1217.レースを終えて
「最後の急転回、お見事でしたわね。お二人の息がよく合っていましたわ」
「ありがとうございますっ!」
「ありがとうございます」
飛行艇レースは、メイたちの勝利で幕を閉じた。
紅の翼に入った白夜は、デッキの縁に優雅に腰掛けている。
「メイさんがいる以上、これくらいの予想外を起こされてなお、勝てるだけの差をつけなければいけませんでしたわね」
そう言って、楽しそうに笑う白夜。
「もう二連敗じゃねーか!」
「野生児ちゃんがいるんだし、大体予想通りじゃないっスかね?」
ナギとディアナも、あらためてレースの結果を振り返っている。
「野生児ではございませーんっ!」
そしてそんなディアナの言葉に、間に一つ飛行艇を挟んでも、しっかりと反応するメイ。
モナココの地下通路でまもりと一緒に飲んだ、『オシャレなチョコレートドリンク』のガラス容器を取り出して、「普段はこういうのを嗜んでいます!」と猛アピール。
「君たち、大したもんだなぁ」
そんなメイのアピールにディアナが首を傾げていると、そこにレースの主催である富豪ジャルル・アナザーがやって来た。
「従魔を使ったレースではそこそこ名をはせていたんだがなぁ……君たちの勝ちだ。楽しいレースをありがとう。ウィンディアには良いエースが入ったな」
そして、勝利祝いを差し出してきた。
【富豪チキンサンド】:使用スキルや魔法の効果範囲を広くする。
「こ、こんなにもらっていいのでしょうかっ」
「一つ一つの効果は、そこそこなんじゃないかしら」
まもりはいくつものチキンサンドをもらって、満面の笑みを浮かべる。
「フン。今回は僅差で勝利を譲ったが、お前たちが賊であることに変わりはない。そこのところはわきまえろよ」
「誰のものでもないフロートを独占しようとしてる癖に、偉そうにすんな!」
最後に兵長とイスカが、言い合いを一つ。
「お前もだぞ、ジャルル・アナザー」
「考えておきますよ」
一方にらみを利かされたジャルルは、喰えない笑みで兵長を煙に巻いた。
「それではごきげんよう。次は敗けませんわ」
「次こそは……っ!」
「そのセリフがもう、負け役っぽいんスよねー」
「言うなって!」
紅の翼は去り、ジャルルもレースの結果をもとに飛行艇を改良したいと去っていく。
こうしてウィンディアと紅の翼、そして飛行艇乗りによるレースは幕を閉じた。
「んー、でも楽しい勝負だったな。そろそろ帰ろっか」
ギリギリで兵長に勝利して、ご機嫌なイスカの先導で、セフィロト丸もウィンディアの基地へ戻る。
そしていつも通り、滝を抜けて内部に入り込んだところで――。
「わあ! カッコいい!」
その光景に、目を奪われる。
建造中だった4,5号艇が完成し、さらに6号艇も最終調整を終えるところ。
すでに基地には、飛行艇が堂々と並べられていた。
「ジャルルさんの飛行艇に、外部班に製造を任せてるものも合わせれば、これでもう8機になるんだなっ!」
イスカも、壮観な光景に思わず身を乗り出す。
メイたちも飛行艇を収めると、いよいよ充実してきたウィンディアの基地を眺める。
「なあなあ、聞いてくれよ。飛行艇レースをジャルルさんが始めてさ、紅の翼のエースたちも参加した対決で、セフィロト丸が優勝したんだ!」
「マジか……! あのジャルル氏より速いって相当だぞ!」
「紅の翼の新人も、うちの新エースにはかなわないってことだな!」
ライバルである紅の翼に勝ったと聞いて、よろこぶウィンディアのクルーたち。
「大変だ! 大変なことが起きた……っ!」
するとウィンディアのリーダー的存在であるエアが、突然駆け込んで来た。
「どうしたんだよ、そんなに慌てて」
並々ならぬ気配でやってきたエアに、イスカが問いかける。
「王国の端にある洞窟から、新たな船が発見された……!」
「それってまさか!」
「ああ、その通りだ。そこにも『飛行珠』が残されている可能性が高い」
「それって、ウィンディア内部だけの情報なの?」
レンが問うと、エアは静かに首を振る。
「分からない。だがらこそ状況は一刻を争う。ブライト王国が先にたどり着いてしまえば、ヤツらは全てを独占するだろう!」
そう言って振り返ると、基地内に響かせるような声で叫ぶ。
「今よりウィンディアは全機、飛行珠の回収に向かう! 念のためジャルル氏にも通達し協力を要請。全力で奪取に挑むことになる! 総員、飛行艇に乗り込め!」
「「「「おうっ!!」」」」
響く空賊たちの声。
すぐさま飛行艇がプロペラを回し始め、基地内に慌ただしい空気が広がる。
「君たちにも参加を要請する。もしもこの件が知られていたなら、激しい奪い合いになるだろう。その時は、互いに容赦などなくなる可能性が高い。君たち新たなるエースの力が、必ず必要になる!」
「レースの次は、艦隊戦もありえるってことね」
「た、大変なことになりました……っ」
「すごーい……! どうなっちゃうのかな!」
「厳しい戦いが、予想されます」
フロートの数は当然、そのまま戦力の差となる。
ウィンディアの躍進を止めたい紅の翼は、もちろん全力で奪いにくるだろう。
そしてブライト王国の横暴を許さないエアたちにしてみても、現状フロートの数では差をつけられている。
この劣勢を、広げられるわけにはいかない。
依頼を受けたメイたちは、すぐさま飛行艇に乗り込んだ。
一斉に動き出す、六機の飛行艇。
「ウィンディア三号艇セフィロト丸、ツバメ――――出ます!」
もちろんメイたちも、共に現地へと向かう。
秘密基地を出たセフィロト丸は、発見された船を目指して大空を突き進む。
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