1185.二体のゴーレム
閉じ込められた岩場のホール。
そこから現れたのは、高さ15メートルに届こうかという二体のゴーレム。
その腹部に刻まれた魔法陣は、爆破までの制限時間のようだ。
時間差であげた手から、生まれる輝きは【岩石落下】
「【バンビステップ】!」
「【スライディング】!」
「【地壁の盾】!」
メイたちは、次々に落ちてくる岩に見事な対応を見せる。
時間差は上手な連携。
先に硬直を終えたゴーレムは、今だわずかに残る石雨の中を跳躍。
そのまま【踏みつけ】に来た。
メイとツバメは大きなバックステップでこれをかわす。
念のため着地の瞬間にもジャンプすることで、『揺れ』による硬直もカバー。
「連携、なかなか上手ね」
ここで二体目の硬直が解け、さらに攻撃を続けてくる。
地面に手を突き、魔力の輝きを送り込めば起きるのは【クエイク】
「もう一回! せーのっ!」
「「「はいっ」」」
メイのかけ言葉に、今度は全員でジャンプ。
【クエイク】は大きく一度揺れるスキルであり、喰らえば防御していても硬直を奪われる。
だが継続時間自体は長くない。
ここで戦闘中の全員ジャンプが結構好きなレンが、ゴーレムを呼んだパーティの方が皆してすっ転んでいるのを見て、楽しそうにほほ笑みながら着地。
即座に攻撃へ入る。
「【フレアストライク】!」
すると『踏みつけゴーレム』は全身に魔力を走らせ青緑に変色。
【魔法耐性】でダメージを大幅減させた。
「魔法が効きにくいなら! メイ、お願いっ!」
「おまかせくださいっ! 【バンビステップ】!」
駆け出したメイはそのまま跳躍して、剣を掲げる。
「【フルスイング】!」
するとゴーレムは、橙色に変色。
今度は【物理耐性】でダメージを減少させた。
「どっちにも対応できるの!?」
抱えた爆弾。
どうやらしっかりと、時間稼ぎができるスキル構成になっているようだ。
「ど、どうすんだあれ……」
「メイちゃんと使徒長ちゃんの攻撃であのダメージじゃ、どうしようもないだろ!?」
「潔く祈ろう」
帽子の男に巡回を任されたプレイヤーたちは、神に祈り出す。
どうすれば、倒せるのか。
『解答』を見つけないといけないタイプの敵が、時限設定を持っているのは恐ろしい。
制限時間による『慌て』は、ステータスに乗らないデバフと言えるだろう。しかし。
「メイっ!」
「了解ですっ! 【バンビステップ】!」
これまで驚異的な敵たちと戦ってきたレンは、一つの解答を見つけ出していた。
さらにその意図を、察するメイ。
左側から回り込むようにして距離を詰め、【ラビットジャンプ】で跳躍。
「ここっ! 【誘導弾】【フレアストライク】!」
一方レンは、右側から弧を描くような軌道で飛ぶ炎砲弾を放つ。
直後、弾けた炎砲弾に対してゴーレムはほとんど無傷だったが――。
「その選択で良かったのかしら?」
笑うレン。
左側から跳んできたメイは、掲げた剣を全力で振り下ろす。
「【フルスイング】だああああ――――っ!!」
するとメイの剣は、一撃でゴーレムの左半身を吹き飛ばして崩壊させた。
「……そういうことか!」
「この状況で、よく思いついたな!」
敵対しているにもかかわらず、思わずあげてしまう感嘆。
物理防御と魔法防御。
二つのスキルを、同時に使うことはできない。
それならせめて物理防御を向上させて、与ダメージの高いメイの方に対応するべきだったと、笑うレン。
二人の連携は、この状況を普通に打ち砕いた。
「これで残りは一体! 【誘導弾】【フレアストライク】!」
「【バンビステップ】【ラビットジャンプ】からの……【フルスイング】!」
流れるように、同様の攻撃を残ったゴーレムに叩き込むメイとレン。
しかしゴーレムは、その身体を紫色に変色。
なんと物理と魔法の二つを、同時に防いでみせた。
「「「おしまいだああああ――っ!!」」」
大きく傾ぎ、揺れるゴーレムを見て、ハンターたちがあげる悲鳴。
だが、レンはここで止まらない。
二体目のゴーレムの様子を、しっかりと確認。
再び拳を突き、二連続の【クエイク】をジャンプで対応。
「ツバメ、まもり、続いて! 【フリーズストライク】!」
その狙いは、ゴーレムの右脚。
レンの氷砲弾がぶつかったところに、ツバメが続く。
「【加速】【連続投擲】!」
投じるのは【風ブレード】を四つ。
巻き起こる風に、ゴーレムが明確に揺れた。
「まもり!」
「【ストライクシールド】!」
二人の攻撃に合わせて駆け出していたまもりが、さらに右脚に盾を投擲。
すると二体目のゴーレムが、ぐらりと体勢を崩した。
「もう一発! 【フレアストライク】!」
続けざまの攻撃。
紫色に身体を変えたゴーレムのダメージは、やはり僅少だった。
それは今回も変わらない。
しかしレンは、一体目の時点で『まず打倒より、仕掛けを解く』という形に目線を変えていた。
そして、気づく。
大きく揺れていた二体目と、倒れ込んだまま残骸を残している一体目の『差』を。
「二体目は【踏みつけ】をしてきた一体目より足が小さい! だからバランスが悪くてよく揺れる。そして『転倒』状態で使えるスキルは極少数!」
まさにそれが、二体目の正しい攻略法。
「【フリーズストライク】!」
変わらずダメージは僅少。
しかし再び右脚に直撃した氷砲弾が炸裂し、ゴーレムが砂煙をあげて倒れ込んだ。
こうなれば後は防御スキルを使えない、完全無防備なゴーレムにメイが一撃を叩き込むだけだ。
「メイ、お願いっ!」
「りょうかいですっ! 【フルスイング】!」
その一撃で大きなヒビが入ったゴーレムは、砕けて崩れ落ちる。
こうして『自爆の魔法』は、七割以上の制限時間を残して消え去ったのだった。
メイとレンはハイタッチして笑い合う。
「すげー……」
「こんなパターンもあるのかぁ」
「いいものを見たな! よし、引き上げよう!」
「「「そうだな!」」」
ギミックありの戦いを最速で攻略したメイたちに、うっかり呆けていたハンターたち。
体育座りで見ていた戦いが終わり、潔く逃げ出していく。
「……さて。ハンターたちが逃げてくってことは、あっちが正しい道なんだろうけど……」
長らく放置された、古い地下通路。
ゴレームの登場によって崩れ落ちた岩壁から、一本の道が出て来た。
「……まだバルディスのモナココ突入には時間があるし、見に行ってみる?」
「いってみましょう!」
「早い勝負が、功を奏しましたね」
「何があるのでしょうか……っ」
こうしてメイたちは、現れた通路の方へ向かってみることにした。
誤字脱字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!
返信はご感想欄にてっ!
お読みいただきありがとうございました!
少しでも「いいね」と思っていただけましたら。
【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!




