1243.巨竜と飛行艇団
「そろそろ出てきたらどう? そこで見ているのも飽きたでしょう?」
【月光砲】に消えた、増援モンスターたち。
満月に照らし出される巨竜が、まるでレンの挑発に応えるかのように動き出す。
翼や額の結晶に輝く魔力は、その威容をひしひしと伝えてくる。
「いよいよ、詰めですね」
セフィロト丸・リヴァイブ以降まったくこちらの飛行艇が減っていないため、巨竜は全開で攻撃を仕掛けてくるだろう。しかし。
「このまま片付けてやるよ」
「負ける気がしないっスね」
「当然ですわ」
ブライト防衛隊に、不安の影すらなし。
飛行艇に灯った白い照明珠の輝きが照らし出す七人のエース。
居並ぶ飛行艇の輝きと、背後に見えるブライト王国の夜景。
吹き抜けていく風に髪が、ローブが揺れる度に、クループレイヤーたちも自然と意気が上がる。
「ギィアアアアアアアアアア――――ッ!!」
全身が震えるほどの、強烈な咆哮。
巨大な身体についた広大な翼を羽ばたかせて、巨竜が接近してくる。
その狙いは、やはり【月光砲】を放ったセフィロト丸・リヴァイブ。
気付いたツバメはすぐさま、速い飛行で巨竜の攻撃の軸を外しに動く。
直進で放たれるシンプルな【タックル】を、外側へ向かうような弧の動きで回避する。
「ここですっ!」
すれ違い際、まもりの放った砲撃が肩口で炸裂。
しかし巨竜は、そのまま後を追うようにUターンで後を追い、急上昇。
巨竜側に船の側面を向けているセフィロト丸に対して、上から圧し掛かるような攻撃を放つ。
「後退します!」
喰らえば一撃で大破もあり得る【圧し掛かり】に対して、全速後退。
隕石のような勢いで降ってきた巨竜をかわす。
「上がってくるよ!」
すぐさま甲板から下をのぞき込んだメイの言葉に、ツバメはセフィロト丸を回転させ、船首を後方に向け全速前進。
すると直後、巨竜は【突き上げ】を使用。
飛行艇の船尾から『海中から上がってきた怪獣』のような光景を見せながら登っていった。
これは喰らえば飛行艇を空中で回転させ、クルーを放り出す驚異の一撃だ。
「す、凄い迫力ですっ」
その光景に、思わず息を飲むまもり。
「ツバメちゃん、尻尾が来るかも!」
メイはこの巨竜が『羽ばたきで滞空しているわけではない』ことに気づき、同時に二足の魔物が尾を振る時に特有のモーションに目を止めた。
「縦だよっ!」
メイの言葉に、ツバメは一切の迷いもなく舵を切る。
すると巨竜の硬質な尾が、夜空を切り裂いていった。さらに。
「もう一回くるかも! 次は……横っ!」
「はいっ!」
今度は横に払うような、長い尾の一撃。
ツバメはすぐさま距離を取りつつ、同時に上昇。
尾による払いの範囲は長く広かったが、予想通り高い位置にはリーチせず、セフィロト丸は見事に回避に成功した。
ツバメは再び船の側面を巨竜に向ける形で、様子をうかがう。
すると距離が離れたことで、巨竜は額の結晶を煌々と輝かせ始めた。
「つかまっていてください!」
ツバメはそう告げて、ダブルフロートの出力を全開まで上げる。
放たれる、『払い』のレーザー。
ツバメはそのまま全速で空を駆け、払いレーザーに捕まることなく走り抜けた。
通り過ぎた魔力が、巻き起こす盛大な爆発。
「狙いは、ここからですっ!」
ツバメはそこから最高速で、『急な弧』を描く軌道で飛行。
惑星の輪のような斜めの大きな回転飛行で、レーザーの反動によって隙を見せていた巨竜の背後に回り込んでいく。
「なんだあの速度、あの軌道は!?」
「「いきますっ!」」
