1180.猛攻を切り抜けろ
最前列に、アーリィとバニー。
その後方に夜琉が続き、最後尾で灰猫が構える。
完全な優位を取られた状態で、迎えた危機。
「さあ、指名手配犯を捕まえちゃうよ!」
アーリィの言葉に、四人が動き出す。
「【浄炎】」
灰猫が先行して白炎弾を連発し、レンに回避を行わせることで、範囲魔法の使用を防ぐ。
「【因幡ステップ】!」
「【クイックステップ】!」
それに合わせて、駆け出すバニーとアーリィ。
「【千切り】!」
「【ストライクシールド】!」
対してまもりは先だって右盾を投じ、アーリィに回避を強制。
迫るバニーの縦の連続斬撃を、素直に左の盾で通常防御する。
一人で二人を相手にして、崩されずにいたまもりは見事。
だがアーリィたちも、まもりの防御力は知っての上で選んだ攻勢だ。
「【十字光弓】」
放たれた四本の光矢の、狙いはレン。
追尾効果があるため、左側から回り込むような角度で飛んできた光矢を、しっかりと引き付けたところで回避する。
四人の狙いは、ここだ。
夜琉はこの時、レンの右側から疾走。
「【爆歩】」
一気に長い低空跳躍で、距離を詰める。
まもりとレンがいれば『攻守』がそろうため、数で勝っていても崩すのは難しい。
ましてレンには、一撃で戦況を変える魔法もある。
よってアーリィの狙いは最初から、『攻』を担うレンの離脱。
ここを崩せば、後はまもりをじっくり詰めればいい。
「【天地裂断】!」
魔法の回避のため、体勢を崩しているレン。
【天地裂断】は、縦に長い剣閃を走らせる一撃。
それは一撃で勝負を付けられるほどの、必殺スキルだ。
「っ!!」
レンはこれを、必死の転がりで回避。
すると一瞬遅れて、空間が左右に一度ズレる。
生まれた大きな縦の斬撃エフェクトは、大地を斬り、空を斬った。
命がけの回避は無事に成功したが、もちろんそこを狙わない理由などない。
「【雷霆】!」
アーリィの放つ超高速の一撃は、雷光を走らせながらレンに向けて一直線。
ここで灰猫がまもりに魔法攻撃を放ち、防御させることで【かばう】を封じる。
回避は、どう考えても不可能だ。
「……ここ、勝負!」
しかしレンは、『こういう完璧な窮地』こそを待っていた。
【雷霆】の凄まじい火力は、このピンチを崩すのにうってつけだ。
「発動!」
ここでレンは、先ほど【リジッドタッチ】にきた夜琉の手を払った際に設置した、【入替のルーン】を発動。
「なっ!?」
アーリィを目前まで引き付けた状態で、突然場所を交換された夜琉は驚愕に目を見開く。
そして【雷霆】が直撃。
凄まじい火力で斬り飛ばされた夜琉は、民家の壁をぶち破って転がる。
大きく上がった砂煙。
まさかの事態に驚くバニーの斜め前方に、夜琉に変わって現れたレン。
「はいそこ! 【フレアバースト】!」
手にした【ヘクセンナハト】で、範囲魔法を叩き込む。
「にゃっはああああ――――っ!!」
続けざまに放つ爆炎が、バニーを吹き飛ばした。
「【連続魔法】【フリースボルト】!」
さらに、残ったアーリィに向けて放つ氷弾。
「【リトルウィング】!」
アーリィはこれを飛行でやりすごし、そのまま硬直下にあるレンに飛び掛かる。
「さすがね、でも……っ!」
「【かばう】!」
そこに飛び込んで来たのは、まもり。
「【エクスプロード・ランス】!」
「ランス……っ!?」
これまでは、知られている手の内での戦い。
だが最後に出て来たのは、見慣れぬ新武器だ。
直後、巻き起こる盛大な爆発。
「わああああああ――――っ!」
爆発に吹き飛ばされたアーリィは、背中から落下して民家の屋根を破った。
「逃げましょう! こんな好機二度は作れない。これが最初で最後のチャンスになるわ!」
「はひっ!」
【入替のルーン】という、トリッキーな切り札を使って生み出した好機。
移動には自信のない二人だが、これだけの隙を作っても逃げ切れないのであれば、もう捕縛は確定だろう。
レンはまもりの手を引き、全力疾走。
【発煙筒】を上げ、人気のない裏路地を駆けて、そのまま海の方へ出る。
たどり着いた町外れには人もなく、それを見越した整備士が船をこちらに寄せてくる。
「急いで! 最速でお願いっ!」
そのまま船に、飛び乗った二人。
レンは一秒も早い離脱を指示。
「無理やり逃げるのでも、戦うでもなく、こっちの大技を利用して隙を作り逃走。さすがだにゃん」
灰猫はレンたちが船に戻ることを見越して、一歩先に戦線を離脱。
逃げるレンたちを素直に走りで追いかけ、海沿いへ回ってきていた。
「でも――――ここで決めるにゃん」
港の先にある入江部分の先端に進み、狙いを船に合わせる。
「レ、レンさんっ! どうしましょう!?」
そのことに気づいたまもりが、慌てて指を差す。
「【超高速魔法】【誘導弾】【ファイアボルト】!」
レンは慌てて最速の魔法を放つが、わずかに間に合わなかった。
「……祈りましょう」
「ええっ!?」
「【デモンスレイブ】」
「「っ!!」」
放たれたのは『地形を変える』と言われる、超高火力の一撃。
炸裂する魔力は、船ごと消してしまってもおかしくないほどの威力を持つ。
海に一瞬大穴をあけた一撃は、高く飛沫を上げ、大きな波を起こした。
「……どうにか……逃げ切れたわね」
「さ、最後の最後まで、凄いスリルでした……っ」
船は大きく揺れながらも、ギリギリのところで最悪の一撃を免れた。
最速での避難指示が、功を奏しての逃避。
巻き上がった飛沫を浴びた二人は、かかる虹を見上げながら、甲板の上に座り込んで苦笑い。そして。
「すごい戦いが見れちゃったかも……!」
黒づくめだけど中二病でも何でもない魔導士は、目を輝かせながら事の顛末を楽しんだのだった。
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