1191.まさかの展開
「レンさんたちは、任せたぽよっ!」
「「「了解っ!」」」
八人ほどの掲示板チームは、一斉にレンたちを狙って攻撃。
「「「【アイスジャベリン】!」」」
火力高め、さらに飛来速度もある氷の槍が一斉にやってくる。
「【クイックガード】【天雲の盾】盾盾盾盾っ!」
まもりはこれを、盾で防御。
「【ファイアウォール】!」
この隙に駆け寄ってくる近接チームの一部を、レンが炎壁で足止めする。
「【フリーズブラスト】!」
そしてそれを見て、炎の壁を回り込んでくる者たちに氷嵐をぶつけた。
わずか二人で、見事な対応を見せる。
「【雷走】」
そんな中、一人の手練れ忍者が猛スピードで接近。
「【ストライクシールド】!」
まもりは慌てて盾の投擲で対応するが、忍者はこれをかわして迫る。
「【火遁炎駆砲】」
その右手に先んじて灯が生まれたのは、発動までに少し時間がかかるという演出。
そしてそれは、上級レベルの忍術ということだ。
「はあっ!」
二メートル前で放つ豪炎が、空を駆ける。
するとまもりはここで、【大きなフライパン】を取り出し突き出した。
放たれた炎は、フライパンの底面を煌々と赤く加熱させるだけでダメージにならない。
「【クイックステップ】!」
するとわずかに遅れて、追撃役の剣士が飛び込んできた。
「やあっ!」
振り下ろす【大きなフライパン】が、忍者の頭部にヒット。
火炎属性の乗った一撃が、思わぬ高いダメージを与えた。
「なッ!?」
さらにこのフライパン、縦の振り降ろしでぶつけると鳴り響く音が広がり、わずかながらに剣士から硬直を奪う。
「【ローリングシールド】!」
まもりはそのまま回転し、二人をフライパンで叩いて飛ばした。
「【バンビステップ】!」
メイは一気に距離を詰めていく。
真っ直ぐではなく、一度左右に軽く跳んでからグッと加速。
最初の動き二つで照準をズラされたスライムと迷子は、出遅れた。
「【フルスイング】!」
「っ!!」
狙われたのはスライム。
「【可変】【超硬化】!」
これにスライムは無理をせず、四角く変化。
防御スキルによる対応で、ダメージを四割ほどに抑えた。さらに。
メイの視界の多くを占めた、箱状のスライムが突然ペタンと潰れると――。
「【ジェット・ナックル】!」
「っ!?」
その背後から迫っていた迷子が、高速接近。
視界を遮っての一撃は、メイを驚かせた。
しかしその拳は、当たるところまで届かない。
「あれっ?」
意外な展開に、思わず驚くメイ。
「【ブロー】!」
「ええっ!?」
一段階強化された拳撃から、放たれる衝撃波。
初見から今までずっと一撃のみだったスキルに、追加された一発。
まさかの二段階攻撃に、メイはビックリしながらも防御を選択。
大きく弾かれたが、ダメージは僅少。
さすがにこれは、間違いなくクリーンヒットすると予想した迷子が驚く。
「【超可変・海王】ぽよっ!」
それでも、メイの足を止めたことには大きな意味がある。
すぐさま離れる迷子。
スライムは巨大な一角の海獣に変身し、足を止めたメイに飛び掛かっていく。
「【裸足の女神】っ!」
迫り来る巨体に対し、超高速移動で真下を駆け抜けるメイ。
大きな連携をかわし、距離が生まれたことで反撃のチャンスとなる。
「【ソードバッシュ】!」
反転と同時に放つ一撃が、猛烈な衝撃波を生み出す。
「ここしかないぽよっ!【吸収】!」
対してスライムは、【ソードバッシュ】の衝撃波を吸い込み反撃。
「うわわわわっ! 【バンビステップ】!」
向かってくる衝撃波を走ってかわし、振り返る。
スライムと迷子、見知らぬ土地を迷いながら駆けてきた二人は連携がいい。
ここでさらに迷子は、メイのように右手を高く突き上げる。
「来て! 私のゴーレム!」
空に現れる大きな魔法陣。
それを突き破るようにして、オリハルコン製の巨大ゴーレムが落下してくる。
「うわわわわわーっ! 【裸足の女神】っ!」
直地と共に、地面に叩きつける拳が起こす爆発。
メイは速度を上げて、ギリギリで爆発の範囲から転がり出た。
だが今回のゴーレムは、これだけで終わらない。
「いきますっ! 【ハイネグリフ粒子砲】!」
「粒子砲!?」
聞こえたとんでもない言葉に、視線を上げるレン。
ゴーレムに乗せた新スキルは、額についた角のような宝石から放たれる光線。
地面を駆け、そのまま空へ抜けていく。
直後、足元に描かれた光線が爆発して猛風を吹かせた。
