1178.可変銀
「連れてきましたよー」
どう見ても中二病。
しかし偶然装備品が黒いだけで、普通の少女であるプレイヤーが仲間を連れてやって来た。
どうやら普段は四人パーティらしく、三人はまもりと、真顔でうなだれているレンを見て驚く。
「【可変銀】が必要ってことでしたね」
「そ、そうなんです」
まもりが応えると、従魔士の女性が対応する。
「そういうことだったら、少し待っててくださいねぇ。ギルドに預けた状態なんで、持ってきますよぉ」
そう言って、従魔の銀狼を連れてギルドの方へ。
「よ、よろしくおねがいしますっ」
まもりが言うと、従魔士はそのままのんびりと中央通りの方へ去っていった。
「あいつ、マイペースだからなぁ」
そう言って苦笑いを浮かべたのは、紅色のショートコートに大きなベルトを下げた魔法剣士。
「気長に待ってやってくれると助かるよ」
苦笑いしながら、近くのレンガ造りの家の階段に腰かける。
ようやく気を取り直したレンは、『何かあった際』に逃げる方向を把握済み。
まもりにも、目で通達しておく。
ただ、できれば問題は起こしたくない。
レンたちが【可変銀】を求めてると知られれば、ハンターは当然そこを狙ってくるだろう。
クエストにプレイヤーが結びついている形は、とにかくその一点がやっかいだ。
「そう言えば、今日はメイさんとは一緒じゃないんですか?」
中二病風の魔導士少女が問いかけてくる。
「今は別行動中なの」
「そうなんですね。あんなに高速で予期せぬパターンの攻撃をするメイさんが前衛で、援護は難しくないですか?」
「しばらく見てると、だんだん分かってくることがある感じかしら。続けてると前衛側も『このタイミング』『この角度』で援護が入る可能性があるって感じるみたい」
「なるほど、そうなんですね」
「まあ、後ろから範囲攻撃でまとめて攻撃みたいな形でも、意外と何とかする感じだよな。野生児ちゃん」
いざとなればハイジャンプで真上に飛んで、魔法をぶつけた後に着地攻撃みたいな攻撃をするメイを思い出してうなずくレン。
「私はアサシンちゃんが好きだな。あの子の短剣使いはいいよ。あの感じで意外と肉を切らせて骨を断つ強引さもあってさ」
魔法剣士がそう言って、短剣を取り出す。
「「っ」」
思わず、息を飲むレンとまもり。
それが【捕縛の宝珠】の可能性もあるというだけで、緊張感ありだ。
さっきから特に話すこともなく、会話を聞いてるだけのプリーストも、こうなってくると意味深に見える。
やはりこのクエスト、気が抜けない。
「……思ったより、時間かかるわね」
「この距離でも迷えるやつだからさ。悪いな……お、来たみたいだぞ」
ギルドから戻ってきた従魔士が、その手に筆箱くらいの大きさの金属塊を持ってきた。
「これが【可変銀】ですよぉ」
「助かるわ。お礼は『ステータス上げの果実セット』でどうかしら」
「おおっ、そりゃうれしいね」
「わー! 豪華ですね!」
メイに頼めば、【密林の巫女】で増やすことのできる果実たちは、料理クエストが流行り出したことで、『バフ料理』の素材としても需要増。
買えばそれなりの額になるフルーツは、うれしいアイテムだ。
魔導士少女は、うれしそうに目を輝かせる。
「どうぞ」
だが『受け渡しの瞬間』ほど、狙われるタイミングはない。
レンはまもりに目配せ一つ。
中二病装備少女は、『宝珠』を使えばレンを捕らえられる位置。
魔法剣士は【リジッドタッチ】による追撃ができそうだ。
レンは何もないかのように装いながらも注意深く、六つの果実を五個ずつ差し出した。
そして代わりに、【可変銀】を受け取る。
「これで一番難しい要素をクリアしたといっていいわね。ありがとう」
「あ、ありがとうございましたっ」
レンはそう言って先んじて歩き出し、念のため盾を二枚持った状態のまもりに続いてもらう。
この状況なら、仮に宝珠を使われてもまもりの盾が先に出る。
「あっ、そうです!」
「「っ!?」」
突然手を叩いた魔導士少女に、思わず身体が硬直する。
だが、攻撃は無し。
「パフェのクエストに行ってみましょうよ!」
どうやらバフ料理クエストの在処を、思い出したようだ。
レンは安堵の息をつきながら、まもりは涎を垂らさないよう我慢しながら、そのまま小走りで街へ戻る。
そして指定されていた、元海賊の仲間の鍵師の店へ。
こじんまりとした石造りの建物には、多種多様な金属の鍵が並んでいる。
