117.上空から来ます!
「暗殺部隊が消えただと?」
「はい……イベント参加者名簿から消えてます。どうやら失格になったようです」
飛び込んで来た『天軍』の使者。
その報告に、天軍将グラムは眉をひそめる。
「また返り討ちにされちゃったみたいだね。メイちゃんたち、侮れないなぁ」
イベント慣れしている暗殺部隊が早々に消されたことに、ローランは感心の声をあげた。
「でもそんなすげーヤツ、向こうにいたか?」
有名プレイヤーがいるわけでもない地軍の善戦ぶりに、首を傾げる金糸雀。
「……生意気なヤツめ。それなら次の手だ!」
「どうするつもりなの?」
「おい、例の従魔士を呼べ!」
天軍城の最上層。
グラムが使者に指示を出すと、屋根の上に一体の巨大なワイバーンが現れた。
「ふっふっふ。有翼種の従魔士なら高層階にも直接攻撃をくわえることができるだろう?」
「なるほどなぁ。こりゃあ驚くかもな」
金糸雀は感心したように息をつく。
飛行能力の高いワイバーンであれば、そのまま真っすぐ敵城の上空へ移動しての強襲が可能だ。
「炎耐性を持ち、矢の攻撃にも強い。しかも飛行を続ける限り一方的に攻撃をくわえることが可能。最終的には将軍の間に飛び込ませて、最大火力の一撃を見舞うのだ!」
「ああ、任せておいてくれ」
指示を受け、地軍城目がけて飛んでいく従魔士とワイバーン。
グラムは勝利を確信して笑う。
「これならたとえ運よく生き残ったとしても、恐怖に震えることになるだろう! さあひざまずけ地軍将メイ! グラム・クインロードの恐ろしさの前に!」
◆
「……向こうのお城から、何か飛んで来る」
メイがそれに気づいたのは、三人で城下の眺めを楽しんでいた時だ。
【遠視】が、濃緑色のワイバーンの羽ばたきを捉える。
「何が見える?」
「んー、ドラゴンみたいな感じ」
「よ、翼竜持ちの従魔士!? 直接将軍の間を狙いに来たんでしょうか!?」
マーちゃんは大慌てで、欄干に身を乗り出す。
「……白の中二病じゃないわよね?」
「違うみたいだよ」
ちょっと安心しながら、目を凝らすレン。
「上空から一気に将軍の間に取り付いて、ブレスを吐きまくるみたいな攻撃を狙ってるんでしょうね」
「もしや、去年私たちを追い詰めまくったワイバーンでは!? 高度飛行スキルは持っていなかったはずなので、この一年で手に入れたんですね! 急いで弓術師を集めてきます! あと防衛が得意な騎士たちも!」
「あっ、ちょっと待って!」
しかしマーちゃんはもう大慌て。
階下に集まってもらっていた弓術師を連れて来るため、急いで階段を降りて行ってしまった。
「そんなに慌てなくてもいいのに」
迫り来るワイバーン。
レンは【銀線の杖】を【ワンド・オブ・ダークシャーマン】に変更して、構える。
「ワイバーンが城に取りついた時は【アクアエッジ】をお願いね」
「はい」
「メイは……」
「応援します!」
「ふふ、ありがと。それじゃさっそく【魔眼開放】」
いくら遠距離攻撃が得意でも、空中を早く動く敵に魔法を当てるというのは不可能に近い。しかし。
「【誘導弾】【魔砲術】……【フリーズストライク】!」
放たれた氷塊は、冷気の尾を引いてワイバーンへ。
「さて、そろそろ攻撃に入らせてもらうか――――魔法!?」
従魔士はここで、自身に迫る氷塊に気づいた。
「ハッ、だがそんなものワイバーンに当たるはずが――――ウオオオッ!?」
氷塊は従魔士の避けた方に大きく曲がり、翼をかすめていった。
「な、なんだあの魔法……誘導でもかかってんのか!?」
「【誘導弾】【魔砲術】【連続魔法】【フリーズボルト】!」
レンは一気に魔法を連射する。
「なんだなんだこの魔法はっ!?」
続く三連発の冷気砲弾も、ワイバーンを追うような軌道で飛んで来る。
「くっ!」
従魔士はこれを決死の挙動で回避。
「【誘導弾】【魔砲術】【フリーズストライク】!」
レンは止まらない。
再び飛来する氷塊は、ワイバーンの目前に迫る。
「う、うおおおおっ! 避けろ! 意地でも避けろぉぉぉぉっ!!」
氷塊が再び翼をかすめる。
すると動きの鈍ったところに迫る【フリーズボルト】が、ワイバーンの体躯に直撃。
「い、一体どうなってんだ!? ここは一旦避けに徹して――」
怒涛の遠距離誘導弾に、従魔士は大慌てで逃げを打つ。
「【誘導弾】【魔砲術】【フリーズブラスト】! ……んー、回避に専念し始めちゃったわね」
杖を掲げたまま、レンは本当に横で応援していたメイに視線を向ける。
「……メイ、最後はお願いしていい?」
「おまかせくださいっ!」
「それじゃ、派手なのでいくわね【誘導弾】【魔砲術】【フレアバースト】!」
「まだ撃ってくるのか! だがワイバーンには炎耐性がある! ここで勝負をかけさせてもらうぞ!」
直後、ヤマトの上空を彩る爆炎。
これをあえて喰らった従魔士は、一転勝負をかけにいく。
地軍城目がけて一直線。
「このまま一気に最速でぇぇぇぇ…………はっ!?」
そして、目を疑う。
レンがわざと放った派手な炎の魔法に隠れて、一直線に飛んできていたのは、石。
飛来した石は、残りHPわずかのワイバーンに直撃。
意外と高いその威力が、HPゲージを削り切った。
「な、なんで、なんでこんなところに石がぁぁぁぁ――――ッ!?」
従魔士は、そのまま落下して退場となった。
「み、皆さん! 弓術師と騎士の人たちを……連れて……」
駆け戻ってきたマーちゃんは、落ち着いた最上層の空気にきょとんとする。
「あれ、ワイバーンは……?」
「撃破しましたっ!」
笑顔でハイタッチのメイとレンに、ツバメも拍手を送っている。
「……1000人の特攻を壊滅、暗殺者に先んじて気づいて、空から来たワイバーンを撃ち落とすって。皆さんは一体……何者なんですか……?」
「メイの友達よ」
「同じくです」
「ちょっとだけジャングル暮らしが長かった、普通の女の子です! すごく普通なんですっ!」
杖を下ろし、伸びをするレン。
そしてなぜかすごく『普通』を押して来るメイに、マーちゃんはやはり呆然とするのだった。
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