1210.練習タイムです!
「すごーい……」
「なんだか、こういう状況もワクワクするわね」
ウィンディアのアジトでは、空賊の面々が忙しそうにしていた。
それはもう二号艇、三号艇もロールアウトできそうな状況だからだ。
プロペラを回してる状態は、車のアイドリング中のよう。
それだけで感じる迫力。
一つの飛行珠から取れるフロートは8個から10個ほど。
見ればすでに四号艇、五号艇も組み立てが始まってる。
「あたしと飛行艇の練習でもしておくかい?」
声をかけてきたのは、ハチマキの少女イスカ。
「運転できるの!?」
「それはいいですね」
「もちろん練習させてもらうわ」
「はひっ! 楽しそうです!」
「君たちはブライト王国との争いに必要な逸材だと思ってるからね。腕に磨きをかけてもらいたいんだ」
そう言って、イスカはエアに声をかけた。
「一号艇借りてくよ!」
「気を付けろよ。紅の翼の連中がいつ出てきてもおかしくないからな」
「了解。まあ大型新人たちもいるし、大丈夫だよ!」
「イスカを頼むぞ」
「りょうかいですっ!」
メイは元気に返事を返す。
「いざという時の備えは、【グライダー】一つでいくのね」
パーティとしては心もとない状況に笑いながら、四人は飛行艇へ。
「一応各自で練習して、最終的にはツバメに頼むのがいいかしら」
ここはやはり何にでも対応できて、かつ強力なメイは自由に。
いざという一撃に対応できるまもりを甲板に。
先んじて遠距離攻撃のできるレンも、甲板に配置したい。
それなら必然的に、ツバメが操舵するのが好ましいという感じだ。
「がんばります。とはいえ船長はレンさんのイメージですね」
「でも海賊みたいに船にドクロつけるなら、耳と尻尾をつけた感じになるだろうし、アイコンは完全にメイなのよね」
「せ、船長はレンさん、マークはメイさんみたいな感じなんですね」
エースとキャプテンが別。
そんな部活を思い浮かべながら、四人はイスカと一緒に一号艇ブルーウィングに乗り込んだ。
四人はさっそく、船尾にある舵のもとに集まる。
舵は船に使われる物と酷似している。
「まずは舵の中央にある宝珠からだね。これに触れると船の地下にあるフロートが反応して、同時にプロペラが動き出す」
「はい」
「そんで舵だけど、左右に回せば傾いて曲がる」
「はい」
「舵の上面を前に押して倒せば船首が『潜る』ような軌道になって下降。手前に引いて倒せば『浮上』するような軌道になって上昇だよ」
「小型飛行機の操縦桿みたいな感じね」
「最後に足元のペダル。こいつはフロート関係で、舵に触れずに左ペダルを踏めばその場で上昇。踏んだまま舵を右や左に切れば、浮かんだままその場で転回できるってわけ。舵を倒せばその方向にスライドするし、飛行中の後退はブレーキ代わりになる」
「右のペダルは?」
「右はとにかく全力で飛行だよ」
「こういうのはとにかく動かして覚えるに限りますね。出ましょう」
視界に出る『操船方法』を見ながら、ツバメはまず左のペダルを踏む。
「ツバメ、ウィンディア一号艇ブルーウィング――――出ます」
「ツバメは本当にそう言うセリフ、当たり前のように出てくるわね」
感心しながらも、実はちょっとテンションの上がっているレン。
プロペラが回り、浮かび上がったウィンディアは、そのままその場で転回して前進。
「ここはちょっと強く踏んで良いぞー」
そう言うイスカだが、さすがに急加速は怖い。
ツバメは少しだけ右ペダルを踏んで進むと――。
「「「「あっ」」」」
イスカの言葉の意味に気づく。
大きな滝から降る飛沫の下を通れば、当然船の上は濡れていく。
ゆっくりと進むとなれば、そのままメイたちはしっかりと滝に打たれることになる。
「すっ、すみません」
「「「あはははははっ」」」
逃げ場のないシャワーを浴びて、笑う三人。
すぐに乾くため問題はないのだが、メイはいつも通り身体をブルブル震わせて水をはじく。
そして水に濡れた飛行艇が基地を出ると、そのまま水滴が陽光を弾くキラキラとした光景を見ながら、ツバメは右ペダルと共に舵を引く。
するとそこから、飛行艇は加速しながら上昇。
あっという間に空に舞い上がった。
「おおーっ! すごいすごいー!」
思わず拍手するメイ。
「思ったより簡単ですね。これなら皆さんもすぐに慣れると思います」
「そんじゃ、こいつで遊んでみよっか」
そう言ってイスカが取り出したのは、雑な造りのバズーカ。
大きな筒に風の魔法石をつけただけの物を、楽しそうに抱えた。
「こいつを、飛行艇の甲板で受け止められるかな?」
そう言って、カラフルなマーブルカラーのボールを射出。
遠くまで飛んでいったボールは、ビーチボールのようにふくらみ、ややのんびりと落ちてくる。
「いきます!」
「がんばれーっ! ツバメちゃんっ!」
「はいっ!」
ツバメはすぐさま発進し、舵を少しだけ切って飛行艇の甲板部分でボールをキャッチ。
「今度はこっちだよ!」
イスカは、バズーカを右に向けて発射。
やや低めの弾道。
ツバメは前進しながら下降して、すくい取るような形でボールを回収。
「上手ね」
「はひっ!」
「そんなら次はこっちだ!」
すると一転、今度は左に向けて二つ順番に発射。
ツバメはすぐさま加速して、左に大きく舵を取る。
一つ目のボールを受け止めたところで、今度は全力で右へ。
『S』字に移動したところで、わずかに位置がずれていることに気づく。
しかしまだ少し余裕があるのは、ここからの『調整』を求められているのだと気づいたツバメ。
左のペダルを踏んだまま舵を倒し、右へのスライド移動で位置を合わせて無事に回収。
「お、お見事ですっ」
「ツバメちゃん上手ー!」
思わず両手を上げて拍手するメイ。
「それなら……後ろはどうだっ!」
ここで突然の後方。
しかしツバメは慌てず、今度は左のペダルを踏みながら舵を引いて、後進。
「きゃっち!」
犬が我慢できずに走り出すかのように駆け出したメイは、最後のボールを両手でキャッチ。
そのままピョンピョンと飛び跳ねる。
こうして見事に、全部のボールを回収してみせた。
「おいおい、一発クリアかよ! どうやら飛行艇乗りとしてのセンスもいいみたいだな! こいつはちょっと、エアに報告しとくか!」
イスカはうれしそうに、そう言って笑った。
「ミニゲームかクエストか。これで一息ついた様ですし、皆さんもどうぞ」
「運転だーっ!」
ここからは全員で、飛行艇を動かして経験を積んでおく。
ツバメが最速で攻略したため、自由時間もたっぷりだ。
「これでツバメがとっさに動くような状況になっても、交代できそうね」
こうして三人もしっかりと、飛行艇の運転基礎を身につけることに成功したのだった。
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