1179.新たな危機
「た、大変なことになってしまいました……」
ハンターパーティの攻勢を、見事に抑えたレンとまもり。
しかしそこに現れたのは、見知った四人組。
「【早換え】! バニーちゃんドレスアップ!」
燕尾服の裾のような形をしたスカートを巻いた、白のバニースーツ。
ウィンクを一つ決めたのは、天空遺跡やゼティアの門での戦いで一緒だった、バニー・ラビッツ。
「全国手配の魔導士レンと、重戦士まもり。ここでお縄についてもらっちゃうよ!」
「本当にいつも、楽しそうなクエストをやってるよね……こういうのなら一緒に追われる側になりたかったなぁ」
アーリィはそう言って、羨ましそうにしながら剣を取る。
「まったくだな」
「でも、こういう形も悪くないにゃん」
そんなアーリィの言葉に応えたのは、大きな居合刀の夜琉と、魔導士の灰猫。
なんと四人が、勢ぞろいの状態だ。
「さあ、いくよレンちゃん。御用だ御用だ!」
楽しそうに笑うアーリィが剣を向け、残る三人が構えを取ろうとした瞬間。
「【フレアバースト】!」
「「「「「っ!?」」」」」
レンは挨拶の一つもなし。
間髪入れずに放つ爆炎の魔法で、建物ごと吹き飛ばす。
これで直撃すれば僥倖。
だが狙いはあくまで、逃げ出す契機を作るためだ。
「さすがにあの四人相手は無理だわ。正面からぶつかったんじゃ、勝ち目なんてない……っ!」
全員が高火力の必殺技を持つ、バニーたち。
メイとツバメがいない状況で、四対二は厳しすぎる。
すぐさま駆け出す、レンとまもり。
せめて足が遅い面子とは、分断しておきたいという狙いだ。
二人は船目指して、全速力で逃げる。
「【因幡ステップ】」
「【クイックステップ】」
予想通り、先行してきたのは小回りの利くバニーとアーリィだ。
「それっ!」
大きな跳躍から、取り出した二本の長包丁を手に襲い掛かってくる。
「【三枚おろし】だーっ!」
左右の包丁で、合計六発の高速斬撃。
「【クイックガード】【地壁の盾】盾盾盾盾盾っ!」
これを受けたのはまもり。
弾かれ合う両者。
するとその後ろから、スイッチするように飛び込んできたのはアーリィ。
「【ヴァルキリーストライク】【クロスエッジ】!」
高速移動から剣を振り降ろし、そのまま払いで十字の剣撃を生み出す。
「盾、盾っ!」
これも続けて防御を決めたところで、バニーが右手を掲げた。
「【口寄せ】! 出ておいで、ヴォーパルバニーちゃん!」
「来たっ!!」
レンが叫ぶ。
近接なら【啄木鳥】、中距離なら召喚の【ヴォーパルバニー】
バニーの攻撃は最悪、それだけで死に戻りの可能性がある。
中でも【ヴォーパルバニー】は、まもりの盾防御が活きない攻撃法。
その対応は必須、そしてレンが行うべきだ。
「まもりごめん! 【フレアバースト】!」
それでも『後方向き』に、二枚目の盾を突き出したまもりは見事。
もう多少のダメージを与えてしまうことは、覚悟して放つ爆炎。
まもりのHPは減ったものの、ヴォーパルバニーたちだけを吹き飛ばして、最悪の事態を逃れる。
燃え上がる炎を前に、レンは一つの危機を乗り越え息をつくが――。
「【爆歩】」
高めた防御力で豪炎を突き抜けてくる、大きなストライドの前方跳躍。
長い白髪に白の袴。
華奢な身体に、大きめの薄水色の羽織をなびかせながら飛び出してきたのは、夜琉。
身の丈を超える長さの居合刀を抜き放ち、放つは豪快な空中回転撃。
「【月穿ち】!」
「ち、【地壁の盾】っ!」
突然炎の向こうから出てきて放つ一撃に、それでも盾を合わせるまもり。
しかし夜琉の放つ空中で回転斬りは、防御しても関係なくその体勢を崩すもの。
「きゃあっ!」
ダメージこそなかったが、まもりが弾かれレンの横を転がる。
「【十字光弓】」
この状況で、足の遅い灰猫が放つ魔法は追尾。
光の弓を引いて放つと、四本の光の矢がレンに直撃した。
「くっ!」
しっかりとダメージを奪い、体勢を崩す。
やはり、普通に逃げ切るのは難しい。
メイやツバメがいかに、後衛がやりやすい状況を作ってきたかという事実を思い知る。
「【爆歩】」
聞こえた声に、慌てて顔を上げる。
放たれるであろう剣に、防御態勢を取るまもり。しかし。
「【リジッドタッチ】」
「ッ!?」
剣ではなく、硬直狙いのハンタースキル。
まもりは身を投げるようにして、ギリギリ回避に成功。
夜琉の指先が、髪に触れていった。
「【捕縛の宝珠】!」
「まもりっ!」
その隙を突いて放たれたアーリィの魔力縄に対し、レンはまもりを押しのける形で避ける。
今度は魔力の縄が、顔の数センチ横を通り過ぎていった。
さすがはトッププレイヤー、見事な戦い方でレンたちを追い詰めていく。
「【因幡ステップ】!」
「【フレアストライク】!」
「っ!」
どうにか、続くバニーの接近を炎砲弾で強制停止するレン。
これが功を奏する。
「あっぶな!」
伸びてきた夜琉の【リジッドタッチ】を、レンはあえて自らの手で打ち払うことに成功。
バニーへの対応が遅ければ、硬直を取られていただろう。
「【白鳥乱舞】!」
「ッ!?」
しかし聞こえた言葉に、思わず震える。
低空の跳躍から放たれるアーリィの乱舞は、喰らえば一気に戦況が変わってしまう。
「【コンティニューガード】【地壁の盾】!」
安堵は、その狙いがまもりだったこと。
放たれた美しい剣舞は、回避を狙えば超高難度だが盾防御ならしっかり対応できる。
響き渡る、激しい衝突音。
見事な防御を見せる、まもりだが――。
「【聖十字乱槍】」
ここを灰猫が狙う。
足元から十本ほどの大きな黄金の十字架が、乱雑に突き上がる。
「ああっ!」
盾装備の弱点となる『下から』の攻撃は、まもりを弾き飛ばしつつダメージを与えた。
「私たちの手の内を知るトップパーティ。人数的にも足りてない状態……やっぱり、圧倒的不利……っ!」
「そういうことだよねーっ!」
「ここで勝負を付けさせてもらうよ!」
『詰め』の段階に入ったバニーとアーリィが、笑い合う。
こちらの反撃を抑えるため、すでに魔法攻撃の体勢に入っている灰猫。
そしてバニーたちの攻撃を、かわすなり守るなりした直後を狙うために、遅れて動き出す夜琉。
四人の陣形に、隙はない。
脱字報告、ご感想ありがとうございました! 適用させていただきました!
返信はご感想欄にてっ!
お読みいただきありがとうございました!
少しでも「いいね」と思っていただけましたら。
【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!




