1242.流れは譲りません!
「いけいけーっ! この勢いのままモンスターたちを押し返すぽよ! 発射!」
「いきましょう! 【ジェット・ナックル】!」
紅の翼9号艇は掲示板メンバーが多く、見事な戦術でモンスターたちを打倒。
付近の飛行艇まで守るような戦いは、もちろんメイたちによる凄まじい攻勢の恩恵と、『敵だったメイたちとの共闘』という展開にテンションが上がったためだ。
「【臨海氷樹】!」
飛行艇の甲板に現れた氷の大樹が、敵を巻き込み切り裂く。
生き残ったモンスターも凍結しているため、後はトドメを刺すだけだ。
「……何か動きがあるかも?」
メイが気づいたのは、巨竜が繰り出した三体のモンスター。
それは二足の獰猛な恐竜に翼を持たせたような、見るからにボス級の存在、スカイレックス。
「親衛隊ってところかしら?」
レンの言葉は的を射ている。
巨竜の左右に配置された三体は、こちらに堂々とした威容を見せつけるかのように接近してくる。
流れを変えうる存在の登場に、いち早く動き出したのは――。
「来て! ラグナリオン!」
黒竜の従魔を呼び出した白夜は、飛行艇から飛び降りスカイレックスに向って飛んでいく。
「あら」
そして気づく。
同じようにメイもケツァールを呼び出し、同じ対象を狙っていたことを。
「ご一緒しましょうか、メイさん」
「りょうかいですっ!」
二人はやや先行していた左のスカイレックスに狙いをつけて、接近。
「シャアッ!!」
「【エアブースト】!」
吐き出された衝撃波を、速く大きな軌道の移動でかわす。
「【紅蓮砲弾】!」
放つ火炎弾で反撃し、激しく燃え上がる炎。
そのまま白夜はラグナリオンで左へ。
「はいっ、いーちゃん!」
こちらは【かまいたち】で、深い傷を刻み込んで右へ。
そのまま左右に分かれて、円を描く形のターン。
スカイレックスの左右から挟み込む形で飛び、攻撃を開始する。
「【紅蓮砲弾】!」
白夜は先手を打つ形で炎弾を放ち、防御を取らせた。
それを見たメイは、即座に装備を【ダイナボーン】に変更。
「【ダイナブラスト】!」
防御を固めるスカイレックスに、恐竜の骨を叩き込む。
その巨体がブレて消える。
冗談のような勢いで弾き飛ばされた空飛ぶ恐竜は、人間だったら平衡感覚がなくなるほどの回転を、どうにか制して滞空。
追撃に来るメイと白夜への牽制に、盛大なブレスを吐きつける。
「そうはいきませんわ!」
「いきませんっ!」
ここでラグナリオンとケツァールは、同時に飛行速度を上昇。
そのまま互いを追いかけるような螺旋飛行で、高く昇っていく。
天辺にたどり着くと、従魔の黒竜から身を投げる。
「いきますわ! 【ツインストライク】!」
白夜が先行して急降下。
まずはラグナリオンの爪が、有翼恐竜の肩から首を引き裂いた。
「ここですわ! 【ライトニングスラスト】【極光乱舞】!」
直後、突き刺したレイピアが強烈な閃光を放ち、後光のような輝きが爆発。
「いきまああああああ――――すっ!」
続け様に真上から落ちてきたメイが、頭部に剣を叩き込む。
「ダイビング【ソードバッシュ】だああああああ――――っ!!」
吹き荒れる衝撃波が、解けて駆ける空。
落下していく白夜をラグナリオンがひろい、メイをケツァールがひろいあげる。
体勢を崩して落ちかけた白夜が安堵の息をつく中、メイは当然のように着地。
さらにメイは、スカイレックスの陰に隠れて接近していた、悪魔型の接近に気づいていた。
それは大型の三体が視線を奪う中をひっそり接近し、単体で猛威を振るう狙いの人型悪魔グルル。
その外見は、より邪悪さを増したハーピーといった感じだ。
「「「っ!?」」」
ウィンディア4号艇に着地したグルルが翼を広げると、吹き荒れる無数の空刃。
