124.お城に戻って一息つきます!
「戻ったぞ」
天軍城に、小柄な白髪の少女が帰ってきた。
「今回も余裕だったなぁ」
付き添いの金糸雀も、後頭部で手を組んだままあくびをする。
天軍将グラム・クインロードは茨木童子を打倒し、宝珠ミッションも達成。
何事もなく帰城を果たした。
「どうしたのだ、ローラン」
欄干で何やら考え事をしているローランに、グラムが声をかける。
「ミッション終わりを狙った特攻を、メイちゃんたちに返り討ちにされちゃってね」
「へえ、マジか」
「【裂空一矢】も避けられちゃったよ」
「そりゃすげえなぁ。ていうか、何人で襲撃したんだ?」
「3000人以上」
「……おいおい。今年の地軍将、マジで結構すごいやつなんじゃないか?」
金糸雀は驚きの声をあげる。
「警戒が必要かもね」
「ふん、案ずる必要はない。装備もスキルも準備はとっくにできている。まあ、そんなことをしなくともこのグラム様が負けるはずないがな。わっはっは!」
「それもそうだね。ミッションも一段落したし、私は一度態勢を立て直してくるよ」
そう言ってローランは、階段を下りて行った。
◆
「最初のミッションが終わりましたし、これで一旦落ち着くはずですよ」
メイたちは無事、地軍城に戻ってきた。
「でも、お城の中ってすることがないから割と暇なのよね」
レンがそう言うと、マーちゃんは戸棚から薄く長い箱を取り出してきた。
「将軍は城内に隠れているのが一番安全です。当然『待ち』の時間も長くなるので、暇つぶしも用意されていますよ」
その手にあるのは、すごろくだ。
「例年は遊ぶ余裕などありませんでしたが……VR世界ならではって感じで楽しいみたいですよ」
「面白そう……!」
さっそく、目をキラキラさせるメイ。
「あくまでオマケ程度なのですが、クリアすると店売りされてない消耗品が手に入ったりするらしいです」
「こんなところにもミニゲームがあるのね」
その見た目は、通常のすごろくと変わらない。
しかしマーちゃんがボードを開くと、盤上に自動で四つの駒が並んだ。
続いて天井から、町娘風のからくり人形が降りて来る。
どうやら進行役は、この少女人形のようだ。
『本すごろくは、制限ターン内にゴールを目指すゲームです。10ターンで到達できないと失格となってしまいます』
「なるほどね」
『またステータスは現在値がそのまま適用され、HPがなくなった場合も失格となります』
「……ちょっと面白そうじゃない」
「うんっ! みんなで遊んでみようよ!」
「いいですね。息抜きにもなりそうです」
「駒は四体。私も参加者に入っているんですね。ならば特殊アイテムを拝むためにがんばりましょうか!」
マーちゃんは念のため、敵に動きがあり次第伝達をもらえるよう地軍陣営に通達。
すると、からくり人形が両手をあげた。
どこからか、スイカより一回り大きなサイズのサイコロが降ってきた。
受け取ったのはツバメ。
「それでは私から」
さっそくサイコロを転がすと、出た目は3。
ツバメの駒が自動で、盤上のマスを進む。
『――――緑の大地。鳥の声に癒される』
からくり人形の言葉に合わせて、最上層の空間が変化する。
草むらと一本の樹木。
鳥が鳴き、ツバメを優しいライトエフェクトが包み込む。
「……落ち着きます」
「いいじゃない、VRならではの演出ね」
どうやら、各マスに設置された演出が実際に起きるすごろくの様だ。
「次は私がいくわ」
レンがサイコロを放る。出た目は4。
『――――南国の海岸線』
「これも良さそうね」
『――――スコールに見舞われる』
「えっ?」
突然、レンにだけ強めの雨が降り出した。
「じ、地味に嫌な罰ね。でもこのくらいなら……」
ドザー。
「メイ、早めにお願い」
「あはは、りょうかいですっ」
さっそくちょっと面白くなってきたすごろく。
頭からボタボタ雨水を滴らせるレンに続き、メイはサイコロを頭の上に担いだ。
