1244.新生飛行艇団
「やったー!」
「お見事でした!」
「やったわね!」
「す、すごかったです!」
セフィロト丸・リヴァイブに戻ってきたメイは、そのまま甲板に着地すると、レンたちと抱き合って歓喜する。
「やりましたわね」
「気持ちいい戦いだったな!」
「本当っスねぇ」
白夜やナギ、ディアナといった紅の翼のエースたちも、満足そうにうなずく。
粒子になって消えていく、巨竜。
消えていく花火のような光景に、ブライトに集まっていたプレイヤーたちが感嘆する。
「勝ったぽよ!」
「勝ったぞおおおお――――っ!!」
紅の翼のクループレイヤーたちも、喜びの声を上げる。
うっかり飛び跳ねて、慌ててなかったことにしようとする樹氷の魔女。
今回ばかりは舞台が空という事で、いつの間にかウィンディア側の飛行艇にいたこと以外は問題なしの迷子も、拍手で喜びを露わにする。
皆で勝ち取った勝利に、わき立つ夜空。
ダメージは、恐ろしいほどに軽微だった。
なんとセフィロト丸合流後の離脱機体は、奇跡のゼロ。
ウィンディアと紅の翼による共闘は、見事にブライト王国を守り抜いた。
流れを敵に渡さないまま危機を乗り越えたことで、自然とあがるテンション。
夜空に並ぶ飛行艇たちの中、自然と兵長がエアのもとにやってくる。
「礼を言うぞ――――ウィンディア」
「我らにとっても、ブライトは故郷だ。それを守る紅の翼とぶつかる理由は、本当はないのだろう」
「この件はブライトの評議会に持ち帰ろう。あの驚異的な魔物を押し返すのに、ウィンディアの新機体やそれを駆るパイロット、クルーは必須だった。協力と競争は、必要な要素なのだろう」
「同時にこれだけの力だ。ブライト王国の言う通り、何者かも知らぬ悪人に渡る真似は防がなくてはならない」
「協議の場を持とう」
「それがいい」
紅の翼とウィンディアが、共闘によって雪解けを始める。
「良い落としどころになりそうね」
「そうですね」
「よかったー!」
「は、はひっ」
互いの飛行艇から、向かい合う兵長とエア。
夜空に浮かぶ月と、飛行艇の照明が照らし出す二人の姿は、思わず目を奪われてしまうような光景だ。
「こういう形でまとまるクエストは、めずらしいですわね」
艦隊戦で一つ、どちらの勢力がメインになっていくかが決まる。
続けて大型飛行艇の奪い合いで、新機体の乗り手が決定する。
白夜はこのクエストの流れを思い出しながら、飛行艇の縁に腰かける。
「競争相手と最後には手を組んで、さらなる大物と戦う……少年漫画みてーだな」
「楽しかったっスねぇ。同じ大型クエストでも、この盛り上がり方。これが五月晴れっスね」
「メイン張ってるのが五月晴れじゃなかったら、奥義を放つ寸前の巨大なボスに、迷わず飛行艇特攻なんかしねえよな」
見れば紅の翼の後方部隊である、掲示板組を始めとしたクループレイヤーたちも楽しそうだ。そんな中。
「スライムちゃん! 迷子ちゃん! カッコ良かったよーっ!」
「最後の最後に、皆いい仕事してたわね」
「「「っ!?」」」
甲板から大きく手を振るメイと、隣で笑うレンに、思わず震える掲示板勢。
敵対するのも良いが、やはり共闘で得られるカタルシスは最高だ。
「レーザーの軌道が変わった瞬間は、熱くなりました」
「は、はひっ、予想外の展開でした」
「白夜ちゃんも! ありがとーっ!」
「わたくしの『つなぎ』は、貴方に助けられたからですわ。騎乗スキルも、まだまだメイさんには及びませんでしたわね」
白夜は笑ってみせながらも、素直な思いを口にする。
「狼コラボ、楽しみにしています」
「見てたんスか?」
ツバメはしっかり、メイとディアナの「がおー」ポーズを興奮と共に見ていたのだった。
頭の中にはすでに、二人が並んでポーズを取る瞬間を抑えた見開きページの絵が浮かんでいる。
「三人同時刺突も、もっと人数増やそうぜ」
