1167.迫るハンター
「目的はウェーノにある元海賊バルディスの倉庫。そこにある【真実の水晶】ね」
「か、過去の出来事を映し出すアイテムですね……っ」
「まずはとにかくウェーノに向かいましょう」
「りょうかいですっ」
メイたちは無実を証明するためのアイテムの情報を得て、漁師町を戻っていく。
それなりに長い移動になるため、目指すのはポータル。
石造りと木造が混ざった建物が並ぶ、独特の雰囲気の中を進んでいると――。
「メイちゃん?」
「「「「っ!?」」」」
あがった声に、思わず四人ビクリと跳ねる。
「メイちゃーん!」
手を振る、二人組の女性プレイヤー。
メイは引きつり気味の固い笑顔で、手を振り返す。
「きゃーっ」と、嬉しそうに盛り上がる二人組。
どうやら単純にメイを見つけて、思わず手を振っただけのプレイヤーだったようだ。
しかし、どこに『ハンタープレイヤー』がいるか分からない状況で『メイ』と声を出されるのは、緊張感が半端ではない。
「びっくりしちゃった!」
「誰が敵なのか分からない状況は、とてもドキドキしますね」
「は、はひっ」
「この緊張感、なかなか味わえない経験だわ……!」
「うんっ、本当だね!」
そう言って、レンとメイが笑い合ったその瞬間。
「メイちゃんだ!」
「「「「っ!?」」」」
聞こえた声は、先ほどとは違う張り詰めたもの。
四人が再び身体を跳ねさせたところで、叫んだ戦士は手にした【発信の宝珠】を使用。
すると天に大きな輝きが上がり、クエスト参加者たちの視界に宝珠使用の場所が表示される。
「行きましょう! 目的は町のポータルよ!」
メイたちはすぐさま、町のポータルに向かうことを決定して走り出す。
「【捕縛の宝珠】!」
すると突然目の前に出てきた剣士が、宝珠を突き出した。
「【アクロバット】!」
駆けつけてきた剣士が放ったのは、『ハンター』側に配られる【捕縛の宝珠】
宝珠から、魔力で作られた縄が伸びるそのアイテム。
粘着性のある魔力罠は対象に目がけて飛び、直撃すればそのまま張り付いて捕えるというものだ。
これをメイは、前方宙返りで剣士ごと飛び越して回避。すると。
「【リジッドタッチ】!」
「うわっと!」
いきなり側方から駆け込んできた女性忍者の手を、メイは慌ててしゃがんで回避。
【リジッドタッチ】は、触れた人を強制停止させるクエスト専用スキル。
触ることで【雄叫び】や【紫電】のように、相手を硬直させることが可能だ。
ここから【捕縛の宝珠】へと連携するのだろう。
「【忍び足】とスプリント系スキルで死角から接近して硬直させる。なるほど高レベルでなくても、私たちを捕えることは可能ってわけね!」
「【サンダーグリッド】!」
「「「「っ!?」」」」
次の瞬間、足元に走る白光の格子模様。
「せーのっ!」
メイの声に合わせて、四人慌ててジャンプ。
すると格子に雷光が駆け抜けて、煙りを上げた。
当然、クエスト専用ではない個人スキルでも、ハンターは足止めを計ってくる。
そしてこの攻撃を回避させることで、ハンター魔導士は仲間が集まる時間を生み出した。
「囲まれました……!」
「予想以上の人数だわ……まさかもう、こんなに追手がいるなんて!」
メイたちを追って街を駆けるプレイヤーたちの数は、数百に及ぶ。
そして専用アイテムの使用感を見るに、大多数に同時に使われると厳しいだろう。
街の中、じりじりと距離を詰めてくるハンターたち。
こうしている間にも、【発信の宝珠】の情報によって敵勢が集まってくる。
そしてその人数が、ある程度まで膨らんだところで――。
「「「「いけええええーっ!!」」」」
特攻の声がかかった。
「そうはさせませんっ!」
あがる声に反応したのはメイ。
取り囲まれている状態の時から、少しずつこぼしていた【豊樹の種】
最後に一回転しながらばら撒くと、すぐさま【密林の巫女】を発動する。
「大きくなーれ!」
【世界樹の剣】によって威力を増した【密林の巫女】は、一瞬で木々を伸長させる。
「お、おいっ!?」
「そうか! メイちゃんたちにはこれがあるのかっ!」
街中に突然生まれた小さなジャングル。
