1234.逃げろ大型飛行艇!
「なかなかの迫力ね……!」
「本当だねっ」
ナギとディアナを吹き飛ばして距離を稼いだメイとレンは、置かれている大型飛行艇に駆け込む。
「うおおっ!?」
「散弾はやっかいっスね!」
一方のナギたちは、倒れ込んだところに放たれる結晶弾に慌てる。
魔導鎧・改が敵になったことで、ある程度の時間稼ぎにはなるだろう。
メイたちは、灰色のクジラの骨格のような外見をした船の甲板に上がる。
そしてそのまま階段を降り、船内へ。
ここで、あらかじめ設計図を見ていた経験が活きる。
「途中の階は後で確認すればいいわね。今はとにかく飛行珠のある下層階に向かいましょう!」
「りょうかいですっ!」
メイとレンは、薄灰色の階段を駆け降り一気に下層階へ駆けつける。
そして魔法陣を踏めば、開かれるドア。
「ここは、艦橋……?」
その先にあったのは、青く輝く大きな飛行珠と操舵装置。
さらに外壁に向けて、いくつものデスクとイスが並んでいる。
中央に操舵装置と艦長用のものと思われる椅子が置かれた光景は、宇宙戦艦のようだ。
「……ていうか、飛行珠大きくない?」
「持って帰るの、大変そうだね」
メイなら両手で抱えて走ることも可能だが、【腕力】に特化したプレイヤーがいなければ、大玉転がしのように持ち出すことになりそうな大きさ。
さっそくメイが、飛行珠に触れると――。
「「っ!!」」
なんと飛行珠が光を放ち、その表面に古代文字が現れた。
飛行艇の内部に明かりが灯り、外壁の一部が透過。
デスク前が、横長の大きなガラス張りのような形になった。
「すごーい!」
分厚い窓ガラスのようになった艦橋を見て、思わず付近をきょろきょろするメイ。
「ここに操舵装置があるのは、そのためだったのね」
これにはレンも、感嘆する。
「でもレンちゃん、これって飛行珠を取り出して持ち出すっていうより……」
「この大型飛行艇ごと持ち出せって感じに見えるわ。ルートは、飛行珠だけ転移宝珠で飛ばしての回収だけじゃないのね!」
ガッチリ船に取り込まれた感じの飛行珠は、今も飛行艇と完全にリンクしている。
これを無理やり取り出して、転がして帰るという展開は考えにくい。
これは転移宝珠だけでなく、飛行艇ごとという『ミッション』のパターンだ。
そう考えていたところで、異変が始まった。
「なんだ……?」
「何が起きてるんスかね?」
思わず、ナギとディアナが目を奪われる。
メイたちが乗り込んだ大型の飛行艇が、突然風を起こし始めたからだ。
大型倉庫のような状態になっているこの空間を、強い風が駆けていく。
すると魔導鎧・改が動きを止めて撤収を開始。
直後、サイレンが鳴り響き始めた。
「おいおい! なんだよこれーっ!」
「飛行艇が、動いてるっスよ……!」
「いや、ここで動かしてどうすんだよ!? 飛行珠を持って帰るのが目的なんだろ!?」
唖然とするナギとディアナ。
二人が大型飛行艇の迫力に息を飲んでいると、鳴り出す重たい音。
さらに何かがちぎれるような音と、ぶつかるような音まで混じり出す。
「見て! レンちゃん!」
「そういうこと……」
地震のような大きく長い揺れの後、閉じられた空間に入り込んでくる陽光。
「嘘だろ? この天井、開くのかよ!」
「やっぱ停車場じゃなくて、発着場だったんスね。しかも……開閉型の!」
長い時間をかけて積もった土がこぼれ落ち、巻き込まれた木々が内部に降ってくる。
「行きましょう! この大型飛行艇ごと、飛行珠を持って帰るのよ!」
「りょうかいですっ!」
ここで、パーティ全員が操縦の練習をしていたことが活きる。
