1220.シャーマン
「闇の魔導士とシャーマンの戦いは、めずらしいマッチアップっスね」
「『闇の』魔導士なんていうジョブは、ないんだけどね」
危うく白目をむきそうになったレンが、どうにかこらえる。
空を挟んで対峙するレンとディアナ。
自機ではないが、互いの所属チームの飛行艇上で視線をぶつけ合う。
「この距離なら、敗けねーっスよ! 【スピリット・ファルコン】!」
先手はディアナ。
高速で飛来する光の隼が、一直線に飛んでくる。
「この連射速度は、なかなかねっ」
次々に放たれる攻撃を、レンは左右のステップで回避する。
「今だっ!」
するとレンが攻撃体勢にないことに気づいた紅の翼プレイヤーたちが、砲撃を開始。
直線で来る隼霊と、放物線を描く砲弾による攻撃は、同時に意識するのが難しい。
「【誘導弾】【フレアストライク】!」
しかしレンは引かない。
回避を優先しながら放つ、魔法攻撃。
本来であれば優位を取られる状況も、【誘導弾】によって『雑に撃っても当てられる』レンは、しっかり敵船にダメージを蓄積させていく。
「ここっ! 【スピリット・ファルコン】!」
そんな中、魔法攻撃の直後を狙われたレンは防御を選択。
「貫通っ!?」
しかし隼霊は『防御不可』らしく、大きく体勢を崩してダメージを受けた。
「【スピリット・イーグル】!」
「くっ!」
即座に頭上から来る鷲霊の一撃を、レンは転がってかわす。
「思ったより、攻め切れねーっスね……!」
ディアナがつぶやく。
攻撃の手数は多かった紅の翼だったが、レンの【誘導弾】がとにかく優秀で、戦いは均衡の様相だ。
「そんなら、いくしかねえっスね――――【大鷲降霊】!」
ここでさらに、『進攻』を決定。
現れたまばゆい鷲の霊が、その身体に宿る。
ディアナは光の翼を広げて、大空に舞い上がった。
時間は長くないが、自在な飛行が行えるスキルで飛び掛かる。
気付いたレンは、剣などの振り降ろしに注意するが――。
「オッラー!」
「シンプルに飛び蹴り!?」
飛び掛かりで使える武器などは持っていないのか、まさかの蹴りで迫りくる。
「あっぶな!」
ヒーローのような華麗な姿勢で放つ一撃を、続けざまのローリングで回避して、レンは慌てて立ち上がる。
「この距離でも侮れねーのは知ってるけど、それでも中遠距離よりは有利っスよね!」
「その口ぶり、近距離がいける口ってわけね!」
「まあね!」
戦いは、ウィンディア艦の甲板に移る。
「【スピリット・ホーク】!」
呼び出した鷹の霊は、付近を飛び回って共に戦う相棒。
「【霊光砲】!」
さらに間髪置かずに、白黄色のエネルギー砲を放つ。
レンはこれを、即座に防御。
しかしその狙いは、戦場にいた戦闘クルーたちだ。
「「「うああああーっ!」」」
一発で甲板からこぼれ落ち、ディアナは複数対一の状況を崩してみせた。
一方鷹の霊は、宙を舞い突撃。
レンがかわしてもすぐに軌道を変更し、再び特攻を仕掛けてくる。
「【スピリット・ファルコン】!」
その合間を狙った、防御不能攻撃。
「近距離で、武器も拳も使わずに戦うつもりなの……!? 【低空高速飛行】【旋回飛行】!」
レンは必死にこの連携をかわして、接近。
回避の難しい範囲魔法で、戦いの優位を取ろうとするが――。
「【霊障】!」
円形に広がる半透明の輝きが、ビシッと激しい音を鳴らして衝撃を走らせた。
「っ!!」
強制停止に加えて、【猛毒】という状態異常まで添付。
「【スピリット・イーグル】!」
「くっ!」
そこに頭上から飛来した鷲の霊が見えて、レンは全力で飛び転がる。
「【フレアストライク】!」
起き上がりと同時に放つ炎砲弾は、完璧な形でディアナを捉えていた。
「【守護霊】!」
「なっ!?」
しかし今度はディアナの前に集まった魂魄が壁になり、爆炎と共に消失した。
「身代わりにするのは、ちょっと残酷じゃない!?」
「それには同意っスね! 【背後霊】!」
「っ!?」
まだ続く、ディアナの攻勢。
足元にかかる影は、完全に背後からのもの。
レンの真後ろに現れたのは、黒の全身鎧をまとった剣士の霊。
振り下ろされる大柄な剣を、レンが大慌てでかわしたところで――。
「今っ!」
