1227.謎の浮島
「そう言えば……一つ気になったことがあるんだ」
夕暮れ時の大空を進む、セフィロト丸。
メイが、思い出したようにつぶやいた。
「何が気になるの?」
レンが問いかけると、その指を一つの雲に向けた。
「あの曇、なんだか動きが違う気がする」
「動きが違う?」
「風に流れていく感じじゃなくて、決められた道を進んでる感じなのかな?」
「……本当ね。何この違和感」
「行ってみますか?」
飛行艇なら、その場所に向かうことができる。
メイのそんな気付きを、見逃がす理由は特にない。
飛行艇改修のための自由時間はまだ続く。
四人は、メイが見つけた雲の方に向かってみることにした。
「シュ、シュークリームのような雲ですね」
その形状はまさに、まもりが言う通り。
雲の上部を目指すような形で、飛んでいくと――。
「何かあるよ!」
そこにはエルラトのように、建物が隠されていた。
「遺跡……とは違う感じ。これってもしかして」
そこは人が住むような場所ではなく、大きなアンテナの傘みたいな物が置かれている。
それはまるで、中継基地のようだ。
「モナココで戦った魔導甲冑が終盤で使った【月光砲】は、ここを経由したんじゃないかしら」
「そ、そういうことですか」
エルラトやナディカなどと、同じ時代に存在した文明ルアリア。
その高い魔導文明の一つとして生み出された【月光砲】は、月から放たれた魔力を一度経由して角度などを調整。
敵に向けて放つという形だった。
「見に行ってみましょう」
「では、私はここで待っています」
魔導甲冑に使われていたのと同じ素材で作らているように見える、大型のアンテナの下には、二階建てほどの建物。
飾りの彫られた石材で作られた建物の中に、並ぶメイたち。
スッとメイとまもりが下がり、レンに道を開ける。
「はい、開けるわよ」
ワクワクしながらレンの後ろに隠れてのぞく、メイとまもり。
「たまにはメイが、ドアを引きちぎって入ってくれてもいいのよ」
「っ!」
まもり、メイがドアノブをつかんだままベリッと剥がす図を想像して噴き出す。
「そんなに力持ちではありませーんっ!」
そんなことを話しながら、金属製の簡素なドアを開く。
中には質素なデスクにイスが並び、その上には大きな地図と金属製の小さな置物。
恐らく地図のポイントに、その置物でマークするのだろう。
「この地図は、今のこの世界とほとんど同じね」
「こ、この置物は、何を現しているのでしょうか」
モナココを中心に三つのポイントがあるようだが、それがただなんとなく置いてあるのか、意味があるのかまでは分からない。
一応三人で並びを見てから、螺旋階段を上り二階へ。
そこには見慣れない部品が、色々と収められていた。
「あれっ、この宝石って……」
メイはその中にある、一つの宝石塊に気づいた。
「魔導甲冑の兜についてたやつじゃないかな?」
ヒビが入っているが、手に取るとわずかに光を点滅させて消える。
「よく見てるわねぇ……」
あの激しい戦いの中で、魔導甲冑の造りまでしっかり見ていたメイに感嘆するレン。
「これ、アイテムとして持ち出せるみたい。【壊れかけの起動宝石】ですって」
「も、もしかすると、これで【月光砲】を撃つのでしょうか」
「ええっ!? あのすごいやつ撃てるの!?」
「その可能性は高そうね……どういう形になるかは分からないけど。これはメイのお手柄になるかもしれない」
「やったー!」
メイたちは他にも何かアイテムがないかを確認して、一階へ戻る。
それからあらためて内部を確認し、無事アンテナ設備を後にした。
「何か見つかったみたいですね」
船に戻ると、ツバメが【壊れかけの起動宝石】を見てつぶやいた。
「これ、【月光砲】の起動に使われてたものっぽいわ」
「そうなのですか。あの点滅からの発射準備完了の恐怖を思い出しますね」
「ただ、このまま自由に使えますって感じではないから、何かもう一つありそうだけど……」
「そういう事でしたら、モナココの王女様に聞いてみるのが良さそうですね」
「なるほど……! 一度行ってみましょうか!」
さらにツバメの思いつきから、暮れてきた空を進んで四人はモナココへ。
「わあーっ! 綺麗だね!」
「は、はひっ!」
夜を迎えつつあるモナココのカジノ群は、まばゆいほどのネオンが輝いている。
さらに港沿いはあえて炎を明かりにしているため、雰囲気も抜群だ。
「飛行艇だ……!!」
「うおおっ! 飛行艇が降りてきたぞ!」
そんな街の一角に、ツバメはセフィロト丸を降ろす。
モナココのような街に、メイたちが飛行艇でやってくる。
映画のプロモーションのような状況に、自然と街が盛り上がる。
カジノ目指して進む四人に、自然と向けられる声。
「メイちゃーん!」
「はーい!」
手を振るメイに、あがる歓声。
「アサシンちゃんだ!」
そんな声に、ぺこりと丁寧に頭を下げるツバメ。
「盾子ちゃん!」
「はひっ!」
まもりは申し訳なさそうに、頭をブンブン下げる。
「「「使徒長殿」」」
「やめて!」
そんな中、レンにだけヒザを突いた一団がいて、メイたちが噴き出す。
笑いながら道を進み、そのままカジノのオーナー室に行くと、そこには王女が待っていた。
「おや、皆さんどうされましたか?」
モナココのクエストを達成した四人に、王女は丁寧に対応。
「実は、こんなものを見つけたんだけど」
レンが【壊れかけの起動宝石】を見せると、王女はわずかに驚くような顔をした。
「これをどこで……」
「空の施設です」
「そういうことですか。【月光砲】の起動にはこの宝石と、王家に関わるものの『承認』が必要になるのです」
「だからグリンデルは自分で使用できたのね」
「倉庫は閉めているので、新たなものが見つかるとは思いませんでした」
王女はそう言って一度、息をついた。
「このヒビを見るに、件の施設で旧文明時代に『載せ替え』て、そのままにしてあったのでしょう……この宝石は皆さんがお持ちください」
「いいの?」
「この感じだともって一回というところですし、世界を救うような戦いをする皆さんが必要とあれば、私が『承認』いたしましょう」
そう言って王女は、宝石をレンたちに託した。
「これ、本当に使えそうね!」
「はい、これはワクワクします!」
「本当だねっ!」
「は、はひっ」
「それではそろそろ、アジトに戻りましょうか」
意外な形で、前クエストの最終ボスが使った奥義を得た四人。
あの戦いで見た強力な一撃にドキドキしながら、ウィンディアのアジトへと帰って行くのだった。
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