1193.ローランが覚える違和感
「【シールドブラスト】!」
「っ!」
アルトリッテが振るった盾が放つ爆風を、メイは防御でやり過ごす。
そこに駆けつけてきたのはグラム。
手にした槍を右手で大きく払うと、メイはこれを【アクロバット】によるバク宙で回避する。
しかしこの攻撃は、メイの大きな回避を誘うための攻撃。
「【雷煌震砲】!」
伸ばした手に、弾けるほどのエネルギーが収束。
轟雷が、猛烈な輝きを放つ。
「【ラビットジャンプ】!」
メイはこれを、後方への高いジャンプで回避する。
「【ペガサス】!」
その時、同じく轟雷の輝きを飛び越えてきたのはアルトリッテ。
「さすがメイだな! だがこれならどうだ! 解放剣技【エクスクルセイド】!」
着地と同時に掲げた剣。
黄金の輝きをまといながら振り下ろすのは、聖なる光の刃。
「【裸足の女神】っ!」
このスキルが二段階攻撃であることを知るメイは、慌てて後方へ全力疾走。
巻き起こる爆発を、ギリギリで掻い潜る。
「そこまでだメイ! 我が一撃の前にひれ伏せ! 【グングニル】!」
「ッ!?」
メイでなければ、確実に直撃だった。
重い破裂音を鳴り響かせての投擲で、走る閃光。
豪速で飛んできた神槍は、後方へ倒れ込んだメイの鼻先をかすめて通り過ぎていく。
直後、後方で巻き起こった爆発が、暴風を巻き起こした。
「あぶなかったぁ……」
怒涛の攻勢にメイは、安堵の息をつく。
「……【分霊】」
スキルの発動と同時に、魔力で作られた二人のマリーカが本人の背後に立つ。
「……【霊鳥乱舞】」
三体のマリーカが放つ光鳥の群れ。
「【コンティニューガード】【天雲の盾】!」
尋常ではない数の攻撃に対して、まもりは全力の防御で応える。
次々にぶつかっては散っていく魔力の鳥たちは、そのまま受ければ削り切られて倒れること必至。
「悪いな、こいつで決めさせてもらうぜ! 【アクセルスウィング】!」
その光鳥たちの後方から迫っていた金糸雀が、ハンマーを大きく振り上げる。
「【地壁の盾】!」
「【キャンセル】!」
「っ!!」
「【ギガントハンマー】!」
金糸雀は一度タイミングをずらして再攻撃。
「【不動】【地壁の盾】!」
まもりはそれでももう一枚の盾で受け止めて、ド派手に火花を散らす。
吹き抜ける衝撃波。
見事な防御だが、【不動】を使えば今度はその場に足が止まる。
「【回転跳躍】【曲芸射撃】【速射】!」
「くっ」
ここで伸身宙返りで跳んだローランは、空中から放った三本の矢でレンを攻撃。
まもりが動けない状況では回避し切れず、二発くらってダメージを受けた。
「悪くない状況だね。どっちの戦いも優位が取れてるし、時間を掛けたくないメイちゃんたちが焦って大技を狙いがちになれば、狙いやすくなる」
再び矢をつがえ、両者の戦いに目を向けるローラン。
「でも……この違和感はなんだろう」
一人、つぶやく。
先ほどからずっと感じている、妙な感覚。
その正体を、視線を走らせることで探して――。
「……ん?」
ここでようやく、その正体に気づく。
「そうだ! ツバメちゃんが戦いに消極的なんだ!」
そして同時に、レンの狙いにたどり着いた。
「これって、もしかして――!」
「【アサシンピアス】」
「……う、あっ」
しかし、わずかに遅かった。
掲示板組との戦いの前から【隠密】で姿を消していたツバメ。
【金鶏のオムレツ】でスキルの使用効果を延長し、ここぞという瞬間を狙っていた。
そして完全な無防備状態、弱点特攻、敵の認識外時に攻撃力を上げる【致命の葬刃】で放つ【アサシンピアス】に容赦なし。
「まさか、こんな……」
一撃死。
音もなく倒れるローランが、最後尾にいたことが大きなポイントになる。
五月晴れが『全員視界の中にいる』以上、残ったトップ四人が後方に振り返ることは早々ない。
「【忍び足】【加速】」
ツバメは足音を消して、マリーカに接近。
「【アサシンピアス】」
「……っ!?」
マリーカも困惑のまま、一撃で倒れ伏した。
「【加速】」
ツバメは【忍び足】のまま、さらなる攻撃を狙う。
