1192.待ち受ける者たち
まさかの『スパイ』を使って、掲示板部隊を見事に欺いたメイたち。
戦えない状態になった掲示板組に見送られて、駆け足でカジノへと向かう。
そしてその前門に、踏み込んだところで――。
「ここまでだ、メイ」
手にした槍をクールに回転させながら歩いて来たのは、グラム。
「すまぬなメイ。我が聖剣が、指名手配犯を逃すなと言っている!」
続いて立ち塞がったのは、アルトリッテ。
「そーいうわけだな」
そしてわずか後ろには、金糸雀。
最後列に、マリーカとローランが待ち受けている。
「モ、モナココから私たちが逃げ出したのを見送った後、そのままクエストを受けたという感じでしょうか」
「そうなるね。ずっと五月晴れの到着を待ってたんだよ。でも、普段と格好を変えたりしても雰囲気で分かるものなんだねぇ。すぐに分かっちゃった」
まもりの言葉に応えたのはローラン。
「……その中でも、最終ラインを任されてる」
最後にマリーカが、付け加える。
ここで戦いを続ければ、港湾部で異変を感じたハンターたちが詰めかけてくるだろう。
長期戦は厳禁だ。
「さあ始めるぞ。我が神槍を前に、震えよメイ!」
得意げに宣言し、待ちきれないとばかりに地を蹴るグラム。
「【ソニックドライブ】!」
驚異的な高速移動で、一気に距離を詰める。
砂煙をあげて迫る速度は、さらに勢いを増している。
「【クインビー・アサルト】!」
景気づけとばかりに、放つ突き。
穂先から放たれた閃光が炸裂し、猛烈な衝撃を放つ。
「【ラビットジャンプ】【アクロバット】!」
対してメイも早い動き出しで、前方に跳躍することで回避する。
振り返り、すぐに距離を詰めて来たグラムは、【グングニル】による連続突きで攻勢をかける。そして。
「【ソニックドライブ】!」
正面からの突きに、メイが身体を低くすることでかわしたところで――。
「【強制転回】【斬空閃】!」
高速移動中に方向転換をするスキルを使い、そこから薙ぎ払い攻撃を発動。
「っ!?」
あえて一度通り過ぎ、振り返りから出す『払い』は、メイの予想を上回る形だ。
腕から鎖骨の辺りを、斬り裂いていく見事な一撃となった。しかし。
「【裸足の女神】」
ダメージを受けた直後の、仕切り直し。
異常なまでの高速接近で、メイは見事にグラムの前に踏み込んだ。
「【フルスイング】!」
「【鬼人の加護】っ!」
ごく短時間だが、物理ダメージを大幅減少するスキルで対応。
さらに防御をすることで、大きく火力を軽減した。
ぶつかり合った両者にできた隙間を、もちろんアルトリッテは逃さない。
「【ペガサス】!」
長い跳躍で一気に距離を詰めてきたアルトリッテは、【エクスカリバー】を抜き払い、そのままメイに斬りかかる。
豪快な縦の振り降ろしをメイがかわすと、そのまま横の回転へ。
「【ホーリーロール】!」
そのまま豪快に一回転。
「【アクロバット】!」
これをバク宙で大きくかわしたところに、再び迫るグラム。
「【ソニックドライブ】【クインビー・アサルト】!」
「わわわわわ――――っ!」
直撃はかわしたが、続く爆発にメイは吹き飛ばされる。
そこを狙うのは、ローラン。
「【ヴァニシング】【バーストアロー】!」
着弾と同時に高火力の爆発を起こす矢を、消して放つ。
こうして起き上がりの瞬間に、『見えない矢』が迫る形になった。
「うわっと!」
メイはこれを、大きく首を傾げることで回避。
直後、背後で爆発した矢の起こした風が吹き抜ける。
「さすがメイちゃんだね。でも転倒直後に放った消える矢が当たらないっていうのは……ちょっと人間離れしすぎじゃないかな?」
転がっている間も辺りを見回し、消える矢もその『飛行音』で気づくという凄まじさに、ローランは苦笑いする。
常に全体に視野を広げた状態での戦闘は、中距離の矢すら見逃さない。
「……【霊鳥乱舞】」
「【コンティニューガード】【天雲の盾】!」
一斉に飛んでくる光の鳥たち。
まもりの盾に次々にぶつかって、粒子となって弾け散る。
こうしてマリーカがまもりの足を止めれば、当然にそこに迫るのは金糸雀だ。
「【連続魔法】【ファイアボルト】!」
「【金剛武装】【アクセルスウィング】!」
どんな攻撃を受けてもノックバックなしで進み、さらに『中遠距離攻撃』に対する防御まで上げるスキルを使用。
レンの放った炎弾を全て弾きながら、手にしたハンマーを振り上げにくる。
「【低空高速飛行】!」
ここでレンは、すぐに思考を変更。
まもりのもとに飛行で突撃し、そのまま抱きかかえる形で転がる。
強い風が吹きつけるほどに強烈なハンマーの振り上げ攻撃を、強引に回避した。
転がったところで、レンはすぐさまマリーカの方に視線を向ける。
「……【霊鳥鳳火】」
すでにこちらへ向け、放つ魔法の準備ができていた。
霊鳥たちが集結して一羽の輝く巨鳥となり、鳴き声のような高音を響かせる。
それから空中で一回転して突撃。
「【低空高速飛行】【旋回飛行】!」
これを大慌てでかわしたレンは、巻き上がる魔力光の飛沫を受けながらローリング。
着地と同時に杖を向ける。
「【フレアストライク】!」
「……【ソフトリフレクター】」
マリーカは水色の魔法壁を使って、炎砲弾を弾いてみせた。
「【アクセルスウィング】!」
この隙に金糸雀は、まもりを攻める。
「【地壁の盾】! っ!」
迫る豪快な振り上げに、大きく弾かれるまもり。
盾を手放してしまいそうな振り上げに、思わずよろめく。
「【アクセルスウィング】!」
金糸雀はさらに攻勢をかける。
まもりは慌てて再度の防御態勢に入ったが、ここで戦い方を変更。
一転して反撃を狙いに行く。
「【獅子霊の盾】!」
迫る相手に対して、喰らいつき攻撃。
「くっ! 【キャンセル】!」
しかしここで、金糸雀も急停止。
巨大な獅子の噛みつきが、鼻の前を通り過ぎて行った。
「【ライトニングアロー】」
すると高速の矢が、金糸雀の真横を通り過ぎていく。
「っ!」
それでもまもりは、盾での防御に成功。
メイに使ってしまったことで、まだ矢を『消す』ことはできない。
そのことが、まもりを助けた形だ。
だがローランとしては、それでも構わない。
放った矢の最大の狙いは、金糸雀の後押しだ。
「いくぜ! 【ギガントハンマー】!」
距離を縮めていた金糸雀は笑い、巨大化したハンマーを全力で振り下ろす。
それは地を砕き、衝撃波を巻き起こす一撃だ。
「【地壁の盾】っ!」
どうにか防御自体は間に合わせたが、【不動】が間に合わない。
「きゃああああっ!」
まもりは地を跳ねるようにして、ゴロゴロと転がった。
ローランが両方の戦局を手助けすることで、どちらの戦いも優位を保つ。
見事な戦いぶりは、じゃじゃ馬なパーティメンバーを支えてきた頭脳だからこそ。だが。
「……何かが、おかしい」
間違いなく優勢の、良い戦い。
それにもかかわらずローランは、困惑混じりにつぶやいた。
違和感の正体はまだ、分からない。
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