1214.飛行艇レースです!
「それじゃあ始めるよ、準備はいいかな?」
「はいっ!」
ジャルルの声に、元気に応えるメイ。
合計六機の飛行艇が横並びになっている構図は、壮観。
「敗けねーぞぉ!」
「もっちろんスよ! まあもう一回敗けてんだけどね」
「言うなって!」
ナギとディアナが、気合を入れる。
「飛行はわたくしの分野。レンさん、闇の者には敗けませんわよ」
「はいはい」
紅の翼に入った九条院白夜も、強気の笑みを見せる。
「ふん、賊などになど勝って当然だ」
「敗けるもんか……!」
さらに兵長とイスカが、激しいにらみ合いを見せている。
そんな中、舵を左手で握ったジャルルがショートワンドを掲げる。
「いくよ……よーい、スタート!」
そして放った爆破の魔法が、空に弾ける。
その瞬間、六機の飛空艇が一斉に発進した。
「速度に差があるのは……ジャルルの飛行艇だけね」
どうやら基本的に、飛行艇に速度の差はないようだ。
ただジャルルの飛行艇は、そんな中を一機で先行。
やはり船体が細い分、空気抵抗が少ないということなのだろう。
「レース仕様ということですか」
対してメイたちの飛行艇に差はない。
「どこで差がつくのかな?」
「先にある三つのポイントを通過するのがルール。そこに至る間に、何かで『優劣』が付くんじゃないかしら」
「な、なるほど」
飛行ルートは基本自由だが、三つの中継点を通って『ゴール』へというのが、このレースのルール。
そして『飛行艇への直接攻撃』は禁止という点を考えると、やはりレース中に何かがあると考えるのが普通だろう。
そんなことを考えていると、さっそく。
「「「っ!!」」」
飛行艇が強風に流され出した。
「なんだよこれ……っ!」
ナギが悲鳴をあげる。
風のあおりを受けて、航路がドンドン『大回り』になっていく。
そうなれば当然、無駄な距離を飛ぶことになってしまう。
そんな中、抜け出したのはツバメと白夜。
ケツァールによる飛行をよくするメイと、そんなメイの騎乗戦闘に憧れて何千回と落下死した白夜は知っている。
「メイさんの言う通りですね。風は高度で変わるようです」
「そうなんだよーっ。全然違うでしょう?」
「そういうことですわね」
高度を下げることで風の強弱が変わり、抵抗も弱くなる。
そこからジャルルも、高度を下げることで対応。
さらに遅れて、兵長とイスカも対応。
「本来は、ジャルルたちの動きを見てプレイヤーが合わせるんでしょうね」
レンの予想は正解。
ここでいち早く動いたメイと白夜がトップに立ち、すぐ後ろにジャルルという順番になったのは、運営ですら予想外だろう。
「また風です!」
「今度は上昇かしら」
再び噴き出した風は、正面から。
強風は飛行速度自体を大きく落とすため、速い対策が必須だ。
すぐさま飛空艇を上昇させて、進行を安定させる。
「おっと! あぶなっ!」
ここでナギの飛行艇に割りこまれる形になったイスカが、声を上げた。
目の前に飛行艇が来ると早々前には出られず、レースゲームにおけるブロックのような形になる。
「なるほど、結構ハードな勝負になりそうっスね!」
そのことに気づいて、今後の激しいバトルを予期するディアナ。
早くも少しずつ差が出てきた飛行艇レース。
六機はそのまま、街の上を通過する。
「すげーっ! 飛行艇だ!」
「なんだあれ! めちゃくちゃワクワクするな!」
「あの自然を感じさせる色使い……もしかしてメイちゃんか?」
エメラルドグリーンをあしらった飛行艇の綺麗さに目を引かれたプレイヤーたちが、セフィロト丸に注目を向ける。
するとそこに、メイの姿が見えた。
「「「メイちゃーん!」」」
「せーの」で声を合わせて女子パーティが声を上げると、【聴覚向上】で気づいたメイが振り返る。
そしてブンブンと、大きく手を振った。
「「「きゃああああーっ!!」」」
それに合わせて、あがる歓声。
しかし思わず甲高い声を上げたのはオジサンパーティで、それを見た女子パーティが大爆笑。
街が大きくわき立つ。
セフィロト丸と白夜の艇を先頭に、六機は街を抜けていく。
「……あれは」
すると視線の先に見えたのは大きな雨雲。
大きな範囲で降り出す雨。
視界が遮られるほどの一時的な豪雨が、こちらに迫り来る。
ここで兵長とイスカ、ジャルルが『迂回』を選択。
「大きく回り込む形ですが、運転は安定しますわね」
さらに白夜も、雨雲を避ける航路を選択した。
「行くぞ! ディアナ!」
「ここでトップに立つってことだよね! 嫌な予感しかしないっスけど、いけいけーっ!」
「どうしますか?」
「こういう時に、険しい方を楽しそうと思ってしまうのは悪い癖かもしれないわね」
「あはは、そうだねぇ」
「メ、メイさんがいてくれるので、心強いのもあると思いますっ」
こうしてツバメたちも、雨雲の突破を決断。
中継点の方向は視界にアイコンが出ているため、一気に突き進む。
すると、強い風が吹き始めた。
風によって、バチバチと耳に響くほどの雨音。
視界不良の中を進むと、そこに見えたのは竜巻だった。
「巻き込まれて行きます!」
ツバメはすぐさま舵を切り、竜巻に飲み込まれないようなラインを取る。
そのまま豪雨区域を抜けられればという狙いだ。
「おおおおおーっ!」
とんでもない迫力に、メイも歓声を上げる。
するとそこに、同じく竜巻を避けて抜けようと、弧を描きながら進むナギたちの船が接近。
「うわあっ!」
「おっと! 悪ィ!」
大きく流されて滑ってきたナギたちの飛行艇の側面が、セフィロト丸を外に押し出す形になった。
飛行艇同士がぶつかることには、特に問題なし。
ブロックや追い抜き時の接触は、レースゲームのように『一つの要素』として扱われるようだ。
しかしここで外周へ押されたセフィロト丸は減速し、先頭をナギたちに譲る形になった。
「後で飛行艇がひっくり返るような、反撃を喰らいそうな予感がするっスね」
「だから言うなって!」
二機の間に、確かに生まれた差。
「っ!!」
直後、一瞬見えた閃きは雷光。
ツバメもナギも、全速力でこの危険を抜けようとペダルを踏み込む。
「「「「ッ!?」」」」
すると雷光が、飛行艇の真横を駆け抜けていった。
「うおおっ!?」
さすがに驚き、ナギの足がわずかにペダルから離れた。
しかしツバメは普段【紫電】を使っている影響か、驚くことなくペダルを踏み込続け、空いた距離を詰めることに成功。
ナギたちに、ピッタリつけるような位置を取った。
「す、すっごーいっ!」
そのまま二機は、雨雲地帯を突き破るようにして進行。
まさに大冒険という展開に興奮するメイを見て、レンも思わず目を輝かせる。
そしてショートカットが功を奏して、全体の先頭となった。
ナギたちをトップに、ほぼ差はなく斜め後ろに張り付くツバメたち。
「あの嵐を中を、さすがですわね……!」
そこに安全な航路を選んだ白夜たちが続く形で、一つ目の中継点となる光の輪を通り抜けたのだった。
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