1175.密航
「確認したところ、あの海の洞くつからは、かなり離れた町に移動したようです」
「そうなんだね」
ツバメが告げると、メイは「なるほど」とうなずいた。
二人はここで水着から、魔法学院制服と帝国兵装備に変更。
メイは最後にフードをかぶる。
「お二人はこれから、どうするのですか?」
たずねたのは、海中のボスから助けた少女。
海の洞くつにレベル上げに来ていたハンターだが、メイたちの確保は諦めたようだ。
「海の洞くつ前に、戻らなくていけません」
「そうなると……船でしょうか」
町にポータルはなく、代わりに港にはいくつかの船が行き来をしている。
連絡船に乗って海の洞窟近くの町に戻り、元海賊のもとに帰るというのが基本線だろう。
「【記録の宝石塊】が大きいのは、なかなかやっかいですね」
海中から上がったため、両手が塞がるようなアイテムはメイに。
メイなら片手で持ち、もう一方の手を空けることができる。
この形なら、両者が動けて良いだろう。
「行ってみましょう」
「りょうかいですっ」
三人は、そのまま港へ。
補給港として栄えているのだろう。
船着き場は、この町にしてはそこそこ大きい。
「乗船は少し、難しそうですね」
少女がつぶやく。
船に乗る者は並ばされ、兵士たちが目を光らせる中を進んで、チケットを提出。
空港の手荷物検査のような空気だ。
さらに、よく見れば彼らの背後の壁には指名手配犯の顔写真が貼られており、そこにメイたちの物もある。
普通に船には乗れない。
そういうことだろう。
「彼らにバレずに乗船。もしくは密航が必要になるわけですね」
「密航……!」
いよいよ高まる、警察に追われる犯人の気分。
メイはワクワクに、尻尾を細かくブルブルと震わせる。
「今ならおそらく、フードがあるので行けると思います」
ツバメは語る。
「フードや兜は、何気にNPCからの『発見』も防ぎます。それは以前一人で受けたクエストで試しました。ただ、警戒度が上がると少しギャンブルになってきますが……」
まだソロだった頃、アサシンとしてのクエストには、正体を気づかれずにというものがあった。
その際は『警戒度』が低ければ、兵士なども適当に流してくれる形だった。
現状の町の状態なら、問題ないだろう。
「私も危機を脱するための策をレンさんから一つもらっていますし、とりあえず行ってみましょう」
こうしてメイたちが、乗船券を買おうと動き出した瞬間だった。
「レティ!」
呼ばれた声に、少女が振り返る。
そこには、五人組のパーティ。
「お前もここに来てたんだな。探してたんだぞ」
どうやら海の洞くつを抜けて来た、少女の仲間たちのようだ。
「良かった良かった」と駆け寄ってきて、その足をピタリと止める。
「……待て。そこにいるのメイちゃんたちか!?」
彼らは少女の仲間。
要は、全員がハンターだ。
すぐさま五人全員が、【捕縛の宝珠】や【罠の宝珠】を取り出す。
「「っ!!」」
一瞬で走り出す緊張。
船着き場での揉め事は、付近のプレイヤーたちに気づかれることになる。
メイたちはあくまで、船での移動が目的。
最終的には必ず、船着き場に向かわなくてはならない。
派手な戦いは当然、大きなマイナスとなる。
何より戦闘が始まれば、警戒度が上がってしまう可能性が高い。
そんな中、レティは小さな声でつぶやく。
「メイさん、ツバメさん……私を人質にしてください」
「「っ!?」」
「戦いが始まれば、この場所にハンターが集まってくると思います。幸い船に乗ろうとしていたことはまだバレていません。この場を切り抜ければ、後でそっと船へ向かうことも可能でしょう」
その言葉に、反応したのはツバメ。
「そこまでです」
今まさに踏み出し、スキルと宝珠による攻撃を狙おうとしたパーティに向けて告げる。
レティの背後に立ち、短剣を突きつけた状態で。
「この子の命が惜しければ、武器と宝珠をしまい、この場を立ち去ってください。そうすれば彼女の命は助けます」
「くっ!!」
完璧な脅迫に、悔しそうにするパーティの面々。
「……それなら、しかたない」
リーダーらしき青年はそう言って、観念したように息をつく。
「レティごと殺ろう」
「「ええええええええ――――っ!?」」
まさかの言葉に、叫ぶメイとレティ。
「こうなっちゃったらもう、しかたないよなっ!」
「そうですね! 仕方ないです!」
あっさり覚悟を決めたパーティは一斉に、【捕縛の宝珠】を構える。
「そういうことなら、私が盾に!」
元々剣士の少女は、盾を取り出し防御体勢。
魔力の縄を、その身に引き受ける。
「っ!」
なぜかメイたちを守るように構えたレティに、その真意を測りかねるパーティメンバー。
捕縛の縄は対象以外に効果を発揮せず、はがれて落ちる。
そして次の瞬間には、メイが両者の間に踏み込んでいた。
「大きくなーれ!」
その手に持った【蒼樹の白剣】を、3メートルほどの長さに伸長させ、放つは大きな払いの一撃。
「【フルスイング】!」
「「「うおおおおおお―――っ!!」」」
喰らった三人のパーティメンバーは、街の中を跳ね転がって店や荷物用の木箱に激突。
「なんだ……?」
「もしかしてあれって、メイちゃんか?」
一瞬で視線が集まり、宝珠を手に駆け出すハンタープレイヤーたち。
港町は、一気に騒がしくなる。
「どこかに隠れましょう!」
ツバメがレティを連れて走り出し、メイがその後に続く。
続く住宅の陰に置かれた木箱の裏で息を潜めると、すぐ前をハンターたちが駆け抜けていった。
「マズいですね……」
港は一瞬で、ハンターたちが目を光らせる危険地点になってしまった。
この状況で、連絡船へ乗り込むのは難しい。
何せ船への乗り降りは、プレイヤーではなくNPCの管轄。
こちらがどう動こうが、良くも悪くもマイペースな早さで行われるだろう。
そこで派手な攻撃でも振るわれたら、船に乗れるかどうかも怪しくなる。
「どうしよっか……」
この町に、他の長距離移動手段はない。
元海賊がいる海岸までの距離を考えると、召喚獣による移動でも、乗り換えとクールタイム待ちが必要になるだろう。
できればそれは最悪の場合、最後の手段という形にしたい。
「……私にもう一度、助けてもらった恩返しのチャンスをください!」
するとレティはそう言って、大きくうなずいた。
三人はあくまで、密航を狙って動き出す。
脱字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!
返信はご感想欄にてっ!
お読みいただきありがとうございました!
少しでも「いいね」と思っていただけましたら。
【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!




