1206.紅の翼の新戦力
「それじゃ、そろそろ帰ろっか!」
イスカの言葉に、エアがうなずき舵を取る。
結構な距離を駆けた飛空艇ブルーウィングは、ブライトの方面へと向けて進むが――。
「あ、あれはっ!」
クルーの一人が、驚きの声をあげた。
「ブライト王国の、紅の翼ね」
正面からやって来た飛行艇は、先ほど工廠地帯から出ていったばかりのものだ。
ブルーウィングはかわして進もうとするが、王国船はそのまま接近。
メイたちの横に、機体を横付けしてきた。
両艇が、浮遊状態で止まる。
「貴様たちも、飛行艇を完成させていたか」
空中で並ぶ、二機の飛行艇。
そう言って甲板越しに声をかけてきたのは、紅の翼の兵長。
「ブライト王国だけが、空を駆ける力を持つわけではない」
「フロートを賊が好き勝手に使うような真似は、認めない。それが我ら紅の翼の矜持だ」
「大きな力であるフロート。王国で独占するのが良い事だと、本当に思っているのか?」
紅の翼を指揮する兵長とエアが、互いの飛行艇の甲板からにらみをきかせ合う。
「今回は帰還命令が出ているため見逃すが、今後はそうもいかないぞ。よく覚えておけ」
「どうかな。記憶力には自信がなくてね」
「ライバル感……出てますね」
「は、はひっ」
王国飛行艇団と空賊。
大きな戦力差のある両陣営が、火花を散らす。
「……そうだ、賊どもに紹介しておこう。我々は優秀なエリート冒険者をスカウトした」
そう言って兵長が、手を向ける。
その先にいたのは、二人のプレイヤー。
兵長を押しのけて最前に立った少女は、背中まである茶色の髪を一つに結び、快活な面持ち。
スティック状の菓子を口にくわえたまま、得意げに腕を組んだ。
「NPCとの勝負かと思えば、相手は噂の五月晴れじゃんか! 相手にとって不足はねーぞ!」
真紅の部分的な騎士鎧に、へそ出しの短い黒セーター。
そして健康的な足が目立つ、ショートパンツ。
「あたしはナギ! よろしくな!」
武器の長槍を甲板にガツンと突き、少女はそう言い放った。
金の装飾に青の宝石で飾られた槍は一方が十字刃、もう一方がシンプルな剣のようになっていて、少し変わっている。
それは見ようによっては、長い十字架を持っているかのようだ。
「こつは楽しくなってきたな、ディアナ」
呼びかけられて隣にやって来たのは、シャーマンの少女。
頭の左右に三枚ずつ鷲の羽がのついたヘアバンドをつけ、トルコ石とシルバーをレザーのヒモでつないだ首飾り。
大きなベルトに、紋様の編み込まれた長めの腰巻をつけている。
レンくらいの身長に、ツバメのような長い黒髪をした彼女は、まるでモデルのようだ。
「まさかこんなところで、五月晴れとライバルになるなんて。楽しいことになったスね」
「おおっ、何かカッコいい!」
ヘアバンドや腰巻の明るい空色が、よく目立っている少女。
足を肩幅に開き、腰に手を置くだけで様になるシャーマンの子に、メイが思わず声を上げた。
「空賊っていうのも、メイちゃんたちがいると思うと義賊っぽくなるっスね」
そう言ってディアナは、右手で軽くピースを作って自己紹介。
「ディアナっスよ、よろしくね。活躍は広報誌でよく見てるっスよ」
「ありがとうございますっ!」
メイが元気に頭を下げる。
「いつもアクション映画みたいな動画が出てくるから、感心してるんスよ」
「ありがとうございますーっ!」
するとディアナに、ナギが問いかける。
「おい、お前はどっちの味方なんだ!」
「どっちって……6:4かなぁ」
「け、結構五月晴れ寄りじゃないか!」
「6:4で五月晴れっスね」
「あたしの方が負けてんのかよ!!」
まさかの事態に、全力で驚愕するナギ。
メイとまもりが、くすくすと笑う。
「そりゃそうっスよ。私がシャーマンになったのは、星屑フェスで解禁されたのを見てなんだから」
メイたちがモデルになって、ド派手にお披露目された新職業シャーマン。
羽飾りの少女ディアナはそう言って笑うと、ナギの肩をポンと叩く。
「でも大丈夫、それで勝負を譲っちゃうなんて冷めることはしないっスよ」
「そんならいいけどな」
二人は笑い合うと、メイたちの方にあらためて向かい合う。
そして槍使いのナギが、口に入れているスティック菓子をパキッと噛み砕いてから、メイを指差した。
「聞くがいい、賊ども! 王国の正義の象徴である『紅の翼』が、空の覇者であることを教えてやろう!」
「私はそこまで思っていないんスけど」
「こらー! 急にハシゴを外すんじゃない!」
「にっひひ! でも、勝負なら負けないっスよ。例えメイちゃんたちが相手でもね!」
そう言ってディアナは、楽し気な笑みを浮かべてみせた。
そんな二人の掛け合いが終わると、再び兵長が前に出る。
「この冒険者の腕はかなりのものだ。さらに戦力を強化した紅の翼を前に、果たしてお前たち賊がどれだけ耐えられるかな」
そう言ってこちらに背を向けると、再び飛空艇を動かし離れていく。
「さらばだー!」
「まったねー!」
去っていく紅の翼。
ブライト王国側のクエストにたどり着いたのであろう、二人のプレイヤー。
「またお会いしましょうー!」
メイは大きく手を振りながら見送る。
「飛行艇を使った二つの陣営の争い。そこにプレイヤーが絡む。これは面白くなりそうね」
「そうですね。空を自在に進むというのも楽しいですし。そこにクエストがあるというのもワクワクします」
「あ、あのお二人もトップと呼ばれる方たちですね。ゼティアでの戦いの時に、ボス級を何体も打倒していた、陰の立役者みたいな感じだったと思います」
ゼティアの門から出て来た、異世界の王たち。
彼らが同時にこちらの世界に踏み込んできた際には、一般参加のプレイヤーたちは幾度となく危機に陥った。
そんな状況をひっくり返したプレイヤーの中には、トップの一角も含まれていた。
「で、ですが、その時は少し装備などが違うような……」
「それなら、その時より強いと考えていいんじゃない?」
「それはドキドキしますね」
登場した、ライバル。
「これからどうなっていくのか、楽しみだよーっ!」
メイは遠ざかっていく紅の翼を見送りながら、尻尾をブンブンと振る。
こうして四人はそのまま、ブライト国の端にあるアジトへと帰還することになった。
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