1183.反撃開始
「現状、モナココへ続く陸路には多くの見張りがいる」
元海賊バルディスは船を走らせながら、現状を告げる。
「召喚獣や従魔も配備され、その数は尽きないレベルと言っていいだろう」
「そのまま突っ込んで行ったら、ステルスゲームで見つかった後の捨て身特攻みたいになるわけね」
大量の敵NPCを引きつれながら走り回る状況は、当然ながら避けたい。
騒がしくなれば、大量のプレイヤーも一緒に襲い掛かってくるだろう。
「そこで、かつてモナココの王族が作らせた、古い秘密の地下通路を使うというわけだ」
船がたどり着いたのは、木々の茂った崖へと続く浅瀬。
メイたちはここで降りて、森の中にある地下通路を進行する。
その間に元海賊は船を駆り、モナココの港に接近。
派手な戦いでモナココ軍やハンターたちの注意を、船に集中させる。
そして、奪われたかつての海賊船。
モナココ軍に接収され利用されている軍艦を、破壊しようという狙いだ。
「どっちも頑張れよー!」
ここまで世話になった整備士は、ここで下船。
ここからは完全に、モナココへの突入に挑む形だ。
「オレは一時間後にモナココ港へ突入する。その隙に内部に入り込め。濡れ衣を晴らせるよう……祈ってるぞ」
「そっちこそケジメ、つけてきなさいよ」
バルディスの言葉に、つい『船長仲間』みたいな感じで告げるレン。
「ありがとうございましたーっ!」
メイはバルディスと整備士に、大きく手を振って見送った。
「それでは、向かいましょう」
「はひっ」
バルディス達を、静かに頭を下げて見送ったツバメが歩き出す。
海に突き出た、小さな半島のような形をしたマップ。
浅瀬から岩場に進み、崖を登っていくと、そこには木々の立ち並ぶ小さめの森がある。
高低差の大きな岩山を下っていくと、岩肌にまるで『穴を塞ぐ』ような形で置かれた大岩が一つ。
「ここかしら」
その岩には、穿たれた小さな丸い穴。
これを一目で鍵穴だと気づくのは、難しいだろう。
「レンちゃんっ!」
「レンさん!」
「よ、よろしくお願いしますっ」
四人は並び、自然とレンが先頭になる。
「たとえ岩の扉でも、私が先頭になるのね」
何度考えても、後衛の自分が扉を開ける意味は分からないが、もはや慣れたもの。
レンは苦笑いしながら【魔法の鍵】を取り出し、岩肌の穴に差し込む。
すると【魔法の鍵】が輝きを放ち、消失。
岩戸がゆっくりと、横へ移動していく。
そこには、洞窟が隠されていた。
四人はさっそく、気を付けながら踏み込んで行く。
「照明がある……」
多くの岩肌はそのままだが、通り道になる部分には、丁寧な装飾が見られる。
まずは造りの綺麗な階段を下り、地下へ。
やがて階段を降り切ると、続く道は直進。ただし。
「絶対に動くわね」
「動きますね」
「動きます」
装飾の掘り込まれた道の左右には、並んだ岩製のガーゴイル。
「あっ、本当だ! 動く気がするっ!」
ついにメイも、ある程度の広い空間に並ぶ石像の類は、動き出すという感覚に共感する。
「私たちがモナココの王族でない以上、まず間違いなく攻撃を仕掛けてくるはず」
レンはツバメに耳打ちしながら進む。
そして四人が、居並ぶ六体のガーゴイルの中心まで来たところで、ガーゴイルの胸元の宝珠が光り出す。
「来ました!」
広げた翼から、同時に放たれる複数の魔力光線。
メイとツバメは、細かな足の運びでこれを回避。
「まもり、お願い!」
「はひっ! 【コンティニューガード】【天雲の盾】!」
迫り来る光線は六体分とあって、なかなかの量を誇る。
レンはまもりが盾で受けたの確認して、即座の反撃に入る。
「【フリーズストライク】!」
早い攻撃が功を奏し、氷砲弾がガーゴイルの一体を弾き飛ばす。
「【バンビステップ】!」
「【加速】!」
やはり石像が『動く』ことを前提にしていたことで、反撃はスムーズに決まった。
メイが速い接近から剣の振り一つで、あっさり二体目を撃破。
「【アサシンピアス】」
三体目に向かったツバメも、見事に打倒してみせた。
するとここで早くも半分の個体を失ったガーゴイルたちは、バックステップ。
並んで同時に、その口を開いた。
「合体攻撃!」
レンが叫ぶ。
残った三体が同時に吐き出す紅蓮の炎は混ざり合い、広くはない地下通路をあっという間に埋め尽くしていく。
地形を使った見事な戦法に、逃げ場はなし。
メイやツバメは移動からの攻撃の直後だったため、一度防御が必須かと思われたが――。
まもりがそれを許さない。
「【シンバル】!」
二枚の盾を強く一度、叩き鳴らした。
巻き起こる衝撃波が、炎を吹き飛ばす。
だが、これだけで終わらない。
「やっぱりね!」
炎のカーテンが消えた後も、レンは『それ』に注意を向け続けていた。
後方に下がった一体のガーゴイルは、馬のように前足を高く上げる。
これまでとは違う、胸元の宝珠の輝き方に覚えあり。
「うわわっ! もしかしてあれって!」
「わ、私たちの位置を知らせるための宝珠と、同じ色ですっ!」
地下通路に入ったとて、こっちは逃亡者。
そのことを忘れるなとばかりに、続く流れ。
【発信】は当然、地下の番人たちを呼び寄せる仕掛けだ。
それは最悪、モナココ内にある『出口』付近を通ったプレイヤーに、異変を知らせる可能性すらある。しかし。
「【稲妻】」
レンが送っていた合図は、この瞬間のため。
この時すでに動き出していたツバメは、【リブースト】を使った最速の接近で距離を詰めていた。
放たれる【村雨】の一撃が、発信しかけたガーゴイルを斬り飛ばす。
そしてこの時、念のため詰めていたメイはすぐさま狙いを変更。
「【フルスイング】!」
残った一体のもとに駆けつけ、そのまま剣を振り払う。
「まもりちゃんっ!」
メイがまもりを呼んだ理由が、すぐに分かる。
一応最後の個体に向けて、駆けていたまもり。
なんとメイの剣撃に吹きとばされたガーゴイルはそのまま、最後の個体に激突して転倒。
「「うまい」」
思わず、ツバメとレンの声が重なる。
折り重なった二体だが、片方はHPがなく粒子化。
もう一体は、衝突ダメージで残存。
しかし起き上がりに時間がかかり、大きく隙を晒している。
「それーっ!」
そこに駆けつけたまもりが、【魔神の大剣】を叩き込む。
こうして、六体のガーゴイルはすべて消え去った。
「残念だけど、慢心はなし。このまま突き進みましょう」
「おーっ!」
「了解です」
「はひっ!」
四人集まってハイタッチ。
本来ここで一気に騒がしくなるはずだった地下通路を、メイたちは余裕の足取りで進んでいく。
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