ここでようやく金糸雀が、加勢の手が突然止まったことに気づいて、振り返ると――。
「なッ!?」
そこには迫り来る、アサシンの姿。
「【水月】」
「う、おおおおおおおお――――ッ!?」
強引な回避で致命打こそ避けてみせたが、肩を貫いた水刃が4割近いダメージを計上。
派手に飛び散る水しぶきの中を、金糸雀は吹き飛ばされた。
「……メイが反撃を少なめにしていたのは、こっちの陣形を崩さないためだった」
現実でも暗殺家業をやっているのかというレベルのアサシンぶりに、倒れたまま見惚れるマリーカ。
「……でもそれなら、あの子は一体」
倒れたまま、つぶやく。
「いや、どこかで見覚えが――」
ローランがつぶやいたところで、ようやくグラムとアルトリッテが異変に気づいた。
「今よ!」
まるでローランの疑問に応えるかのように、レンのあげた声。すると。
「目覚めし白き吹雪の王。その息吹は、絶対零度の祝福なり――――」
地下通路を抜けた後、レンに言われるままの着替え。
その後は大人しくフードをかぶり、『ツバメに扮していた』樹氷の魔女が、詠唱を開始する。
「【無明雪月花】」
「おい! 上位上級だぞッ!!」
生まれるエフェクトを見た、金糸雀が大声で叫んだ。
「聖剣!」
「後ろにつくがいいっ! 【セイントシールド】!」
前衛二人に、魔法攻撃に対して厳密な対応ができるスキルは無し。
ダメもとで【セイントシールド】を使用しつつ、金色の盾を構えて防御するアルトリッテ。
その背後に、グラムが続く。
直後、吹き荒れる猛烈な氷雪。
カジノの前庭一帯が、まぶしいほどの白銀に染められた。
「【加速】【連続投擲】!」
「くっ!」
さらにツバメが【氷ブレード】と【風ブレード】の投擲で氷嵐を起こし、グラムとアルトリッテの体勢を崩す。
その隙にメイたちは樹氷の魔女を抱え、前庭からカジノ内へ駆け込む。
走りながらの投擲だったツバメも後に続き、カジノ内に入ってしまえば、もう戦闘は不可能だ。
「【無明雪月花】……いい魔法ねぇ」
魔法効果が影響を残す上位上級魔法に、走りながらレンが笑みをこぼす。
放った一撃は見事に、グラムとアルトリッテの追従を抑えるものになった。
「い、いえ。使徒長の方が……すご過ぎます……」
掲示板組の裏をかき、さらにトップたちまでをも翻弄。
オトリ船に気づいたのであろうハンターたちも、これではもう間に合わない。
楽しそうにハイタッチするメイたちに合わせるものの、樹氷の魔女は興奮と驚愕に息を飲むしかことしかできない。そして。
「やはり、使徒長は至高……っ」
さらにレンへの敬愛を深めたのだった。
「やられたなぁ……今回はクエストの趣旨的に装備を替えたり、顔を隠したりが当たり前だったからね」
倒れたまま、苦笑いするローラン。
元々影の薄い、ツバメへの成り代わり。
同じ装備のうえに顔の半分を隠している状況では、真偽を見抜くのが難しい。
さらに一撃必殺の火力を持つメイの動向には、どうしても皆が注意を奪われる。
そのため樹氷の魔女が成り代わり、ツバメが姿を消しているという状況に気付くのが、遅くなってしまった。
「これもレンの策略か。あいつ本当にすげえなぁ」
金糸雀もまさかの事態への驚きに、今も呆然としている。
「……一度のチャンスで三人一気に片付けたツバメも、見事だった」
マリーカも、うつ伏せのままつぶやく。
事実、トップと呼ばれるプレイヤーを数秒で二人打倒、一人をHP半減まで追い込んだという例は聞かれない。
「ツバメちゃんだけいなければ怪しいって気づけるけど、偽物を置いておくのは今回のクエストでは効果抜群だね……本当にやられたよ」
メイの脅威、ツバメの存在感、今回のクエストの内容。
全てを見事に使った作戦に、三人が口々につぶやく中。
「「な、なんだこれはああああ――――っ!!」」
今もよく何が起きたのか分かってないグラムとアルトリッテは、凍結した盾や槍をブンブンしながら怒りの声を上げるのだった。
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