1232.三つ巴
飛行珠を内蔵した、大型飛行艇の収められた発着場。
そこに集まったのはメイたちウィンディアの特務部隊と、ナギたちブライト王国の紅の翼。
そして大型の『魔導鎧・改』
目的はあくまで、飛行珠を手にすること。
「「…………」」
ナギとディアナが、そーっと視線をそらす。
「あれもしかして、魔導鎧に気づいてません風の態度を取ることで、敵の狙いをこっちに向けさせようとしてるのかしら」
「あはは、そうなのかな」
今にも口笛を吹き出しそうな、白々しい二人の演技にメイも笑う。
「野生王と組んで、あの魔導鎧を倒しちゃいけねーのか?」
「野生王と組んだら絶対勝てるけど、その後がきついっスね。ここで競争に勝つには『三対二』にしないと」
「なるほどな」
そんな二人に対して、メイとレンも『ただ静かに立つ』を実行する。
やがて、動き出した魔導鎧・改。
そのターゲットになったのは。
「わたしだーっ!」
狙いはメイ。
魔導鎧・改は、手に持った白地のバズーカを向け【結晶砲弾】を放つ。
「よっと!」
これをメイがかわすと、後方で巻き起こる爆発。
すると魔導鎧・改はホバーで接近しながら、【結晶砲弾】を連発。
それでもメイが回避を続けたため、その手に【ヒートハルバード】を取った。
そしてそのまま、振り下ろす。
これを横へのステップでかわしたところに、聞こえた足音。
「【クイックステップ】【回転跳躍Ⅱ】!」
飛び込んできたのは、十字槍を持ったナギ。
「【ノーザンクロス】!」
回転跳躍しながら槍の魔力刃を伸ばせば、それは軌道の読みにくい攻撃となる。
「【アクロバット】!」
これをメイは、大きなバク宙で回避。
ここで魔導鎧・改がその右手を伸ばすと、ガントレット部分が開いて、内蔵された三つの魔力結晶がミサイルのように飛んでくる。
「うわっととと! 【ラビットジャンプ】!」
【結晶弾】を高い後方への跳躍でメイがかわすと、すぐさまディアナが狙いをつける。しかし。
「そうはさせないわ! 【超高速魔法】【ファイアボルト】!」
「あっぶなー! 【スピリット・ファルコン】!」
空中のメイを狙うディアナをけん制するため、レンが放った超加速の炎弾をかわして反撃。
高速で飛来する隼の霊を、レンも転がって回避する。
「まだまだっ! 【草薙】!」
ナギが【クイックステップ】による速い接近から繰り出すのは、大きな振り払い攻撃。
「【草薙】【草薙】【草薙】ィィィィ――ッ!」
「うわ、うわ、うわわっ!?」
それこそ独楽のように回転しながら、高速回転斬りを繰り返すナギ。
それはさっき戦った魔導鎧の、魔力トゲ球振り回しのような攻撃だ。
「【スピリット・イーグル】!」
ここでレンとの間に魔導鎧・改を挟んで壁にした、ディアナがメイを狙って攻撃。
放つのは、上方から落ちてくる大きな鷲の霊だ。
「ええと、確か上からっ!」
艦隊戦の時に見た攻撃。
うろ覚えの魔法に対して、メイは思い切って後ろに跳躍。
すると目の前数センチのところを、鷲霊が落下してきて光を炸裂させた。
「【誘導弾】【フレアストライク】!」
対してレンは、魔導鎧・改の上から落ちてくる軌道の炎砲弾で攻撃。
「うっわ!」
慌てて下がったことで直撃こそ避けたものの、ディアナは爆発の風にあおられ転倒。
「【低空高速飛行】!」
ここでレンは、戦いの組み合わせを崩しに動く。
【魔剣の御柄】に【フレアバースト】を込めて、そのまま魔導鎧・改を斬りかかりに向かう。
「っ!」
しかし魔導鎧・改はホバーによる後退で回避して、バズーカによる反撃を放つ。
「【旋回飛行】!」
その瞬間、大きめの弧を描く飛行に変えたことが正解となる。
放たれた色違いの結晶弾は、炸裂して【結晶散弾】となる。
細かな結晶片が、輝きながら散らばった。