あがる驚愕の声の中、メイとまもりが声を合わせて大砲を発射。
巨竜の背中に爆発を巻き起こした直後、さらに手を構えたレンが続く。
「【コンセントレイト】【フレアバースト】!」
爆炎が巨竜に炸裂して上がる、猛烈な炎。
「ダブルフロート、本当にとんでもないわね……」
敵の背後を取りに行くという考え方は、戦闘機におけるドッグファイトのような形。
飛行艇でそれを狙うツバメの思考は、やはり少し変わっている。
「ツバメの意外な操舵が、むしろその高すぎる機動力にマッチしてるのね」
本来であれば、その巨体から放たれる攻撃の異常な威力で、プレイヤーを震撼させるはずの攻勢。
それでも譲られない戦いの流れに、巨竜は戦い方を変更する。
大きく広げた翼を全力で前に払うと、付近一帯を凄まじい暴風が荒れ狂い始めた。
「「「うおおおおっ!?」」」
流される飛行艇。
機体が大きく傾くほどの風に、飛行艇上のクルーたちが必死に付近のオブジェクトにしがみつく。
「来るぞ!」
パイロットたちは慌てて体勢を立て直そうと動く中、巨竜は慌てず進行。
その悠然たる姿に、覚える恐怖。
すると頭部の結晶体に、見たことない輝きが灯る。
距離を詰めたところで放つのは、【拡散レーザー】
空中で自然と分かれ、ジグザグの光線が夜空を駆けめぐる。
「「「うおおおおおお――――っ!?」」」
回避はほとんど不可能だろうという、一撃。
前方にいた十数機の飛行艇が、まとめてダメージを受けた。
「大丈夫だ! ダメージはそこまで高くない!」
派手な一撃も、拡散したためかゲージの減りは各機二割ほど。
しかし突然の接近とダメージに、各機はまだ落ち着かない。
そこを巨竜は、意外な形で突いてくる。
前方へ上昇しながらつかんだ、一機の飛行艇。
見せしめにでもしようというのか、つかんだまま上昇していく。
「「「うわああああああああ――――っ!!」」」
あがる悲鳴。
しかし舞い上がる巨竜の、後を追う者がいた。
「そうはいきませんわ!」
「助けないとっ!」
待機させていた従魔ラグナリオンに飛び乗った白夜と、ケツァールに乗ったメイはすぐさま追従。
魔物を追って夜空を上昇していく。
「いきますっ! 【蓄食】」
メイは取り出した【腕力】上げのバナナを、一気に接種。
「ごちそうさまでした! からの【ターザンロープ】!」
なんとつかまれた飛行艇の船尾にロープを引っかけて、魔物から奪い返そうと画策。
突然伸びたロープが張り、魔物とメイの綱引きが始まった。
「……嘘だろ」
その光景に、驚く『つかまれ』クルーたち。
飛行艇をつかむほどの巨体を誇る巨竜が、突然動きを止めた。
だがそれだけでは終わらない。
メイが飛行艇を、引き戻し始める。
「【ライトニングスラスト】【極光乱舞】!」
この隙を、白夜は逃さない。
レイピアを突き刺し、巻き起こす爆発。
ダメージを受けた巨竜が、つかんだ飛空艇から手を離した。
「うっわー!」
突然手を離した魔物によって、メイはケツァールの背中をコロコロと転がる。
「貴方たちは、すぐ陣に戻って!」
「「「はいっ!」」」
白夜の指示に、すぐさま高度を下げていく飛行艇。
当然魔物の狙いは、まさかの飛行艇奪還を果たした二人に向かう。
放たれる【大空刃】
白夜とメイは、喰らえば一撃で終わりそうな風の刃を、高度を下げることで回避。
すると今度は、広範囲への【かまいたち乱舞】が放たれた。
「まずは右側に回り込む感じで! それから上昇してすぐ下降! ここでプロペラみたいに回転っ!」