飛行艇に3割ものダメージを与えつつ、クルーを吹き飛ばした力はやはりボス級だ。しかし。
そんなグルルの前に降り立ったメイが、掲げる手。
「――――誰が来てくれるかなっ!?」
【友達バングル】を使用すると、現れたのはなんと『バルーンの木』クエストのブルーグリズリーたち。
二足歩行で接近し、そのままグルルに全員でしがみつく。
執拗なハグで動けなくなれば、続くスキルはこれ以外になし。
「――――それでは、よろしくお願いいたしますっ!」
続けて魔法陣から現れたのは、通常の1/4サイズの小型飛行艇に乗ったクマ。
一直線に飛行してグルルのもとに向かい、華麗に跳躍。
その手に取ったガンブレードを大きく振り上げ、最後まで悩み抜いた末に、そっと鞘に戻す。
そしてそのまま、【グレート・ベアクロー】を叩き込んだ。
跳ね上がったグルルのHPは、わずか数ドット。
「【ライトニングスラスト】!」
追撃は、白夜の特攻刺突。
【極光乱舞】までしっかり決めて、クマだらけの飛行艇の上で、見事なオーバーキルを決めてみせた。
「……練習のかいがありましたわね」
明らかにメイより荒い戦いぶりだが、それでも共闘は成功。
ほほ笑みと共に、思わず口からこぼれたその言葉が聞こえたのは、耳の良いメイだけだった。
「お、おい! あれはッ!」
良い流れの中で上がった、悲鳴にも似た声。
見れば巨竜の頭部結晶に再び輝く、魔力の輝き。
「ちょ、長距離魔力砲、撃ちますっ!」
まもりはすぐさま、巨竜の『溜め』を解除するための砲撃を放つ。
これを見たレンは、レーザーのキャンセルを任せるが――。
「「「ッ!?」」」
不運にも魔物の一体が、射線を横切り魔力砲に直撃。
レーザーの強制停止を、失敗に追い込んだ。
いつだって戦いの流れを悪い方に傾けてきた最悪の一撃は、セフィロト丸に向けられる。
「ダメだ! もう止められない!」
「ここで一気に潰す気だ!」
巻き起こる爆発は、付近の飛行艇を巻き込み大きな危機を生み出すだろう。
一撃で流れを変える。
それが巨竜のレーザー攻撃だ。
「ツ、ツバメさん、甲板の側面をレーザーの方に向けてくださいっ!」
「はいっ!」
ツバメはすぐさまセフィロト丸の側面を、巨竜の方へ向けた。
まもりは盾を抱えて走り出し、大慌てでスキルを発動する。
「【食べ歩き】【大食い】! ――――い、いただきますっ!」
突然の食事宣言。
両手に取り出したのは、レースの賞品である【富豪チキンサンド】
食べて、食べて、また食べる。
そしてレーザーが放たれるのと同時に、左手だけで盾を持って……また食べる。
「ふろう! こんふぃにゅーがーろ! てんんんのはて!」
煌々と輝くレーザーは、容赦なくセフィロト丸へ。
そしてそのまま、まもりの盾に直撃した。
「盾子ちゃあああああん!」
巻き起こる、絶叫のごとき悲鳴。しかし。
「……嘘だろ?」
目の前の光景に唖然とする、紅の翼プレイヤーたち。
スキルの効果範囲を広げる【富豪チキンサンド】を、【大食い】で重ね掛けしたことで生まれた防御範囲は、飛行艇のほとんどを飲み込むほど。
【不動】【コンティニューガード】【天雲の盾】
まもりの盾にぶつかった魔力光は、スプーンの背にぶつかった水流のように広がり霧散していく。
必殺のはずのレーザー攻撃はそのまま、一機の被害も出さずに消え去った。
「「「おおおおおおおおおお――――っ!!」」」
あがる盛大な歓声。
チキンサンドを食べ尽くしたまもりの防御は、これまで幾度となく飛空艇団を危機に追い込んだ巨竜の一撃を、無傷で乗り越えた。
戦いの流れは、渡さない。
「ま、まだ、終わりませんっ!」
この隙を逃さず、片手が空いたまもりは攻撃を仕掛ける。
