1023.空中戦
黒竜ラグナリオンと、巨鳥ケツァールが宙を舞う。
「この時を待っていましたわ! メイさんと騎乗による対決!」
メイの帝国での空中戦を千回見て、その五倍死んで練習した白夜。
「【紅蓮砲弾】!」
さっそく火炎弾を三連発で放って、先手を打つ。
これをケツァールと共に弧を描く飛行でかわしたメイに、白夜は一気に接近。
「【エアブースト】【エーテルジャベリン】!」
すれ違い際に放つ、六本の光槍。
「【アクロバット】!」
メイはこれを大きな前方回転跳びでかわして、再びケツァールの上に着地する。
すると白夜はラグナリオンを、渦を描くような飛行で上昇させて、メイたちに狙いをつけた。
「【ツインストライク】!」
一気に加速して坂を下るような角度の飛行で接近すると、白夜は跳躍。
先行して黒竜が突撃してくる。
「はいっ! 【ラビットジャンプ】!」
ここでメイも大きく前方へ跳躍。
ケツァールと『分離』するように上下に分かれて、黒竜の突撃を回避する。
「ここですわ! 【ライトニングスラスト】!」
再びその背中に着地した瞬間を狙って、放つ高速飛行突き。
「わっ!」
その上手な一撃は、メイの肩を斬っていった。
「これで直撃が取れないとは……さすがですわね!」
ラグナリオンに着地した白夜は、感嘆の息をつく。
離れる両者。
ケツァールには突撃と蹴りくらいしかできることがないため、基本的にはメイ自身が主な戦闘を行うことになる。
また速度に差もないため、一方的に【紅蓮砲弾】を撃てば基本的に負けはない。
「もちろん、そんな興ざめなマネは致しませんけど! 【エアブースト】!」
間髪開けずに、ケツァールのもとへ接近していく白夜。
メイが与えたのは騎乗での戦いだけではなく、その大胆さ。
この距離なら再び【ツインストライク】か【エーテルジャベリン】か。
そう考えて身構えるメイ。
「【ツインストライク】【ライトニングスラスト】!」
やはり高速飛行突き。
メイは回避のために姿勢を整えるが――。
「ええええっ!?」
なんと白夜はそのままケツァールに乗り込み、レイピアでの攻撃を放つ。
慌てながらも、これをかわすメイ。
「ラグナリオン!」
呼ばれた黒竜はそのまま頭で、ケツァールの側部に【頭突き】をかました。
「うわわわわっ!?」
「もう一度! 【ライトニングスラスト】!」
メイの腕をかすめていくレイピア。
白夜はそのまま落下し、ちょうど下に来ていたラグナリオンに着地した。
「あと少しというところでしたわね……!」
息をつき、滞空。
しかしこの時メイは、反撃の動きを開始していた。
「っ!?」
影がかかり、白夜は慌てて上空を見上げる。
そこには真上から、ほぼ直角に落下してくるケツァールとメイ。
すでに、滞空状態からの回避は難しい距離だ。
「マズいですわね」
そしてラグナリオンに攻撃が直撃すれば、そこで騎乗戦は敗北となる。
「【フルスイング】!」
「他に手はありませんわね!」
これを白夜は、防御で対応。
「っ!」
HPを5割持っていかれた上に大きく弾かれて、ラグナリオンから転落した。
その事実に気づいた黒竜は、即座に速い縦の回転で主の白夜に向けて降下。
高い動物値が功を奏して、見事に白夜を拾い上げる。
「さすがの一撃でしたわ……メイさんは……!?」
白夜は急いで空中を見上げるが、ケツァールの背にメイはなし。
「メイさんは、一体どこに!?」
あり得ない事態に、慌てて辺りを見回しすが、やはりいない。
白夜が慌て出した、その瞬間。
「よいしょーっ!」
「なっ!?」
なんとメイは落下する白夜を追いかけていたラグナリオンに、【ターザンロープ】を引っ掛けて随行。
ここでまさかの『乗り込み返し』を成功させた。
「それっ! それっ!」
