1197.魔導甲冑Ⅱ
「これが冒険者か……なかなか侮れないものだ」
そう言って、「ふっ」と笑いをこぼしたグリンデルは低空飛行で接近。
その残りHPは、7割強。
「だが、その快進撃もここまでだ」
ライフルの連射で、メイを回避の一点に集中させる。
高速ホバーで接近しながらの魔力光線を、メイも回避しながら距離を詰める。
「【エーテル・ロングブレイド】」
「【ラビットジャンプ】【アクロバット】!」
迫る払いを大きく飛び越えて、剣を振り下ろす。
「っ!」
するとグリンデルは急停止。
下がりながら、両背中にある『鞘』を手前に引き出す。
「【ハーモニカ】」
交わる魔力光線の乱舞で、メイの進行をどうにか停止させた。
「【加速】【加速】【加速】!」
しかしメイの動きは同時に、回り込む形で迫るツバメのための陽動でもあった。
ここでツバメに攻撃を集中すれば、再びメイが進むという定番の戦術だ。
「【満月斬り】【エーテル・ロングブレイド】」
「「っ!?」」
ここでグリンデルは魔力の剣を、30メートルほどのムチのようにしならせて攻撃。
360度回転の一撃は、メイに大きな回避を行わせたうえでツバメの腕を弾いて転がし、さらにレンの間近に着弾。
全員の攻撃体勢を、強制的に崩してみせた。
そして生まれた隙間を使って、グリンデルはわずかに浮遊。
「【クレーターバスター】」
大量に噴き出す魔力光弾で、こちらの体勢を崩しにくる。
「【コンティニューガード】【天雲の盾】!」
まもりはすぐさま盾を掲げ、三人はすぐその背後に潜り込む。
凄まじい勢いで盾を叩く音が鳴り響き、足元に穴が開いていく。
今度は皆でまもりの背中を支えて、せめてものサポート。
体勢を崩さずに、全員を守り抜くことに成功した。
「……頭部!」
叫んだのはレン。
グリンデルは、すぐさま低空で滑空。
兜の額に付けられた魔石に、怪しい点滅あり。
一直線に飛来する魔導甲冑の額部に、集まる魔力の粒子が煌々と白く輝く。
「【ハイ・エーテルカノン】」
頭部から放たれる、高火力の魔力砲。
「【コンティニューガード】【天雲の盾】っ!」
まもりはそのまま盾を構えて、防御を継続。
直後に放たれた魔力砲は、中距離広範囲の一撃だ。
「きゃああああっ!」
これもどうにか受け止めたまもりだが、その火力に全員弾かれ転倒。
「この火力を、高速ホバー状態で撃てるのは反則じゃない!?」
運良く転がった先で上手に立ち上がれたレンは、追撃を止めるために魔法を放つ。
「【連続魔法】【誘導弾】【ファイアボルト】!」
しかし高速移動を続けるグリンデルは、これをかわしながら前進。
まだ転倒状態から立ち直る最中の、メイのもとへ。
「【ハイ・エーテルカノン】」
「クールタイムが……短いっ!」
二発目の高火力魔力砲を、接近しながら放出した。
「メイさんっ!」
まもりはすぐさま、取り出した【大きなフライパン】を投げ渡す。
その意図を察したメイが全力で手前に突き出すと、直後に魔力砲が直撃。
ここでメイの、異次元の【腕力】と【耐久】が活きる。
オブジェクトである【大きなフライパン】が、川の途中の石のように魔力光を分けていく。
メイの腕力は、わずか三歩の後退で魔力の奔流を受け切った。
「【アクロバット】!」
メイはそのまま前方宙返り。
【ハイ・エーテルカノン】を放った後に、追撃として放つ予定だった【エーテルブレイド】による払いを飛び越えながら、大きなフライパンを掲げる。
「【フルスイング】だああああああ――――っ!!」
そのままグリンデルの兜に、真上から全力の振り降ろしを叩きつけた。
目の覚めるような、激しい金属の衝突音が鳴り響く。
オブジェクトとしての使用だったため、ダメージは衝突判定。
しかし冗談のような勢いで地面を転がり、何度もバウンドして地に伏せた。
「いいかげん、当たりなさいっ!」