「伸びる剣で参加したいですっ!」
そして同時刺突という、トップ同士だからこそできた豪快な一斉攻撃も、メイをワクワクさせていたようだ。
盛り上がりが止まらない、夜空での祝勝会。
「……ですが、ついにレンさんが光の力を持ち出した件は無視できませんわね。わたくしの読みでは、光だ闇だと言っていられなくなるような『来たるべき日』に向けてのもの。わたくしも、もっと力をつけなくては」
「そんな日は来ないから!」
レンはついにメイのような地獄耳で、白夜のつぶやきを否定する。
「分かっていますわ。真なる『闇』に踏み込むような恐ろしい真似をするのは、自分だけでいい。そういうことですわね」
「違ーう!」
そんな中、兵長とエアは話を続ける。
「後日、こちらから特使を出そう」
「了解した」
短く約束を交わし、飛行艇の引き上げを開始する。
紅の翼はしっかりと隊列を組んで、ウィンディアはバラバラに、基地へと帰って行く。
「あっ! イスカちゃんだよ!」
「おーい! どうだった!? もちろん勝ったんだよな!?」
滝を潜ってウィンディアの基地に入り込めば、当然イスカが駆けつけてくる。
メイは甲板の上から、満面の笑顔で応える。
「もちろんだよーっ!」
こうして、ブライト王国と飛行艇にまつわる戦いは幕を下ろしたのだった。
◆
「そろそろだな」
エアが合図を出す。
ウィンディアの面々が、乗り出す飛行艇。
その中にはもちろん、ウィンディア三号艇セフィロト丸・リヴァイブもある。
世界初のダブルフロートシステムを搭載した、世界一速く強力な飛行艇。
滝から落ちる水滴を弾き、陽光まぶしい空へ。
真っ直ぐに進む先に見えたのは、機工都市ブライト。
ウィンディアの機体は並んで進み、今回は低空飛行で街の上空を進む。
「おおっ! これがウィンディアの飛行艇か!」
「メイちゃんたちの船はあれだな!」
飛行艇の影がかかり、ブライトに集まっているプレイヤーたちが見上げる。
そのままゆっくりと進んだウィンディアの飛行艇たちは、王城へ。
そこにはたくさんのブライト国民とプレイヤー、そして飛行艇に乗った紅の翼の面々が集まっていた。
「わあーっ! すごーい!」
王城前に居並ぶ飛行艇という光景は、早々お目にかかれるものではない。
紅の翼と合流すれば、その数は50機。
全員がその場に滞空して、国王の登場を待つ。
「そ、壮観ですね」
並ぶ飛行艇の中心には白夜やナギ、ディアナの姿もある。
背筋を伸ばす白夜と、スティック菓子をくわえたままのナギは対照的。
一方ディアナは、「がおー」と手で合図。
メイも同じポーズで返し、ツバメとまもりが満足そうにうなずく。
「これより飛行艇団ウィンディアと、紅の翼の協定調印式を行う」
兵長とエアが、王城五階テラスから出てきたブライト国王のもとへ。
「外部組織としてウィンディアの存続と開発の自由は確約。飛行珠やフロートの管理は両者で分配して行い、新規の飛行艇所持者はブライト、ウィンディアの両者が認めた者のみになる。そして外敵の登場時には協力して戦う。落としどころとしては無難な感じかしら」
「私たちも、飛行艇の使用を許されているというのは嬉しいですね」
ブライト国王を前に、調印を終える兵長とエア。
兵士やクルーたち、集まった観客たちから湧き上がる拍手。
青空と城と、たくさんの飛行艇。
こうして機工都市ブライトをめぐる諍いは、最高の形で終焉を迎えることになった。
脱字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!
返信はご感想欄にてっ!
お読みいただきありがとうございました!
少しでも「いいね」と思っていただけましたら。
【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!