木々が伸びれば、ほぼ直線で飛ぶだけの【捕縛の宝珠】は威力激減だ。
「行きましょう!」
メイたちは伸びた木々の枝の上を通る形で、ポ-タルを目指す。
レンは【浮遊】を使うことで枝や葉に紛れ、メイはまもりを抱えて跳躍。
「【忍び足】【疾風迅雷】【加速】【加速】【加速】」
そしてツバメは、草木の間を高速で駆け抜けていく。
「いたぞ!」
「【リブースト】!」
ツバメを見つけたプレイヤーは叫ぶが、宝珠を使う前に置き去りにされた。
「木々の間を抜けてくるぞ! 準備しろ!」
「消えた!?」
【暗天のブーツ】に装備を替えたツバメは、【加速】ごとに姿を消す。
そしてあがったハンターの声は、『地』を駆けるツバメの居場所を伝えるものになる。
これでは、『上』を行くメイたちはいっそう見つけられない。
偶然ツバメの前に出られたハンターも、武器を構えたところで――。
「【電光石火】」
斬られて置き去られる。
「ほとんど見えない上に、この速さ……」
驚愕するハンター。
しかし中には、そんなツバメを捉えた者がいた。
「……今だ!」
木を避けるために一度止まったその瞬間を狙い、枝から飛び降りる騎士。
「もらったああああーっ!」
叫んで剣を掲げたところで――。
「えっ?」
伸び上がった【危険植物】に喰われて消えた。
こうして、小さなジャングルを作り出したところで早くも優位を取ったメイたち。しかし。
「さあ、どっちに来るかな」
ポータルへと続く道に陣取ったのは、掲示板組。
一部掲示板組は、船の前とポータル前で待って叩くという布陣を取っていた。
「きた! 黒猫だっ!」
ジャングルから抜け出してきた黒猫を見て、あがる声。
普通に考えれば、特筆すべき事態ではない。だが。
「黒猫は使徒長だ! 【変化の杖】を使っているに違いない!」
そこはメイたちを追い続けてきた掲示板組。
すぐに気づいて、攻勢をかける。
「「「捕縛の宝珠!」」」
一斉に放たれた魔力の縄が、黒猫の逃げ道を奪う。
その逃げ足はなかなかのものだが、逃げ切れずに捕縛されてしまった。
「さあ使徒長ちゃん、大人しくお縄に……あれ?」
しかし黒猫、全然変身が解けない。
そして魔力の縄は、弾かれ消えた。
「……港町なら、黒猫の一匹くらいいても不思議じゃないでしょ?」
「「「っ!?」」」
聞こえてきた楽しげな声に、思わず顔を上げる掲示板組。
そこには木の上に立ち、杖を構えたレンの姿。
硬直する掲示板組を見て、さっさと立ち去っていく黒猫。
どうやら森から出て来てのは、化けたレンでもなんでもない普通の猫に、『メイがお願い』したものだったようだ。
「【フレアバースト】!」
放たれる爆炎が、掲示板組に襲い掛かる。
「そうはいくかぁぁぁぁーっ! 【マジックシェル】!」
ここで先頭に出たのは、まもりを見て盾防御にハマった戦士。
掲げた盾に魔法の防御上げのスキルをかけて、皆をかばいつつ爆炎のダメージを減少させる。
「やるわね……っ!」
これにはレンも、感嘆の声を上げる。
「いくぞ! 今度はこっちの番だ!」
「……でも。今度は動物に対する意識が散漫だったんじゃない?」
「どういう……ハッ!?」
掲示板組、気づく。
レンの放つ炎を止めるという、見事な対応。
その瞬間に、こちらに駆けてきていたコーギーは皆、一瞥しただけだった。
解ける変身。
そこに現れたのは、【変化の杖】で化けていたまもり。
そしてその手には、【マジックイーター】を仕込んだ一枚の盾
「い、いきますっ!」
「「「しまった!!」」」
掲示板組、仕掛けに気づくがさすがに遅い。
「さすが使徒長……もう一枚手札を用意してたのか……ッ!!」
「【フレアバースト】――――っ!!」
まもりは手にした盾を、前方に強く突き出した。
「「「「ぎゃああああああああ――――っ!!」」」」
ポータル前に陣取っていた掲示板組は、爆炎をくらってまとめて吹き飛んだ。
「ないすーっ! このまま行きましょう!」
「はひっ!」
メイたちは、この隙にポータルへ。
無事、港街を抜け出すことに成功した。
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