これをメイは、的確なコンビネーションで見事に回避。
するとそこに飛んできたのは、一直線に飛来する水平空刃。
「【アクロバット】!」
メイは跳んだ本人とケツァールの間を空刃が抜けていくという、驚異的な回避を披露。
「…………っ!」
対して白夜はもう言葉もなく、とにかく全ての神経を注いで避けに徹する。
肩を裂かれるにとどめたのは、十分な快挙だ。
だが、巨竜の攻勢は止まらない。
その口内に現れたのは、豪炎のまばゆい輝き。
放たれた【烈火豪炎弾】は、誘導気味に飛んできて花火のように爆発する。
「くっ!」
その攻撃範囲に、メイと白夜は巨竜を中心にした円を描く飛行を続けることで、回避に専念。
すると巨竜は、さらに火力を上げる。
【烈火炎弾乱舞】は、豪炎弾を同時に数十発放つ広範囲高火力の奥義技だ。
それこそ花火のラストを飾る、乱舞のごとき爆炎。
「いーちゃんっ!」
しかしメイの肩に現れた白いイタチが巻き起こす暴風が、爆炎を一時的に吹き飛ばした。
メイはケツァールに滑降させることで、ブライトに集まったプレイヤーたちが感嘆するほどの猛火を、ノーダメージで切り抜ける。
「厳しい状況ですが……メイさんの狙いは……っ!」
風で炎の到達が遅れたことで、見えた道筋。
メイ個人なら余裕で回避できたであろう状況で、あえて風を吹かせたのは。
「わたくしも助けるため」
メイの狙いに気づいた白夜は、覚悟を決めて飛行。
次々に爆発する炎弾の中を、必死の操縦で抜けていく。
「っ!」
頬を焼いていく炎、肩や脚を弾く烈風。
ラグナリオンにも、何発もの炎弾がかすめた。
余波に大きくフラつきながらも、白夜は必死に体勢を維持。
距離感以外の全ての感覚がなくなるほどに集中し、HPゲージを1割ほど減らしながらも、どうにか生存に成功した。
大きくつく、安堵の息。
「助かりましたわ」
レイピアを軽く持ち上げて無事を伝えると、気づいたメイが笑顔で返す。
しかしこの瞬間こそ、巨竜がその驚異を見せる瞬間。
全身にみなぎっていく魔力が、その身体を妖しく輝かせる。
身体に魔力をみなぎらせての一撃は、直撃すれば何機でも飛行艇を落とす、もう一つの奥義だ。
さらに。
「何かいる……!」
メイの【聴覚向上】と【夜目】が、飛来する最後の親衛隊モンスターを発見。
羅刹鳥は巨大な灰色の身体に、鉤のような嘴と白い大きな爪があるボス級個体。
その攻撃に手間を取られることになれば、巨竜の体当たりによる撃墜が決まる。
そんな、非常な連携だ。
「わたくし……?」
その狙いは意外にも飛行艇ではなく、息をついたばかりの白夜。
現状自分が『落ちても』飛行艇に被害はなく、さらに攻勢をかける隙が生まれる可能性がある。
白夜は悩んで、羅刹鳥を回避したところを狙ってくる巨竜の体当たりも避けるという無謀を、「やるだけやろう」と決意。
決死の回避行動に、踏み出そうとしたところで――。
「それでは――――よろしくお願い申し上げますっ!」
「っ!?」
目の前を、巨大なクジラが飛んでいく。
水しぶきを上げ、夜空を舞う巨体はそのまま羅刹鳥を押しつぶしながら、魔法陣に消えて行った。
「エ、【エアブースト】!」
夜の空を、月明かりに照らされ舞ったクジラ。
そのとんでもない迫力に唖然とする白夜だが、これまでの経験から「メイの戦いが常識の範疇に収まったことなんてない」と思い至る。
即座に意識を切り替え、羅刹鳥の消失で突撃が出遅れた巨竜へ接近。
「【ツインストライク】!」
意地で先手を打てば、そこに続くのは動き出していたトップ勢たちだ。