付近を飛んでいた【スピリット・ホーク】がぶつかり炸裂。さらに。
「ここっ! 【霊光砲】!」
「きゃああああっ!」
「悪くない戦いっスね! 普段と違う足場ってのも、効いてるのかも……っ!」
相手は世界の危機を救った勇者パーティの、大魔導士のような存在。
転がるレンを見て、ディアナは思わず意気を上げる。
「トリッキーかつ、火力が高い近接……!」
結構なダメージと共に、戦い自体も押される形となったレン。
「でも……っ! 開放!」
ここで、各所の床に刻んでおいた【氷結のルーン】を発動。
「ルーン! 刻まれた紋様が発動まで光んねえのは反則っスよ!!」
甲板にいくつも生み出された氷剣の小山に、止まる足。
「【フレアストライク】!」
「やっば!」
即座に防御を選び、ディアナはダメージを抑える。
「っ!?」
その煙の中を、一直線に駆けてくるレン。
「例の燃えるやつっスね!」
レンの手の内を思い出したディアナは、【燃焼のルーン】タッチを恐れて、後方に身を放り出す。
するとレンの手は、鼻先を通り抜けっていった。
さらに追撃をかけようと、レンは踏み込むが――。
「あっぶな!」
そこに向けられたのは、紅の翼プレイヤーによる魔法攻撃。
慌てて回避に動き、ここで追撃の流れは途切れた。さらに。
「ちょっと! うそでしょ!?」
なんと紅の翼の一機が、レンの立っていたウィンディア船に突撃してくる。
「きゃあああああ――っ!!」
壮大な衝突音から、メリメリという派手な破砕音。
大きな揺れによって、船から転がり落ちそうになる。
「ウィンディア船で戦うと、こういうこともあるのね!」
いよいよ、足場にしていた船のゲージは大きく減少。
この飛行艇はすでに、危険域だ。
「これ以上ここで戦っても先はないわ! あんまり使いたくないけど……【黒翼】!」
ここでレンは、場の変更を選択。
舞い上がって開いた翼、黒の羽をまき散らしながら敵船の一つへ移動。
「逃がさねーっスよ!」
するとディアナも、【大鷲降霊】で飛んできた。
そして、着地と同時に右手を払う。
「【スピリット・キングウォーウルフ】!」
「ッ!?」
現れたのは、巨大な狼の霊。
容赦のない猛烈な飛び掛かりは、その迫力からして圧倒的。
放つ【喰らいつき】は範囲も広く、捕まれば一撃で大ダメージ必至。
レンはイチかバチか、後方へ身を投げる。
するとその牙は、胸元をかすめていった。
「ここ、反撃!」
飛び移った、紅の翼の飛行艇。
ディアナの背後には、レンを討とうと駆けつけてくるプレイヤーたち。
レンは立ち上がるのと同時に、杖を振り下ろして狙いをディアナへ。
「さあその力を見せてもらうわ! 【コンセントレイト】!」
飛行による移動時から『溜め』ておいた魔法を、ここで解き放つ。
「――――【聖槍】!」
杖の先から放たれた神々しい大型の光槍は、一直線にディアナに向けて飛んでいく。
「やばっ!」
慌てて防御に入るディアナ。
光で作られているにもかかわらず、その意匠までハッキリ分かる槍は、そのまま直撃。
体勢を崩した後、すぐさま反撃に入ろうとしたところで――。
「「「うっおおおおおお――――っ!?」」」
大爆発を起こして、付近のプレイヤーごとディアナを吹き飛ばした。
そのまま甲板を転がったディアナは、船室へと続くドアに激しく打ち付けられて停止。
駆け寄ってきていた船員プレイヤーたちの半分は、飛行艇から落下して消えた。
変わる、戦いの流れ。
「聖属性……?」
ディアナが、驚きの声を上げた。
「そんな目で、こっち見ないでよ」
「聖属性の魔法を、闇を超えし者が使った……!」
「あの使徒長が、ついに聖と闇の垣根を超えたのか……っ!」
周りのプレイヤーたちも驚きの目を向け、レンはさすがに顔を赤くする。
「……ついにその力、闇だけにとどまらないところまで来ましたのね。やはり貴方は、来たる大きな何かに向けて動いている」
飛行艇の上、静かに戦況を見すえていた白夜は、確信の笑みと共につぶやく。
「ここですわね」
髪を払って、レイピアを構える。
そして、ツバメが動かすセフィロト丸へ向けて進攻を開始した。
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