その動かし方は、ウィンディアの飛行艇と同じ形式だ。
メイは舵を取り、そのまま大型飛行艇を空へ。
「飛行珠を取り出す以外にも、飛行艇ごと持ち出すパターンもあったんスね」
「マジかよ、すげえな……」
一気に出力を上げた飛行艇は、開いた天井からそのまま空へ舞い上がる。
紅の翼陣営との飛行珠の取り合いは、見事にメイたちが制する形となった。しかし。
「レンちゃん! 全然いうこと聞かないよーっ!」
走り出した飛行艇は飛行珠が安定していないのか、ブレーキも効かず高速のまま右へ左へ。
舵を切っても、思う通りに飛んでくれない暴走状態だ。
「とにかく……できることはなんでも……やってみま……しょう!」
そのとんでもない勢いに、レンはゴロンゴロンと艦橋を転がりながら告げる。
一気にブライト王国の端から端までひとっ飛び。
するとようやく落ち着いてきたのか速度も安定し、舵も利くようになってきた。
「これなら、運転できるかもっ」
メイがそう、口にした瞬間。
「「っ!?」」
艦橋の大きな窓から見えたのは、見覚えのある超大型の巨竜。
それは艦隊戦の最後に現れて強烈な一撃を見舞った空の魔物だ。
「レンちゃん!」
「舵を切って! とにかく今は逃げましょう!」
「りょうかいですっ!」
メイは舵をめいっぱい回して転回。
巨竜から距離を取ろうと、全力飛行。
「くるわ!」
しかし魔物は、それを許さない。
大型飛行艇よりも速い飛行で接近し、そのまま体当たりを仕掛けてきた。
「うわわっ!」
「っ!」
大きく船が揺れて、跳び上がる二人。
魔物はさらに突撃し、飛行艇が大きく傾ぐ。
「反撃はできそうにないわね……! それにこの飛行艇、速く飛んだり小回りを利かせて戦うなんていう感じじゃない。どちらかというと『バス』みたいな感じだもの……!」
現状艦橋に反撃できるようなシステムはなく、とにかく逃げる事しかできない。
しかしそれも、速度で上回る魔物相手には難しい。
そんな中、悠々とこちらの船を追い抜いて行った魔物は、正面で反転。
こちらに向いて、その頭部の魔力結晶を輝かせる。
「レーザーが来るよ!」
「メイ! 舵を全力で!」
「りょうかいですっ!」
メイは大慌てで舵を切る。
すると直後、放たれたレーザーがメイたちの船の真横を通り過ぎて行った。
空中に大きな爆発が巻き起こり、船が大きく揺れる。
「宇宙戦艦の戦いって、こんな感じなのかしら……」
「当たったら、大変だったね……」
不利な逃走劇は、命がけ。
ブライトの端の町からは、その光景がよく見えた。
「な、なんだあれ……すげえ……」
飛行艇に乗るクエストを受けるために、ブライトにやって来ていたプレイヤーたちは、そのとんでもない状況に唖然とする。
圧倒的なパワーを持つ大物の攻撃と、逃げる大型飛行艇。
迫力の戦いは、観戦者たちから語彙と言葉を奪い去った。
「まだだ! まだ終わらねえっ!!」
どうにかレーザーを回避したものの、体勢を立て直す大型飛行艇に狙いをつけた巨竜。
一気に加速して、体当たりを仕掛けに行く。
「この流れはもう、避け切れないでしょう!」
最速での体勢復帰でも回避できない流れに、思わず叫ぶレン。
「レンちゃん!」
メイはとにかく衝突時に離れてしまうことがないよう、レンを抱きしめる。
飛行艇の全損、粉々になった部品と共に落下することも覚悟して、防御態勢を取った二人。
その目に映ったのは、緑色のフラップが美しい一機の飛行艇だった。
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