1187.地下の邂逅
プラネタリウムを思わせる空間の奥にあった魔法陣は、転移のもの。
行き先は、地下通路側へと戻るものだった。
そこは先ほど、二体のゴーレムを倒したホールだ。
「使徒長……!」
「……直接相対するのは、帝国以来かしら」
そこにやって来たのは、ハンターとして見回りにやってきた樹氷の魔女。
「突然の全国的な指名手配。やはりこの状況、何者かによる策略ですか? 純粋に『力』を求める使徒長と、モナココ王家が世界に隠す危険な『力』。その二つがぶつかり生まれた事態だと、私は思っているのですが……」
「……どうしよう」
『そっち』ではそういう展開で受け止められているのかと、顔を引きつらせるレン。
ここでありもしない『影の存在』を、感じさせることはしたくない。
それはもちろん、設定が増えてしまうからだ。
「カジノでの一攫千金に心を奪われただけよ。そうしたら手配されちゃったって感じね」
「使徒長。私たち闇に生きる者たちは、ご命令頂ければすぐにでも、全員を集めてモナココの闇を明るみに――」
「ハンターとして来た以上、戦いは避けられなさそうね!」
中二病たちが一斉にモナココに大挙する事態を想像して、レンはすぐさま戦いの流れに入る。
もし本当に黒づくめの軍団が集まってしまったら、どんな設定を背負わされることになるか想像もつかない。
ただ、とんでもない事態になる事だけは確実だ。
「【連続魔法】【ファイアボルト】!」
「っ! 真実を知りたければ、力を示せということですね! 【三連射】【アイシクルエッジ】!」
樹氷の魔女は、レンの炎弾攻撃をかわして反撃。
レンも迫る反撃の氷刃をかわしたところで、樹氷の魔女は得意の魔法を発動する。
「切り裂いて! 【氷のイバラ】!」
地面を伸びる氷の枝から生える、無数の氷棘。
「相変わらず、いいスキルね……っ」
攻撃力もしっかりありながら、隙は僅少。
それは相手が回避を選ぶなら、回避直後を別のスキルで狙えるという事だ。
「【白氷花】!」
放たれた氷砲弾は、つぼみを思わせる形状。
炸裂した瞬間に白刃の花びらを展開させて、エフェクトが花のように広がった。
直撃すれば後にもう一段階範囲を広げて攻撃する、二段階攻勢。
このスキルは、【氷のイバラ】との相性も良い。
「くっ!」
初見ゆえに大きな回避を取ったことが功を奏し、ダメージを免れる。
「初めて見たけど、砲弾タイプの魔法が炸裂するのはいいわね……!」
二つ続けて、良い魔法。
レンは【氷のイバラ】が消えていくのを確認し、早い移動を選択。
「【低空高速飛行】!」
ここで一気に距離を詰める。
「【三連射】【アイシクルエッジ】!」
「【旋回飛行】!」
左側から緩い弧を描きながらの飛行は、氷刃を見事に回避。
「【三連射】【アイシクルエッジ】!」
「【旋回飛行】!」
レンは足を突き、今度は右側から緩い弧を描く飛行で、再び氷刃をかわす。
「っ!?」
あまりに見事な移動に、思わず目を見開く樹氷の魔女。
前衛ですら、魔導士への正面からの接近は難しい。
だが緩い『S』字の回避は、弾丸系の魔法スキルを難なくかわして距離を詰めてくる。
その手に取り出したのは【魔剣の御柄】
この広さなら、火炎魔法での崩壊はおそらくない。
それでも一応【フリーズストライク】を込めて、華麗に振り払う。
「っ!」
樹氷の魔女はこれを、バックステップでかわす。
するとレンは、そのまま一回転。
「【解放】!」
レンを追いかけていたからこそ、この二連撃に覚えあり。
樹氷の魔女は真横に転がり、氷砲弾を回避。
頬に触れていく白煙を感じながら、反撃に入ろうと踏み込むが――。
「【悪魔の腕】!」
レンはもう一手、先を考えていた。
現れた魔法陣を、突き破らんとする勢いで伸び出した大きな腕が叩きつけに来る。
「はああああ――っ!」
「避けるの!?」
樹氷の魔女は、必死の飛び込みローリング。
発生が早く範囲もある一撃を、肩を弾かれる程度に抑えての回避に成功した。
樹氷の魔女が回避を捨ててない理由は、まさに目の前のレンがそういうスタイルだから。
そんなこと知らないレンは、見事な避けっぷりに驚く。
「凍てよ、限界の白きセフィロト――――【臨界氷樹】!」
即座に放つ、反撃の魔法。
渦巻く冷気が足元に集まり、急速に降りる霜が一気に氷の大樹を生み出していく。
最後には爆発し、そして範囲内にいれば『凍結』に追い込まれる事を覚えているレン。
全力で範囲外へ転がり出すと、純白の大木が生まれ炸裂。
二人の間を、白煙が舞う。
「帝国の時とは別人みたいに強いんだけど……まあ、対戦相手としてかなり面白いけど」
「やはり使徒長。人型の強ボス相手でも優位を取れる連携をもってしても通じないとは」
レンは強敵を前に、小さく息をつく。
樹氷の魔女は、興奮と安堵の入り混じった息をはいた。
次の手を考える両者。
このホールなら、ある程度派手なスキルを使ってもよさそうだが、戦いが大きくなれば音も響く。
そうなれば、ハンターたちが押し寄せる可能性がある。
「それなら、こういう感じだったらどうかしら」
レンは思いつきに、かすかに笑みを浮かべながら杖を構える。
「っ!」
その笑みが樹氷の魔女には、強者が戦いを楽しみ出したかのように見えた。
「やはりこれは試験なのですね。ここで私の全力をお見せして、深淵を覗くにふさわしい者だというお墨付きをいただかなくては……っ!」
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