1168.真実の宝珠
「メイちゃんたちはウェーノに到着」
「了解。【発信の宝珠】は使わずに。この時点で打ち上げたらメイちゃんたちに『居場所がバレていること』がバレる」
「では、後ほど」
元海賊がいた港町のポータルから、続く転移先は三つ。
掲示板組は『メイたちを最初の妨害で止められる』とは考えておらず、ポータルの移動先全てにもハンターを配置していた。
ハンターを複数人ポータルに『集結』させておくことはできないため、離れた位置に数人のみ。
そこでメイたちが、どこに移動したかを知らせる形を取った。
「ここがウェーノの街ですか」
「わあーっ! 賑やかだねぇっ!」
見事に追っ手を振り切って、元海賊のお宝があるという倉庫を目指すメイたち。
姿を隠しながらでも、思わず気分が高ぶってしまう。
ウェーノは、買い物の街といった感じだろうか。
大きな商店があるというよりも、無数の小さな店が並び、様々な商品を売っている。
食料品もあれば、ハウジング用品や鍛冶用具などもある。
そしてここの商人たちは、大きな声で呼び込みをするのが特徴だ。
「はい、いらっしゃい! 新鮮な魚が安いよ! 料理するにはもってこいだ!」
「うちの調理器具なら、ワンランク上の料理が可能になるぞ! そこの【技量】が低そうなお兄さん、包丁どうだい!」
小さな木造の商店がギュッと詰め込まれ、そこをたくさんのプレイヤーが行きかう姿は、現実なら上野のアメ横を思わせる。
またメイたちがさまざな形で料理に関わったことで、システム自体が人気となり、昨今は食材が豊富に手に入る町が人気にもなっている。
「っ!」
そんな中、人の集まる掲示板の前には手配書。
そこではクエストを受け『ハンター』となったプレイヤーたちが、宝珠の使用感を確かめている。
メイたちは四人組感を減少させるため、3,4歩ほど距離を開けて二人組が二つという体をとり、人通りの多い通りを進む。
車がギリギリすれ違えるくらいの大通りが三本、その間を車一台も通れない狭い道がつなぐ『ハシゴ型』のマーケット。
「行きましょう」
「この数……緊張しますね」
港町よりも明らかに狭い道と、多い人通り。
緊張でドキドキしながら、四人は商店街へ踏み込んでいく。
「そこの戦士の姉ちゃん! ちょっと見ていかないかい!?」
「ひゃいっ!?」
するとまもりが、威勢のいい商人NPCに声をかけられて跳び上がった。
すぐにレンが手をつないで、そのまま通り過ぎる。
「今ならエビ、お安くしとくよ!」
「エビですか!?」
「こらっ、反応しないの!」
思わず振り返ってしまうまもりの手を引いて、そのまま店を通過。
視線を走らせながら、バルディスの倉庫を探す。
「ここにあるって、聞いてはいたけど……」
人通りだけでなく、店の数も多い。
狭い道もたくさんあり雑多、この中から目標の倉庫を見つけるのは大変そうだ。
「もしかして、メイさんですか?」
そんな中、かけられた声。
「……はっ、はい」
さすがにメイも、緊張してしまう。
「何かお買い物ですか?」
「ちょっと、探している場所があるんです」
「場所ですか? 私はこの街を拠点にしているので、もしかしたら知っているかもしれません」
「倉庫なんですけど……」
「倉庫ですか。普段お店として使っていない場所だったら、一番通りの北西路かもしれませんね」
そのまま「こっちこっち」と、案内してくれる女性プレイヤー。
メイはツバメとうなずき合い、武器をすぐ取れる位置に手を寄せた状態で後を追う。
そしてそこから三歩程遅れて、レンとまもりが続く。
「……宝珠が見えたら即戦闘か、逃走か」
誰かに出会ってしまった以上、その挙動には要注意。
しかし同時に、周りへの注意も必要だ。
「はいそこ!」
「「っ!?」」
聞こえた威勢のいい声に、メイとツバメが思わず背を伸ばす。
メイに至っては、尻尾まで総毛立っている。
「買い物上手だね! 500で持って行きな!」
「やった!」
聞こえた商談に思わず互いを見合って、苦笑い。
ドキドキを昂らせながら、四人は賑わうマーケットを進んでいく。
地図で見れば、ポータルがあるのはマーケット南東の三番通り。
そこから西に向けて、三本の大通りがある形だ。
緊張のまま四人は、二番通りを抜け一番通りへ。
北部に上がり狭い道を進むと、そこには一つの扉。
元海賊バルディスに渡された鍵を使うと、扉が開いた。
「レンちゃん」
ここでもレンを先頭にするが、今怖いのは罠よりもハンター。
メイとツバメは、後方を確認。
まもりは横で、盾を持った状態で待機する。
現金輸送並みの警戒態勢の中で、レンがそっと扉を開く。
すると六畳程の狭い部屋には奥にデスク、左右に棚が続くのみ。
並んだ武器と、アイテムの数々。
レンとまもりは、手分けして宝石類を見ていく。
「これね」
「し、【真実の宝珠】に間違いありません……!」
するとその中に、透明の水晶玉のようなアイテムを発見。
まもりと確認し合い、倉庫の前で見張るメイとツバメのもとへ。
「何かのクエストなんですか?」
「はいっ」
女性プレイヤーは、「こんなところにもクエストがあるんですねぇ」と感心。
メイは付近を見回して、隠れて自分たちを見ているプレイヤーがいないかを確認する。
もしも普通に倉庫を探していたら、もっと長い時間が必要だっただろう。
少し進んだところで、レンは礼を一つ。
「ありがとう、助かったわ」
「いえ、ここまでが私の仕事なので」
そう言って、商人らしい笑顔を浮かべた女性プレイヤー。
「――――どうぞ」
その笑みを、マフィアのボスみたいに狂わせる。
「「「「ッ!?」」」」
すると一瞬で、それまで完全に買い物客だったプレイヤーたちが、なんと全員同時に武器をメイたちに向けた。
空中から見れば、向けられた武器がメイを中心に『放射状』になっているであろう完璧な包囲網だ。
「映画……みたいですね」
「これ絶対、あの子たちね」
「すごーい……」
「お、おどろきました……」
見れば全員が、しっかりと決め顔。
レンは、この大掛かりな演出を本気でやるノリと手際の良さに、背後にいるのが掲示板の面々だと即座に認識。
どうやらレンたちが倉庫にいる間に、ウェーノに来ていたハンターをたちをまとめ、客のフリをして取り囲む形を取ったようだ。
「我々であれば、このくらいの包囲網を作ることは容易です」
そう言って屋根の上に現れたのは、計算君。
カジノから逃げ出したメイたちのことを知り、掲示板情報から次々に状況を把握。
周りの客全てハンターという、とんでもない状態を生み出してみせた。
全員が武器をメイたちに向けているという凄まじい状況の中、計算君は上げた右手を振り下ろす。
「――――捕えてください」
そして、ハンターたちが動き出した。
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