1221.エース白夜
「撃てぇぇぇぇ――――っ!!」
紅の翼の飛行艇から、放たれる砲弾。
「左折しながら……後退!」
接近してくる敵機体の攻撃を受けないよう意識しつつ、ツバメは飛来する砲弾をかわす。
「い、今ですっ!」
ここでまもりが放った砲弾が直撃し、敵飛行艇は大きなダメージを受けた。
「操舵、砲撃も上手いな……!」
「でもこれなら!」
そんな中を飛んできた一つの砲弾は、セフィロト丸の退路の先を狙うような形で放たれていた。
「【地壁の盾】!」
「ここで盾子ちゃんか!」
ツバメの操舵に、まもりの砲撃と防御。
二人の見事な連携で、セフィロト丸は大きな被弾を受けることなく見事に立ち回る。
やはりレースで鍛えた腕は、優位に働いているようだ。
「【地壁の盾】!」
そして新たな砲弾を、まもりが受け止めたところで。
「「っ!!」」
セフィロト丸の横っ腹に、矢が突き刺さった。
「まだまだっ! 【的射】【ブラストアロー】!」
一定時間は狙った『的』にしか矢が飛ばないというスキルで放つ攻撃は、まもりが盾で受けられないよう、飛行艇の横っ腹に炸裂。
ゲージを減らされる。
「これはやっかいですね!」
「はひっ! 甲板より低い位置に飛んでくると、受けるのが難しいですっ」
ツバメが高度を下げて、まもりが受けに行くという二つの行程でようやく防御可能な攻撃。
それは、あまりに厳しい。
「まもりさん、あの弓術師さんでよいでしょうか」
「い、いいと思いますっ」
一方的になりそうな展開の中、ツバメは早めの判断を下して一冊の本を取り出した。
肩幅に足を開いて、ショートローブを払う。
それからゆっくりと、【魔法の栞】を高く引き抜いた。
開かれた【魔導経典】のページが、怪しく輝き出す。
「昏き明けの明星よ、我が呼び声に応え終末より来たれ――――【堕天彗星】」
聡明でありながらも、どこか浮世離れした物静かな魔導士。
ツバメはそんなキャラ作りで、開いたページに記載された魔法が使える【魔導経典】を使用。
すると天より落下してきた彗星が、弓術師の乗った飛行艇に直撃した。
「「「うおおおおおおお――――っ!?」」」
すでにゲージをある程度減らしていた敵艦は、煙を吹きながら高度を下げていく。
「ふう」と息をつき、大して興味もなさそうに【魔導経典】を閉じるツバメの別キャラぶりに、思わず見入ってしまうまもり。
「「「わあああああ――――っ!!」」」
続けて聞こえてきた悲鳴は、ウィンディアの味方のものだった。
これで二機目のリタイアだ。
「あ、あれはっ! 白夜さん!」
「さすがですね……!」
それは白夜の砲弾攻撃によるもの。
さらに白夜は、次のウィンディア艇を狙って進行。
放たれた砲弾たちをかわし、反撃の大砲を叩き込む。
まさにエース級の動きだ。
メイとレンがナギたちとの戦いに足止めされているため、動きやすいのだろう。
数に劣るウィンディア。
これ以上の被害を防ぐため、ツバメはセフィロト丸を走らせ白夜機の側部へ。
「発射!」
「来ましたわねっ!」
まもりの放った砲撃に気づいた白夜は、折れ曲がるような飛行でこれをかわし、反撃。
対してツバメも、後方に下げることでかわす。
白夜はすぐに弧を描く方で接近して砲撃するが、ツバメは得意の『フロートオフ』で落下して回避。
すぐさま上方へ向けて放った砲弾が、白夜艇の縁をかすめた。
「見事な操船。そして長い戦いになればメイさんたちが戻り、こちらが不利になる可能性が高い……勝負を賭けるなら、ここですわね!」
白夜はペダルを、強く踏み込んだ。
「ツバメさん、まもりさん、失礼いたしますわ!」
「「っ!?」」
セフィロト丸に走る、大きな衝撃。
なんと白夜は勢いのまま、飛行艇を直接ぶつけてきた。
「上品な姿から、なんて豪快なのでしょうか……っ!」
飛空艇を置き、こちらに乗り込んできた白夜に驚く二人。
「五月晴れに勝つなら、トップ100人いても心許ないですもの。チームが分かれている内に、無理の一つもさせてもらいますわ!」
敵にメイがいる以上、無茶せずに勝つことなどありえない。
覚悟を決めた白夜は、ここでセフィロト丸を駆る二人を狙いに来た。
迎え撃つのはまもり。
「【エーテルジャベリン】!」
白夜は自身の左右に三本ずつ、計六本の光槍を配置して接近。
その状態のまま踏み込み、レイピアによる攻撃を仕掛ける。
「【クイックガード】【地壁の盾】盾盾盾っ!」
「発射!」
そしてここで、一気に六本まとめて放出。
「【クイックガード】【天雲の盾】盾盾盾盾盾っ!」
「ここですわ! 【ライトニングスラスト】!」
一方白夜は高速飛行突きで迫り、そのまま通常防御に入ろうとするまもりに向けて特攻。
「タックル!?」
