1202.機工都市ブライト
「わあーっ! なにこれーっ!」
メイが目を輝かせ、尻尾をブンブンと振る。
レンガ造りの建物の各所に飛び出た配管から、噴き出す蒸気。
そびえ立つ王城は黒の鉄骨で飾られ、迫力十分だ。
「面白い光景ですね」
工場地帯から上がる蒸気と黒煙を見て、メイとツバメが感嘆する。
「機工都市ブライト。RPGでは時々見る『技術』が先行している感じの王国ね」
他の街などに比べて多く見られるのは、やはり『鋼鉄』と『蒸気』だろう。
そこにガルデラ帝国のような武骨さを混ぜた雰囲気は、なかなかの迫力だ。
「…………」
メイは配管から噴き出る蒸気が収まったのを見て、そーっと近づいてみる。すると。
「わあーっ!」
計ったように蒸気が噴き出して、尻尾をビンと突き立てて驚く。
「ふふっ、やると思った」
「メイさん、可愛いです……っ」
見ればメイの猫耳もしっかり伏せていて、まもりもよろこんでいる。
モナココからそう離れていない、ブライト王国。
この街にやって来たのは、ルアリアの技術を用いた兵装での戦いを、目の当たりにしたことがきっかけだ。
「ブ、ブライト王国は酒場なんかも、堅牢な雰囲気がありますっ」
まもりは近場の店を見て、意外な大ボリュームで出てきたハンバーガーに思わずノドを鳴らす。
「確か装備品も、ボーガンみたいな弓なんかがあるのよね」
「金属加工が必要なクラフトは、この街が頼りになると聞いたことがあります」
そこは機工都市、やはり売り物も方向性が統一されているようだ。
街行くNPCはどこか、かつての英国労働者を思わせるシャツにハット、サスペンダーに革靴といった雰囲気をしている。
「さて、せっかくだし色々歩いてみましょうか」
「りょうかいですっ」
四人は飾り気の少ない、鋼鉄製の剣などが並ぶ商業地区から、工場などが見られる区域へ。
そこにはやはり、鉄骨とレンガで作られた体育館くらいの倉庫が並んでいた。
そしてその奥には、配管の化物みたいなものもある。
「わあ……こういうの動画で見たことあるよ。夜になるときれいなんだよね」
「こ、工場夜景ですねっ。私も映像で見たことがありますっ」
「鉄鋼関係のクエストでは、真っ赤な液体になった鉄を流してっていうのもあるみたい」
「それはカッコいいですね……!」
大きな鋼鉄製品が作られる工程を想像して、感嘆するツバメ。
「夜に来てみるのも良さそうだねぇ」
これまでには見られなかった風景を見ながら、四人は進む。
そして工場から、王国も関わる『工廠』地帯に入った時だった。
「なんだこの人の数」
「工廠にNPCがいっぱいいるぞ」
付近のプレイヤーたちが、いつもと少し違う雰囲気に困惑する。
「王国兵たちが、工廠前に集まってるぞ」
「見ろ! あれ大臣と兵長じゃねえか!」
「大臣と兵長が一緒に出てくるイベントなんて、見たことないよ」
そんな声を聴いて、メイたちは思わず顔を見合わせる。
「何か面白いことになりそうっ」
「そうね。これはちょっと期待できるかも」
さっそくワクワクし始める、メイとレン。
ツバメとまもりも、うなずき合う。
「何かのフラグが成立して、『きっかけ』が動き出したんだろうな」
「でもこの規模だと、どこかの大きなクエストが達成されたことで出てきた感じでしょう。一体何が起きるのかしらぁ」
「ブライトでは何かずっと工廠が動いてはいたんだよな。その謎が今、明らかにされるのか?」
自然と高まっていく期待。
その空気を感じ取った付近のプレイヤーたちも、ざわつき出す。
すると大量に吐き出される蒸気と共に、どこからか重たい音が鳴り出した。
そして工廠内の大きな歯車が、回転を開始。
「お、おい見ろ! 工廠の屋根が開いていくぞ!」
気付いたプレイヤーが、叫び声と共に指をさす。
「本当です……大きな屋根が、左右に割れていきます」
見たことのない光景に、ツバメも息を飲む。
「何かな! 何が始まるのかなーっ!」
メイはレンの肩に抱き着きながら、尻尾をブンブンさせる。
「工廠……ちょっと想像がつかないわね」
二人がそんな風に語っていると、蒸気が何かに攪拌されるように流れ出した。
「何かが、出てくるのかな?」
メイはピョンピョン飛び跳ねながら、様子をうかがう。すると。
「「「なんだ!?」」」
最初に見えたのは、プロペラが付いた三本の大きな木柱。
「……船でしょうか?」
続いて大型船の側面から底面が、工廠から抜け出すように上昇していく。
「すごーい! 船が浮かび上がってくよ……っ!」
「本当ね……」
息を飲むレン。
船は柱に付けたプロペラを回転させ、巻き起こす風がメイたちの髪を大きく揺らす。
そして船が上昇すれば大きな影がかかり、誰もがその迫力に圧倒される。
「……飛行艇か!?」
「星屑の世界に!?」
「ブライト王国が、飛行艇を完成させたのか!」
「これは迫力ありますね!」
ツバメも髪を抑えながら、驚きの声を上げた。
通常の船との違いは、やはり船の後部にある紅色のスクリューだろう。
そして両側部の後方についた小型の翼は、方向転換などに使うためのものか。
天高く上昇した飛行艇は、スクリューを回転させて飛行を開始。
「ブライト王国、紅の翼――――発進!」
兵長の言葉に合わせて、そのまま飛んでいく。
影が退くと、飛行艇を見送った大臣は深くうなずき撤収を開始。
「「「す、すげええええええ――――っ!!」」」
遅れて、盛大な歓声が沸き上がった。
ご感想いただきました! ありがとうございます!
返信はご感想欄にてっ!
お読みいただきありがとうございました!
少しでも「いいね」と思っていただけましたら。
【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!