「【グレートジャンプ】【急速降下】【ノーザンクロス】!」
魔物頭部に、ナギが巻き起こす爆発。
「【スピリット・キングウォーウルフ】!」
飛行艇を足場にして跳んだ、巨大な狼の霊が喰らいつく。
「【斬鉄剣】!」
駆け抜ける飛行艇での一撃が、深く大きな傷を巨竜の身体に刻み込む。
失いかけた流れを、それでも飛行艇団は譲らない。
あがる大きな歓声。
必死の白夜と、空すら制するメイから始まった連携で、一気に巨竜が追い込まれた。
しかし巨竜は、ここで最終奥義へとつなぎ逆転を計る。
連続攻撃のために、近くに集まっていた多くの飛行艇たち。
「ギャアアアアアアアアアア――――――ッ!!」
「「「ッ!!」」」
一瞬で硬直。
【大咆哮】からの流れは、巨竜が持つ選択肢の中でも最悪の連携。
『溜め』からの『払うレーザー』である【ラストフラッシュ】は、全てを吹き飛ばす最強の一撃。
連携のために距離が離れていたメイと白夜は生き残れても、多くの犠牲は止められない事態だ。
誰もが、そう覚悟したその瞬間だった。
「行くぽよぉぉぉぉぉぉ――――ッ!!」
「了解です――っ!!」
ここで上がった、大きな鬨の声。
後方の飛行艇団は、無謀を承知で動き出していた。
掲示板組を始めとしたパイロットたちが選んだのは、まさかの――――特攻。
十二機もの飛行艇が一斉に全速前進し、なんとそのまま巨竜の胸元に激突した。
激しい衝突音と共に、大きく揺らぐ巨竜。
だが、これだけでは終わらない。
「「「撃てぇぇぇぇぇぇ――――っ!!」」」
そのまま放つ砲撃が、爆炎を上げる。
巨竜のHPと共に大きく減る、飛行艇のゲージ。
「荒々しすぎでしょ……! でもっ!」
「最高の仕事です……っ!」
掲示板組の特攻によって生まれた、体勢の変化。
放たれた払いレーザー攻撃【ラストフラッシュ】は、その狙いを大きく外して上空を駆け抜けた。
直後、ブライトの街にまで届くほどの衝撃が巻き起こり、夜空を壮大な爆発が彩る。
昼に戻ったかのような猛烈な輝きの後、そこに残るのは……大きな隙だ。
メイたちと一緒に戦う時に特有の、掲示板組や参加者たちの異常な一体感が生み出した一撃が、契機となる。
「「撃てぇぇぇぇぇぇ!!」」
硬直から解き放たれたエアと、兵長の声で始まる『一斉砲撃』
「ここだ!」
ジャルルも、自作の閃光砲で参加。
「う、撃ちますっ!」
「【滅多打ち】【フレアストライク】!」
まもりは砲手として、レンは炎砲弾の連射で一斉砲撃に参加する。
爆発が爆発をつなぎ、大きな一つの爆発となって巨竜を焼き尽くす。さらに。
この時メイは、魔物の下からケツァールで接近。
「大きくなーれ!」
構えた【蒼樹の白剣】を伸ばし、上昇しながら全力で振り上げる。
「いきますっ! ライジング【ソードバッシュ】だああああああ――――っ!!」
腹部からあごの下へ。
振り上げられた一撃が放つ、盛大な衝撃波。
月が揺れて見えるほどの一撃は天空に抜け、遅れて風が吹き荒れる。
その風はなんと、遠くウィンディアの基地に届くほど。
「「「「うおおおおおおおおお――――っ!!」」」」
ゲージを失い消えていく魔物と、あがる大きな歓声。
新生飛行艇団はなんと、ただの一度も巨竜の狙う攻勢をさせないまま、劇的な勝利を飾ってみせた。
セフィロト丸・リヴァイブの到着以降に『落ちた』飛行艇はなんと、驚異のゼロだった。
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