表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1242/1382

1242.流れは譲りません!

「いけいけーっ! この勢いのままモンスターたちを押し返すぽよ! 発射!」

「いきましょう! 【ジェット・ナックル】!」


 紅の翼9号艇は掲示板メンバーが多く、見事な戦術でモンスターたちを打倒。

 付近の飛行艇まで守るような戦いは、もちろんメイたちによる凄まじい攻勢の恩恵と、『敵だったメイたちとの共闘』という展開にテンションが上がったためだ。


「【臨海氷樹】!」


 飛行艇の甲板に現れた氷の大樹が、敵を巻き込み切り裂く。

 生き残ったモンスターも凍結しているため、後はトドメを刺すだけだ。


「……何か動きがあるかも?」


 メイが気づいたのは、巨竜が繰り出した三体のモンスター。

 それは二足の獰猛な恐竜に翼を持たせたような、見るからにボス級の存在、スカイレックス。


「親衛隊ってところかしら?」


 レンの言葉は的を射ている。

 巨竜の左右に配置された三体は、こちらに堂々とした威容を見せつけるかのように接近してくる。

 流れを変えうる存在の登場に、いち早く動き出したのは――。


「来て! ラグナリオン!」


 黒竜の従魔を呼び出した白夜は、飛行艇から飛び降りスカイレックスに向って飛んでいく。


「あら」


 そして気づく。

 同じようにメイもケツァールを呼び出し、同じ対象を狙っていたことを。


「ご一緒しましょうか、メイさん」

「りょうかいですっ!」


 二人はやや先行していた左のスカイレックスに狙いをつけて、接近。


「シャアッ!!」

「【エアブースト】!」


 吐き出された衝撃波を、速く大きな軌道の移動でかわす。


「【紅蓮砲弾】!」


 放つ火炎弾で反撃し、激しく燃え上がる炎。

 そのまま白夜はラグナリオンで左へ。


「はいっ、いーちゃん!」


 こちらは【かまいたち】で、深い傷を刻み込んで右へ。

 そのまま左右に分かれて、円を描く形のターン。

 スカイレックスの左右から挟み込む形で飛び、攻撃を開始する。


「【紅蓮砲弾】!」


 白夜は先手を打つ形で炎弾を放ち、防御を取らせた。

 それを見たメイは、即座に装備を【ダイナボーン】に変更。


「【ダイナブラスト】!」


 防御を固めるスカイレックスに、恐竜の骨を叩き込む。

 その巨体がブレて消える。

 冗談のような勢いで弾き飛ばされた空飛ぶ恐竜は、人間だったら平衡感覚がなくなるほどの回転を、どうにか制して滞空。

 追撃に来るメイと白夜への牽制に、盛大なブレスを吐きつける。


「そうはいきませんわ!」

「いきませんっ!」


 ここでラグナリオンとケツァールは、同時に飛行速度を上昇。

 そのまま互いを追いかけるような螺旋飛行で、高く昇っていく。

 天辺にたどり着くと、従魔の黒竜から身を投げる。


「いきますわ! 【ツインストライク】!」


 白夜が先行して急降下。

 まずはラグナリオンの爪が、有翼恐竜の肩から首を引き裂いた。


「ここですわ! 【ライトニングスラスト】【極光乱舞】!」


 直後、突き刺したレイピアが強烈な閃光を放ち、後光のような輝きが爆発。


「いきまああああああ――――すっ!」


 続け様に真上から落ちてきたメイが、頭部に剣を叩き込む。


「ダイビング【ソードバッシュ】だああああああ――――っ!!」


 吹き荒れる衝撃波が、解けて駆ける空。

 落下していく白夜をラグナリオンがひろい、メイをケツァールがひろいあげる。

 体勢を崩して落ちかけた白夜が安堵の息をつく中、メイは当然のように着地。

 さらにメイは、スカイレックスの陰に隠れて接近していた、悪魔型の接近に気づいていた。

 それは大型の三体が視線を奪う中をひっそり接近し、単体で猛威を振るう狙いの人型悪魔グルル。

 その外見は、より邪悪さを増したハーピーといった感じだ。


「「「っ!?」」」


 ウィンディア4号艇に着地したグルルが翼を広げると、吹き荒れる無数の空刃。

 飛行艇に3割ものダメージを与えつつ、クルーを吹き飛ばした力はやはりボス級だ。しかし。