メイは剣による攻撃を二発ほど繰り出し、白夜がこれを黒竜の頭部側に下がることで回避したところで、剣を掲げた。
「っ!?」
ここで【ソードバッシュ】を繰り出せば、勝敗が確定。
敵の従魔にロープを巻いて追ってくるという、奇想天外な行動が戦いを決着づける。
「【スピリット・イーグル】!」
「「ええっ!?」」
ここでイチかバチかの攻撃を放ったのは、【ダイナブラスト】で吹き飛んだ後、運よく船尾に天日干しのような形で引っかかっていたディアナ。
落下してきた鷲の霊はラグナリオンの背に直撃し、大きく体勢を崩したことで両者共に落下となった。
「ありがとうーっ!」
しかしすぐさま飛んできたケツァールに受け止められて、メイは無事。
「どうせならもっと、華麗に落ちたかったですわね……」
一方白夜は、頭を下にする形でクルクルと回りながら落ちていく。
ラグナリオンは鷲霊の攻撃によって白夜を見失い、ここからのフォローは不可能だ。
「敗北決定を覆す可能性に賭けた援護をしてもらいましたが……ここまでのようですわね」
白夜はそんなことを言いながら、パラシュートを使用。
落下での敗北という形になった。
「白夜も相当うまいけど……メイの騎乗戦はもう、地上と同じような『当たり前』の感覚なのよね」
そのため気負いが一切なく、敵の従魔にロープでぶら下がるみたいな常識外れも、余裕で敢行できる。
戦いの結末を見届けたレンが、感嘆しながらつぶやく。
そしてパラシュートでふわふわと降りていく白夜の姿がちょっと優雅で、笑ってしまうのだった。
「さあ、勝負を決めましょうか」
「メイさんっ!」
「お、おねがいしますっ!」
「りょうかいですっ!」
どちらも飛行艇もそれなりに数を減らしたが、紅の翼はエースたちが戦えない状態。
対してウィンディアに、ケツァールに騎乗中のメイが残っている時点で、勝負は決定的だ。
「いきますっ!」
メイはすでに倒れている紅の翼の面々も見惚れる、華麗な飛行で旗艦に接近。
放たれる無数の砲弾を当然のようにかわし、そのまま船の真正面に突撃するような形で【世界樹の剣】を振るう。
「必殺の……【ソードバッシュ】だああああああ――――っ!!」
大空を駆け抜ける衝撃波と共に、メイは旗艦の後方へと斬り抜けていった。
紅の翼の旗艦のゲージがなくなり、これで艦隊戦も勝負あり。
「やりました!」
「はひっ!」
セフィロト丸で、笑い合うツバメとまもり。
レンも杖を掲げて喜ぶ。
「……なんだ?」
しかし紅の翼の旗艦は、ゲージを1ドットだけ残して落ちなかった。
ナギが甲板で、不思議そうに首を傾げる。
どうやらこの戦いは、どういう形で斃れても、死に戻り先が飛行艇になっているようだ。
「……ん?」
そんな中で異変に気付いたのは、やはりメイだった。
注目の的になっていたメイの怪訝な表情に、他のプレイヤーやNPCたちも合わせて視線をそろえる。
「お、おい、なんだあれっ!?」
あがる声。
空のかなたからやって来たのは巨大な有翼の魔物と、その脇を固めるワイバーンたち。
灰色の岩盤を貼り付けて作った竜のような魔物は、緩やかで大きな羽ばたきと共に接近。
艦隊戦の現場から、百メートルほどの距離のところまでやってきて滞空。
「嫌な気配がしますね」
そんなツバメの言葉に応えるかのように、頭部の結晶に集結していく魔力。
直後、放たれた魔力のレーザーが艦隊の合間を通り過ぎていった。
「「「おおおおおおおお――――っ!?」」」
遅れてめちゃくちゃな暴風が吹き荒れ、艦隊は散り散りに。
それを見て、もう興味はないとばかりに去っていく有翼の魔物。
一方魔力砲の余波に弾かれた紅の翼の旗艦は、大きく回転。
誰かがその甲板から転落し、敵陣から大きな悲鳴が上がった。
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