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1229.二人の冒険

 踏み込んだ洞窟には、遺跡特有の白い軽金属の壁が続く。

 そこには長い時間をかけて伸びてきた植物の根や、枝が潜り込んできている。

 左右の天井端に刻まれた紋様に灯る輝きも、葉や根に隠されて薄暗い。


「なんだか、木漏れ日っぽいね」

「そういう光を使う文明だったんでしょうね」


 電灯や炎の明るさというよりも、陽光の雰囲気がある光。

 木の根が多いせいか、木々の隙間から陽の光が入り込んでいるかのようだ。


「道は多いけど、落石と木の根で埋まってるところは通れない形ね」


 岩が邪魔して通れないという作りで、作られた迷路。

 ついついメイのパワーで千切って進むなんていう想像をしながらも、まずは道順通りに進んでみることにした。

 ぽたぽたと落ちてくる水が作ったたまりが澄んでいて、長らく人がいなかった空間特有の雰囲気を感じる。


「さっきの爆発音は、おそらく紅の翼のものだと思うけど……こっちに敵は見当たらないわね」

「そうだねぇ。足音とかも聞こえないよ」


 見た感じでは、罠と呼べるような仕掛けもない。

 二人は一応、大きな根が入り組んでいる足元と、魔法陣罠がありそうな天井に注意しながら道を進んでいく。すると。


「ッ!?」


 天井でも地面でもなし。

 突然レンの足が、背後から何かに捕まれた。

 間髪無し。

 そのまま強烈な力で、容赦なく引きずられる。


「レンちゃん!? 【装備変更】【バンビステップ】!」


 メイは突然のことに声を上げ、大急ぎで追いかける。

 見えたのは、先ほど飛び越えた大きな木の根に擬態した植物型の魔物。

 その大きな口を開き、並んだ牙をむき出しにする。


「ストーップ!」


 メイが腕をつかむと、レンはその場に急停止。

 ガチンガチンと牙を鳴らす『食肉樹』と、レンを奪い合う綱引き状態になる。


「負けないよーっ!」


 メイは一歩一歩、しっかりと足を下げていく。

 対して食肉樹も、負けじと根の数を増やしてレンを拘束。


「よいしょっ! よいしょっ!」


 根の数が増えるほど、引く力が強くなっていくこの魔物。

 しかしどんなに根が増えても、メイは特に速度を落とすことなく、しっかり一歩ずつ下がっていく。そして。


「わあーっ!?」


 ついに伸ばせる距離がなくなり、根を放した食肉樹。

 突然力が抜けて、二人はゴロゴロと転がった。


「ありがとうメイ。ふふ、これって正々堂々綱引きで勝つ罠なのかしら?」


 すごすごと根への擬態に戻っていく食肉樹を見て、笑うレン。

 メイは『対象を引っ張り合いながら攻撃して奪い返す』というゲーム性の魔物を、単純な力一つで乗り越えたようだ。

 ならばこれ以上付き合う必要もないと、二人はそのまま歩を進める。


「ここは少し変わってるね。ジャングルを思い出すかも」


 最初の危機を越えてたどり着いた先。

 メイは色とりどりの果物で飾られた緑の空間を見て、興味深そうに尻尾を振る。


「実際にある果物の色を、入れ替えてる感じみたい!」


 そこには紫のリンゴに、黄色いブドウ、赤い桃などがなっている。


「わあー、いい匂いっ」

「せっかくだし、一つ二つ持って帰ってもいいかもね」

「それなら、あれがいいよ!」


 メイが指さしたのは、一際綺麗な桃色のオレンジ。

 この一帯の木は緑も鮮やかで美しく、そのコントラストも最高だ。

 レンがうなずき、メイが手を伸ばしたその瞬間。


「「ッ!?」」


 桃色オレンジは、突然その体積を数十倍に増幅。

 サメのような鋭い歯を見せるようにして口を開き、メイに喰らいついてきた。


「わああああ――っ!?」


 慌てながらメイは右手で上の牙をつかみ、左足で下あごを踏みつける。


「メイっ!!」


 そのまま食いちぎってやろうかという勢いで、噛みつきにくる魔物。


「レンちゃん、お願いしてもいいかな!?」

「もちろんよ【フリーズブラスト】!」


 レンはその大きく開いた口に杖の先を突っ込んで、氷嵐を放つ。


 すると弱点を突かれた『人食いオレンジ』は、そのまま粒子になって消えて行った。


「ありがとうレンちゃん」

「この魔物の倒し方は、プレイヤーが杭になって口を閉じさせないで合ってたのかしら……」


 本来は上半身が隠れるような形で噛みつかれたプレイヤーが、HPを失い切る前に外部を急いで攻撃して倒すという想定。

 しかしメイの反応が早すぎたことで、弱点を晒す形になってしまったようだ。

 こうして二つ目の罠も乗り越えた二人は、再び道を進む。