「えいっ」
出た目は5。
『――――崖の下を通る道。突然の落石が襲い掛かる』
「ええーっ!?」
「メイ!」
「メイさんっ!」
崩れ落ちてきた巨大岩はそのままメイに直撃し、マーちゃんは思わず叫び声を上げた。
……しかし。
「びっくりしたぁ」
「う、受け止めた……?」
「ふふ。本来はここでダメージを負う計算なんでしょうね」
相変わらず【腕力】で危機を乗り越えていく姿に、笑うレンとツバメ。
メイも少し照れた表情で「えへへ」と頭をかく。
「そ、それでは私も続きます」
最後はマーちゃん。出た目は6。
『――――賭場に到着。ギャンブルはお好きなだけ。サイコロを三つふり、出た目が9以下なら掛け金が倍に』
「……倍!? ふります! 手持ちを全部賭けて、今すぐふりますっ!」
目をギラつかせながら、盤上に現れた三つのサイコロを投げるマーちゃん。
出た目は――――11。
「お金取ってきます!」
「やめときなさいよ」
「で、ですが……次で倍賭けて取り戻せばっ!」
「その思考が危険なのよ! ツバメ、次ふって!」
「はい」
レンがマーちゃんを羽交い絞めにしている間に、ツバメがサイコロをふる。
出た目は4。
『――――現れるモンスター』
「モンスターを倒せばいいのですか? それなら問題ありません」
するとツバメの目の前に、ふわふわの白ウサギが現れた。
『――――倒してください』
「……え」
『――――倒してください』
ツバメは【グランブルー】を手に取ると、無言でウサギのもとへと進む。
ウサギは小首をかしげ、無垢な目で見つめてくる。
「……できませんっ!」
ツバメはガクリとヒザを突く。
『――――倒せなければ、1ターン休みとなります』
「10ターンでクリアしないといけないのにですか……? ですが……それでもできませんっ!」
剣を落とし、ツバメは魂の叫びをあげた。
「せ、精神攻撃も入れてくるのね……」
「恐ろしいすごろくだね、レンちゃんっ」
これにはメイも、ゴクリとノドを鳴らしたのだった。
「……次は私の番ね」
レンは慎重にサイコロを転がす。出た目は6。
『――――新装備を試すよう、仕立て屋から求められました。装備が変更となります』
「ふーん、どんな装備になるのかしら」
弾けるエフェクトと共に、レンの外見が変化する。
破れた黒のロングコートに、黒レースのヴェール。
そして腕と頭に巻かれた包帯を見て、レンは一瞬で赤面する。
「全盛期に戻すのやめなさいよ!」
「レンちゃんかっこいいー」
「ダメよメイ! この格好をみてカッコよさを感じるのは危険なの! ほら、早くサイコロ振って!」
「この包帯が特に――」
「いいから早く振りなさーい!」
「よいしょっ!」
なぜか一人スローイン投げのメイ。出た目は5。
「あ! わたしも装備替えだ! レンちゃんみたいなのを着てみたいなぁ」
「やめて! お願いだからメイは巻き込まないで!」
ワクワクしながら、エフェクトの発動を待つメイ。
レンは犠牲者が増えないよう、本気で祈り出す。
すると、メイの頭に王冠が乗った。
「わ、すごーい!」
そしてその肩には、豪華な毛皮のコート。
「すごいすごい! これ、王女様みたいだよー!」
うれしそうに飛び跳ねるメイ。
不意にレンは、違和感に気づく。
「メイ、中身は?」
「中? 中は……インナーだ」
胸元だけのタンクトップに、ショートパンツ。
その上に、直で毛皮のコート。
急に、雲行きが怪しくなり始めた。
「……メイ、足元をよく見て」
「うん……?」
そこには、答えとばかりに置かれている武骨な石斧。
「こ、これ…………野生の王女様だー!」
ここでもしっかりと、求められる姿になってしまうメイ。
これにはツバメも、思わず笑ってしまうのだった。
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