レンは再び距離を詰めに行くが、魔導鎧・改はさらに後退。
再度の【結晶散弾】で攻撃。
「【旋回飛行】!」
レンはさらに軌道を変え、得意の『S』字飛行で回避を狙うが、いくつかの散弾がかすめてダメージ。
「速い後退をしながら散弾を放つ距離の取り方は、やっかいが過ぎるわね……!」
「へへっ、狙い通りだな!」
「そういうことっスね!」
数の優位を取って、笑い合うナギとディアナ。
「レンちゃん! 三対二の状況を崩す方法、ありますっ!」
「任せるわ! あの子たちは私が足止めする!」
ここでメイとレンも、声を掛け合い戦い方を変更。
「【滅多打ち】!」
立ち止まったレンは武器を、【魔神の黒杖】に変更。
「【フレアストライク】【フレアストライク】【フレアストライク】【フレアストライク】【フレアストライク】【フレアストライク】っ!」
「うおおっ!? なんて攻撃だよっ!?」
「この火力じゃ、回避も難しいっスよ!」
大きなMPの減りを覚悟して放つ、怒涛の上級魔法攻撃は範囲も広く、二人は回避に集中せざるを得ない。
「【装備変更】【バンビステップ】!」
この隙にメイは鹿角に装備を変え、魔導鎧・改に接近。
振り下ろされる【ヒートハルバード】をかわし、続く振り払い、返しという連携をかわす。
さらに左腕から放たれた【結晶弾】を、右左右の速いステップで避けて、完全に翻弄。
すると魔導鎧・改は、大きな薙ぎ払いを繰り出した。
これをシンプルな真上への跳躍でかわすと、【ヒートハルバード】を高く振り上げる。
「今だっ! 【ターザンロープ】!」
大きく掲げた瞬間を狙い、メイは伸ばした腕にロープを巻きつけた。
「いきますっ! ……【ゴリラアーム】」
そして魔導鎧・改を強い力で引きずり、そのまま振り回す。
ここでようやくレンの【滅多打ち】が止まり、息をつくナギとディアナ。
「おっ、おい! なんだよあれ――――っ!?」
「マジっスかこれ!?」
異常な光景を見て、悲鳴をあげる。
猛スピードで魔導鎧・改を回転させながら近づいてくるブン回しメイに、ナギたちは困惑しながら下がる。
するとメイは、さらに火力を上げる。
「ここから、【大旋風】だああああ――――っ!!」
「うおっ!?」
突然巻き起こった強い風に、体勢を崩すナギ。
「うおおおおおお――――っ!?」
ここでついに、後方に大きく弾き飛ばされた。
それでもメイの超高速回転は止まらず、ついに竜巻を生み出す。
「【スピリット・ファルコン】! 【スピリット・イーグル】! 【霊光砲】! いやこれマジっスか――――っ!?」
放つ全てを弾き飛ばすメイ台風は、そのまま接近。
吹き荒れる暴風に、二人が仲良く転がった後。
「それええええええ――――っ!!」
「ぶろぁぁぁぁぁぁ――――っ!?」
投じられた魔導鎧・改が直撃して吹き飛ばされるナギ。
「【誘導弾】【フレアストライク】!」
「痛ったあああああああ――――っ!!」
続くレンの魔法で、ディアナも焼かれて転がった。
「三対二の状況、むしろ利用できたわね」
「えへへ」
レンの言葉に、うれしそうにピースで応えるメイ。
二人は自然と距離を詰め、武器を構え直す。
「思った以上だな……一回りどころか三回りくらい高火力だぞ」
「こりゃ三対二になっている内に、攻め切らないとダメっスね」
「出し惜しまずに攻め切るぞ。全員で一気にぶつかるつもりでな」
「オッケー!」
「お前もだぞ、魔導鎧」
ナギとディアナも、反撃の体勢。
そこに魔導鎧・改も、ゆっくりと立ち上がる。
「本当に三対二みたいなんだけど」
位置取りが完璧にナギ側の『タンク』みたいになっている魔導鎧・改に、レンは苦笑いしたのだった。
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