 ここからはこれまでと違い、上下左右にびっしりと草が生えている形だ。

 完全に天井や壁を草が覆っている状況に、注意しながら前へ。


「魔物でも住んでるのかしら」

「狭い場所での戦いだねっ!」


 二人はすぐに攻撃できるように構え、背後にも視線を絶やさない。

 メイが前を向き、レンが背後を見る。

 背中合わせのような形で進む二人に、隙はない。


「…………あれ?」


 そんな中、メイが上げた声。


「どうしたの?」

「行き止まりだよ」

「待って! これってもしかして!」


 見れば左右に分かれる道はなく、正面の緑の壁にも穴はなし。

 レンが罠の気配に気づいた瞬間、周りの風景が草から『体内』へと変わる。

『誘い洞穴』は、エサを体内に入り込ませた後に『閉じて溶かす』タイプの魔物。

 すぐさま上部から、HPを削る酸液がこぼれ落ちてくる。


「【裸足の女神】!」


 気付いた瞬間、駆け出すメイ。

 閉じていく『口』まで、一気に全力疾走。

 無事に抜け出たところで、すぐさま振り返る。


「これって……」


 メイが置いて行った【ターザンロープ】を、レンがつかんだ瞬間。


「ッ!?」


 メイが全力で引き上げる。

 レンはとんでもない勢いで引っ張られ、そのままメイの腕の中へ。


「きゃっち!」


 するとメイは左手でレンを抱えたまま踏み込み、右手で剣を振り下ろす。


「【フルスイング】!」


 すると『大きな袋』の形をしていた誘い洞穴は、破れたビニールのようになって消えていった。


「大丈夫だった?」

「あ、ありがとう」


 これにはさすがに、ちょっと照れるレン。

 わずかに顔を赤くしながら、敵の方に振り返る。


「これは溶かされる前に、内部で弱点を見つけて攻撃するのが正攻法だったんじゃないかしら」

「そーなの?」


 メイは、不思議そうに首を傾げる。


「多分だけど私たちって、想定された攻略法を一つも使わずに乗り越えたんでしょうね」


 そんなメイに、思わずこぼれる笑い。


「本当にメイには、あのコウモリと吸血鬼の洞くつから驚かされてばっかり」

「えへへ」

「おかげでいつも楽しいわ」

「こちらこそだよーっ」


 この笑顔と、想像もつかない戦い方に惹かれて始めた、新たな冒険。

 不意に思い出したレンは、全ての仕掛けを想定外の攻略法で切り抜けたメイと、軽くハイタッチ。

 再び歩き出すと、見えてきたのは木々の根が作る壁。

 しかしここは、完全にふさがれた形ではない。

 長い道だが根と草のカーテンに隙間があり、こじ開けて進むことが想定されている感じだ。


「ここは、自力で道を開けて進めってことみたい」


 厚い木の根の壁を壊して進むには、それだけの火力と音が伴う。

 それによって魔物が来るかもしれないし、敵のプレイヤーが来るかもしれない。

 そこに気を使って進むことが、求められているのだろう。

 しかし、遅くなれば先を越されてしまう可能性もある。

 ここはなかなか難しい判断が必要だ。しかし。

 メイはそんな木々の壁の前に立ち、両手を合わせて首を傾げる。


「おねがいしますっ! 道を開けてくださーいっ」


【密林の巫女】が発動し、一気に割れて行く草木。


「壮観ねぇ」


 長い木の根の道が一斉に開けていく姿は、映画の様。

 レンは頼りになるメイの背中に抱き着く形で、ほほ笑みながら歩き出す。


「メイがいたおかげで、かなり早く進めたわね」


 運営の想定を全て裏切って進んだ先にあったのは、広い空間。

 多少根に入り込まれてはいるが、しっかりとした天井を持つ場所だった。

 足元は、綺麗に磨かれた石造り。

 そこに刻まれたラインに、ジワリと白光が灯る。


「おおーっ」

「駐車場みたいにラインで区分けしている感じを見ると……飛行艇の発着場だったのかもね」

「何だかカッコいい空間だね!」

「それじゃ、いきましょうか」

「りょうかいですっ!」


 今日も二人は足を止めることなく、跳ねるような足取りで、新たな区域へと踏み込んでいく。

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メイと肉食樹がレンを綱引き…? え、レンさんの身体は大丈夫ですか!? 思い切り伸ばされた背骨や肩は!? 握り潰された腕は使い物になりますか!? 「レンちゃん、どうかした?」 「うん、まあ…ゲームで良…
クイズですが小学生しか来てないと言うことは、安全面でどう対処したら良いか考えると良いかも。
ジャングルならメイは無敵ですね。
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