゴンソルジャーの圧倒的な勝利を予想してしまうもの。
それだけの迫力、このモンスターは持っている。
「ゆけドラゴンソルジャー! 【紅蓮弾】!」
リーダーの指示で、放たれる三つの火炎弾。
「いーちゃん! かわして接近!」
するとメイの指示に合わせて、いーちゃんが四足モードで走り出す。
そしても右左右というジグザク走行で、一気に距離を詰めていく。
「いーちゃん! かまいたち!」
反撃は、空刃の放出。
「ドラゴンソルジャー! 防御だ!」
これを防御で防いだドラゴンソルジャーに、リーダーは即座に反撃の指示を出す。
「【爆炎ブレス】だ!」
続けて放たれるのは、猛烈な火炎。
付近を照らし出すほどの豪快な爆発に、炎が大きく燃え上がる。
「いーちゃん、【ウィンドストーム】!」
しかしメイは迫る炎に、暴風をぶつけて霧散させた。
飛び散る火の粉が辺りを赤く彩り、大きな歓声が上がる。
「いーちゃん!」
「ドラゴンソルジャー!」
最後は両者が、同時に走り出す。
「【ドラゴンクロー】!」
放たれるのは、大きな斬撃エフェクトを生み出す、爪の豪快な振り降ろし。
「いーちゃん! 右に二歩だけズレて跳躍!」
メイの言う通りいーちゃんが軌道を二歩分だけずらすと、なんと爪の『隙間』を抜ける形になった。
体の小ささを使った見事な回避に、誰もが息を飲む。
いーちゃんは走り出し跳躍、空中で華麗に回転すると――。
「そのまま【烈風蹴り】だああああ――――っ!」
隙を晒しているドラゴンソルジャーの額に、小さな足で流星のような飛び蹴りを叩き込んだ。
その瞬間生まれた烈風に吹き飛ばされた黒のドラゴンは、地面をバウンドして転がった。
着地したいーちゃんは再び、得意げに腕を組んでみせる。
「いーちゃん、ないすーっ!」
「「「「おおおおおおおおおお――――っ!!」」」」
小さなイタチが、強者であるドラゴンに勝つ。
そんな番狂わせ演出に、盛り上がる会場。
メイとリーダーのモンスターバトルは、会場を最高に盛り上げてみせたのだった。
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