1164.容疑者メイちゃんの逃走!
「おい! あれ見ろ!」
「すげえ! なんだこの戦い!」
カジノの街モナココで突如始まった、大きな戦い。
それはカジノでの不正を疑われたメイたちを、傭兵が抑えるというもの。
捕まれば重罪と聞かされたレンは、即座にクエストの気配を感じて逃走。
カジノの賞品である船で、モナココハーバーを抜け出した。
「どうにか逃げ切れそうね」
カジノ兵たちがプレイヤーにまで捕獲を頼んだことで、始まったトップたちの急襲。
回避してレンが、息をついた瞬間だった。
「船が追ってきてるよ!」
「あんなのもう、軍艦じゃない!」
メイたちの手にした豪華船を追ってくるのは、砲台付きの大型船。
すぐさま、砲弾が飛んでくる。
「【クイックガード】【不動】【地壁の盾】【天雲の盾】っ!」
「【魔砲術】【誘導弾】【フリーズストライク】!」
これに慌てて対応、まもりとレンが砲弾を弾く。
「今だ! いけ!」
その隙を突き、空中から迫るのは一頭の翼竜。
追手の敵船に乗り込んだ従魔士プレイヤーが、放ったもののようだ。
「【アクアエッジ】【瞬剣殺】!」
ツバメが、早めの水刃乱舞で攻撃。
翼竜の攻撃と、着艦を防ぐ。
するとそのまま通り過ぎていった翼竜に対して、メイが狙いをつけた。
「【装備変更】! せーのっ! それええええ――――っ!!」
投じた【王樹のブーメラン】は、一直線に翼竜へ飛来。
振り返り際のところを捉えて直撃すると、翼竜はそのまま海上に落ちて飛沫を上げた。
「メイ!」
レンは声を上げつつ、頭上を指差す。
そこには同時に迫る三つの砲弾。
「【クイックガード】【地壁の盾】【天雲の盾】っ!」
「【誘導弾】【フレアストライク】!」
これで、二つの砲弾に対処。
しかしこのままでは三つ目に手が一つ足りないというのが、レンの伝えたい内容。
メイの剣なら、余裕で弾けるはずだ。しかし。
「……【ゴリラアーム】」
メイはそっと発動した怪力スキルで、なんと砲弾を受け止めてみせた。
「メ、メイさん、その砲弾は爆発しますっ!
「りょうかいですっ! それええええ――――っ!!」
それを聞いたメイは、砲弾を投擲。
「「「うおおおおおお――――っ!?」」」
壁面に直撃した砲弾は爆発し、大きく敵船を揺らした。
その勢いで、こちらの船に乗り付けた際に乗り込む予定だった兵士NPCが、バラバラと海面に落下する。
「止まるな! いけええええ――――っ!!」
あがる叫び声。
どうやらこの攻勢にメイたちが捕らわれている間に、一気に畳みかけるつもりだったらしい。
空に上がった百体近くの従魔や、召喚獣に乗ったプレイヤーたちが一斉に、こちらの船に向けて特攻を仕掛けてきた。
圧倒的な数の敵。しかし。
「残念ね。私の手を皆が空けてくれたわ」
そう言ってレンは、攻撃範囲上昇効果を持つ【ヘクセンナハト】を構え、【コンセントレイト】を発動。
そして、敵を引き付けたところで――。
「【フレアバースト】!」
特大の爆炎を巻き起こした。
「「「うおおおおおおおお――――っ!?」」」
猛烈な炎に巻き込まれた空戦の魔物たちは、次々に海に落下。
「っ!?」
そんな中で、見えた影。
一体の騎竜に乗ったプレイヤーが、特攻を仕掛けてきた。
時間差をかけ、攻撃判定の消えた炎を突っ込んでくる作戦は見事だ。しかし。
「そ、そうはいきませんっ!」
一歩前に出たのは、まもり。
「【ドラゴンクロー】!!」
「【エクスプロード・ランス】!」
ぶつかる両者。
しかし突き出した槍は長く、近接攻撃の【ドラゴンクロー】よりも先に判定が発生。
巻き起こした盛大な爆発が、竜と従魔士を吹き飛ばした。
「すっげー……」
「これだよこれ! こういう豪華な町でもこの派手な戦い! これぞメイちゃんだよ!」
これには、港の橋で観戦していたプレイヤーたちも感嘆。
増えた観客が、さらに場を大きく盛り上げるのだった。
「今度こそ、逃げ延びたわね」
「まもりちゃんカッコ良かったよー!」
メイがそう言って飛びつくと、まもりは恥ずかしそうにしながら「新武器のおかげです……っ」と、うれしそうにする。
すでに後続の船やプレイヤーの姿はない。
どうやら本当に、モナココから逃げ出すことに成功したようだ。
「ですが、これからどうなるのでしょうか……」
逃げおおせはしたが、ここからの展開は不明だ。
遠ざかるモナココを見ながら、ツバメがつぶやく。
「くああああーっ」
「「「「っ!?」」」」
聞こえてきた欠伸に、四人は思わず跳び上がる。
船の中から現れたのは、バンダナを巻いた長い金髪の女性NPCだ。
「あたしはこの船の整備を仕上げてたんだけど、終わったところでうっかり寝ちまってたみたいでさ」
白Tシャツの裾を胸の下で結び、足元はエンジニアブーツ。
頭をかきながら言う整備士NPCは、驚きのままでいるメイたちを見て首を傾げる。
そして、顛末を聞かせろと言い出した。
「……なるほどねぇ」
ここまでの展開を聞いた整備士は、伸びをしながら話し出す。
「あのカジノは世界規模の大会社だから、お前さんたちは世界的な指名手配になるだろうなぁ」
「ええええええええ――――っ!?」
とんでもない事態に、思わず驚きの声を上げるメイ。
「あたしが思うには、アンタたちが何もしてないのなら、スロットを弄ったのはその男かなぁ」
思い出すのは、突然スロットの操作を依頼してきたワインレッドの男だ。
「……要するに、罪をかぶせられたってことね」
「そういうことだな。世界に支店を持つような大きな組織を相手に、その身を隠しながら無実を証明する。それしかこの状況を変える方法はないだろうな。そして最後にはその男を捕らえて突き出すって感じか」
「とんでもないクエストね……」
「え、映画のようですっ」
このNPCは、クエストの内容を説明をしてくれるための存在だろう。
まさかの事態に、驚愕する四人。しかし。
「大変なことになりましたが……」
「ええ、でも」
「は、はひっ」
「ドキドキしちゃうよ! こんなのーっ!」
メイの言葉に、大きくうなずく三人。
もしも本当に指名手配犯となって、その中で無実を証明するクエストなら、こんなにワクワクドキドキするものはそうないだろう。
「現実では、絶対にできないクエストですね!」
「いいわ。追手を華麗に振り払って、犯人を捕えてやりましょう!」
「りょうかいですっ!」
「はひっ!」
こうして四人は、驚きのクエストへの挑戦を決意したのだった。
「かなり大変なことになるだろうけど……本当にやんのかい?」
「「「「もちろん!」」」」
四人の元気な声が、どこまでも続く海に響き渡った。
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