レンたちは、吹き抜ける風に腰を低くする。
間近で爆発が起きたメイは、転倒しないようヒザをついてこらえた。
「……おい、あれはなんだ?」
このド派手な戦いに気づいたのは、港湾部で待ち受けていたハンターたち。
弓手がすぐさま、【スコープアイ】を発動する。
「メ、メイちゃんだ! メイちゃんたちがいる!」
「はあ!? それなら、俺たちが戦ってたのは誰なんだよ!」
「まさかあの船に、メイちゃんたちはいないのか!?」
「おいおい、陽動かよっ!!」
ようやく明らかになった事実に、騒然となるモナココ港。
海上に出たプレイヤーたちは、すでに散り散り。
軍艦の列も崩壊の様相だ。
「やられた……っ!」
「とにかく行こう! このままじゃ徒労だぞ!」
完全に裏をかかれることになったハンターたちは、走り出す。
「騒がしくなりそうね」
ゴーレムの起こした風が止む。
そしてハンターたちの接近に気づいたレンは、静かにつぶやいた。
「まだまだいくぽよっ!」
「いきましょうっ!」
メイたちが攻勢に入れば、守り切れるとは思えない。
勢いのままゴーレムに、拳を強く振り下ろさせる。
「【ラビットジャンプ】!」
揺れる地面によって起きる硬直を回避するため、メイはジャンプ。
するとそこを狙って、スライムが走り出す。
「【超可変・空王】!」
空中戦でなら、空王状態が間違いなく有利。
そしてスライムが、その姿を変化させようとした――――その瞬間。
「【金縛り】」
横から駆けてきたハンターのスキルに、硬直を奪われた。
「なぜ……ぽよ?」
まさかの事態に、驚愕するスライム。
その疑問に、レンが答える。
「誰が敵で誰が味方か分からない。ずっとそんなクエストだったけど、別にこっちからスパイを仕込んでも――――おかしくはないでしょう?」
「ぽよっ!?」
レンの言葉に、唖然とする。
「【フレアバースト】!」
「ぽっよぉぉぉぉ――――っ!?」
爆炎を受けたスライムはその丸さも手伝って、凄まじい勢いで転がっていった。
そして建物にぶつかってバウンドし、こちらに転がってきたところに、錬金術師が【痺れ粉】を噴射。
「スライムさんっ! うっ!?」
まさかの事態に駆け出そうとする迷子。
突然体動かなくなった足を見ると、すでに石化が始まっていた。
その視線の先には【石化針】を放った、一人のアサシン。
「どうやって……スパイを」
あまりにまさかの展開に、残った掲示板組と迷子は、驚愕と同時に困惑する。
「もともとハンターじゃなかったプレイヤーに頼んで、そっちに潜り込んでもらってたのよ」
「「っ!?」」
海で出会った『発煙筒組』は、しれっとモナココのハンターサイドに潜り込んだ。
そして戦いが本格的になるなら、オトリ船を向かわせる港湾部ではなく、カジノ付近であることもレンが予想済み。
そのため、位置取りも完璧だった。
「こういう指名手配になるタイプの話で、追われる側がスパイを仕込んでくる展開は初めて見たぽよ……」
「クエストも終盤だから、戦闘は回避を中心にして、消費の大きなスキルも使わない。これは、一枚上手どころではなかったですね」
「攻めていたというより、攻めさせられていたぽよ」
「貴方たちが敵で出てくる可能性もあったわけだから、保険はかけておくに越したことはないでしょう?」
そう言って、息をつくレン。
戦いの核になる、スライムと迷子の戦線離脱。
「これはさすがに、思いつかなかったな……」
「誰が敵か分からないのは、メイちゃんたちだけの問題だと思ってた」
完全に虚を突かれた形。
そして四人の『スパイ』に武器を向けられた状態では、掲示板組も動けない。
完全にお手上げだ。
「さあ、行きましょう」
「りょうかいですっ」
レンに『スパイ』がいることを意識しちゃダメと言われて、緊張していたメイも安堵の息。
あっという間の決着。
これでは港湾部にいたハンターたちも、さすがに間に合わない。
「……これが、使徒長の戦い方」
スパイを敵側に忍ばせ掲示板組を翻弄し、ハンターのほとんどはメイたちが乗っていない船と戦闘させる。
その見事な戦いぶりに、思わず息を飲む。
『いざという時以外は静かに』
そう言われていた樹氷の魔女は、こんな緊急時でも楽しそうなレンにあらためて驚き――。
「これでこそ、我らが使徒長……!」
さらにその愛を深めたという。
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