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1194.真実の宝珠

「あっ、メイちゃんたちだ!」

「これが地下に送られる前に見るシャバの光景か! こりゃ縁起がいい!」


 賭け事の行われている空間まで入ってしまえば、攻撃の類は不可能。

 今もこの場に残って、ギャンブルに夢中になっている面々の前を、五人は進む。

 階段を上がり、最上階のオーナー室へ。

 ここでもしっかり、扉を開けるのはレン。


「君たちは……カジノ不正を行った手配犯だな」


 オーナーは白髪白髭に、ストライプの紺ジャケットを着た老年の男。


「我がモナココでは、カジノによる不正は大罪です。この場に来た理由は、無実の証明か……それとも武力による制圧か」


『我が』モナココという言葉を用いた中年の女性は、ドレス姿に獅子の紋章の入った杖。

 それは彼女が、この国の王女である事を示している。


「もちろん無実の証明ですっ」

「無実の証明……君たちにそんな事ができるのかな?」

「「「っ!?」」」


 そこに遅れてやって来たのは、メイたちにスロットを任せたワインレッド帽の男。


「君たちは魔力制御のスロットを操作して、大勝を果たした。このカジノの設立に関わったボクが言うんだから間違いないよ。優秀な魔導士やアサシンがいれば、不可能ではないからね」


 そう言ってワインレッドの男は、メイたちを一瞥。


「君たちに、不正をしていないという証拠が見せられるかな? 言っておくけど、つまらない言い訳だけでどうにかなるとは思わないことだ」


 男がうなずくと、王女が軽く手を掲げる。

 すると、いかにも精鋭といった感じの重装騎士たちが踏み込んできて、出入り口を固めた。


「さあ、楽しませてもらおうかな。君たちが一体どうやって無実を証明するのか」


 余裕の笑みを浮かべる、ワインレッドの男。

 四人はうなずき合うと、メイが【真実の宝珠】を取り出し、掲げる。

 するとホログラムのように、『過去』の映像が映し出される。

 そこには、メイたちのスロットに熱狂する観客たちに紛れてフロアを退出。

 制御に使う魔力の流れを換えるワインレッドの男が、はっきりと見て取れた。


「こ、これは……っ!」

「グリンデル、これはどういうこと? このような不正を我が国で行えば、いくら王家の末端とはいえ許されるものではない」


 王女の視線に、グリンデルは感心したように息を吐く。


「これは驚いた。こんなアイテムが存在するとはね」


 しかし、その様子に慌てた感じはない。


「グリンデルよ……これはどういうことだ?」


 問い詰めるオーナーに、グリンデルは悪びれるまでもなく告げる。


「大したことじゃない。モナココ王国から出された『賞品』である【豊潤の宝珠】は、1000年分の魔力を込めた宝石なんかではないんですよ」


 そう言ってその手に取り出した【豊潤の宝珠】を起動すると、輝きと共に小さな古代文字が惑星の輪のように浮かび上がる。


「ならば、それは何だというのです!」

「暗愚な王女様に説明してあげましょう。モナココ王族の一員としてカジノ開業に携わった僕が、ぜひ賞品にとお願いした宝珠の正体は【古代珠】。古き遺跡の武器庫にある兵器を、起動するカギなんです。それだけで国を奪い、世界に手を伸ばすことができるほどのね」

「まさか、あの遺跡が活きているというの?」

「そういうことです。モナココの歴史や遺跡のことを調べていた僕は、すぐに宝珠の正体に気づきました。そして、一つの野望が生まれた」


 まさかの言葉に、王女は息を飲む。


「とはいえ、この宝珠を個人が手にすることは難しい。特殊な【古代珠】は、見ただけで特別だと分かってしまう。カジノはとにかく厳重で、攻撃してどうにかできるものではないですからね。最高級の賞品となった宝珠を無理やり持ち逃げたところで、すぐに指名手配と化すでしょう。そこで僕は罪をかぶせることにしたんだ。間抜けな冒険者にね」


 グリンデルは、「ご苦労様」と笑いながらこちらに視線を向ける。


「よくしゃべるわね。全て白状したってことは、これで終わりかしら?」

「はは、まさか」


 グリンデルはそう言って、レンに余裕の笑みを見せる。


「全てを明らかにしても良いくらい、段階は進んでいるという事さ。君たちが世界を逃げ回って、十分な時間を稼いでくれたからね」

「グリンデルを捕らえなさい!」


 叫ぶ王女の声に、騎士たちが動き出す。

 しかしグリンデルは、右手を軽く持ち上げて魔法陣を展開。


「これっぽっちじゃ僕を捕らえるには到底足りないよ。準備しておくといい。新たな力を得た僕は、最初にモナココを侵略し……掌握する」


 踏み出すと、魔法陣が一瞬でグリンデルを転移させた。


「さらばだ、愚かな元王女様。そしてお疲れさま、働き者の冒険者諸君」


 そんな言葉を残して。

 静まり返るオーナー室。

 ここでついにクエストが終了し、メイたちの指名手配が解除された。


「モナココには、そんな遺跡があるのですか?」


 オーナーがたずねると、力なく座り込んだ王女はこくりとうなずいた。


「このカジノの背後にある王家の居住区画。そこには確かに古代の遺跡へと続くルートがあります。ですがあの古い宝珠に、そんな意味があるなんて……」

「このままだと、遺跡の兵器を持ち出したグリンデルに、モナココが乗っ取られる形かしら」

「その可能性が高いですね。カジノは残りますが、国自体は彼のものという形でしょうか」

「……強すぎる力は人を狂わせる。古い世界の崩壊を目の当たりにして、私たちの先祖は力を封じたのだと聞いています……もしもモナココに伝わる武器の話が確かであれば、兵など何千人送り込んでも戦いになどならないでしょう」


 王国、そして世界の危機。

 最悪の事態に、王女は大きく肩を落とす。


「そういうことなら、私たちが止めますっ!」

「そ、そうですね!」


 燃えるメイの言葉に、まもりもうなずく。


「…………よろしく、お願いします」


 すると王女は、ただ深く頭を下げた。

 流れ出す、最後の戦いの気配。

 そんな中、樹氷の魔女が息を飲む。


「やはり、モナココ王家には秘めた危険な『力』があった……! 純粋なる『力』を求める使徒長は、この危機に気づいていたのですね!」

「本当にそうなったんだけど……」


 樹氷の魔女を止めるために言った、適当な設定が真実に。

 戦う前から、レンは震えてしまうのだった。

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