1186.崩落の先にあるもの
「なんだか……不思議な造りですね」
「は、はひっ。どこか遺跡を思い出しますっ」
二体のゴーレムの登場によって空いた穴
そこには、一本の道が隠されていた。
施された装飾にも、使われている素材にも見覚えあり。
だが刻まれた紋様の感じは、これまでの旧文明遺跡で見てきたものとは、少し違ったものに思われる。
「中は綺麗な感じ……遺跡だけどシステム自体は生きてそうね」
壊れた箇所もないところを見ると、今も普通に起動しそうだ。
「レンちゃん! こっちに絵があるよーっ!」
メイの声は、まるで宝物でも見つけたのかのように元気。
レンたちは小走りで、声がした方に向かってみる。
「これは……綺麗ね」
たどり着いたのは小さめのホール。
その天井を使って描かれた絵画は、かつて天空都市エルラトで見た物を思い出す。
しかし大きく違っているのは、ここに描かれているのがおそらく宇宙だということ。
濃い青と紺色に塗られた天井に輝く無数の光は、小さく割った魔法石か。
キラキラと、瞬いている。
「この白いのは、月でしょうか」
一番大きく、絵の『中心』にあるのが白く輝く星。
そしてその隣に、青い水の星がある。
「……水の星がこの世界だと考えると、月を起点にした図の作りはちょっと変わってるわね。ゼティアには、占星術みたいな流れからでもたどり着いたのかしら」
天井の天球図から思いつくものは、占星術を使ったクエストの展開。
そして遺跡と言えば、ゼティアの門へと続く流れだ。
だが月を中心にした占星術から、どうつながっていくのかは想像もつかない。
「で、でも、見られて良かったです……っ」
「それだけは、間違いないわね」
自然と四人、並んで天井を見上げる。
四人一緒に、プラネタリウムを見ているかのような感覚。
とにかく綺麗で、先を急ぐのがもったいなく感じるほどだ。
「あ、あのっ、まだ時間はありますし、ここで一息どうでしょうかっ」
「わあっ! なにそれーっ!」
「とても綺麗ですっ」
まもりが取り出したのは、ガラス細工のカップに入ったチョコレートドリンク。
ギャンブルそっちのけで探し回った一品だ。
「モナココならではの商品かしら?」
「はいっ! カジノ近くのお店で見つけて、これは皆さんでぜひと思って!」
まもりはそそくさと、カットの美しいグラスに入ったドリンクを配っていく。
「紋章はモナココのものと同じで。金で枠が飾られてるのもすごいわね……」
「そうなんですっ! ガラスの器でもお金がかからない、この世界ならではの意匠ですね!」
まもりは「そこに気づくとはっ!」と、うれしそうにうなずく。
「おいしい……っ!」
「そうですね。甘さを控えめにしているのは、風味に自信があるからでしょうか」
「わっ、私もそう思いましたっ!」
まもりはツバメの言葉に、大きく何度もうなずく。
「今頃、この上ではたくさんのハンターが私たちを探しまわってるのかしら」
「そう考えると優雅ですね。冬に食べるアイスのような趣があります」
「たしかにそうかもっ! すっごい豪華だね!」
メイはコタツに入りながら食べるアイスを思い出して、大きくうなずく。
「こ、この時間が好きで、いつも皆さんと一緒に楽しめそうなものを探してしまってますっ」
「まもりちゃんのおかげで、こういう時間がもっと楽しくなったよー!」
冒険の中にある、休息。
この時間は、まもりにとって一つの欠かせない楽しみになっているようだ。
そしてまもりが持ってきて、四人で一緒に食べたり飲んだりした後は、その『記事』に載った店にたくさんの人が集まる。
そんな流れがまた、飲食システムを流行らせているのだが、まもりたちにそんな実感はない。
「……それにしても、メイとツバメのいないクエストは大変だったわね」
「は、はひっ」
「夜琉に斬られて終わる可能性もあったし、ヴォーパルバニーに喰われて終わる可能性もあったし、デモンスレイブで船が轟沈するパターンもあったわね」
「レンさんのとっさのルーンがなければ、この場にいなかったと思います……」
二人は、アーリィたちに囲まれた恐怖を思い出して震える。
「わたしたちもレンちゃんがいてくれたら、もっと上手に密航できたかなぁ」
「密航!?」
「最後、元海賊さんのところに戻るのに、連絡船への密航が必要だったのです」
「あはははっ、密航はいいわね! こういうクエストの醍醐味じゃない!」
「最後はメイさんと二人、木箱に隠れていました」
「それ、いい絵ねぇ……」
「メ、メイさんとツバメさんが隠れている木箱……とても楽しいですねっ」
木箱のフタをどけて顔を出し、うなずき合う二人を想像して、まもりは笑みを浮かべる。
「追われ続けた先に、この空間にたどり着いたって考えると、なかなか感慨深いものがあるわね」
キラキラと輝く星空、そして真っ白な月を見ながらレンがつぶやく。
「外に出れば、またハンターたちに狙われる逃亡犯です」
「モナココ脱出からずっと、ドキドキだったねぇ」
「は、はひっ」
「でも……四人そろったらもう負ける気しないわ」
「はい、私もそう思います」
「この容疑を見事、晴らしてみせましょうっ!」
「はひっ」
指名手配犯の四人は、少し変わった夜空を見上げて笑い合う。
「さて、そろそろバルディスの乗るオトリ船も、モナココに近づいてきた頃かしらね」
「わたしたちも行きましょうっ!」
「「「おーっ!」」」
まだ時間には余裕あり。
プラネタリウムの奥へ進むと、そこには一つの部屋。
最奥にある小型魔法陣に、乗ってみる。
すぐ変化は起きなかったが、レンは魔法陣の中央部分に足を乗せて数秒。
帝国で見た『長押し』式を、試してみる。
「っ!」
すると一人、王族用の地下通路へと続くホールのところに戻ってきた。
「なるほど。時間制限ありだし、ホールに『戻る』魔法陣を設置しておいてくれたのね」
クエスト後に、同じルートをただ歩いて戻るだけにならないようにするシステム。
メイたちはまだ、気づいていないのだろう。
レンは苦笑いしながら、視線を上げる。すると。
「……ん?」
「……ん?」
そこにはちょうど見周りにやって来た、一人の魔導士の姿があった。
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