取り出したのは【魔導経典】
【魔法の栞】によって開かれたページは、もちろん【堕天彗星】だ。
レーザー直後の混乱を突くつもりだったのだろう、接近してきていた二体目のスカイレックスに、光の尾を引きながら落ちてきた彗星が激突。
大きく体勢を崩し、落下していく。
「【加速】【リブースト】!」
生まれた大きな好機。
我慢できなくなったツバメが、飛行艇から助走をつけて落下。
狙いが付いたところで【グライダー】を使用。
そのまま滑降で位置を調整し、手にした【村雨】を突き出す。
「【水月】!」
生まれた長い水刃が、そのままスカイレックスを貫いた。さらに。
「【ノーザンクロス】!」
【急速降下】で落ちてきたナギの光の刃が突き刺さる。さらに。
「【ライトニングスラスト】!」
白夜のレイピアが突き刺さった。
三つの刃に刺された有翼恐竜は、そのまま粒子になって消滅した。
そのまま空に散った三人。
白夜はラグナリオンの上に、ツバメとナギはケツァールの上に着地する。
「圧倒的じゃないか……我らが飛行艇団は」
ボス級の魔物が次々に討伐され、さらに必殺のレーザーすら防ぎ切る。
そんな光景をみたプレイヤーから、こぼれる言葉は当然だった。しかし。
「ギャアアアアアアアアアア――――ッ!!」
再びあがった強烈な咆哮の合図。
「……ここで増援? どうやらよほど厳しい戦いを、わたくしたちに強いたいみたいですわね」
「マジかよ……」
巨竜の後方に現れる、大量のモンスターたち。
それはボスが、HPを回復するかのような行動。
各飛行艇に乗ったクルーたちの士気は、どうしても下がってしまう。
「……ここね」
しかしそんな空気を感じ取ったレンは、ここで秘密兵器のカードを切る。
【壊れかけた起動宝石】を静かに掲げると、生まれる輝きに応えるかのように、月が煌々と輝き出した。
「流れは譲らない」
煌々と輝く満月。
吹く風が、レンの長い髪を揺らす。
これだけの舞台を作られてしまうと、もう止まらない。
レンはうっかり、雰囲気を出してしまう。
「ツバメ、艦首を敵増援へ。魔力粒子、出力上昇。各自対ショック、対閃光防御を」
月から降りてくる、一本の魔力粒子。
魔力粒子は、モナココに浮かぶ反射装置を経由して増大する。
「立ち塞がるというのなら、容赦はしないわ」
「っ!」
その光景に樹氷の魔女が、震える。
「――――【月光砲】発射!」
掲げた右手を、正面に向け振り下ろす。
砕けた【起動宝石】がこぼれて落ちると、セフィロト丸の後方から飛んできた強大な白光が真横を通過し、今まさに到着しようかという増援の一団に直撃。
巻き起こる盛大な爆発が、純白の輝きと共に烈風を巻き起こす。
その火力に思わず片目を閉じ、脚を引く。
月から放たれた魔力砲は、圧倒的。
なんと増援のモンスターたちを、まとめて消滅させた。
その一撃に巻き込まれた三体目のスカイレックスも、同時に消えさった。
「「「…………」」」
夜空が真っ白に染まり、消える大量の魔物。
圧倒的な光景を前に、もはやこぼす言葉すらもなし。
全ての飛行艇に乗った者たちは、呆然とする他ない。
「そろそろ出てきたらどう? 見ているだけも……飽きたでしょう?」
「「「「っ!!」」」」
吹く夜風に揺れる髪。
薄く笑って挑発する、闇を超えし者。
登場以降、巨竜の全ての攻撃と狙いを完封してきた、五月晴れの面々。
セフィロト丸・リヴァイブに立つ四人の姿に、味方すらも息を飲んだ。
誤字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!
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