今は錬金術師としての腕を使って、様々な鍵を作っているようだ。
「バルディスに言われて来たんだけど……これで【魔法の鍵】を作ってもらえない?」
レンがそう言うと、鍵師の男は返事もせずに【可変銀】を取り、すぐに製作を開始。
「持って行きな」
一枚の板のような鍵を差し出した。
「こいつを鍵穴に伸ばせば、勝手に形が変わって鍵を開く」
こうしてレンとまもりは、見事に【魔法の鍵】を手に入れた。
そして再び、大通りを外した道を戻り始めたところで――。
「とまりなさーい」
立ち塞がったのは、さっきの従魔士。
「手配犯のお二人、逃がしませんよぉ!」
そう言って、楽しそうに【捕縛の宝珠】を取りだしてみせた。
「まあ、そういうことだ」
そう言って並ぶ、魔法剣士とプリースト。
「えっ? えっ? パフェはいかないんですか?」
「……なるほどね。魔導士の子は本当に敵じゃなかったけど、他のメンバーは捕まえに来るパターンね」
『敵をだますには、まず味方から』の理論で、知らされていなかった魔導士少女は困惑。
「【可変銀】を取りに行くのに時間がかかったのは、ハンターになるためかしら?」
「その通りですぅ」
どうやら魔導士以外は、ハンターとしてクエスト参加を決定。
ただし全員で『手配書の貼られた掲示板』に行くのは難しいため、【可変銀】を取りに行く際に従魔士が、鍵製作の後を付けさせている間に魔法剣士たちが。
分けてクエスト受注に向かったようだ。
「モフ王ちゃん!」
独特な名づけの銀狼が、その美しい毛並みをなびかせ迫る。
跳躍からの豪快な【喰らいつき】だが、レンもすでに戦闘態勢にある。
「【フレアストライク】!」
炎砲弾で銀狼を弾き飛ばしたところで、迫り来るのは魔法剣士。
二刀流に輝く魔力光は、火力と範囲を上げるためのものだ。
「【かばう】【クイックガード】【天雲の盾】盾!」
放たれる二連撃を、問題なく受け止める。
「【前方宙返り】!」
するとすぐさま跳躍し、まもりの頭を超えていく。
「【回転斬り】!」
そのまま振り返りの回転斬りで攻撃。
「【天雲の盾】!」
しかしまもりも二枚目の盾で、これもしっかり防御。
「フリーズ――」
「レンさんっ!」
レンは魔法剣士に、魔法攻撃を叩き込もうとして急停止。
すると沈黙を守っていたプリーストが突然移動し、両手を上げた。
「【鉄槌】」
振り下ろされるのは、聖なる光の大型ハンマー。
「【不動】【天雲の盾】!」
レンは慌てて、まもりの足元にしゃがみ込む。
するとその直後、聖なる光の一撃が頭上から叩きつけられた。
これを、盾で受け止めたまもり。
「ここだ……っ!」
動きを止めたまもりを狙って、魔法剣士が【リジッドタッチ】で急接近。
「そうはいかないわ! 【フレアストライク】!」
「うおおおおっ!!」
直撃で、魔法剣士を吹き飛ばす。
しかしここで構え直したプリーストが、魔法を放つ。
「【ディバインブレス】!」
輝く粒子を乗せた烈風が、二人を飲み込もうと接近。
上級魔法は範囲も大きく、思わず息を飲むが――。
「【マジックイーター】【ディバインブレス】!」
「っ!?」
放った魔法を即座に返されて、驚きふためくプリーストが吹き飛ぶ。
「モフ王ちゃん!」
「そうはさせないわ!」
迫る銀狼に対して、レンは【魔力剣】で対抗。
二発の【ひっかき】をかわした後、【低空高速飛行】で一気に距離を詰め、今度は斬り飛ばしてみせた。
「これなら……いける!」
敵パーティを見事に半壊に追い込み、息をつくレン。
「……なるほどね」
一転止まって、苦笑いを浮かべる。
「こういう形で結局戦うのなら、【可変銀】を一度渡して鍵に変えさせる時間は要らないと思ったけど、こういうこと」
「と、到着を待っていたのですね」
時間がかかったのは、ハンタークエストを受けるためだけではない。
それは、頼れる『知り合い』が到着するまでの時間稼ぎだったようだ。
「早くも最大の危機なんだけど……さて、どうしたものかしら」
屋根の上には、並び立つ四人のトッププレイヤー。
「ひっさしぶりだねっ! 指名手配犯の皆さんっ!」
こちらに刺身包丁を向けた少女が、楽しそうにレンたちを見下ろす。
「みんなまとめて――――逮捕しちゃうぞっ!」
バニー・ラビッツはそう言って、楽しそうに笑ってみせた。
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