レンは即座に、【宵闇の包帯】と【常闇の眼帯】を取り払って杖を構える。
「【誘導弾】【フレアストライク】!」
一斉に放たれる五つの炎砲弾が、まとめて飛来。
『硬直状態』になっていたグリンデルに直撃し、豪炎を巻き上げた。
三人は振り返って、起点となったまもりに笑顔を向ける。
「……褒めてあげよう。まったく大したものだ」
グリンデルはそう言って、ふわりと魔導甲冑を滞空させる。
「やはり、あれだけの指名手配を振り切って来ただけのことはある……だが」
グリンデルが背中に背負った、二本の『鞘』
直方体の下面に空いた四角い穴は、【ハーモニカ】のためのもの。
一方で上面を覆う紅の結晶体には、カッターの刃のような斜めの切れ目。
そこに平行四辺形の光線が走ったと思いきや、バラバラになってパージされた。
「これを、かわせるかな?」
分かれた平行四辺形の結晶体は輝きを灯し、グリンデルの周囲を自在に飛び回る。
「ゆけ、【RAビット】」
その言葉に応えるように、16個の結晶体がこちらに向けて飛んでくる。
「【連続魔法】【ファイアボルト】!」
レンはすぐさま炎弾でその数を減らそうと目論むが、結晶体はそれをかわして接近。
その狙いはまもり。
16個の紅結晶は、あっという間にまもりを包囲すると、各々が移動しながら魔力光線を放つ。
「【クイックガード】【天雲の盾】盾盾盾盾盾っ!」
二枚盾のまもりはこれを、視線を全力で回しながら防御する。
しかし視界の外に消えた結晶体の攻撃は出所が見えず、肩をかすめてダメージ。
体勢を崩したところを狙われて、慌てて構える盾。
「きゃあっ!」
その時背後に回っていた二つの結晶体が、同時に放つ魔力が背中に直撃して倒れる。
「これ以上は、させませんっ!」
それを見たツバメが追撃を阻止しようと動くと、結晶体はその狙いを変更。
一気にまもりから離脱して、ツバメを取り囲みに行く。
「動き続ければ! 【加速】【リブースト】!」
ツバメの狙いは、動くことで結晶体に的を絞らせないという戦法。
これによって包囲網の完成を阻害する。しかし。
「本体も別に動けるのですが!?」
そこに迫るのは、グリンデル本体。
大きな振りから放つのは、【エーテル・ロングブレイド】による斬り払いだ。
「ああああっ!」
ツバメはこれを喰らって地を転がる。
「【フレアストライク】!」
レンはすぐさま反応して炎砲弾を放つが、グリンデルは【月の輪】でこれを飛び越える。
そして飛行角度を変え、今度はレンに向けて一直線。
【エーテルブレイド】による振り降ろしを横移動でかわし、払いをバックステップで避けると、そこにはすでに結晶体の輝きが。
「きゃあああっ!」
別角度から同時に放たれた三本の魔力光線を受けて、弾き飛ばされた。
「どうだい? これだけの火力を一人で稼働させることができる。ルアリアの偉大さが、十分に理解できただろう?」
笑いを含む声でそう言ったグリンデルは、【エーテルブレイド】を手に、レンへの追撃に動き出し――。
「そうは、させませんっ!」
目前に立ちはだかったメイを前に、一時停止。
「一人きりで、この僕を止められると?」
グリンデルが笑うと、即座に集まってくる結晶体たち。
その全てが、メイを狙う。
「いけ、【RAビット】」
「――――【四足歩行】」
対してメイは足を開き、右手を地についたところで――。
一斉に始まる、結晶体による攻撃。
右に回り込んできた個体が放つ魔力光線を避けながら、同時に付近の個体のうち『こっち』を向いているものを確認。
すぐさま、小さなステップでかわす。
メイは四足歩行による高速のステップを使い、常に小移動を繰り返すことで的を絞らせない。
遅れた結晶体が放つ光線は虚しく地を弾き、ベストなタイミングで放った光線は単純にかわされる。
「【エーテルライフル】」
