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1176.出航の時間

「いたぞ! メイちゃんだ!」

「気を付けろ! パーティを分けて行動してるぞ!」

「格好は魔法学院制服にフード! いつもと姿を変えているから気を付けろ!」


 誰かが【発信の宝珠】を使用したのだろう。

 気が付けば、かなりのハンターが集まってしまっていた港町。


「わー! 違うんですっ!」


 駆けてくるハンターたちを見て、すぐさま逃げを打つ。

 最後には必ず、連絡船に戻らないといけないのがつらいところだ。

 とにかく今は、港から少し離れた町の中へ。


「【捕縛の宝珠】だ!」

「うわっ!」


 出会いがしらに現れた三人組のハンターたちの魔力縄を、慌ててかわす。

 相手は魔導士。

 そのまま駆け抜けて角を曲がれば、追いつくことは不可能だろう。しかし。


「っ!!」


 見れば足元にしっかり張られた魔法陣罠。

 右足左足とジグザグに飛び越えて、着地。


「ここだ! 【ダッシュ】!」


 シンプルな短距離高速移動スキルで迫るのは、軽装の弓手。


「【リジッドタッチ】!」

「うっわー!」


 手の振り回しは、喰らえばその場で『硬直』に追い込まれる。

 これをどうにかかわしたが、仲間の重装騎士が即座に追撃にくる。


「【テイルウィンド】!」

「っ!?」


 背中に強烈な追い風をぶつけて低空近距離ながら、早い跳躍移動を見せるスキルで接近。


「【大木割り】だああああ――――っ!」

「わひゃ!」


 これを真横への飛び込みで、どうにか回避する。

 背後の地面に突き刺さったハルバードが、地面に突き刺さった。


「違うんですうううう――――っ!」

「「「待てぇぇぇぇ――――っ!!」」」


 逃走も派手になれば、追手の数は増える。

 そうなれば当然、足の速さに自信を持つ者も現れる。


「【ブーストダッシュ】【リジッドタッチ】! 【リジッドタッチ】!」

「わっ! わわわあっ!」


 大きく身体をそらしての回避。

 そこからバックステップで距離を取る。


「【前方宙返り】!」


 するとそこから流れるように回転跳躍。

 空中からの攻撃に備えて、慌てて盾を取り出すが――。


「残念ここまでだ! 【烈風掌】!」

「ああああああーっ!」


 着地から放つ風スキルに、地面を転がった。

 片ヒザを付き、急いで身体を起こすが、状況は絶望的。

 視界を埋めるほどのハンターに、完全に包囲された状態だ。

 集まってきたハンターたちが、【捕縛の宝珠】を構える。


「違うんですっ!」


 大きく首を振る。

 しかしハンターたちは当然、聞く耳など持たない。


「これで終わりだ! やれええええ――っ!!」


 宣言と共に、放たれる魔力の縄。

 これだけの数となれば、回避するのは不可能。

 いくつもの縄が魔法学院制服に直撃した。そして。


「……あれ?」


 弾かれ落ちる。


「違うんです」


 そう言って魔法学院制服の少女は、フードを外す。


「私は――――メイさんではありません!」

「「「「っ!?」」」」


 現れたのは、メイの装備を借り受けたレティだった。


「やられた……っ!」


 メイを装っての時間稼ぎは、見事に成功。

 ハンターたちは慌てて、港の方へ駆け戻っていく。


「メイさん、ツバメさん、絶対に逃げ切ってくださいね……」


 その場に座り込み、最後に『命を懸けてメイたちを逃がしたヤツ』風の笑みを残すレティ。

 こと切れたかのように、目を閉じる。

 もちろん、そんなにHPは減っていない。

 すべて、気分の問題だ。


「それでは、お先に失礼します」


 その時メイとツバメは、連絡船の受付の近くに積まれた木箱の背後に潜んでいた。

 ツバメはレンから託されていた【変化の杖】を使い、ネズミに変身。

 客や乗船検査兵の目を余裕で掻い潜って、船に乗り込む。

 見事、成功だ。

 少し遅れて、メイも木箱の陰から出る。

 こちらはチケットを受け付けで買い、普通に乗り込む形だ。

 少なくなってきた乗客と共に並び、順番を待つ。

 フードと魔法学院制服の代わりに、メイはレティに借りた兜を着用。

 帝国兵装備と一緒に使うと、別人のように見える。


