1188.試験
「こういうのならどう?」
最初に放つは、合計八連続の魔法弾。
「高速【誘導弾】【連続魔法】【ファイアボルト】! 高速【誘導弾】【連続魔法】【フリーズボルト】!」
わずかな時間差で、左右から。
弧を描いて迫り来る魔法攻撃は当然、左右両方に意識を割く必要がある。
しかも誘導が効いているため、回避行動は絶対だ。
樹氷の魔女はある程度引き付けてから炎弾を避け、一度足を止めてから、あらためて氷弾を回避する。
「【超高速魔法】【誘導弾】【ファイアボルト】」
「ッ!?」
そこをさらに、圧倒的に速い直線の炎弾で狙撃する。
樹氷の魔女は、大慌てで身体を反らす。
すると額をかすめるようにして、炎の弾丸が通り過ぎて行った。
「やはり使徒長……格が違うっ!」
NPCやプレイヤーの魔導士とぶつかることは稀にあるが、通常の撃ち合いで驚きと羨望が混じることは早々ない。
そして樹氷の魔女が、再び正面を向いたところで――。
「【低空高速飛行】!」
レンは一気に距離を詰めていた。
ここで【ヘクセンナハト】を持ったのは、樹氷の魔女が自分の手の内を知っているから。
範囲攻撃で来ると思えば当然、対応は回避ではなく防御となり足が止まる。
しっかりと射程圏内に樹氷の魔女を収めたところで、片足で着地。
そのまま手を伸ばす。
「そういうことですか……っ!」
樹氷の魔女は【燃焼のルーン】を思い出し、慌てて回避に入る。
やや強引な後方へのバックステップで、思わず片手を後ろに突いてしまったが、ルーンの設置は回避に成功。
しかしレンは『ルーン』を使用しておらず、ただ手を伸ばしただけ。
もう一歩大きく踏み込んで、再び杖を構える。
「【フリーズブラスト】!」
ゼロ距離で、魔法を使用。
範囲魔法で来ると思わせての接触。
そう思わせてから、さらにもう一つ裏をかいた攻撃に、樹氷の魔女は慌てて防御に回ろうとするが、さすがに間に合わない。
「あああああああ――――っ!!」
防御できていない状態での一撃。
ついに樹氷の魔女が、氷嵐の直撃に吹き飛ばされた。
「攻め切る……っ!」
転がっていく樹氷の魔女に対し、レンは【低空高速飛行】で距離を詰めていく。
「【凍花白華】!」
「っ!?」
樹氷の魔女は運よく、転がりからヒザをついた方向がちょうどレンの前。
即座に反撃の魔法を使用。
冷気によって白みがかった空間に現れた、大量の氷花。
次々に砕け散り、生まれた無数の氷刃の花びらが舞う。
一転レンは急停止から、防御を取る。
それでも受ける、ある程度のダメージ。
さらに氷煙が、大きく巻き上がった。
「はああああ――――っ! 【魔氷刃】!」
わずかな時間を置いて、中から出て来たのは樹氷の魔女。
杖から生まれた氷の刃は、白の美しい軌跡を描く。
「っ!?」
接近攻撃に、レンは再び防御を取らされた。しかし。
「……こういう戦法、ツバメみたいで結構好き」
「なっ!?」
レンが氷煙に紛れて使用していた【氷塊落とし】が落下。
そのまま直撃し、樹氷の魔女を弾き飛ばす。
レンのダメージは軽微で、肉を切らせて骨を断つような結果となった。
「……やはり使徒長、魔法の使い方自体がうまい」
結果としては少ないダメージを与えて、それ以上の痛手を喰らってしまっている。
これは単純に、力負けしていると言っていいだろう。
「これでこそ、我が使徒長……!」
「急に負けた方がいいような気がしてきた」
再び生まれた距離。
二人は『どう攻めるか』と考え出すが――。
「レンちゃん!」
ここにやって来たのは、いなくなってしまったレンを探しに来たメイたち三人。
こうして戦況は、大きく変化した。
一対一で始めた戦いだ。
ここで複数対一になってしまうのは気が引ける。しかし。
「レンちゃん、もっとたくさんハンターが来るかも!」
メイの耳にハッキリと聞こえ出した足音で、さらに状況が変わる。
「切り裂いて【氷のイバラ】!」
伸びる氷の刃に、レンは慌てて回避行動をとる。すると。
「――――目覚めし白き吹雪の王」
「ッ!?」
パーティでの戦いとなれば、勝ち目は無し。
そう判断した樹氷の魔女が、一撃に賭ける形で始める詠唱。
レンはすぐに思い出す。
スキアとクルデリスが、上位上級魔法によって負けかけたという事実。
【無明雪月花】が、街の一角を銀世界に変えたという事を。
「――――その息吹は、絶対零度の祝福なり」
そんな大技が放たれれば、間違いなくハンターたちが総出でこっちにやってくる。
そうなれば、モナココ湾やカジノ付近にいるプレイヤーにまで、メイたちの居場所を宣言するようなものだ。
「……ああもうっ!」
飛び込み前転でどうにかイバラを回避したものの、反撃のできる体勢ではない。
そしてこの狭い地下通路に、ハンターが大挙するのはどうしても避けたい。
「こうなったら、仕方ないわね……!」
レン、悩んだ上で覚悟を決める。
「――――見事ね、樹氷の魔女」
「っ!」
「闇を継ぐ者たちの間でも、『要注意人物』として語られただけのことはある」
その言葉が、見事に注意を引く。
「貴方の言う通り、背後には怪しい力が動いているわ。そして『力試し』は……終わった」
そして、問いかける。
「樹氷の魔女。貴方に――――『闇』を知る覚悟はある?」
すると、詠唱がとまった。
これは魔法の使用を、やめたという事だろう。
「ならば、後に続きなさい」
そして一言、樹氷の魔女に告げる。
「私たちは、見つかるわけにはいかないの。できるわね?」
「使徒長の、御心のままに」
片ヒザをつき、頭を下げる樹氷の魔女。
レンはメイたちのもとに駆けつけ、そのまま岩陰の方へ。
「はい、隠れるわよ!」
「了解ですっ!」
直後、ハンタープレイヤーたちがホールに押し寄せて来た。
まさに、間一髪の状態だ。
「なあ、メイちゃんたちを見なかったか?」
「こっちにも来てる可能性は、一応ありそうだけど……」
「……いや、ここには来ていない」
樹氷の魔女は、首を振る。
「さきほど、向こう側から音が聞こえたが――」
「行こう! もしかしたらメイちゃんたちがいるかもしれないぞ!」
メイたちが最初にやって来た通路の方を指差すと、一斉に駆けていくプレイヤーたち。
こうしてハンターの大挙は、どうにか防ぐことができた。
「……まあ普通に無実を証明して終われば、それはそれで『闇』なんてものはないんだって、分かってくれるわよね」
頭を抱えながらその光景を見ていたレンは、そう言って息をついたのだった。
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