そこにグリンデルが放つ、魔力光線に対しては――。
「【アクロバット】!」
低い軌道の、側方宙返りで回避する。
「【装備変更】!」
さらに着地と同時に【狼耳】に換えることで、【ローリング】から最速の起き上がりに成功。
続く二つの結晶体の同時攻撃を、余裕でかわす。
「あ、当たらない……!」
「全然当たらないぞっ!」
その驚異的な回避に、驚きの声を上げる観戦者たち。
「お、おい、でもあの光は……!」
「この流れで、それを撃つのかよッ!?」
魔導甲冑の頭部に集まる魔力粒子に、広がる動揺。
一瞬で、【RAビット】は散開。
続けざまにグリンデルが、放つのはもちろん――。
「【ハイ・エーテルカノン】」
「そうはいきませんっ!」
しかしメイは再び【大きなフライパン】を取り出し、これを受け取める。
フライパンを起点に分かれ、流れていく魔力光。
その光が消えたところで、メイは右手を地面に突きつけた。
「大きくなーれ!」
反撃の機先は、まさかの【豊樹の種】
次の瞬間地面から【密林の巫女】によって目を出した木々が、小規模な森を作成。
これによって【RAビット】の直線的な動きが大幅に制限され、グリンデルもその足を止めた。
すると次の瞬間、その森の天辺に飛び上がるのは――――黒き魔導士。
「黒い羽は出さないでよっ! 【黒翼】!」
空中で一度華麗に回転し、翼を広げると舞う黒い羽。
そのまま翼を一つ羽ばたかせると、【魔剣の御柄】を手に、一気にグリンデルのもとへ特攻。
「はああああああああ――――っ!!」
縦の斬り下ろしが決まり、魔力粒子が散る。
「まだまだっ! 【低空高速飛行】!」
続けざまの斬り抜けが決まり、足をつくと、すぐさま振り返る。
「解放っ!」
【魔剣の御柄】から放出した【フレアストライク】が直撃し、巻き起こる爆発。
ヒザを突くグリンデルを前に、レンは余韻を残すような【低空行飛行】で、その場を離脱する。
その光景に、痺れる樹氷の魔女。
そして消えていく炎の先にはすでに、右手を突き上げた【狼耳】のメイ。
「――――誰が来てくれるかなっ!?」
まずは【友達バングル】から。
最初に現れたのは、北極で出会った白クマだった。
「そういうことならっ! ――――おいでくださいませ、狼さんっ!」
続けざまの召喚で呼び出したのは、白狼。
白銀の毛並みを持つ二体の巨大獣が、同時に走り出す。
先行したのは白クマ。
容赦なく爪を叩きつければ、グリンデルが高く跳ね上がる。
そこに喰らいついたのは白狼。
牙で容赦なく喰らいつき、振り回して天を向けば、そこから氷雪が噴きあがる。
凍結を奪われたグリンデルは、そのまま地面に転がり落ちた。
もちろん、群れ狩りの本領はここからだ。
この時すでにメイは、【大地の石斧】を手に駆け出している。
「【地裂撃】からの、【グレートキャニオン】だああああああ――――っ!!」
全力で振り下ろした斧が、地面を割り砕く。
直後、突き上がる岩塔がグリンデルを天高く突き上げた。
「来てくれて、ありがとうーっ」
メイが銀狼の頬をなで、白クマの鼻先に頬を寄せると、二体は誇らしげに帰っていく。
それからようやく、魔力甲冑が重たい衝突音を鳴らして落下。
グリンデルは、地を跳ね転がった。
「メイさんの動物との連携は、やっぱり最高ぽよっ」
「はいっ!」
「使徒長の美しい飛行攻撃、そしてお膳立てがあってこそだ……何より!」
「あの黒い羽が飛び散る演出、すごかったな!」
「あれぞ、闇を超えし者だ!」
思わず盛り上がる、掲示板組。
「だから嫌だったのよ! なんであんなにあからさまに羽を飛ばすのーっ!」
叫ぶレンをしり目に、静かに立ち上がるグリンデル。
残りHPは4割を下回り、甲冑のまとう白の魔力光が、その勢いを増した。
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