「次」


 兵士がメイの三つ前にいた女性を呼び出し、チケットを確認。


「よし」


 問題なく乗船を果たす。


「次」


 続く男は、深く帽子をかぶっている。

 兵士はチケットを確認し、男の方をチラッと確認。すると。


「貴様! 手配犯の――っ!」

「ッ!!」


 見れば帽子を深くぶった男は、手配書の一つに載っていた顔と同じだ。

 兵士はすぐさま、スキルを発動。

 そのまま魔力の縄で男を捕えると、連行していく。


「あ、あれ……っ?」


 予想と違う。

 乗船の際の確認は、もっと適当だったはずだ。

 実はすでにメイたちが追われたことで、『警戒度』に変化があった。

 そのため顔をある程度隠していても、捕まってしまうようだ。

 メイはまさかの事態に、冷や汗をかき始める。

 このまま並んでいては、捕まってしまう可能性が高い。

 メイは一度列を離れ、宝石塊を手にしたまま途方に暮れる。

 だがこの位置からでは、ツバメともコンタクトできない。

 そして、このまま残れば――。


「メイちゃんはどこだ!?」

「どこにいる!?」


 戻ってきたハンターたち。

 しきりに付近の様子をうかがっている。


「どうしよう……」


 今はまだバレていないが、このままでは時間の問題だろう。

 メイは悩み、きょろきょろと辺りを見回すことしかできない。


「メイさん……?」


 いよいよ船が、陸を離れる。

 ツバメはメイの乗り込みが遅く、船が動き出したのをきっかけに乗船口の方へ向かう。

 しかし、メイの姿はない。


「まさか、乗れなかったのでしょうか?」


 だとすれば、アイテム欄に片付けることのできない【記録の宝石塊】を持たせたまま、メイを残してしまったことになる。


「メイさん……っ」


 あらためて船を一周。

 やはり、メイはいない。


「こうなったら仕方ありません! 【加速】【リブースト】!」


 ツバメは即座に、海を泳いで街に戻ることを決意。

 全力で助走をつけ、そのまま勢いよく船の縁に足をかける。


「跳躍!」

「ツバメちゃん!」

「ッ!?」


 まさかの呼び声に、ツバメは全力で【跳躍】の使用を制止。

 しかし勢いだけは止まらず、そのまま海に転落しかけたところを――。


「間に合った!」


 駆けつけてきたメイに、腕をつかまれた。

 ツバメはそのまま、甲板へ戻る。


「あ、ありがとうございます。メイさん、無事だったのですね」

「びっくりしちゃったよ。急に乗船者の確認が厳しくなったみたいで」

「そういうことですか……町での戦いが警戒を強めていたのですね。どうやって船に乗ったのですか?」

「積荷の木箱だよっ」


 どうやら船への乗り込み方には、港に積荷として置かれている木箱の中に入るという方法があったようだ。

 追い詰められたメイが見つけたのは、まさに木箱を船内に持ち運ぶ船員だった。


「とにかくこれで、レンさんたちのところに戻れますね」


 思わず抱き合った二人は、見事密航に成功。

 安堵の息をつくツバメ。

 このドキドキ感と、達成感がたまらない。


「レティちゃん……この戦いが終わったら、また会おうね」

「そのセリフだと、私たちの知らないところで、レティさんが死んでしまっている可能性が高いですね……」


 メイとツバメを乗せて、進む船。

 二人は元海賊のもとへの帰還を、確実なものとしたのだった。

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― 新着の感想 ―
木箱を使っての船への潜入…。 これは某ゲームを彷彿とさせますねぇ。 「こちらワイルド、木箱潜入に成功した」とか言ってほしいw レティさんも気持ちよくなってるけど、たぶんこの後は大変だよ…? きっと…
レティちゃん、君の雄姿と犠牲は忘れないよ… 遠すぎて見えなかったけどもw あとでいっしょにフルーツ(そのまま)でもつつこうね。山盛りだよ。
クイズ行きますね。 友達のヨットに乗せてもらうために、いっしょに車で江ノ島に行きました。朝着いて、彼は入り口の橋を渡ってすぐの駐車場に車を止めました。いっぱいの荷物を抱えて海岸までかなりの距離を歩い…
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