118.ミッションが始まります
「あの爆発、やったか!?」
グラムは欄干から身を乗り出し、ニヤリと笑みを浮かべる。
「……いえ、どうやら返り討ちにあったようです」
「なんだと?」
「あのワイバーンを落としちゃうなんて、すごいね」
「へえ、マジでやるじゃねーか」
「……ふん、思ったよりはやるようだな」
度重なる刺客の敗北。
グラムもわずかに違和感を覚え出す。
「城内に隠れて防衛するだけなら強力。みたいなスキルでも持っているんだろうな……だが」
そこに流れ出す、運営のアナウンス。
『――――ヤマト天地争乱。現時刻をもって両将軍にミッションが与えられます』
『ミッションには制限時間があり、達成できない場合は敗北となりますので、くれぐれもご注意ください』
「どうやらその運の良さも、ここまでのようだな。わっはっは!」
告げられる最初のミッション。
将軍自らが街に出て来てくるとなれば、そこを突かない理由はない。
「よーし全軍準備に動け! 慣れないミッションに苦しんでいるところを叩くのだ!」
「グラムはどうするの?」
「金糸雀と数人のプレイヤーだけ連れてミッションをこなしてくる。ローランはここで指示に回れ」
「うん、行ってらっしゃい」
こうしてグラムは、堂々と天軍城を下りて行った。
◆
「いよいよミッションが始まるんだね」
動き出す展開に、メイはワクワクドキドキとせわしない。
『ヤマトにあふれ出した妖気を封じるため、両将軍には指定のお社へ『宝珠』を運んでいただきます』
『ただし宝珠は強力な毒性を持つため、他プレイヤーが持てば即死。半径5メートル内の自軍プレイヤーの体力も早い速度で失われます』
「……将軍の周りをとにかくプレイヤーで固めて移動ってやり方はできないわけね」
「固まって進むのは、四年前に不評だったんです」
マーちゃんは苦笑いを浮かべる。
「行き先のお社は、各軍の『地図』に表示されています」
そう言って指さしたのは、将軍の間に張られたヤマトの地図。
城から持ち出した宝珠を収めるお社までのルートが一目で分かる。
「なるほど。『どこで戦わせたいか』よく分かるわねぇ」
地図を見て、レンは息をつく。
「どうしましょうか。地軍プレイヤーに露払いをさせつつ進むか、敵軍にはこちらの行き先が分からないことを利用するなら、全く違う方向にプレイヤーを向かわせて注目を集め、その隙に少数精鋭で静かに進むか……」
「安全っていう意味では、メイが自由に動ける状況が一番だと思うのよね」
「メイさんの機動性を考えれば、一気に駆け抜けてしまう方が良さそうです」
「それは……どういう……?」
「あさっての方向に地軍プレイヤーを向かわせて、その隙に将軍が一気にミッションを片付けるって形ね。ただ、そうなると護衛がついて来られないのよ」
「まさか、護衛なしですか……?」
「そこはツバメに先行してもらうわ。一応準備もしてあるし」
「な、なるほど。では私は敵の引き付けをしておきます」
「お願いするわね。敵の武器は何より数の多さでしょうから」
「は、はいっ」
慌てて階段を下りて行ったマーちゃんは、地軍プレイヤーと共に街へと先行。
「私も続きます」
ツバメも屋根を下りて行く。
「私はいつも通り【浮遊】で追いかけるわね」
「りょうかいですっ!」
メイは将軍の間におかれた宝珠を取ると、少し遅れて地軍城を出た。
そのまま通りへ出て、辺りを見回しながら街を目指して駆けていく。
「青の腕章がいっぱいだ……」
マーちゃんが地軍プレイヤーと共に天軍の一部を引き付けてもなお、この密度。
やはり、兵力差は尋常ではないようだ。
「いたぞ!! 地軍将だっ!!」
「わあ! もう見つかっちゃった!」
哨戒に当たっていた天軍プレイヤーが声をあげ、メイは慌てて走り出す。
「橋を塞げ! おそらく地軍の社は橋を越えた先にある! そこさえ詰めちまえば一気に優位が取れるはずだ!」
イベント慣れした天軍プレイヤーの言葉に、集まってくる仲間たち。
天軍は即座に有利な状況を作り出していく。
「……あれ、あの子は確か」
そんな中、一人のプレイヤーが声をあげた。
「お、おい待て! その子に橋の有無は関係ないっ!」
いなり寿司競争に参加していた彼は、メイの偉業を知っている。
しかし、わずかに気づくのが遅かった。
「そーれっ!」
メイはそのまま川に向けて跳躍。
「【アメンボステップ】!」
橋の上で呆然とするプレイヤーたちを置き去りに、あっさり向こう岸へ。
「川を……走ってる」
一方、橋の上で呆然としていた天軍のもとには――。
「うわああああああ――――ッ!!」
【魔砲術】が、猛烈な爆炎を叩き込んだ。
「よいしょっ!」
見事に川をショートカットしたメイは、【アクロバット】で華麗に着地。
「……あ、ど、どうも」
その姿をじっと見つめていた青年と、目が合った。
「しょ……将軍だああああーっ!?」
バッタリ出くわした単騎の敵軍将に、驚きの声をあげる天軍プレイヤー。
それはちょうど橋へ向かおうとしていた、援軍の一団だった。
「う、撃て! 撃てぇぇぇぇ!!」
即座に矢と魔法が、メイに向けて放たれる。
「ええっ!? これ全部天軍なのっ!?」
圧倒的な人数を誇る天軍の規模に、さすがに驚くメイ。
「うわわわわーっ! 【バンビステップ】!」
ここで戦いを始めてしまえば、絶えることなく援軍がやってきてしまう。
メイは慌ててヤマトの街中へと駆け込んでいく。
「追え! 追えー!」
当然天軍プレイヤーたちは、勢い勇んで後を追う。
「メイさん、こっちです」
「ツバメちゃんっ」
逃げるメイの前に現れたのは、先行していたツバメ。
屋根の上から『ポイント』を指定する。
「お願いします」
「おおきくなーれっ」
今回ツバメが選んだのは、竹とシダ。
ヤマトの街並みに合った植物の並びに、違和感なし。
「えいっ」
生まれた茂みに潜り込んだメイを、完全に覆い隠してしまう。
「ちっ、足の速いやつめ! 追え! とにかく追うんだー!」
そうとは知らず、天軍プレイヤーたちはメイの前を駆け抜けて行った。
「……撒かれた種がそこにありさえすれば、【密林の巫女】で育つ。レンさんの狙い通りですね」
「へへー、ドキドキしちゃったよぉ」
シダの上からひょこっと顔を出したメイは、屋根の上のツバメに「ありがとー」と手を振ってみせた。
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あくまで『普通……?』の三人、活躍は続きます!
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