 そんなグルルの前に降り立ったメイが、掲げる手。


「――――誰が来てくれるかなっ!?」


【友達バングル】を使用すると、現れたのはなんと『バルーンの木』クエストのブルーグリズリーたち。

 二足歩行で接近し、そのままグルルに全員でしがみつく。

 執拗なハグで動けなくなれば、続くスキルはこれ以外になし。


「――――それでは、よろしくお願いいたしますっ!」


 続けて魔法陣から現れたのは、通常の1/4サイズの小型飛行艇に乗ったクマ。

 一直線に飛行してグルルのもとに向かい、華麗に跳躍。

 その手に取ったガンブレードを大きく振り上げ、最後まで悩み抜いた末に、そっと鞘に戻す。

 そしてそのまま、【グレート・ベアクロー】を叩き込んだ。

 跳ね上がったグルルのHPは、わずか数ドット。


「【ライトニングスラスト】!」


 追撃は、白夜の特攻刺突。

【極光乱舞】までしっかり決めて、クマだらけの飛行艇の上で、見事なオーバーキルを決めてみせた。


「……練習のかいがありましたわね」


 明らかにメイより荒い戦いぶりだが、それでも共闘は成功。

 ほほ笑みと共に、思わず口からこぼれたその言葉が聞こえたのは、耳の良いメイだけだった。


「お、おい! あれはッ!」


 良い流れの中で上がった、悲鳴にも似た声。

 見れば巨竜の頭部結晶に再び輝く、魔力の輝き。


「ちょ、長距離魔力砲、撃ちますっ!」


 まもりはすぐさま、巨竜の『溜め』を解除するための砲撃を放つ。

 これを見たレンは、レーザーのキャンセルを任せるが――。


「「「ッ!?」」」


 不運にも魔物の一体が、射線を横切り魔力砲に直撃。

 レーザーの強制停止を、失敗に追い込んだ。

 いつだって戦いの流れを悪い方に傾けてきた最悪の一撃は、セフィロト丸に向けられる。


「ダメだ! もう止められない!」

「ここで一気に潰す気だ!」


 巻き起こる爆発は、付近の飛行艇を巻き込み大きな危機を生み出すだろう。

 一撃で流れを変える。

 それが巨竜のレーザー攻撃だ。


「ツ、ツバメさん、甲板の側面をレーザーの方に向けてくださいっ!」

「はいっ!」


 ツバメはすぐさまセフィロト丸の側面を、巨竜の方へ向けた。

 まもりは盾を抱えて走り出し、大慌てでスキルを発動する。


「【食べ歩き】【大食い】! ――――い、いただきますっ!」


 突然の食事宣言。

 両手に取り出したのは、レースの賞品である【富豪チキンサンド】

 食べて、食べて、また食べる。

 そしてレーザーが放たれるのと同時に、左手だけで盾を持って……また食べる。


「ふろう! こんふぃにゅーがーろ! てんんんのはて!」


 煌々と輝くレーザーは、容赦なくセフィロト丸へ。

 そしてそのまま、まもりの盾に直撃した。


「盾子ちゃあああああん!」


 巻き起こる、絶叫のごとき悲鳴。しかし。


「……嘘だろ?」


 目の前の光景に唖然とする、紅の翼プレイヤーたち。

 スキルの効果範囲を広げる【富豪チキンサンド】を、【大食い】で重ね掛けしたことで生まれた防御範囲は、飛行艇のほとんどを飲み込むほど。

【不動】【コンティニューガード】【天雲の盾】

 まもりの盾にぶつかった魔力光は、スプーンの背にぶつかった水流のように広がり霧散していく。

 必殺のはずのレーザー攻撃はそのまま、一機の被害も出さずに消え去った。


「「「おおおおおおおおおお――――っ!!」」」


 あがる盛大な歓声。

 チキンサンドを食べ尽くしたまもりの防御は、これまで幾度となく飛空艇団を危機に追い込んだ巨竜の一撃を、無傷で乗り越えた。

 戦いの流れは、渡さない。


「ま、まだ、終わりませんっ!」


 この隙を逃さず、片手が空いたまもりは攻撃を仕掛ける。

 取り出したのは【魔導経典】

【魔法の栞】によって開かれたページは、もちろん【堕天彗星】だ。

 レーザー直後の混乱を突くつもりだったのだろう、接近してきていた二体目のスカイレックスに、光の尾を引きながら落ちてきた彗星が激突。

 大きく体勢を崩し、落下していく。


「【加速】【リブースト】!」


 生まれた大きな好機。