「倒れないのは高い【耐久】のたまものですわね。ですがここまでは予想通り!」
白夜はあえて刺突を外して、体当たり。
まもりをわずかに後退させつつ、自身も少ない体勢の崩れで収める。
「狙いあくまでこっちです! 【エーテルライズ・エクステンド】!」
「きゃあああっ!」
唯一、盾が活きない足元から。
10本に渡る光柱が噴き上がり、まもりを弾き飛ばす。
「【エンジェライズ】」
小さな翼で行う、大きなストライド。
一気に距離を詰めて来た白夜は、そのままレイピアを振り下ろす。
これをまもりがギリギリ防御したところで、すぐさまスキルを発動。
「【エーテルライズ】!」
「っ!!」
先ほどより小規模だが、足元から突き上がる光の柱は、まもりにとって大きな問題になる。
慌てて下がったところに、駆け出す白夜。
「こ、これでっ!」
先んじてまもりは、【魔神の大剣】を振り回して攻撃。
白夜はこれをかわし、【ローリングシールド】も回避。
「【シールドバッシュ】!」
「【跳躍】!」
放たれた衝撃波を、跳んで避ける。
「【大回転撃】!」
「貴方の防御力は存じています。そして……単純な攻撃力の低さも!」
二枚盾の大きな振り回しも、しっかり見据えて回避。
「【エーテルランス・スキュア】!」
「【天雲の盾】!」
隙を見て狙った反撃。
まもりはすぐさま、盾で防御に入るが――。
「防御無視ですわ」
ジャベリンより大型の、三本の光のランスが突き刺さる。
最初だけ当てれば、自動で残り二本が突き刺さり炸裂する魔法攻撃に、まもりは再び吹き飛んだ。
「きゃあああああ――っ!!」
「良い流れ、このまま一気に!」
白夜は走り、そのままレイピアを引く。
「ライトニング――」
「【獅子霊の盾】!」
しかし転がった後にすぐさま立ち上がったまもりは、盾から大きな獅子の霊を生み出し反撃。
「っ!!」
白夜は必死の急停止。
しかし身体の前面を強く弾かれ、バランスを崩した。
「【加速】【リブースト】!」
ここで舵を離れたツバメが、前に出る。
「「「「させるかぁぁぁぁ!!」」」」
紅の翼のプレイヤーが四人、遅れて甲板に乗り込んで来た。
そして白夜を守るように、立ちふさがる。
だが、ツバメは止まらない。
「【チェーンキル】【アサシンピアス】!」
早い踏み込みから放つ刺突で、先頭の剣士を打倒。
さらにもう一歩前に出て、武道家を刺殺。
魔法剣士の振り下ろしをかわしながら刺突を決め、槍使いの突きを避けて撃破。
そのままの流れで、白夜を狙う。
「【アサシンピアス】」
「そうはいきませんわ!」
呆然としながら倒れていく、紅の翼クルー。
驚異的な連続アサシンに驚きながらも、白夜はこの一撃をしっかり防御。
「【隠し腕】」
「っ!」
しかしすぐさま横から出て来た短剣の刺突に、慌てて転がる。
大急ぎで顔を上げるが、そこにツバメの姿はない。
「【空襲】」
「っ!?」
今度は、空中からの刺突。
イチかバチかのローリングで、白夜は運よく攻撃を回避。
最速で立ち上がり、駆け込んでくるツバメに反撃を叩き込む。
「【エーテルジャベリン】!」
六本全て同時発射は、この距離感での回避は不可能。
ぶつかり合った光の槍が弾け、まばゆい光の粒子を散らす。しかし。
「それは――――残像です」
「――――でしょうね。【エーテルライズ・エクステンド】!」
白夜は大慌てで、自身を中心に突き上がる光の柱で止めにかかる。
もはや、ツバメの位置は分からない。
だが、追撃だけは止められた。
事実、打てる全ての手から最善を尽くしての判断は見事だ。
……しかし白夜本人は、本当は残像に思いっきりビックリしたのを上手に『知っていたフリ』ができたことに、内心歓喜していた。
「とはいえ、ここに【分身】と『消えるブーツ』を交えてきたら手に負えませんわ。ツバメさんにバトンタッチされた以上、戦い方は変える必要がありますわ」
たった十秒ほどの立ち合いで、呼吸を忘れるほどに鋭いツバメの攻勢。
「対戦中だというのに、思わず見惚れそうになってしまうのは問題ですわね」
白夜はつぶやき、パチンと指を鳴らす。
「【電光石火】!」
そして光柱が消え、ツバメが動き出したところに――。
「なっ!?」
従魔ラグナリオンの登場。
滑空攻撃は見事に、迫るツバメを翼で打ち付けた。
ラグナリオンはそのまま、縦に一回転。
「さあ、いきますわよ」
そのまま白夜を乗せて、舞い上がっていく。
「ツ、ツバメさん……っ」
「そもそもが飛行艇での戦い。こういう形だと白夜さんには有利ですね」
二人は大空を舞う白夜とラグナリオンを見上げて、息を飲んだ。
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