1171.モナココへの侵入方法
「また元海賊さんのところに戻るとなると、町付近に船を寄せる必要が出てきますね」
「あー、この時間なら大丈夫じゃないかなぁ」
そう言って整備士は、船を走らせる。
どうやら自分で操縦しても良し、整備士に任せても良しという感じらしい。
「それにしても、本当に敵だらけでしたね」
「運営もここまで人数が増えちゃうとは、思ってなかったんじゃない?」
「オ、オムレツから注目を浴び続けたことが、まさかの形になりました……っ」
「でも……ドキドキして楽しいよっ!」
「そうなのよね。それだけは間違いないわ」
これには、ツバメとまもりもうなずく。
これだけの規模の手配犯クエスト、早々受けられるものではない。
「あっ、船が近づいてきてるよ……!」
そんな中、メイがこちらに向けて進んで来る船を発見。
「か、海上まで追って来るんですか!?」
「あれって、プレイヤーの船じゃない?」
見える船は、プレイヤーが買って得られるタイプの中型船。
速い走行だけでなく、大砲による攻撃もできるので船持ちがクエストでぶつかりやすい、海賊との戦いも乗り越えられるタイプの船だ。
「船を持つプレイヤーは少ないから、海は安全地帯になると思ったんだけど……このクエスト、甘くはないみたいね」
誰が敵なのか、見た目では分からない。
このクエストの怖さを、存分に感じる四人。
「う、迂回しつつ進みましょうっ」
「そうね」
レンは船の舵取りを代わり、進路を『直進』から『弧』に変え進む。
しかしプレイヤー船は、そんなメイたちの船の方に寄せてくる。
「船の操縦、変わります」
ここでさらに、ツバメが操船の宝珠を持つ。
レンの遠距離魔法、まもりの盾防御、そしてメイの召喚獣や直接攻撃。
船での戦いとなれば、乗り込んでこられない限り、ツバメが手持無沙汰になることが多い。
そのための、早い行動だ。
「ドキドキするね……っ」
「はひっ!」
これにはメイも、息を飲む。
近づいてくる謎の船。
するとこちらの乗員を見たプレイヤーが、声を上げる。
「やっぱり! メイちゃんたちの船だ!」
「情報で聞いた通りだな! おーい!」
こちらに手を振る船持ちプレイヤーたちの人数は、十数人ほど。
さすがに船を持つプレイヤーたち、装備品も豪華だ。
「…………はーい」
今度ばかりは、いつものように元気な返事ができない。
それでも小さく手を上げて応える辺りは、メイらしい。
「……ツバメ、ちょっと対応できる?」
「やってみます」
いつでも戦えるよう、意識を集中する四人。
覚悟を決め、ツバメは船を寄せていく。
「どっちなの……これはどっちなの……!?」
まもりは両手に盾。
二つの船が、数メートルのところに止まったところで――。
「「「捕縛の宝珠!」」」
「「「「っ!?」」」」
最悪の事態に、慌てて後方へ下がる。
「……なんてね。俺たちは船で冒険してたから、捕縛クエストには参加してないんだよ。情報だけ知ってる感じ」
「はい、フレアバースト」
「うおおっ!? すみませんでしたーっ!」
魔法を放つ空気を出しながら杖を向けたレンに、すぐさまその場に土下座する船持ちプレイヤーたち。
見れば、手にも宝珠の類は持っていない。
「噂のメイちゃんたちを見かけたら、そのまま通り過ぎるなんてできなくてさ」
「そうそう。このクエストの内容見たけど、めちゃくちゃ楽しそうだもんなぁ。緊張感ありまくりって感じで」
ペコペコしながらも、羨ましそうにする船持ちプレイヤーたち。
現実で一度は考えてみるけど、実現不可能な『もし指名手配犯になったら』という状態。
声をかけずには、いられなかったみたいだ。
「そう言えばモナココには、【操船】をするクエストも出てるみたいだよ。メイちゃんたちが近づいたら艦隊戦になるんじゃないかね」
「俺たちの知ってる船持ちプレイヤーも、「メイちゃんたちを狙う戦いか?」って言ってた」
「船で近づく形なら、相当厳しい展開になるってことね」
「俺たちに何かできる事があったら言ってくれよな。驚かしたお詫びに手助けするよ」
「命の一つや二つ賭けてもいい!」
この大きなクエストに、関わりたいのだろう。
船持ちプレイヤーたちはそう言って、大きくうなずいた。
「そう言うことなら……何か用を思いついたら【発煙筒】でもあげるわ」
「了解! 前代未聞のクエスト、がんばれよー」
「ありがとうございますーっ!」
手を振る船持ちプレイヤーたちに、今度は大きく振り返して進むメイ。
「早く進みなさいよ」
メイが元気に手を振る姿見たさに、異常にゆっくり船を進めるプレイヤーたちに苦笑い。
レンが再び整備士に操船を任せると、沖には小型船で釣竿を垂らす元海賊の姿が見えた。
どうやら、海釣りの最中のようだ。
「おう、お前さんたちか。どうだ? 【真実の宝珠】は手に入ったのか?」
「どうにかね。それで今度はカジノのオーナーに、宝珠の映像を見せたいんだけど……」
「モナココは完全警戒で、侵入が難しそうなんですっ」
「そういうことか。まあ相手は全国展開のカジノを牛耳るくらいの大物だからな」
そう言って元海賊は、エサを喰われた竿を上げる。
「モナココには、かつて王族が用意した地下通路がある。そこからだったら入り込めるかもな」
「なるほど、そうくるわけね」
「だが、あの場所には特殊なカギがかけられてる。それを開くための【魔法の鍵】が必要だ」
「新たなアイテムですね」
「そしてできれば、陽動をかけたい。地下通路の存在は、カジノのオーナー級の人物や、お前さんたちをハメた『犯人』も知ってる可能性がある。だから船で来たと思わせてから地下へ進む方が確実だ」
「た、確かにそうですね」
「そこで欲しいのが、【記録の宝石塊】だ。こいつはスキルや魔法を複数覚えさせて、放つことが可能という変わったアイテムだ。持ち運びには向かない大きさだが、これがあればお前さんたちのスキルや魔法を、コピー使用できる」
「【魔砲術】の【フレアストライク】が飛んで来れば、間違いなく私が船にいると思わせることができるわね」
「そういうことだ。その船に【記録の宝石塊】を乗せて、モナココ湾へ進攻。視線を集めている内に地下通路を抜ける形だな」
こうして、次の目標は決まった。
「【記録の宝石塊】は狭い空間と海が中心になる。【魔法の鍵】は船で向かう形だな」
「……ここからは、分かれての行動になるの?」
「緊張感が増しますね」
「は、はひっ」
「二人ずつだと、ちょっと怖いかも……っ!」
「だがこうしてる間にもハンターが増え、報奨金が上がっちまう可能性もあるからな」
緊張の面持ちで、うなずき合う。
メイの表情は緊張に、尻尾はワクワクで震えている。
四人は新たなアイテム目指して、パーティを分割して動き出すのだった。
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