1204.空賊ウィンディア
「あたしがイスカで、こっちはエア。二人とも空賊ウィンディアのパイロットだよ!」
「なるほど、空賊なのですね」
意外な展開に、少し驚く四人。
「もう少し詳しく、聞かせてもらってもいい?」
「もちろんさ!」
そう言ってハチマキのイスカは、レザーのパイロット帽をかぶったエアに説明を任せる。
「ついて来てくれ」
するとエアは、先導して歩き出す。
工場地帯を抜けて、そのままブライトの外へ。
そこには丘陵地帯が広がっており、広がる草原には小さな崖などが見られる。
「まずは始まりから、説明よろしく!」
イスカがそう言うと、続けてエアが語り出す。
「ブライトから数キロのところにあるラビ・レビィ山脈で、地下洞窟に埋まっていた巨大な船が見つかったんだ。だがこの付近には海も川もない。それは歴史的に見てもそうだった。よって、船なんてものが存在するはずがない」
「確かに、それは変ですね」
「だが、それがおかしくない理由が見つかったんだ」
「海や川を走る船ではなく、空を走る船だったってことかしら?」
「ご明察っ!」
レンの予想に、イスカが元気に相槌を打つ。
「古い地下洞には、どの時代のものか分からない飛行艇が眠っていたんだ。そしてその原動力は、大きな『飛行珠』だった」
「そこからどうして、王国に追われるようになったのですか?」
「一部が朽ちた飛行艇を発見したのは俺たちだった。王国の手を借りての回収となったはいえ、取れた五つの飛行珠を、王国は全て自分たちが管理すると言い出したんだ。どうにか先んじて一つだけ回収できたが、四つは王国に取られてしまった」
「王国側は、飛行珠の独占を目論んでるってこと?」
「そういうことだな。飛行珠はとても強力で、それこそ空の果てまで上昇することができる。そんなパワーは必要ないということで、八つに割ったものを『フロート』と呼ぶことにした。そしてそのフロートを搭載したのが、さっき飛んでいったブライト王国の飛行艇だ」
「八つに割ったフロート一つで、飛行艇一機ということですか?」
「そういうことっ!」
イスカは、大きくうなずく。
「だがブライト王国は、我らがフロートを持つことを今も良しとしていない。だからさっきみたいに、俺たちを捕えてでも回収しようとしてるんだ」
「なるほどぉ」
「あ、あのすごい飛行艇の背後には、そんな話があったのですね」
「でも、王国みたいにフロートを有効に使えないんだったら、持ってても仕方ないと思うけど」
「もちろんその点は留意している。我らも宝の持ち腐れにするつもりはない」
「その通りっ!」
「……そろそろだな」
二人がそう言ってメイたちの方に歩き出し、そのまますれ違う。
すると――。
「この音……」
メイの猫耳が、大きく動く。
「本日発表された紅の翼。時を同じくして、こちらも準備は万全となった!」
その言葉に四人が振り返ると、そこには――。
「わあーっ! 飛行艇だ!」
空中に浮遊したまま止まる、見事な木造の飛行艇。
その造りは紅の翼のものによく似ているが、こちらは色味の薄い木材と、白く塗られた鉄鋼を使っているため、見た目に爽やかだ。
所々に描かれた青と金の紋様が、とても美しい。
プロペラの起こす風に薙ぐ草原、揺れる髪。
空賊の二人は振り返り、得意げな笑みを見せる。
「これが俺たちの船『ブルーウィング』だ!」
「かわいいっしょ!」
『フロート』の影響か、飛行艇はゆっくりとわずかな動きで進み、メイたちの前へ。
大きな影がかかり、その迫力を間近に感じる。
すると、飛行艇の甲板から縄ばしごが降りて来た。
「ついて来てくれ。君たちを紹介したい」
メイたちはうなずき合い、縄ばしごを意気揚々とあがっていく。
たどり着いた甲板は広く、一見すると軍艦や海賊船に近い。
その特徴はやはり、マストの帆布部分がプロペラに変わっていることだろうか。
「すごーい!」
これにはメイも、思わず飛び跳ねて喜ぶ。
「紹介する。俺たちを王国の手から助けてくれた冒険者たちだ!」
エアがそう言うと、十数人のゴーグル軍団が甲板にやって来た。
革のベルトに提げた工具を持つ女子は、整備士か。
白髪が目立つ中年の男は、見るからに開発者といった風体だ。
中にはガンブレードを担いだ、厳つい戦士もいる。
海賊帽のようなものをかぶっているのは、パイロットだろう。
「歓迎する。俺たち空賊『ウィンディア』は、人数が足りていなくてな」
「まずはあいさつ代わりに、軽く流してみよっか!」
イスカがそう言うと、エアは甲板後方にある舵のもとへ。
どうやらこの舵を回すと、飛行艇の向きを変えられる形になっているようだ。
「それじゃあ、出発だっ!」
イスカがそう言うと、滞空していた飛行艇が動き出す。
そしてそのまま加速を続け、上昇。
飛行艇は飛行機のような軌道で、大空へと昇っていく。
「わああああ――っ!」
「これは爽快ですね!」
「こういう形で空に向かうのも、いいわね」
「はひっ」
あっという間に雲の間を抜ける高さまで来た『ブルーウィング』は、素晴らしい速度で空を行く。
「ツバメちゃんっ」
メイはツバメの手を取って、甲板の前方へ。
視界がさらに、青に占められる。
下を見れば、すでにブライト王国は遠く小さくなっていた。
「楽しいクエストになりそうですね」
「うんっ」
ツバメがそう言って笑うと、メイも満面の笑顔で返すのだった。
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