 我慢できなくなったツバメが、飛行艇から助走をつけて落下。

 狙いが付いたところで【グライダー】を使用。

 そのまま滑降で位置を調整し、手にした【村雨】を突き出す。


「【水月】!」


 生まれた長い水刃が、そのままスカイレックスを貫いた。さらに。


「【ノーザンクロス】!」


【急速降下】で落ちてきたナギの光の刃が突き刺さる。さらに。


「【ライトニングスラスト】!」


 白夜のレイピアが突き刺さった。

 三つの刃に刺された有翼恐竜は、そのまま粒子になって消滅した。

 そのまま空に散った三人。

 白夜はラグナリオンの上に、ツバメとナギはケツァールの上に着地する。


「圧倒的じゃないか……我らが飛行艇団は」


 ボス級の魔物が次々に討伐され、さらに必殺のレーザーすら防ぎ切る。

 そんな光景をみたプレイヤーから、こぼれる言葉は当然だった。しかし。


「ギャアアアアアアアアアア――――ッ!!」


 再びあがった強烈な咆哮の合図。


「……ここで増援? どうやらよほど厳しい戦いを、わたくしたちに強いたいみたいですわね」

「マジかよ……」


 巨竜の後方に現れる、大量のモンスターたち。

 それはボスが、HPを回復するかのような行動。

 各飛行艇に乗ったクルーたちの士気は、どうしても下がってしまう。


「……ここね」


 しかしそんな空気を感じ取ったレンは、ここで秘密兵器のカードを切る。

【壊れかけた起動宝石】を静かに掲げると、生まれる輝きに応えるかのように、月が煌々と輝き出した。


「流れは譲らない」


 煌々と輝く満月。

 吹く風が、レンの長い髪を揺らす。

 これだけの舞台を作られてしまうと、もう止まらない。

 レンはうっかり、雰囲気を出してしまう。


「ツバメ、艦首を敵増援へ。魔力粒子、出力上昇。各自対ショック、対閃光防御を」


 月から降りてくる、一本の魔力粒子。

 魔力粒子は、モナココに浮かぶ反射装置を経由して増大する。


「立ち塞がるというのなら、容赦はしないわ」

「っ!」


 その光景に樹氷の魔女が、震える。


「――――【月光砲】発射!」


 掲げた右手を、正面に向け振り下ろす。

 砕けた【起動宝石】がこぼれて落ちると、セフィロト丸の後方から飛んできた強大な白光が真横を通過し、今まさに到着しようかという増援の一団に直撃。

 巻き起こる盛大な爆発が、純白の輝きと共に烈風を巻き起こす。

 その火力に思わず片目を閉じ、脚を引く。

 月から放たれた魔力砲は、圧倒的。

 なんと増援のモンスターたちを、まとめて消滅させた。

 その一撃に巻き込まれた三体目のスカイレックスも、同時に消えさった。


「「「…………」」」


 夜空が真っ白に染まり、消える大量の魔物。

 圧倒的な光景を前に、もはやこぼす言葉すらもなし。

 全ての飛行艇に乗った者たちは、呆然とする他ない。


「そろそろ出てきたらどう? 見ているだけも……飽きたでしょう?」

「「「「っ!!」」」」


 吹く夜風に揺れる髪。

 薄く笑って挑発する、闇を超えし者。

 登場以降、巨竜の全ての攻撃と狙いを完封してきた、五月晴れの面々。

 セフィロト丸・リヴァイブに立つ四人の姿に、味方すらも息を飲んだ。

誤字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!

返信はご感想欄にてっ!


お読みいただきありがとうございました!

少しでも「いいね」と思っていただけましたら。

【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ツバメの次は、守りだと!?
「流れは譲らない」 むしろ「見せ場は譲らない」って感じだ(笑) プレイヤー個人が出せる攻撃力を遥かに超えている月光砲、使い捨てっぽいけど仕方無いか。
「流れは譲らない」 「ッ!!(これは月光砲の流れ…詠唱を!!)」 「ツバメ、艦首を敵増援へ」 「ッ!?(ここで…私に指示だとォ!?)」 「(フフ…あなたの考えはお見通しよ?)」 「(しまった、詠唱…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